女神なんてお断りですっ。

紫南

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632 二人の想いは

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2017. 12. 22

●お知らせ●
来月1月末
女神なんてお断りですっ。第7巻発売決定です!

**********

サティアの姿を取ったティアは、ゆったりとした歩みで笑みを見せながら祭壇に立つ。

そして、ベリアローズとユフィアに手を差し出す。すると、茫然とする二人は思わずその手の上に自らの片手を差し出した。

ティアが殊更魅惑的な笑みを浮かべると、キラキラした光がどこからともなく降りてくる。

「二人の未来に祝福を」
「……」
「……」

幻想的な光景と、その言葉を聞いた人々は、息遣いさえ聞こえない沈黙の後、割れんばかりの歓声を上げた。

「女神様が祝福した!!」
「教会の人達が跪いてる……やっぱり本物だっ!!」
「サティア様っ」
「聖女は本物だった!!」
「最高の祝福だ!」

大歓声の中、未だに固まっているベリアローズとユフィアの手を少しだけ強く握ってやる。これによって、二人は正気付く。

ベリアローズは知っていたはずなのに、いつまで驚いているんだと、いつもの調子でティアは声をかけた。

「呆けすぎだよお兄様。ほら、しゃんとして」
「お前が悪いんだろう……」
「驚きましたわ……」
「ふふっ、でも本物の祝福だからね。他の神も祝福を送ったみたいだし、貴重だよ?」

ティアには降り注いだ光の中に力を感じていた。それは、神具の中にあったものと同じ。これは神の気配だ。

その光の元を追うように上へと目を向けるティアに誘われ、ベリアローズとユフィアも上を見上げる。

「すごいものをもらってしまったな」
「はい。なんて幸運なんでしょう」

幸せそうに笑う二人に、ティアも嬉しくなる。神達に何か意図があるように感じたのは、ティアの勘だ。しかし、それを表情に出す事はしなかった。

この時の勘が正しかったとわかるのは、もう何年か後のことだ。

「それで? この騒ぎをどう治めるつもりだ?」
「う~ん……それがね。考えてなかった」

きっと教会の者達も考えていないだろうなと、心中穏やかではない。まずはこの場から速やかに下がらなくてはならないだろう。

「とりあえず……お兄様、お姉様。パレード行ってきて」
「……了解。注目してもらえるようにしよう」
「頑張って引きつけて見せますわ」
「よろしく~」

手を離すと、カランタへ視線を投げる。司教は使い物になりそうになかった。

ティアの意図を理解したカランタは頷くと、楽隊へ指示を飛ばす。なんとか正気に戻っていた楽隊の者達は二人が退場するための音楽を奏で始めた。

「さぁ、二人の新たな門出です」

ティアのその言葉でベリアローズとユフィアは外へ向かって歩き出す。

「風王、お願いね」
《お任せを》

待機していた風王が、ティアの指示で扉を開け放ち、色取り取りの花びらを舞い込ませた。それに人々は夢中になる。

この隙にと、ティアは祭壇を降り、会場から飛び出す。その際、元の姿に戻っておいた。しかし、ここでティアの役目は終了ではない。

そこに待機していたのは、クィーグ部隊のシルだ。

「シル、パレードの準備だよ」
「はっ、馬車の用意も万全です。マティさんも出ました」
「オッケー。手筈通り警備もよろしく」
「万事抜かりなく」

こうして、クィーグや魔族、精霊などの協力を得て、ベリアローズとユフィアの結婚式とパレードは盛大に行われたのだ。

◆◆◆◆◆

多くの衝撃と、歓喜の中に終了した結婚式。

その裏で、二人の男達が静かに言葉を交わしていたことを、ティアは知らなかった。

パレードが始まってすぐ、ギルドの屋上から街全体を見下ろすようにして様子を確認しているのは、ギルドマスターであるシェリスとヒュースリー伯爵家の護衛、ルクスだった。

「こんな所で油を売っているとは」
「ここからの方が全体を見られますので」

相変わらず、嫌味ギリギリの会話だ。しかし、二人の視線は一時、同じものを映し、同じことを考えていた。

「これからティアの周りは、今まで以上に騒がしくなるでしょう」
「邪魔になるならどうにかするさ」
「ええ。ティアには平穏な人生を送って欲しいですから」
「手を汚してでも、そこは守る」
「当然です」

出会った頃から気に入らなかった。けれど、一つだけ言えるのは、お互い、ティアのためならば手を取り合えるということ。

しばらく沈黙し、賑やかな街を見下ろしていたルクスは、シェリスへ意を決したように告げた。

「百年だ。ティアが百になるまでの時間をもらう」

それは宣言だ。まだティアには話してはいないが、今日明日にでも告げようと思っていたことだった。

「ふん。後から出てきたぽっと出に先を譲るのは癪ですが、マティとも話した結果です。許しましょう。その代わり、ティアを傷付けることがあればわかっていますね」
「当たり前だ」

きっと、隙があればシェリスはティアを攫っていくだろう。けれど、ルクスはそれも覚悟の上で話している。

「この数十年が、後の百年に霞むことはない」
「言いますね。精々、この後ティアに振られないように祈ることです」
「言ってろ」
「ふんっ」
「はっ」

全く素直になれない。けれど、ルクスもわかっている。ティアが最期の時に傍にいるのはシェリスだ。それは只人であるルクスには叶わない特別な瞬間。

自分が死んだ後、ティアが一人にならないならばいいと思う。気に入らなくても、シェリスにならば任せられる。

同じ者を愛する同志として、口には出さなくてもお互いを認め合っているのだ。

「百年後は頼む」
「言われなくても」

それが精一杯のお互いを認め合う信頼の言葉だった。

**********

舞台裏のお話。


フィスターク「……」

シアン「あら? フィスターク? ちゃんと息をしているかしら?」

フィスターク「はっ……う、うん。今したよ。ありがとうシアン」

シアン「いいのよ。それよりも、びっくりしたわね。後数年で、ティアちゃんはあんな美人さんになっちゃうのかしら」

フィスターク「……いや、そこではなくて……」

シアン「お義父様はどう思われます?」

ゼノ「う、うむ……ティアは今でも充分に美人だぞ」

フィスターク「……ち、父上……?」

シアン「そうですわね。ティアちゃんですもの」

ゼノ「そうだな。ティアだからな」

フィスターク「……ゲイルさん……」

ゲイル「そんな泣きそうな顔すんなよ……シアンとゼノは俺にもどうにもなんねぇって。心配なのは、この後教会の連中とかだが……何とかなるだろ。マスターもいるしな」

フィスターク「そ、そうですよね。これでティアへのお見合いとか大変なことにはならないですよねっ」

ゲイル「……あ~……ま、大丈夫、大丈夫……」

フィスターク「ゲイルさんっ!? もっと重めにっ。確実な意見をっ! 私を見て言ってください!」

ゲイル「うん。無理」

クレア「心配しなくていいよ。ティアちゃんの後見人はマスターと魔王様とこの国の王とあの天使だろうしね。いやぁ、凄い面子だね。下手したら存在ごと消されるね。あははっ」

フィスターク「……」

クレア「ん? お~い、フィスターク?」

ゲイル「ダメだな。遠い所を見てるぞ」

クレア「これはもう仕方ないね。しばらく放っておこう」

ゲイル「だな」



つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎


放置です。


素直ではない二人です。


次回、金曜29日0時です。
よろしくお願いします◎
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