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614 マスターの本領
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2017. 8. 28
**********
ルクスが外門へ辿り着くと、既に迎撃態勢が整っていた。
現在、まだ夜明け前。
それでもサルバの町は昼間にも負けないくらいの人々が動いている。冒険者ギルドも魔術師ギルドも殆ど空だ。戦える者は全て出ていた。
ギルドにいた飛竜も全て飛び立ち、サルバの手前にある町や村の避難誘導のために向かったらしい。
他国から向かってくる黒い獣のことは、伯爵領に入ってすぐにフィスタークの元へ緊急の伝令がきていた。
叩き起こされる形になったフィスタークはギルドマスター不在の中でも飛竜で応援と、全面協力の要請をすぐに依頼として出したのだという。
どの進路を通ってくるかは分からないが、取るべき手段は逃さない。そうして対応に追われている時、運良くシェリスが帰ってきた。
即効で対策に移れたのはフィスタークの力が大きい。ただ、そうして対応に追われていたため、最愛の妻と元気な父親の動きに気付くのが遅れたのはお気の毒としか言い様がない。
現在、敵の動きを上空から確認しているのはグリフォンの親子に乗ったギルド職員達だ。その一人はマーナらしい。そして、そんなマーナは敵の存在と同時にこちらへ向かってくるある人達を見つけて舞い戻ってきた。
「マスター! 敵の先頭部隊との衝突まで残り五分。もうすぐここからでも視認できます。それと『花風』です! クレアさんのパーティが迎撃しながらこちらへいらっしゃいます!」
外門の上にいたシェリスへ報告するマーナ。それにシェリスの声ははっきりと答える。
「クレアが? わかりました。彼女達と敵との距離はありますか?」
「何かを守るように走っており、距離としては七百メールほどに見えました」
「そうですか……」
周りの冒険者達も外門の上のシェリスに注目している。クレアはこのサルバの者達、特に冒険者達にとってのヒーローに近い。シェリスも一目置き、ゲイルの妻である上にその人望は多くの人々を惹きつける。Bランクの冒険者であり、味方に付けば頼もい存在でもあった。
クレアが来ているということにざわめきが起きなかったのは、シェリスを信頼しているからだ。絶対に見捨てることはしない。だから冷静にクレアをどう敵から離し、こちらまで来させるのかというシェリスの対応策を待っているのだ。
シェリスは一度考え込むと、不意に下にいるルクスへ目を落とした。
外門の上と下ではかなり距離があるが、ルクスは確実に目が合ったと感じた。次の瞬間、シェリスは口開いた。
「マーナ、ルクス君を乗せてクレアの所へ」
「は、はいっ」
「はぁ?」
それを聞いてすぐにマーナは疑問に思うこともせずルクスがいる場所へグリフォンで突っ込む。
これには周りにいた冒険者達が慌てて反応し、場所を空ける。動けなかったのはルクスだけだ。あまりにも予想外すぎたのだ。まさかシェリスがルクスを呼ぶとは思わなかった。
「ルクスさん、乗ってくださいっ」
気迫のあるマーナの声は、逆らってはいけない者の気配を感じさせていた。これはクレアと同じだと思う。少々の懐かしさを感じながらマーナの後ろに飛び乗る。
それを確認してか、シェリスが次の指示を出した。
「クレアと魔獣の距離をなるべく広げなさい。その剣なら可能でしょう。それと、どうやらクレアは人を護衛しているようです。それを受け取り、前線まで一気に下がりなさい」
「分かった」
反論はしない。だが、すれ違いざまシェリスはいつもの調子で注意する。
「前に出たからといって、一人で食い止めようなどと思わないように。少しでも前線から飛び出せば消し炭にしますからそのつもりで」
「久し振りの実戦だからといって手元が狂ったら笑い者ですね」
「ふんっ、まぁ、期待していなさい」
相変わらず余裕を見せてくれる。悔しいが、有事の時は頼もしいものだ。
下を見ると距離を置いて一列に並ぶ冒険者や兵達がいた。不思議に思っていれば、マーナが説明してくれる。
「ルクスさんはお屋敷の方へ行っておられましたので、作戦の概要を手短に説明いたします」
「頼む」
こんな時でもマーナは優秀なギルド職員だ。誰がどこで何をしていたのか把握している。
「マスターはこのサルバより先へは行かせないおつもりです。ここで完全に食い止めます。防衛戦は三つ。最前線に主力の冒険者達を配置し数を減らします。その次はパーティメンバー。門の手前の後衛が兵達です」
最前線でランクの高い実力者達を配置。数を一気に叩き、その取りこぼしをパーティ戦の得意な者達が拾う。そして、更にこぼれたものを兵達。これを外壁で詰める魔術師達が援護する。
「前線の位置だけは維持するようにとの事です」
「分かった。前に出るなとも言っていたし、魔術で何かするんだろう。君も気を付けてくれ」
「はい……ですが、さすがに無理では? 魔術攻撃の飛距離は精々第二防衛戦まで届くかどうかです」
「あれは天才なんだろう?」
「……マスターが戦う所など見た事がありませんから……」
「まぁ、そうだろうな」
そこでクレアを視認した。
「居たぞ。間に入ってくれ。正面ではなく側面で頼む」
「はい。ですが、剣で?」
「これは特殊な上に、ティア直伝の技だ。上手くいけば先頭はやれる」
「わ、分かりました」
マーナは一気にクレアの頭上を通り過ぎ、魔獣の手前で向きを変える。その瞬間、ルクスは剣に魔術を纏わせ空間を裂くように斬撃を飛ばした。
《クルルっ》
「きゃぁっ」
「しっかり捕まれ」
魔獣を叩いた衝撃は風圧となってグリフォンへも向かってきた。風に煽られ、上昇するグリフォンに、マーナが落とされそうになる。咄嗟に手綱を手に取りマーナを支えた。
「すみません」
「いや、少し思い切りやり過ぎた」
「いいえ。これでかなりクレアさん達との距離が空きました。急ぎましょう」
「ああ。並走出来るか?」
「わかりません。馬が怯えるかも」
次はクレア達が守っているものを受け取ることだ。
クレア達を追うようにグリフォンを飛ばせながらルクスは精霊達を呼んだ。
「なら、精霊に頼む」
「え?」
ティアとは違うとはいえ、いつもティアと一緒にいることで精霊達はルクスに慣れている。普通はお願いなど聞いてもくれない気まぐれな者達なのだが、この辺りの精霊達は違った。
「頼みがある。あそこで馬に乗っている人たちに声を届けてくれ」
《いいよ~》
《とくべつ~》
《さ~びす~》
これで声が届く。
「お袋」
『っ、ルクスかい?』
声はちゃんと届いているようだ。少々振り返る様子も見えた。
「今抱えてる護衛対象をこちらに預けてくれ。それでは馬の速度が落ちる。なるべく魔獣との距離を取ってサルバで用意している前線まで駆けてくれ」
『分かった』
クレアは七歳頃の少年を抱えていた。それを守るようにパーティメンバーが駆けている。振り落とすわけにもいかない上、乱暴に走ることもできず、速度が出ないのだ。
「マーナ、近付けてくれ。精霊達、馬が怯えないように頼むぞ」
精霊達は動物達を落ち着けることでができるようで、以前、見事に馬を操ってみせたり、放した馬を連れてきてくれたりしているのを知っている。
《いいよ~》
《せいれいつかいがあらい~》
《ついかりょうきんはっせ~い》
色々言っているが、素直に馬の方へ行ったので大丈夫だ。
「では、行きます」
「ああ。俺が受け取る」
グリフォンに慎重に近付いてもらい、クレアから子どもを受け取った。
「頼むよ」
「受け取った。速度を上げてくれ」
冒険者達は既に通達が行っているのか、クレア達が通る場所を開けていた。
ルクスはマーナに子どもを抱えさせると、自分は降りる用意をする。
「マーナ、俺はここで食い止める」
「はい。お気を付けて」
風を纏わせ、躊躇なく飛び降りる。そこは最前線だ。マーナの夫であるボランが駆け寄ってきた。
「ルクス。この後、マスターが魔術を打つ。それが合図だ」
「わかりました」
この時、誰もがシェリスの魔術はただの合図のためだけの空に打ち上げられる光の玉か火の玉ぐらいに思っていた。だから、数人は向かってくる魔獣達の方ではなく、シェリスがいるであろうサルバの外壁の上を見上げていたのだ。
「敵が見えたぞ」
一直線に前線で並ぶ冒険者達へ突撃してくる。かなりの量の黒い魔獣達。作り出された陰のようなものであるため、足音も息遣いも聞こえない。妙な感じだった。
「構えろっ。マスターの合図を待てっ」
残り五百メールといった所で、突然その上空が明るくなった。
「なっ、なんだ!?」
誰もが動揺する。それは、一列に並んだ輝く大きな魔法陣。ルクスにはこれだけ複数の魔法陣を展開する光景をティアで見慣れていたが、他の者達は違う。
だいたい、魔術師達がいる場所からは、この場所に魔術を展開できない。しかし、ルクスには分かった。これはシェリスの魔術だ。
そして、凄いエネルギーを感じた。残り三百メール。
その時だ。魔法陣から同時に雷電が走り、先頭の魔獣達が一気に消え去った。
「ええっ!?」
「やってくれる……」
まさかそれがシェリスの合図だとは思えなかったらしく、冒険者達は固まっていた。
「ボランさん、これが合図ですっ。前線はこのまま、抜けてくるのを叩きます!」
「お、おうっ! 合図だっ! 取りこぼすなよっ!」
そうして、乱戦が始まった。
**********
舞台裏のお話。
魔術師A 「え……」
魔術師B 「お、恐ろしいっ。なんだアレっ」
魔術師C 「僕らの立場はっ!?」
魔術師A 「うちのマスターが固まってる……」
魔術師B 「いや、あれは輝いておられる」
魔術師D 「いけませんマスター。今は防衛戦ですっ。ジルバール様の所へ行かれるのは後でっ」
魔術師A 「あ~……」
魔術師B 「まぁ、あんなの見せられてはな……」
魔術師D 「拝むのも後ですっ」
魔術師C 「僕も拝んどこう」
兵A 「なんか、おかしなことになってるな」
兵B 「あんなの見せられたらな……」
ギルド職員「マスター。なんか拝まれています」
シェリス「目を合わせるんじゃありません」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
仕方ないですよね。
シェリスの本領発揮です。
次回、申し訳ありませんが、一度お休みです。
次は月曜4日0時です。
よろしくお願いします◎
**********
ルクスが外門へ辿り着くと、既に迎撃態勢が整っていた。
現在、まだ夜明け前。
それでもサルバの町は昼間にも負けないくらいの人々が動いている。冒険者ギルドも魔術師ギルドも殆ど空だ。戦える者は全て出ていた。
ギルドにいた飛竜も全て飛び立ち、サルバの手前にある町や村の避難誘導のために向かったらしい。
他国から向かってくる黒い獣のことは、伯爵領に入ってすぐにフィスタークの元へ緊急の伝令がきていた。
叩き起こされる形になったフィスタークはギルドマスター不在の中でも飛竜で応援と、全面協力の要請をすぐに依頼として出したのだという。
どの進路を通ってくるかは分からないが、取るべき手段は逃さない。そうして対応に追われている時、運良くシェリスが帰ってきた。
即効で対策に移れたのはフィスタークの力が大きい。ただ、そうして対応に追われていたため、最愛の妻と元気な父親の動きに気付くのが遅れたのはお気の毒としか言い様がない。
現在、敵の動きを上空から確認しているのはグリフォンの親子に乗ったギルド職員達だ。その一人はマーナらしい。そして、そんなマーナは敵の存在と同時にこちらへ向かってくるある人達を見つけて舞い戻ってきた。
「マスター! 敵の先頭部隊との衝突まで残り五分。もうすぐここからでも視認できます。それと『花風』です! クレアさんのパーティが迎撃しながらこちらへいらっしゃいます!」
外門の上にいたシェリスへ報告するマーナ。それにシェリスの声ははっきりと答える。
「クレアが? わかりました。彼女達と敵との距離はありますか?」
「何かを守るように走っており、距離としては七百メールほどに見えました」
「そうですか……」
周りの冒険者達も外門の上のシェリスに注目している。クレアはこのサルバの者達、特に冒険者達にとってのヒーローに近い。シェリスも一目置き、ゲイルの妻である上にその人望は多くの人々を惹きつける。Bランクの冒険者であり、味方に付けば頼もい存在でもあった。
クレアが来ているということにざわめきが起きなかったのは、シェリスを信頼しているからだ。絶対に見捨てることはしない。だから冷静にクレアをどう敵から離し、こちらまで来させるのかというシェリスの対応策を待っているのだ。
シェリスは一度考え込むと、不意に下にいるルクスへ目を落とした。
外門の上と下ではかなり距離があるが、ルクスは確実に目が合ったと感じた。次の瞬間、シェリスは口開いた。
「マーナ、ルクス君を乗せてクレアの所へ」
「は、はいっ」
「はぁ?」
それを聞いてすぐにマーナは疑問に思うこともせずルクスがいる場所へグリフォンで突っ込む。
これには周りにいた冒険者達が慌てて反応し、場所を空ける。動けなかったのはルクスだけだ。あまりにも予想外すぎたのだ。まさかシェリスがルクスを呼ぶとは思わなかった。
「ルクスさん、乗ってくださいっ」
気迫のあるマーナの声は、逆らってはいけない者の気配を感じさせていた。これはクレアと同じだと思う。少々の懐かしさを感じながらマーナの後ろに飛び乗る。
それを確認してか、シェリスが次の指示を出した。
「クレアと魔獣の距離をなるべく広げなさい。その剣なら可能でしょう。それと、どうやらクレアは人を護衛しているようです。それを受け取り、前線まで一気に下がりなさい」
「分かった」
反論はしない。だが、すれ違いざまシェリスはいつもの調子で注意する。
「前に出たからといって、一人で食い止めようなどと思わないように。少しでも前線から飛び出せば消し炭にしますからそのつもりで」
「久し振りの実戦だからといって手元が狂ったら笑い者ですね」
「ふんっ、まぁ、期待していなさい」
相変わらず余裕を見せてくれる。悔しいが、有事の時は頼もしいものだ。
下を見ると距離を置いて一列に並ぶ冒険者や兵達がいた。不思議に思っていれば、マーナが説明してくれる。
「ルクスさんはお屋敷の方へ行っておられましたので、作戦の概要を手短に説明いたします」
「頼む」
こんな時でもマーナは優秀なギルド職員だ。誰がどこで何をしていたのか把握している。
「マスターはこのサルバより先へは行かせないおつもりです。ここで完全に食い止めます。防衛戦は三つ。最前線に主力の冒険者達を配置し数を減らします。その次はパーティメンバー。門の手前の後衛が兵達です」
最前線でランクの高い実力者達を配置。数を一気に叩き、その取りこぼしをパーティ戦の得意な者達が拾う。そして、更にこぼれたものを兵達。これを外壁で詰める魔術師達が援護する。
「前線の位置だけは維持するようにとの事です」
「分かった。前に出るなとも言っていたし、魔術で何かするんだろう。君も気を付けてくれ」
「はい……ですが、さすがに無理では? 魔術攻撃の飛距離は精々第二防衛戦まで届くかどうかです」
「あれは天才なんだろう?」
「……マスターが戦う所など見た事がありませんから……」
「まぁ、そうだろうな」
そこでクレアを視認した。
「居たぞ。間に入ってくれ。正面ではなく側面で頼む」
「はい。ですが、剣で?」
「これは特殊な上に、ティア直伝の技だ。上手くいけば先頭はやれる」
「わ、分かりました」
マーナは一気にクレアの頭上を通り過ぎ、魔獣の手前で向きを変える。その瞬間、ルクスは剣に魔術を纏わせ空間を裂くように斬撃を飛ばした。
《クルルっ》
「きゃぁっ」
「しっかり捕まれ」
魔獣を叩いた衝撃は風圧となってグリフォンへも向かってきた。風に煽られ、上昇するグリフォンに、マーナが落とされそうになる。咄嗟に手綱を手に取りマーナを支えた。
「すみません」
「いや、少し思い切りやり過ぎた」
「いいえ。これでかなりクレアさん達との距離が空きました。急ぎましょう」
「ああ。並走出来るか?」
「わかりません。馬が怯えるかも」
次はクレア達が守っているものを受け取ることだ。
クレア達を追うようにグリフォンを飛ばせながらルクスは精霊達を呼んだ。
「なら、精霊に頼む」
「え?」
ティアとは違うとはいえ、いつもティアと一緒にいることで精霊達はルクスに慣れている。普通はお願いなど聞いてもくれない気まぐれな者達なのだが、この辺りの精霊達は違った。
「頼みがある。あそこで馬に乗っている人たちに声を届けてくれ」
《いいよ~》
《とくべつ~》
《さ~びす~》
これで声が届く。
「お袋」
『っ、ルクスかい?』
声はちゃんと届いているようだ。少々振り返る様子も見えた。
「今抱えてる護衛対象をこちらに預けてくれ。それでは馬の速度が落ちる。なるべく魔獣との距離を取ってサルバで用意している前線まで駆けてくれ」
『分かった』
クレアは七歳頃の少年を抱えていた。それを守るようにパーティメンバーが駆けている。振り落とすわけにもいかない上、乱暴に走ることもできず、速度が出ないのだ。
「マーナ、近付けてくれ。精霊達、馬が怯えないように頼むぞ」
精霊達は動物達を落ち着けることでができるようで、以前、見事に馬を操ってみせたり、放した馬を連れてきてくれたりしているのを知っている。
《いいよ~》
《せいれいつかいがあらい~》
《ついかりょうきんはっせ~い》
色々言っているが、素直に馬の方へ行ったので大丈夫だ。
「では、行きます」
「ああ。俺が受け取る」
グリフォンに慎重に近付いてもらい、クレアから子どもを受け取った。
「頼むよ」
「受け取った。速度を上げてくれ」
冒険者達は既に通達が行っているのか、クレア達が通る場所を開けていた。
ルクスはマーナに子どもを抱えさせると、自分は降りる用意をする。
「マーナ、俺はここで食い止める」
「はい。お気を付けて」
風を纏わせ、躊躇なく飛び降りる。そこは最前線だ。マーナの夫であるボランが駆け寄ってきた。
「ルクス。この後、マスターが魔術を打つ。それが合図だ」
「わかりました」
この時、誰もがシェリスの魔術はただの合図のためだけの空に打ち上げられる光の玉か火の玉ぐらいに思っていた。だから、数人は向かってくる魔獣達の方ではなく、シェリスがいるであろうサルバの外壁の上を見上げていたのだ。
「敵が見えたぞ」
一直線に前線で並ぶ冒険者達へ突撃してくる。かなりの量の黒い魔獣達。作り出された陰のようなものであるため、足音も息遣いも聞こえない。妙な感じだった。
「構えろっ。マスターの合図を待てっ」
残り五百メールといった所で、突然その上空が明るくなった。
「なっ、なんだ!?」
誰もが動揺する。それは、一列に並んだ輝く大きな魔法陣。ルクスにはこれだけ複数の魔法陣を展開する光景をティアで見慣れていたが、他の者達は違う。
だいたい、魔術師達がいる場所からは、この場所に魔術を展開できない。しかし、ルクスには分かった。これはシェリスの魔術だ。
そして、凄いエネルギーを感じた。残り三百メール。
その時だ。魔法陣から同時に雷電が走り、先頭の魔獣達が一気に消え去った。
「ええっ!?」
「やってくれる……」
まさかそれがシェリスの合図だとは思えなかったらしく、冒険者達は固まっていた。
「ボランさん、これが合図ですっ。前線はこのまま、抜けてくるのを叩きます!」
「お、おうっ! 合図だっ! 取りこぼすなよっ!」
そうして、乱戦が始まった。
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舞台裏のお話。
魔術師A 「え……」
魔術師B 「お、恐ろしいっ。なんだアレっ」
魔術師C 「僕らの立場はっ!?」
魔術師A 「うちのマスターが固まってる……」
魔術師B 「いや、あれは輝いておられる」
魔術師D 「いけませんマスター。今は防衛戦ですっ。ジルバール様の所へ行かれるのは後でっ」
魔術師A 「あ~……」
魔術師B 「まぁ、あんなの見せられてはな……」
魔術師D 「拝むのも後ですっ」
魔術師C 「僕も拝んどこう」
兵A 「なんか、おかしなことになってるな」
兵B 「あんなの見せられたらな……」
ギルド職員「マスター。なんか拝まれています」
シェリス「目を合わせるんじゃありません」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
仕方ないですよね。
シェリスの本領発揮です。
次回、申し訳ありませんが、一度お休みです。
次は月曜4日0時です。
よろしくお願いします◎
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