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618 約束を守ると信じて
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2017. 9. 18
**********
それは、ウィストの教会から立ち上っていた黒い柱が消える頃だった。
「やっと解除成功か……まったくとんでもないものを仕掛けてくれるよ」
カルツォーネは、たった今発動を止めたジェルバが作ったらしい魔導具を見て嘆息する。
「かなり出て行ってしまったね。それほど壊れなくて良かったよ」
教会の入り口は無残にも破壊されている。黒い獣達が出て行くのに突撃されたためだ。律儀に入り口から出て行ってくれたのは、まぁ良かったとしよう。
あの数に変に壁を突き破られていたら、きっと今頃、この立派な教会はカルツォーネを巻き込んで崩壊していたことだろう。
「さて、急いでサガンの方へ向かわなくてはね。お前達も行けるか?」
一緒に魔導具の解除のための作業をしていたのは、この国に紛れ込ませていた魔族の諜報員達だ。
「はい。確か……もう一つのサガンの方へはクロノス様が向かったのでしたね。我らも最速でついて行きます」
「頼むよ」
カルツォーネは魔導具をアイテムボックスに慎重に回収すると、皆を引き連れて外へ出る。
外はかなり酷い状況だった。
「これは……これほどとは思わなかったね……」
真っ直ぐフリーデル王国へ向かって道が出来ている。その場所にあったであろう家々は無惨にも木片となって地面に敷き詰められていた。
だが、枝分かれすることもなく、真っ直ぐ進んで行った様子に、カルツォーネは目を細める。
「進路を指定してあらかじめ何か仕込まれていたかな……」
例えば、発動させる術者となる者が通った場所をなぞるように設定されていたとかそいういう可能性があるだろう。
そうして、ふとティアがいるらしい方向へ意識を向ける。
カルツォーネの顔が強張った。そこへ、サクヤとマティがやってくる。
「カル。止められたみたいね。ってどうしたの?」
サクヤはカルツォーネが怖い顔をしてそちらを見ていることが気になったのだろう。声を落として静かに尋ねる。
これに答えたのはマティだった。
《主の所……凄いが出てきてる……さっきまでここから出てきてた奴らとは大きさが違うよ……》
「ああ……おそらく、こことサガンにある魔導具はあそこにあるものの試作品なんだろう。使用している魔力量と威力が桁違いだ」
カルツォーネの予想は正しい。だが、異質な程の力のせいで普通には感知できない。カルツォーネの言葉で、ようやくそれに気付いた魔族の者達があからさまに顔色を変えた。
「お、王……あ、あれを止めなくてはっ」
放置してよいものではない。どうすることもできないかもしれないが、自分達魔族にどうにも出来なければ絶望的だと感じている。だから、この言葉は意志とは関係なく思わず口から出てしまったものだった。
「……出来んだろうな……」
「っ!!」
カルツォーネは冷静だった。いや、頭は大変混乱している。どうしたら良いか、どうすべきかを必死で考えていた。後ろにいる彼らと同じだ。口だけは思わずそれを発している。
《マティ、主の所に行ってくる。大丈夫。主ならあの変な物も壊せる。お姉さん達は向こうへ行ってきて良いよ。主もそのつもりだろうしね》
そこでカルツォーネもサクヤもはっとする。そう、ティアはここを頼むと言ったのだ。ならば、それは果たさなくてはならない。
「そうだね」
カルツォーネはふっと肩の力を抜く。
「それに、危なくなった時は必ず呼ぶって約束もある」
約束してくれた。約束させたと言った方がいいかもしれない。それでも、その約束は絶対だ。ティアは、一度した約束は忘れない。
「そんな約束してたの? まぁ、でも、それならそれを信じるわ。それに、今のあの子なら、ちゃんとどうにもならない時は頼ってくれるわよね」
「ああ。昔のあの子とは違うよ。だから、信用しよう。あっちには天使になった父親もいるんだ。反則技にも期待できるよ」
死にそうになっても留めてくれそうだと二人は笑う。
ただ、後ろにいる魔族の面々は複雑そうな顔をしていた。
「さぁ、サガンへ行こう。マティ、ティアを頼むよ」
《任された~》
そう言って、マティは城に向かって駆けて行った。
「なら、私はフリーデルへ向かうわ。先行した子ども達やウルが心配だもの」
「わかった。サク姐も気を付けてね」
「そっちこそ、クロノス君をこんな所で死なせないでよ?」
サクヤがお茶目に片目を瞑って忠告する。これにカルツォーネは満面の笑みで答えた。
「もちろんさ。夫となる者くらい、余裕で助けてみせるよ」
「終わったら、ちゃんと本人に言いなさいよね。いつもみたいに『嫁に来ないか』って言うんじゃなくて」
「ははっ、それは……照れ臭いな。けど……うん。頑張ってみるよ」
二人は笑顔で別れる。そして、カルツォーネは天馬に乗り、魔族の面々は隠していた飛竜に乗ってサガンへと向かったのだ。
**********
舞台裏のお話は今回お休み。
読んでくださりありがとうございます◎
さて、マティも向かいました。
次回、金曜22日0時です。
よろしくお願いします◎
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それは、ウィストの教会から立ち上っていた黒い柱が消える頃だった。
「やっと解除成功か……まったくとんでもないものを仕掛けてくれるよ」
カルツォーネは、たった今発動を止めたジェルバが作ったらしい魔導具を見て嘆息する。
「かなり出て行ってしまったね。それほど壊れなくて良かったよ」
教会の入り口は無残にも破壊されている。黒い獣達が出て行くのに突撃されたためだ。律儀に入り口から出て行ってくれたのは、まぁ良かったとしよう。
あの数に変に壁を突き破られていたら、きっと今頃、この立派な教会はカルツォーネを巻き込んで崩壊していたことだろう。
「さて、急いでサガンの方へ向かわなくてはね。お前達も行けるか?」
一緒に魔導具の解除のための作業をしていたのは、この国に紛れ込ませていた魔族の諜報員達だ。
「はい。確か……もう一つのサガンの方へはクロノス様が向かったのでしたね。我らも最速でついて行きます」
「頼むよ」
カルツォーネは魔導具をアイテムボックスに慎重に回収すると、皆を引き連れて外へ出る。
外はかなり酷い状況だった。
「これは……これほどとは思わなかったね……」
真っ直ぐフリーデル王国へ向かって道が出来ている。その場所にあったであろう家々は無惨にも木片となって地面に敷き詰められていた。
だが、枝分かれすることもなく、真っ直ぐ進んで行った様子に、カルツォーネは目を細める。
「進路を指定してあらかじめ何か仕込まれていたかな……」
例えば、発動させる術者となる者が通った場所をなぞるように設定されていたとかそいういう可能性があるだろう。
そうして、ふとティアがいるらしい方向へ意識を向ける。
カルツォーネの顔が強張った。そこへ、サクヤとマティがやってくる。
「カル。止められたみたいね。ってどうしたの?」
サクヤはカルツォーネが怖い顔をしてそちらを見ていることが気になったのだろう。声を落として静かに尋ねる。
これに答えたのはマティだった。
《主の所……凄いが出てきてる……さっきまでここから出てきてた奴らとは大きさが違うよ……》
「ああ……おそらく、こことサガンにある魔導具はあそこにあるものの試作品なんだろう。使用している魔力量と威力が桁違いだ」
カルツォーネの予想は正しい。だが、異質な程の力のせいで普通には感知できない。カルツォーネの言葉で、ようやくそれに気付いた魔族の者達があからさまに顔色を変えた。
「お、王……あ、あれを止めなくてはっ」
放置してよいものではない。どうすることもできないかもしれないが、自分達魔族にどうにも出来なければ絶望的だと感じている。だから、この言葉は意志とは関係なく思わず口から出てしまったものだった。
「……出来んだろうな……」
「っ!!」
カルツォーネは冷静だった。いや、頭は大変混乱している。どうしたら良いか、どうすべきかを必死で考えていた。後ろにいる彼らと同じだ。口だけは思わずそれを発している。
《マティ、主の所に行ってくる。大丈夫。主ならあの変な物も壊せる。お姉さん達は向こうへ行ってきて良いよ。主もそのつもりだろうしね》
そこでカルツォーネもサクヤもはっとする。そう、ティアはここを頼むと言ったのだ。ならば、それは果たさなくてはならない。
「そうだね」
カルツォーネはふっと肩の力を抜く。
「それに、危なくなった時は必ず呼ぶって約束もある」
約束してくれた。約束させたと言った方がいいかもしれない。それでも、その約束は絶対だ。ティアは、一度した約束は忘れない。
「そんな約束してたの? まぁ、でも、それならそれを信じるわ。それに、今のあの子なら、ちゃんとどうにもならない時は頼ってくれるわよね」
「ああ。昔のあの子とは違うよ。だから、信用しよう。あっちには天使になった父親もいるんだ。反則技にも期待できるよ」
死にそうになっても留めてくれそうだと二人は笑う。
ただ、後ろにいる魔族の面々は複雑そうな顔をしていた。
「さぁ、サガンへ行こう。マティ、ティアを頼むよ」
《任された~》
そう言って、マティは城に向かって駆けて行った。
「なら、私はフリーデルへ向かうわ。先行した子ども達やウルが心配だもの」
「わかった。サク姐も気を付けてね」
「そっちこそ、クロノス君をこんな所で死なせないでよ?」
サクヤがお茶目に片目を瞑って忠告する。これにカルツォーネは満面の笑みで答えた。
「もちろんさ。夫となる者くらい、余裕で助けてみせるよ」
「終わったら、ちゃんと本人に言いなさいよね。いつもみたいに『嫁に来ないか』って言うんじゃなくて」
「ははっ、それは……照れ臭いな。けど……うん。頑張ってみるよ」
二人は笑顔で別れる。そして、カルツォーネは天馬に乗り、魔族の面々は隠していた飛竜に乗ってサガンへと向かったのだ。
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舞台裏のお話は今回お休み。
読んでくださりありがとうございます◎
さて、マティも向かいました。
次回、金曜22日0時です。
よろしくお願いします◎
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