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連載
588 諜報部隊の動き
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2017. 5. 22
**********
その頃、ウィストでは、青の血脈の動きを監視しているティアとカルツォーネの手の者達が、慌ただしく動き回っていた。
この国に入り込んだ彼らの司令部は、城が見える小さな民家に置かれた。そう、お互いの存在を認識し、同じ目的を持つと知ってから、クィーグと魔族の諜報部隊は躊躇いなく手を組んだのだ。
「国境を通過したぞ」
「やっと戻って来たか……見失うなよ」
「はっ!」
報告をしたのは、魔族の諜報部をまとめる男。見た目は平凡な中年の町人。このウィストに潜入してから数年。それでも人々の記憶に残ってはいないだろう。
それを聞いたのは、クィーグのナンバーツー。諜報部隊影鳥をまとめるセゴだ。現役としては最高齢。それでも、まだまだ若い者達には遅れを取らない。鋭く光る目を、控えていた部下に向け、指示を出す。
「しかし奴ら、本当にフリーデルの王宮に居たのか? 馬で往復するには、時間に矛盾が生じる」
魔族の男は、顎を撫でながら不思議そうに呟く。相手にしているのは人族だ。飛竜を使った形跡もない。神具を持っているとしても、この速さは納得できなかった。これにセゴが答える。
「ウチの者が言うには、黒い影のような獣に乗って、馬より遥かに速い速度で移動していたようだ」
「それは興味深いな……」
数年前、神具の力によって影のような獣が現れていたのは男も確認していた。しかし、彼が敬愛する王に、その原因となっていた神具は壊されたと聞いている。
それは疑う余地もない。もしも、今回のものが同類のものなのならば、ある可能性が男の頭をよぎった。それは、彼らが長年追いかけていた天才魔工師、ジェルバだ。
「報告。先ほど、王宮に降り立った黒い影を確認いたしました」
そう家に飛び込んで来て静かに報告したのは魔族の者だ。セゴは報告者ではなく、男に問いかける。
「こちらの報告にあった影のような獣の中に、飛ぶようなものは確認されておらん」
これを受け、男は部下に確認する。
「どんなものだった」
「それが……魔獣ではありません。黒い片翼の……人だったのです」
「人……だと?」
男は首を傾げる。すると、セゴが思案しながらゆっくりと口を開く。
「それは、天使か? 姫の傍に居る天使から、敵にも天使がいるかもしれないと聞いた」
「天使っ……この国に……いや、待て……先代が確か……」
確証が持てない様子のセゴ同様に、男もそういえばと呟く。
「……先代が過去に妙な報告があったと記憶していたのだ。確か……『その背に黒い片翼が見えた』と」
諜報部の者が上げた報告書だ。たわ言と捨てるような事はない。しかし、確証も持てず、たった一人の証言では、大量の報告の中に埋もれてしまう事はある。
「その報告は、もしや、お主らが長年追いかけておると言った人物のものか?」
「ああ。ジェルバ……魔工師としての腕は、間違いなく世界一だろう。しかし、奴は平気で人体実験もする。国を危険に晒す……危険な狂人者だ」
誰もが口を揃えて言う。『狂っている』と。ひたすら研究に没頭し、その為には、他人の命など一つの材料としか見る事はできない。それでも、作り上げる物は神具に迫ると、魔族の魔工師達は感じていた。
「いつから国に住み着いたのかも、どれだけ生きているのかも分からない。謎に包まれた人物だ。その上、何度殺されても生き返る……」
「……その時点で、間違いなく人ではないな……」
「確かに……」
強靭な肉体を持つ竜人族であっても死ぬのだから、それはもう生物の粋を超えている。
空を飛んで戻って来たのがジェルバだと確信を得た二人は、じきに主人達がやって来るだろうと察した。
それならば、いよいよ王宮への潜入を考えなくてはならない。
「あの組織とジェルバの繋がりは間違いない。押さえるならば今」
「ふむ……少し前から、王宮を囲んでいたおかしな術も解けておるしな。罠ではなく、どうやら術をかけられなくなったというのが、あちらの事情らしい」
「そうか。本当に良い目と耳をしている」
「いいや。それでも、奥までの情報はない。あそこに神具があるのは確実ではあるがな」
セゴの部隊は全員が精霊視力を持っている。これほど諜報部隊として相応しい才能はない。
ひと月ほど前まで、ウィストの王宮は神具の力の影響下にあった。敵の居場所は確実。それが分かるのに、精霊達だけでなくセゴ達も近付くことができなかった。
それが突然、解けたのだ。悟られ、アジトを移されたのかと思った。相手も精霊視力を警戒しているのか、中々事情を口にしない。けれど、神子と呼ばれる女の姿を確認できた。ライダロフという幹部の男も一度視認した。
ならば、アジトを移されたわけではない。確証を得られたのは、つい先ほどだ。
フリーデルの襲撃が実行された頃。王宮にいる組織の者達なのだろう。彼らが、慌てて動き出していた。そして、ようやく口にしたのだ。
『じきにまた出入りができなくなるぞ』
確かに、王宮に近付けなくなっている時、王宮への出入りはあり得ない程少なかった。時折、ほんの数時間、術が解ける時はあった。その時には出入りがあったが、必要最低限の動きだと感じた。
再び術がかけられる。その前に何とか今の状況を打開しなくてはならない。
二人は頭を悩ませていた。彼らの仕事はアジトを落とす事ではない。
唯一、魔族の方には、ジェルバを捕らえるという昔からの使命はあるが、諜報部隊として、それだけを優先する事はできない。これによって奴らをこの場から逃がすわけにはいかないからだ。
「アジトの特定は出来た。後、我らがすべきは、侵入路の確保。あの方が戻る前に……」
「姫もこの機を逃すとは思えん。今少し、術の発動を引き延ばせれば……」
奴らに動きがあった時、カルツォーネはこの場にいた。ティアが心配になり出て行ったのだ。今の状況は分かっている。
その時、家に二人の人物が同時に入って来た。
「侵入路を見つけました」
そう報告したのは、少し前からこちらに来ていたクロノスだ。
そして、もう一人。彼は王宮でティアの護衛に当たっていたはずだった。
「報告いたします」
シルは真っ直ぐにセゴを見てそう言ったのだ。
**********
舞台裏のお話。
ゼノスバート「……」
リジット「どうかされましたか?」
ゼノスバート「リジット……少し後悔している」
リジット「……」
ゼノスバート「なぜ私はっ……ユメルとカヤルのどちらかくらい残しておかなかったのかっ。絶対にあちらの方が楽しいだろうっ! 私まで出て行ったら、この屋敷の警備が薄くなる」
リジット「……もうお休みくださいゼノ様」
ゼノスバート「まだ早いっ。どうせ朝日が昇ったら目が覚めてしまうんだぞっ。睡眠時間が少ないなら、もっと遅くても構わんだろうっ」
リジット「落ち着いてください。血圧が上がります」
ゼノスバート「ケツ、ケツアツ?」
リジット「お体に悪いのです」
ゼノスバート「そ、そうか……体に悪いのは良くないな。ひ孫の顔は見たい」
リジット「そうですね。ティア様のお子様も見られるようになさったらどうです?」
ゼノスバート「いけるだろうか……」
リジット「早いうちに努力はしておきましょう」
ゼノスバート「そうだなっ。では寝る」
リジット「はい。お休みなさいませ……今夜は長くなりますね……お嬢様。こちらはお任せください」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
リジットは全部知ってます。
事態は動いています。
次回、金曜26日の0時です。
よろしくお願いします◎
**********
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「それは興味深いな……」
数年前、神具の力によって影のような獣が現れていたのは男も確認していた。しかし、彼が敬愛する王に、その原因となっていた神具は壊されたと聞いている。
それは疑う余地もない。もしも、今回のものが同類のものなのならば、ある可能性が男の頭をよぎった。それは、彼らが長年追いかけていた天才魔工師、ジェルバだ。
「報告。先ほど、王宮に降り立った黒い影を確認いたしました」
そう家に飛び込んで来て静かに報告したのは魔族の者だ。セゴは報告者ではなく、男に問いかける。
「こちらの報告にあった影のような獣の中に、飛ぶようなものは確認されておらん」
これを受け、男は部下に確認する。
「どんなものだった」
「それが……魔獣ではありません。黒い片翼の……人だったのです」
「人……だと?」
男は首を傾げる。すると、セゴが思案しながらゆっくりと口を開く。
「それは、天使か? 姫の傍に居る天使から、敵にも天使がいるかもしれないと聞いた」
「天使っ……この国に……いや、待て……先代が確か……」
確証が持てない様子のセゴ同様に、男もそういえばと呟く。
「……先代が過去に妙な報告があったと記憶していたのだ。確か……『その背に黒い片翼が見えた』と」
諜報部の者が上げた報告書だ。たわ言と捨てるような事はない。しかし、確証も持てず、たった一人の証言では、大量の報告の中に埋もれてしまう事はある。
「その報告は、もしや、お主らが長年追いかけておると言った人物のものか?」
「ああ。ジェルバ……魔工師としての腕は、間違いなく世界一だろう。しかし、奴は平気で人体実験もする。国を危険に晒す……危険な狂人者だ」
誰もが口を揃えて言う。『狂っている』と。ひたすら研究に没頭し、その為には、他人の命など一つの材料としか見る事はできない。それでも、作り上げる物は神具に迫ると、魔族の魔工師達は感じていた。
「いつから国に住み着いたのかも、どれだけ生きているのかも分からない。謎に包まれた人物だ。その上、何度殺されても生き返る……」
「……その時点で、間違いなく人ではないな……」
「確かに……」
強靭な肉体を持つ竜人族であっても死ぬのだから、それはもう生物の粋を超えている。
空を飛んで戻って来たのがジェルバだと確信を得た二人は、じきに主人達がやって来るだろうと察した。
それならば、いよいよ王宮への潜入を考えなくてはならない。
「あの組織とジェルバの繋がりは間違いない。押さえるならば今」
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「そうか。本当に良い目と耳をしている」
「いいや。それでも、奥までの情報はない。あそこに神具があるのは確実ではあるがな」
セゴの部隊は全員が精霊視力を持っている。これほど諜報部隊として相応しい才能はない。
ひと月ほど前まで、ウィストの王宮は神具の力の影響下にあった。敵の居場所は確実。それが分かるのに、精霊達だけでなくセゴ達も近付くことができなかった。
それが突然、解けたのだ。悟られ、アジトを移されたのかと思った。相手も精霊視力を警戒しているのか、中々事情を口にしない。けれど、神子と呼ばれる女の姿を確認できた。ライダロフという幹部の男も一度視認した。
ならば、アジトを移されたわけではない。確証を得られたのは、つい先ほどだ。
フリーデルの襲撃が実行された頃。王宮にいる組織の者達なのだろう。彼らが、慌てて動き出していた。そして、ようやく口にしたのだ。
『じきにまた出入りができなくなるぞ』
確かに、王宮に近付けなくなっている時、王宮への出入りはあり得ない程少なかった。時折、ほんの数時間、術が解ける時はあった。その時には出入りがあったが、必要最低限の動きだと感じた。
再び術がかけられる。その前に何とか今の状況を打開しなくてはならない。
二人は頭を悩ませていた。彼らの仕事はアジトを落とす事ではない。
唯一、魔族の方には、ジェルバを捕らえるという昔からの使命はあるが、諜報部隊として、それだけを優先する事はできない。これによって奴らをこの場から逃がすわけにはいかないからだ。
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リジット「……もうお休みくださいゼノ様」
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リジット「お体に悪いのです」
ゼノスバート「そ、そうか……体に悪いのは良くないな。ひ孫の顔は見たい」
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