女神なんてお断りですっ。

紫南

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623 最後の話し合いへ

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2017. 10. 16

**********

長い夜が明けた。

伝説の冒険者達と、現代最強の冒険者達が共に各地で戦う事となったこの日。様々なものに転機が訪れていた。

一つはフリーデル王国の王太子レイナルートとウィストの王女ヒュリア。彼らは、多くの者が唖然とするほど、その距離を縮めていた。

「ヒュリア、怪我は?」
「ありません。あのっ、助けに来てくださって……ありがとうございましたっ……っ」

ティア達が地下から抜け出すと、ウィストに巣食っていた『神の王国』の者達を、クィーグと魔族の諜報員、それにフリーデルから駆けつけた神教会の者達が残らず捕らえていた。

頭目であった神子とサティアの生まれ変わりだとしていたローズが捕まっているのだ。それほど抵抗を受けなかったらしい。

城が半壊してしまったので、謁見の間にまとまっていた者達も揃って城の外に集まっている。そして、その端で繰り広げられていたのがコレだ。

「い、いや。私は何もできなかった……強くなるよ。その……っ、これから先、君を守れるようにっ」
「~っ……わっ、私はっ、い、一緒に助け合っていく生き方が理想ですっ。だからっ、そのっ……」
「っ……そうだな。では、ヒュリア王女。私と共に生きてくれないか」
「っ、で、ですがっ、このような国の王女などっ……」
「共に考えよう。この国の事も」
「っ、はいっ。はいっ、お願いいたしますっ」

結構な人がこれをしっかりと耳にしていた。

気の利くクィーグは、既にこれを聞いた直後にフリーデルの王宮へ戦いの終結とこの一幕の報告を飛ばしている。

本当は今すぐにでも眠ってしまいたいくらい、精神的にも肉体的にも疲れているティアは、抜けそうになる力をなんとか自身の中に押し留め声をあげる。

「あ~……王様どこ行った? 話付けるわ」

冒険者ごときが一国の国王と話を付けるなど、本来はあり得ない事なのだが、色々と面倒なのでさっさとまとめてしまいたいのだ。

「ティア様。こちらです」

いつの間にこの場に戻ってきていたのか、シルが案内してくれた。

王がいたのは、それほど離れた所ではなかった。さすがに威厳も何もなくした王を晒し者にするわけにもいかず、城から出てすぐに急遽、城中からかき集めてきた衝立で覆った場所を確保していたらしい。

そこには、王妃やこの国の重鎮達も揃っており、更に首謀者である神子やローズ、何とか座り込んでいる状態のライダロフもいる。

後から連れてこられたらしいこの国の神官達も疲れた表情で座り込んでいた。

最初に声をかけてきたのは、ヒュリアの母である王妃だった。

「この度は、大変なご迷惑をおかけいたしました」

王妃はティアに対して丁寧に頭を下げた。冒険者姿で、それも子どもに向かってこの態度はどうしたものだと、ティアの方が戸惑ってしまう。しかし、王妃は構わず続けた。

「こちらの……フリーデルからおいでになった大神官様に貴女様の事をお聞きしました。サティア様」
「っ……あ~……そう……」

誤魔化す気力すらない。大神官というその人は、輝くような笑顔でティアを見つめている。否定する方が面倒になるのは目に見えていた。

フリーデルの神官達は、ティアをサティアの真の生まれ変わりだと認識して久しいようだ。どうやら、お告げもあったらしい。

今回、各地へと『神の王国』という組織の危険性や、偽物をサティアの生まれ変わりだとしている事など説明しに多くの神官達が派遣された。

混乱の最中、スムーズに、そして、的確に各地を回れたのは、事前にいつでも動けるようにと準備していた事が大きい。その影の立役者はクィーグだけではなく、ドーバン侯爵夫人が関わっている。

ドーバン侯爵夫人は、自身や多くの貴族の奥方達を人族至上主義の考えに染めようと画策していた『神の王国』のやり方が許せなかったらしい。

夫人達の持つ情報網を駆使し、様々な所に根回しをしていた。そして、神教会と密かに手を組んだのだ。

王宮での襲撃を受けて、神教会にもすぐに報告を飛ばし、一晩でこの大事な局面にティアの役に立つという偉業をなし遂げた。

逃げようとしていたこの国の神官達を残らず捕まえられたのは、彼らのおかげだった。

「王妃でありながら、王を諌める事もできず、ここまで国を荒らす事になった……私の不徳とする所でございます。サティア様。どうぞ、いかようにもご処断くださいませ」

ティアの前で膝を突く王妃。それにならい、重鎮であろう者達までティアに頭を下げる。

うな垂れたままの王は、顔を上げない。しかし、小さく震えているようで、痛々しかった。

そんな王に、いつの間にこの場に来ていたのか、カランタが近寄っていった。カランタは一度ティアへ目を向けると、頷いてみせる。任せろという意味で間違いないだろう。自身と同じ過ちを犯す所だった王。それをどうにかするのは、カランタにとっても必要な事なのだろう。

ティアは、今目の前にある王妃達をどうにかする事に努める事にする。

「顔を上げてください。今の私は、一介の冒険者に過ぎません」
「ですが……いえ……承知いたしました」

ティアが決然と告げる事で、王妃は少々表情を曇らせながらも頷いてくれた。

「この国のこれからの事です」
「はい。どうぞ、お力をお貸しいただきたい」
「ええ」

そうして、ようやく本題に入ろうとした時だった。ローズが興奮気味に口を挟んできたのだ。

「そんな冒険者の言葉など、王妃様が聞いてはいけませんわっ」
「……」

呆れた溜め息さえ出なかった。

**********

舞台裏はお休み☆
読んでくださりありがとうございます◎


後始末……でもうざいのが残ってましたね。


次回、金曜20日0時です。
よろしくお願いします◎
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