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第六章 新教会のお披露目
187 七日で何が建つんだよ
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アルキスとミラルファが興味深げに工事の準備が出来ていく所に目を向けている。
「すげぇ、早いな。それに……なんだ、このちょっと楽しくなる音はっ」
アルキスが子どものような笑みを見せていた。
「本当ねえ。大工って煩いし、雑だし、無口でしょう? 良いイメージないのよね。なのに、ジルが絶対見た方が良いって言ったのよ。理由がわかったわ!」
ドラム組は着々と工事現場を囲んでいく。広い土地なので、間違って関係者以外が入ってこないように入り口を一箇所に限定する。
それらはトトン、カカン、ザッザッ、バッとテンポよく作られていき、呆然と見つめている内に、敷地がきっちりと囲われていた。
「……人数は多いけど、こんなに早いもの?」
「マジで何なんだよ、この集団……」
あり得ない早さで、必要となる足場までが組み上がった。指示する声が時折聞こえるだけで、誰もが計算されたように無駄なく動いている。
そうして、全ての準備が整うと、ドラム組はザザザッという音をさせて現場の前に整列した。カンカンという音でビシっと背筋を伸ばす。
いつの間にか、音に誘われてなのか、その作業に見惚れてなのか、住民達がわらわらと出てきていた。まるでこれさえも計算されたように、多くの見物人が集まっていたのだ。それらを前にして、棟梁が声を張り上げた。
「あ、お初に~ぃ、お目にかかりますぅぅ。わたくし共、ドラム組と~ぉ、申しますぅぅ」
ザン!
顔色を変えることのない堂々とした棟梁の様子に、住民達は次第に目を輝かせていく。
「近隣の~ぉ、皆々様におかれましてはぁ。お耳汚しのご迷惑をぉ、おかけいたしますこと~ぉ。お許しいただきたくぅぅっ」
ザザン!
カンカン!
「はじめさせてぇ~、いただきますっぅ!」
ドンカン!
ザザッ
「これより~ぃ、七日のご猶予~ぉお~、賜り~ぃます~ぅ!」
「「「おっ!!」」」
ドラム組の挨拶が最後の掛け声で終わる。ドラム組全員でザッという音がするほど、綺麗に揃った礼をすれば、思わずというように見ていた住民達が拍手をした。それを背中で聞きながら、ドラム組は敷地の中に走りこんで行ったのだ。
「なにこれ! ステキすぎ!」
「カッコイイな!! あれが大工!? ってか、音が全然耳障りじゃねえしっ」
「今ももう始まってるのよね? 迷惑なんて思えないわっ」
それぞれが感想を言い合っていると、次に現場から走り出てきたのは十数台の屋台だ。
呆気に取られている住民達をよそに、それらが綺麗に沿道に並び、余分に開けた間には椅子やテーブルが設置されていく。これを見ていたアルキスとミラルファが、コウヤに説明を求める。
「なっ、なんだ? 次は……屋台?」
「ちょっと、コウヤさん。こっちもびっくりするほど手際が良いのだけれど……」
「あれが屋台部隊です。きっちりこちらの商業ギルドとも話しを通して、住宅の出入りなども配慮した配置になっていますよ」
「ほ、本当ね……それに、何かしら、あの屋台の屋根の部分……連結するの?」
可動、連結式の屋根は、時には即席のアーケードにもなるという横にも前にも広げられる特別製だ。『雨の日も利用してほしい』という屋台部隊にしかできないワガママ経営だ。もちろん、これはコウヤ作だった。
「あの屋根の所に消臭と煙を消す魔導具も仕込んであるんです。屋台のある周りは匂いがありますけど、他の住宅の方に匂いがいかないようにしているんですよ」
「……屋台に魔導具……そこまで……?」
「お洗濯物についたら嫌じゃないですか」
「た、確かにそうね……そういう苦情もあると聞くわ。けど……すごいわね……」
細かい気配りと対策が沢山あるのだと分かるだろう。
「で? これが七日続くのか? ってか、七日で何が建つんだよ」
「教会です!それも、結婚式の披露宴もできる設計にしました♪ 大きな厨房もあるので、炊き出しも余裕です! 万が一の避難所としても使えますよ! 隣には孤児院を作ります。運営の様子や、王都の状況を見て、民間学校としても使えるようにしてあります」
「学校……?」
ミラルファは、民間学校というのが気になったらしい。
「はい。ユースールでは、母親となった女性の方も働けるように、五歳の子どもから読み書きや計算ができるように神官達で教えているんです。朝からはじめて、お昼ご飯を食べて、午後は迎えが来るまで遊んで待つという感じですね」
四歳以下は孤児院の方で自由に過ごしている。もちろん、お昼も出る。
「……そんなこと……できるの?」
「運営のことですか? 神官の数も足りていますし、預けて行く方々が教会にお布施をされたり、冒険者とかが、とってきた魔獣なんかも寄付されます。それで十分に回っているんです」
「そ、そこのところ、きちんとお話を聞きたいわっ」
「でしたら、あちらでベニばあさま……大司教も来ていますので」
「まあっ。お願いするわっ」
そこにタイミング良くサーナがやって来る。こういう事態を見越していたらしい。
「私がご案内いたします」
「ありがとうっ」
ミラルファとサーナを見送ると、コウヤの隣にアルキスだけが残った。
「あの布はなんだ?」
アルキスはドラム組が気になって仕方がないらしい。尋ねたのは工事現場を囲む布だ。
「遮音と防護、防火の作業布です。通気性も良くさせているので、夏は暑すぎず、冬は寒すぎないという効果もありますよ」
「そりゃあ……ドラム組の特別製か?」
「いいえ。商業ギルドの方には登録しています」
「は? けどよ。他で見たことねえけど?」
「変ですねえ。俺は特に規制もなく登録しているんですけど」
「……商業ギルドに確認させるわ」
「アルキス様も、そういう仕事するんですね」
失礼な物言いだが、これは、アルキスという人物を知っているから出る言葉だ。
「らしくねえってんだろ? 今までだったらやらんかったけどな。お前と話したりして、色々と見えてきちまったんだよ」
「いいことですね」
「お前は……いや、まあ、俺もいい大人としてな……」
色々と思うことがあったようだ。落ち着きがないと言われ続けてきたアルキスにしたら、いい傾向なのかもしれない。
「そういや、お前が引き取った奴とあの教官殿はどうした?」
「ああ、ビジェとルー君なら、王都内にいる孤児の調査です」
「……相変わらず隙がねえな……」
教会が七日でできてしまうのだ。必要な調査や準備は既にはじめていた。
************
読んでくださりありがとうございます◎
三日空きます。
よろしくお願いします◎
「すげぇ、早いな。それに……なんだ、このちょっと楽しくなる音はっ」
アルキスが子どものような笑みを見せていた。
「本当ねえ。大工って煩いし、雑だし、無口でしょう? 良いイメージないのよね。なのに、ジルが絶対見た方が良いって言ったのよ。理由がわかったわ!」
ドラム組は着々と工事現場を囲んでいく。広い土地なので、間違って関係者以外が入ってこないように入り口を一箇所に限定する。
それらはトトン、カカン、ザッザッ、バッとテンポよく作られていき、呆然と見つめている内に、敷地がきっちりと囲われていた。
「……人数は多いけど、こんなに早いもの?」
「マジで何なんだよ、この集団……」
あり得ない早さで、必要となる足場までが組み上がった。指示する声が時折聞こえるだけで、誰もが計算されたように無駄なく動いている。
そうして、全ての準備が整うと、ドラム組はザザザッという音をさせて現場の前に整列した。カンカンという音でビシっと背筋を伸ばす。
いつの間にか、音に誘われてなのか、その作業に見惚れてなのか、住民達がわらわらと出てきていた。まるでこれさえも計算されたように、多くの見物人が集まっていたのだ。それらを前にして、棟梁が声を張り上げた。
「あ、お初に~ぃ、お目にかかりますぅぅ。わたくし共、ドラム組と~ぉ、申しますぅぅ」
ザン!
顔色を変えることのない堂々とした棟梁の様子に、住民達は次第に目を輝かせていく。
「近隣の~ぉ、皆々様におかれましてはぁ。お耳汚しのご迷惑をぉ、おかけいたしますこと~ぉ。お許しいただきたくぅぅっ」
ザザン!
カンカン!
「はじめさせてぇ~、いただきますっぅ!」
ドンカン!
ザザッ
「これより~ぃ、七日のご猶予~ぉお~、賜り~ぃます~ぅ!」
「「「おっ!!」」」
ドラム組の挨拶が最後の掛け声で終わる。ドラム組全員でザッという音がするほど、綺麗に揃った礼をすれば、思わずというように見ていた住民達が拍手をした。それを背中で聞きながら、ドラム組は敷地の中に走りこんで行ったのだ。
「なにこれ! ステキすぎ!」
「カッコイイな!! あれが大工!? ってか、音が全然耳障りじゃねえしっ」
「今ももう始まってるのよね? 迷惑なんて思えないわっ」
それぞれが感想を言い合っていると、次に現場から走り出てきたのは十数台の屋台だ。
呆気に取られている住民達をよそに、それらが綺麗に沿道に並び、余分に開けた間には椅子やテーブルが設置されていく。これを見ていたアルキスとミラルファが、コウヤに説明を求める。
「なっ、なんだ? 次は……屋台?」
「ちょっと、コウヤさん。こっちもびっくりするほど手際が良いのだけれど……」
「あれが屋台部隊です。きっちりこちらの商業ギルドとも話しを通して、住宅の出入りなども配慮した配置になっていますよ」
「ほ、本当ね……それに、何かしら、あの屋台の屋根の部分……連結するの?」
可動、連結式の屋根は、時には即席のアーケードにもなるという横にも前にも広げられる特別製だ。『雨の日も利用してほしい』という屋台部隊にしかできないワガママ経営だ。もちろん、これはコウヤ作だった。
「あの屋根の所に消臭と煙を消す魔導具も仕込んであるんです。屋台のある周りは匂いがありますけど、他の住宅の方に匂いがいかないようにしているんですよ」
「……屋台に魔導具……そこまで……?」
「お洗濯物についたら嫌じゃないですか」
「た、確かにそうね……そういう苦情もあると聞くわ。けど……すごいわね……」
細かい気配りと対策が沢山あるのだと分かるだろう。
「で? これが七日続くのか? ってか、七日で何が建つんだよ」
「教会です!それも、結婚式の披露宴もできる設計にしました♪ 大きな厨房もあるので、炊き出しも余裕です! 万が一の避難所としても使えますよ! 隣には孤児院を作ります。運営の様子や、王都の状況を見て、民間学校としても使えるようにしてあります」
「学校……?」
ミラルファは、民間学校というのが気になったらしい。
「はい。ユースールでは、母親となった女性の方も働けるように、五歳の子どもから読み書きや計算ができるように神官達で教えているんです。朝からはじめて、お昼ご飯を食べて、午後は迎えが来るまで遊んで待つという感じですね」
四歳以下は孤児院の方で自由に過ごしている。もちろん、お昼も出る。
「……そんなこと……できるの?」
「運営のことですか? 神官の数も足りていますし、預けて行く方々が教会にお布施をされたり、冒険者とかが、とってきた魔獣なんかも寄付されます。それで十分に回っているんです」
「そ、そこのところ、きちんとお話を聞きたいわっ」
「でしたら、あちらでベニばあさま……大司教も来ていますので」
「まあっ。お願いするわっ」
そこにタイミング良くサーナがやって来る。こういう事態を見越していたらしい。
「私がご案内いたします」
「ありがとうっ」
ミラルファとサーナを見送ると、コウヤの隣にアルキスだけが残った。
「あの布はなんだ?」
アルキスはドラム組が気になって仕方がないらしい。尋ねたのは工事現場を囲む布だ。
「遮音と防護、防火の作業布です。通気性も良くさせているので、夏は暑すぎず、冬は寒すぎないという効果もありますよ」
「そりゃあ……ドラム組の特別製か?」
「いいえ。商業ギルドの方には登録しています」
「は? けどよ。他で見たことねえけど?」
「変ですねえ。俺は特に規制もなく登録しているんですけど」
「……商業ギルドに確認させるわ」
「アルキス様も、そういう仕事するんですね」
失礼な物言いだが、これは、アルキスという人物を知っているから出る言葉だ。
「らしくねえってんだろ? 今までだったらやらんかったけどな。お前と話したりして、色々と見えてきちまったんだよ」
「いいことですね」
「お前は……いや、まあ、俺もいい大人としてな……」
色々と思うことがあったようだ。落ち着きがないと言われ続けてきたアルキスにしたら、いい傾向なのかもしれない。
「そういや、お前が引き取った奴とあの教官殿はどうした?」
「ああ、ビジェとルー君なら、王都内にいる孤児の調査です」
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