女神なんてお断りですっ。

紫南

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606 神の天使

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2017. 7. 24

**********

ジェルバは、理解できない感情に混乱していた。

「なんだ……っ、なぜ私は……っ」

逃げている。そう自覚しながらも、足を止める事ができなかった。向かうのは地下の研究室だ。

その研究室には、二階から行く事が出来る。否、二階からしか行くことが出来ない。その特殊な部屋への入り口は、謁見の間の反対側にあった。扉は見つける事などできないはずだ。そう思って、ジェルバはそこに飛び込んだ。

「っ……うっ……っ、痛いっ、痛いっ」

頭が痛い。階段を一段ずつ下りながら、それに我慢ができなくて壁に寄りかかる。

「なぜだっ……なぜっ……っ」

本当は逃げたくない。

「ようやくっ……神が……っ」

ティアがあの場に現れた時に分かった。自分が何を望んでいたのかを。

死なない体を持て余した事など今までなかった。生き続ける事に意味があると思っていた。神具を集めようとするこの組織についたのは、その意味がいつか分かるだろうと思ったからだ。

神具の傍にいると胸が騒いだ。けれど嫌な感じではない。狂いかけていたものが落ち着くような、それでもここ数百年ほどはもう狂っているのかどうかも分からなくなっていた。

「私は……どうしたと……っ」

だが、ティアと出会うとはっきりと喜びが胸に広がるのを感じた。あれは神だ。神の力を宿しただけの神具ではない。

ティアは自分の体に傷を付けた。それが神である証拠だと思うと痛みさえ嬉しかった。狂っていく自分を止められない。止めたいとは思わない。全てを見せるのだ。狂ってしまった自分も、神であるティアに弓を引いた自分も、全部見せる事で、ようやく自分はティアの目に映る。

排除しなくてはならない存在なのだと神に思わせる事ができる。

「……はやく……はやく……私を……っ」

消してほしい。そう呟いた瞬間、ビクリと身を震わせる。何かが来る。忌まわしいそれが唐突に戻ってくるのを感じた。

「っ!?」

光の玉がジェルバ目掛けて飛んで来る。避ける事も出来ず、体に吸収される。それは魂の欠片。ティアの持っていた双剣に宿っていたものだった。

ジェルバは己の中に戻ってきたそれに目を見開く。ずっと忘れていた記憶と共に全てが蘇ってくる。

「っ~っっっ……!?」

声にならない叫びがジェルバの口から漏れる。そして、次の瞬間、光が溢れた。強いその光は城を呑み込むように広がる。

「っ……マティ……?」

呟いた言葉と同時に開いたジェルバの瞳は、金に染まっていた。見開かれたその瞳から涙が溢れる。そこでまた、とある人の名が口をついて出た。

「ルーフェ……っ」

光が消えると、ジェルバはゆったりとした足取りで階段を下りはじめる。その表情は憑き物が落ちたように穏やかだ。広げられた翼は変わらず黒く片翼だけ。それでも、光の鱗粉が階段を照らしていた。

「……そうか……思い出した……」

地下への階段の半ば。見えない空を思って上を見上げる。自分はもう見るべきではない。青い空を飛ぶ事さえ厭われる黒く染まった翼。赦されない罪の証だ。

「はやく……女神よ……はやく私を消してくれ……」

神が人の身に宿り、この地に生まれた。それは運命だと思った。神は本来、地上に手を出す事は出来ない。人族を生かす為に神具を与えた事は、神々を天上に縛り付ける罪となった。

だから、天使が存在する。言葉を届け、彷徨う魂を天上へと運ぶ。白い翼は光溢れる天上の象徴。金の髪と青い瞳は太陽の光と青い澄み切った空を人々に思わせる。上を向けと伝える為に。

そんな中で金の瞳を持ったジェルバは特別だった。地上の者達の為の天使ではなく、ジェルバは神の為の天使だったのだ。

多くの天使達が罪を償って地上に降り、消えていくのを見送る。それを見ていて思ったのだ。なぜ神は赦されないのか。誰に赦されないのだろうかと。

神具を人族に与えたのは、人族を救済する為だ。生まれた命を生かし、天寿を全うさせる為。もし神具を与えていなければ、間違いなく人族は滅んでいた。それが分かるから与えたのだ。

それなのに、なぜそれを罪として神々を天に縛り付けるのか。

ジェルバは、己の存在意義を示す為に地上に降りた。神具を破壊し、神々の罪を清算する。そうして、神具を見つける旅が始まった。

自分は神の天使だ。だから、神の力を宿した神具もすぐに見つかると思っていた。けれど、地上に降りて分かった。長く地上に留まり、あまつさえその力によって命を奪った神具は純粋な神の力を曲げられていた。だから、最初はジェルバも簡単に見つける事が出来ず、近付く事も出来なかったのだ。

こんなふうに神の力を愚かに使った人族を許せなくなった。苛立ちは怒りに変わっていく。それでも神が愛した者達なのだ。そう思って表面上は落ち着いていた。

長い時間をかけてジェルバは魔導具を使い、なんとか神具の一つ、神玉を手に入れた。しかし、壊す事は出来なかった。せめて他の神具が見つかり、壊す手段が見つかるまで誰の手にも触れさせないように封じる事にした。

二つ目の神具は一人の女性が持っていた。神器の使い手。ルーフェニア。彼女は赤い髪と瞳を持ったハイヒューマンだった。

**********

舞台裏のお話。


ユメル「あれ? ねぇ、カヤル。エル様とラキアって……」

カヤル「うん。ラキア、OKしたんだ?」

ユメル「微妙なラインだけど、そういう感じだよね?」

カヤル「ぽいね。良かった」

ユメル「だね。これでラキアがエル様をフってたらすっごい気まずいもんね」

カヤル「でも、ティア様も二人にはくっ付いてもらわないと困るって仰っていたし、どのみちどうにかなったかなとも思う」

ユメル「そこはね。僕も心配してなかった。ただ、エル様にはやっぱり、自分の力で勝ち取って欲しいじゃん」

カヤル「そこはあるね。ねぇ、それより、イルーシュ様に憑いてるキラキラの王子様は誰だろう」

ユメル「うん。すごいね。ベル様も霞むね。あっちにいるトゥーレに憑いてるのも、キラキラ感はないけど……感じからして王子っぽい」

カヤル「あ~、確かに」

アリシア「陰鬱な感じが、最初の頃のトゥーレと似ていますね」

ベティ「キラキラさんの方は、ベル様がもうあと数年したら追いつきます」

ユ・カ「「……二人とも、見えるの?」」

アリシア「バカにしていますか? メイドの嗜みですよ」

ベティ「ラキア様は苦手なようですけれど、そこがイイとも思いますわ」

アリシア「それありますっ。パーフェクトなラキア様にも可愛らしい所があるなんてっ。トキメキポイント高いわっ」

ベティ「そうそうっ」

ユ・カ「「……嗜み……?」」



つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎


見えるスキルも必要らしいです。


ジェルバが堕ちた理由とは。


次回、金曜28日0時です。
よろしくお願いします◎
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