女神なんてお断りですっ。

紫南

文字の大きさ
上 下
422 / 457
連載

598 目覚めた場所

しおりを挟む
2017. 6. 26

**********

レイナルートは、静かにその時を待っていた。

未だに眠ったままの二人の背に手を回し、その時のために離れないようにする。それは、レナードの警告があったからだ。

《この魔道具は、何度も使えないだろう。狭間の空間と繋がってしまうということは、とても不安定な状態なんだと思う。解除される時、その二人をここに取り残すのは危険だ》

長くここに囚われるのも良くないという。

「出られるでしょうか……」
《そこは心配ない。恐らく、君にやらせたい事があるのだろう。いや、もしかしたら、その弟かもしれない。とにかく、必ず解除される時は来る。その時に三人で出られるようにしっかりと固まっているんだ》

ここへ来て、敵の目的はイルーシュかもしれないと言う。その理由が知りたかった。

「なぜ、私は捕まったのでしょう。敵の目的をご存知ですか?」

その問いかけに、レナードはしばし考え込むような素ぶりを見せた。そして、慎重に言葉を絞り出したのだ。

《確実とは言えないが……神具の気配がある……そう考えると、君や君の弟にそれを使わせようとしているのかもしれない》
「神具……」

ティアが忌々しげにその話をしていた事を思い出す。だから、実際の脅威を知らないレイナルートにとって神具とは、ティアを苦しめる良くない物だという認識だ。

「王家に伝わっていたという神具ですね……それを使う……私かイルーシュが……」
《ああ。そのために連れてこられたという可能性が高い》
「壊せれば……」
《壊せないさ。あれは神の作った物。壊す事ができるとすれば、それは神だけだ》

レナードの顔が再び辛そうに歪められた。

「……剣で切る事もできないのですか」
《鏡の神具でさえ叩き割れなかった。魔術でも無理だ。それは……私が良く知っている……》

レナードの目には、恐怖心がチラついていた。それを見て、レイナルートも壊す事が本当に不可能なのだと理解する。

「ならば、私がやる事は一つですね」

心が決まった。

それから、どれほどの時間が経ったのだろう。レナードもいつの間にか消えてしまった。

恐らく、レイナルートが覚悟を決めるのを見て、気を利かせてくれたのだ。その証拠に、何かに引っ張られるような感覚を覚えた時、ふっとレナードがまた現れる。

「行きます」
《ああ。幸運を》

レイナルートは心から思った。『会えて良かった』と。自身の周りが眩ゆい光に満たされていく。その光に霞んでレナードの姿が見えなくなる。

しかし、完全に光で覆われた時、そのレナードの傍らに赤い髪の女性が見えたような気がした。

◆◆◆◆◆

「っ……」

レイナルートは頬に冷たさを感じて目をゆっくりと開けようとするができない。実際、感じているのは床の冷たさだ。しかし、それが分からなかった。

先ほどまでいた空間のせいで、上下感覚も狂っているようだ。自分の体が今どうなっているのか咄嗟に分からなかった。

混乱しているレイナルートの耳に入って来たのは、男の声。少々興奮しているような落ち着きのないものだった。

「ひひっ、成功……成功だ! 素晴らしい! どうだっ、私にかかればゲルヴァローズの遺石をここまで再現出来る!」

何を言っているのか、レイナルートには聞こえていても理解する事が出来なかった。それほど混乱していたのだ。

そして、また違う男の声が聞こえてくる。

「だが、弱っている……これではすぐに使えない。反撃があるかもしれないのだろう。即刻、結界を復旧させなくては」

その男の声は事務的で、最初に聞こえた狂ったような男とはまた違った異常さを感じた。確実に言える事は一つ。彼らは自分を人として認識していない。

そこで触れていた何かが動いた。イルーシュが目を覚ましたのだ。

「おやおや、お兄様よりもお早いお目覚めだ」
「ここは……レイにぃさまっ。おきて、ここは……っ」

良くない所だとイルーシュは続けて小さな声でレイナルートの耳元に囁いた。

「くひっ。中々、しっかりした子どもだ。先に弟の方で試したらどうだ?」

これはまずい。そう感じ、レイナルートは無理やり目を開けようと強く意識する。しかし、上手く体に力が入らない。

「う……ん……」

近くでヒュリアの声が聞こえた。

「お姉さんっ」

イルーシュが動いたようだ。風を感じた。感覚が戻ってきた。それでも、どうやって目を開けるのだったか分からない。

その間にも静かな方の男が忌々しげに言った。

「王女まで一緒とはな……」

その響きにヒヤリとして目が開いた。そうして見えた場所は、とても薄暗かった。

今までいた空間は、目が眩むほどの光の中にあるような場所だった。だから、特にレイナルートには暗く感じていたのだ。

月は中天を過ぎた頃。室内であるのはわかる。仄かな灯りが二つだけ。お陰で小さな部屋なのか大きな部屋なのかわからない。

「落ち着いておられるのか、状況を理解していないのかどちらかな?」

ふざけた口調で問いかけてくる人物。その人を見て呆然としてしまった。片方の瞳が、金に光っていたのだ。

**********

舞台裏のお話。

クロノス「急ぎましょう」

魔族「姫をお待ちにならないので?」

クィーグ「そうです。こちらに向かっておられると、先ほど連絡が」

クロノス「それならば尚の事。急がなくてはなりません」

魔族「いえ、ですから、もう少し待てば良いでしょう」

クィーグ「中の確認は我々がしましたから大丈夫ですよ?」

クロノス「……誤解されているようですね……ティア様はここを通られません」

魔・ク「「え?」」

クロノス「ここから侵入するのは、我々だけです。裏方用と言えば良いのでしょうか」

魔族「いやいや、侵入路を探していたのですよね? 安全に確実に敵の奥まで踏み入れる道を確保するというのが目的だったはずです」

クィーグ「ティア様の為の道……ではないと?」

クロノス「はい。違います。ティア様は間違いなく正面から入られますので」

魔・ク「「あ……そっか……」」


つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎


ティアちゃんなら間違いなく。


もう少し、王太子にお付き合いください。


次回、金曜30日0時です。
よろしくお願いします◎
しおりを挟む
感想 122

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

【完】お義母様そんなに嫁がお嫌いですか?でも安心してください、もう会う事はありませんから

咲貴
恋愛
見初められ伯爵夫人となった元子爵令嬢のアニカは、夫のフィリベルトの義母に嫌われており、嫌がらせを受ける日々。 そんな中、義父の誕生日を祝うため、とびきりのプレゼントを用意する。 しかし、義母と二人きりになった時、事件は起こった……。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。