444 / 457
連載
623 最後の話し合いへ
しおりを挟む
2017. 10. 16
**********
長い夜が明けた。
伝説の冒険者達と、現代最強の冒険者達が共に各地で戦う事となったこの日。様々なものに転機が訪れていた。
一つはフリーデル王国の王太子レイナルートとウィストの王女ヒュリア。彼らは、多くの者が唖然とするほど、その距離を縮めていた。
「ヒュリア、怪我は?」
「ありません。あのっ、助けに来てくださって……ありがとうございましたっ……っ」
ティア達が地下から抜け出すと、ウィストに巣食っていた『神の王国』の者達を、クィーグと魔族の諜報員、それにフリーデルから駆けつけた神教会の者達が残らず捕らえていた。
頭目であった神子とサティアの生まれ変わりだとしていたローズが捕まっているのだ。それほど抵抗を受けなかったらしい。
城が半壊してしまったので、謁見の間にまとまっていた者達も揃って城の外に集まっている。そして、その端で繰り広げられていたのがコレだ。
「い、いや。私は何もできなかった……強くなるよ。その……っ、これから先、君を守れるようにっ」
「~っ……わっ、私はっ、い、一緒に助け合っていく生き方が理想ですっ。だからっ、そのっ……」
「っ……そうだな。では、ヒュリア王女。私と共に生きてくれないか」
「っ、で、ですがっ、このような国の王女などっ……」
「共に考えよう。この国の事も」
「っ、はいっ。はいっ、お願いいたしますっ」
結構な人がこれをしっかりと耳にしていた。
気の利くクィーグは、既にこれを聞いた直後にフリーデルの王宮へ戦いの終結とこの一幕の報告を飛ばしている。
本当は今すぐにでも眠ってしまいたいくらい、精神的にも肉体的にも疲れているティアは、抜けそうになる力をなんとか自身の中に押し留め声をあげる。
「あ~……王様どこ行った? 話付けるわ」
冒険者ごときが一国の国王と話を付けるなど、本来はあり得ない事なのだが、色々と面倒なのでさっさとまとめてしまいたいのだ。
「ティア様。こちらです」
いつの間にこの場に戻ってきていたのか、シルが案内してくれた。
王がいたのは、それほど離れた所ではなかった。さすがに威厳も何もなくした王を晒し者にするわけにもいかず、城から出てすぐに急遽、城中からかき集めてきた衝立で覆った場所を確保していたらしい。
そこには、王妃やこの国の重鎮達も揃っており、更に首謀者である神子やローズ、何とか座り込んでいる状態のライダロフもいる。
後から連れてこられたらしいこの国の神官達も疲れた表情で座り込んでいた。
最初に声をかけてきたのは、ヒュリアの母である王妃だった。
「この度は、大変なご迷惑をおかけいたしました」
王妃はティアに対して丁寧に頭を下げた。冒険者姿で、それも子どもに向かってこの態度はどうしたものだと、ティアの方が戸惑ってしまう。しかし、王妃は構わず続けた。
「こちらの……フリーデルからおいでになった大神官様に貴女様の事をお聞きしました。サティア様」
「っ……あ~……そう……」
誤魔化す気力すらない。大神官というその人は、輝くような笑顔でティアを見つめている。否定する方が面倒になるのは目に見えていた。
フリーデルの神官達は、ティアをサティアの真の生まれ変わりだと認識して久しいようだ。どうやら、お告げもあったらしい。
今回、各地へと『神の王国』という組織の危険性や、偽物をサティアの生まれ変わりだとしている事など説明しに多くの神官達が派遣された。
混乱の最中、スムーズに、そして、的確に各地を回れたのは、事前にいつでも動けるようにと準備していた事が大きい。その影の立役者はクィーグだけではなく、ドーバン侯爵夫人が関わっている。
ドーバン侯爵夫人は、自身や多くの貴族の奥方達を人族至上主義の考えに染めようと画策していた『神の王国』のやり方が許せなかったらしい。
夫人達の持つ情報網を駆使し、様々な所に根回しをしていた。そして、神教会と密かに手を組んだのだ。
王宮での襲撃を受けて、神教会にもすぐに報告を飛ばし、一晩でこの大事な局面にティアの役に立つという偉業をなし遂げた。
逃げようとしていたこの国の神官達を残らず捕まえられたのは、彼らのおかげだった。
「王妃でありながら、王を諌める事もできず、ここまで国を荒らす事になった……私の不徳とする所でございます。サティア様。どうぞ、いかようにもご処断くださいませ」
ティアの前で膝を突く王妃。それにならい、重鎮であろう者達までティアに頭を下げる。
うな垂れたままの王は、顔を上げない。しかし、小さく震えているようで、痛々しかった。
そんな王に、いつの間にこの場に来ていたのか、カランタが近寄っていった。カランタは一度ティアへ目を向けると、頷いてみせる。任せろという意味で間違いないだろう。自身と同じ過ちを犯す所だった王。それをどうにかするのは、カランタにとっても必要な事なのだろう。
ティアは、今目の前にある王妃達をどうにかする事に努める事にする。
「顔を上げてください。今の私は、一介の冒険者に過ぎません」
「ですが……いえ……承知いたしました」
ティアが決然と告げる事で、王妃は少々表情を曇らせながらも頷いてくれた。
「この国のこれからの事です」
「はい。どうぞ、お力をお貸しいただきたい」
「ええ」
そうして、ようやく本題に入ろうとした時だった。ローズが興奮気味に口を挟んできたのだ。
「そんな冒険者の言葉など、王妃様が聞いてはいけませんわっ」
「……」
呆れた溜め息さえ出なかった。
**********
舞台裏はお休み☆
読んでくださりありがとうございます◎
後始末……でもうざいのが残ってましたね。
次回、金曜20日0時です。
よろしくお願いします◎
**********
長い夜が明けた。
伝説の冒険者達と、現代最強の冒険者達が共に各地で戦う事となったこの日。様々なものに転機が訪れていた。
一つはフリーデル王国の王太子レイナルートとウィストの王女ヒュリア。彼らは、多くの者が唖然とするほど、その距離を縮めていた。
「ヒュリア、怪我は?」
「ありません。あのっ、助けに来てくださって……ありがとうございましたっ……っ」
ティア達が地下から抜け出すと、ウィストに巣食っていた『神の王国』の者達を、クィーグと魔族の諜報員、それにフリーデルから駆けつけた神教会の者達が残らず捕らえていた。
頭目であった神子とサティアの生まれ変わりだとしていたローズが捕まっているのだ。それほど抵抗を受けなかったらしい。
城が半壊してしまったので、謁見の間にまとまっていた者達も揃って城の外に集まっている。そして、その端で繰り広げられていたのがコレだ。
「い、いや。私は何もできなかった……強くなるよ。その……っ、これから先、君を守れるようにっ」
「~っ……わっ、私はっ、い、一緒に助け合っていく生き方が理想ですっ。だからっ、そのっ……」
「っ……そうだな。では、ヒュリア王女。私と共に生きてくれないか」
「っ、で、ですがっ、このような国の王女などっ……」
「共に考えよう。この国の事も」
「っ、はいっ。はいっ、お願いいたしますっ」
結構な人がこれをしっかりと耳にしていた。
気の利くクィーグは、既にこれを聞いた直後にフリーデルの王宮へ戦いの終結とこの一幕の報告を飛ばしている。
本当は今すぐにでも眠ってしまいたいくらい、精神的にも肉体的にも疲れているティアは、抜けそうになる力をなんとか自身の中に押し留め声をあげる。
「あ~……王様どこ行った? 話付けるわ」
冒険者ごときが一国の国王と話を付けるなど、本来はあり得ない事なのだが、色々と面倒なのでさっさとまとめてしまいたいのだ。
「ティア様。こちらです」
いつの間にこの場に戻ってきていたのか、シルが案内してくれた。
王がいたのは、それほど離れた所ではなかった。さすがに威厳も何もなくした王を晒し者にするわけにもいかず、城から出てすぐに急遽、城中からかき集めてきた衝立で覆った場所を確保していたらしい。
そこには、王妃やこの国の重鎮達も揃っており、更に首謀者である神子やローズ、何とか座り込んでいる状態のライダロフもいる。
後から連れてこられたらしいこの国の神官達も疲れた表情で座り込んでいた。
最初に声をかけてきたのは、ヒュリアの母である王妃だった。
「この度は、大変なご迷惑をおかけいたしました」
王妃はティアに対して丁寧に頭を下げた。冒険者姿で、それも子どもに向かってこの態度はどうしたものだと、ティアの方が戸惑ってしまう。しかし、王妃は構わず続けた。
「こちらの……フリーデルからおいでになった大神官様に貴女様の事をお聞きしました。サティア様」
「っ……あ~……そう……」
誤魔化す気力すらない。大神官というその人は、輝くような笑顔でティアを見つめている。否定する方が面倒になるのは目に見えていた。
フリーデルの神官達は、ティアをサティアの真の生まれ変わりだと認識して久しいようだ。どうやら、お告げもあったらしい。
今回、各地へと『神の王国』という組織の危険性や、偽物をサティアの生まれ変わりだとしている事など説明しに多くの神官達が派遣された。
混乱の最中、スムーズに、そして、的確に各地を回れたのは、事前にいつでも動けるようにと準備していた事が大きい。その影の立役者はクィーグだけではなく、ドーバン侯爵夫人が関わっている。
ドーバン侯爵夫人は、自身や多くの貴族の奥方達を人族至上主義の考えに染めようと画策していた『神の王国』のやり方が許せなかったらしい。
夫人達の持つ情報網を駆使し、様々な所に根回しをしていた。そして、神教会と密かに手を組んだのだ。
王宮での襲撃を受けて、神教会にもすぐに報告を飛ばし、一晩でこの大事な局面にティアの役に立つという偉業をなし遂げた。
逃げようとしていたこの国の神官達を残らず捕まえられたのは、彼らのおかげだった。
「王妃でありながら、王を諌める事もできず、ここまで国を荒らす事になった……私の不徳とする所でございます。サティア様。どうぞ、いかようにもご処断くださいませ」
ティアの前で膝を突く王妃。それにならい、重鎮であろう者達までティアに頭を下げる。
うな垂れたままの王は、顔を上げない。しかし、小さく震えているようで、痛々しかった。
そんな王に、いつの間にこの場に来ていたのか、カランタが近寄っていった。カランタは一度ティアへ目を向けると、頷いてみせる。任せろという意味で間違いないだろう。自身と同じ過ちを犯す所だった王。それをどうにかするのは、カランタにとっても必要な事なのだろう。
ティアは、今目の前にある王妃達をどうにかする事に努める事にする。
「顔を上げてください。今の私は、一介の冒険者に過ぎません」
「ですが……いえ……承知いたしました」
ティアが決然と告げる事で、王妃は少々表情を曇らせながらも頷いてくれた。
「この国のこれからの事です」
「はい。どうぞ、お力をお貸しいただきたい」
「ええ」
そうして、ようやく本題に入ろうとした時だった。ローズが興奮気味に口を挟んできたのだ。
「そんな冒険者の言葉など、王妃様が聞いてはいけませんわっ」
「……」
呆れた溜め息さえ出なかった。
**********
舞台裏はお休み☆
読んでくださりありがとうございます◎
後始末……でもうざいのが残ってましたね。
次回、金曜20日0時です。
よろしくお願いします◎
10
お気に入りに追加
4,567
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました

愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつまりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。