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連載
582 過去編 22 弱い自分を知って
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2017. 4. 21
**********
ずっとずっと、転生してから考えないようにしている事があった。
それは傷付いた心を思い出すからだ。戦う力はあっても、自分にはあの時、何の力もなかった。
混迷する世界というものに、人の心というものに、とても無力で無知だった。だから、知らない事が前よりもっと恐ろしくなった。
必要以上に今ある力を利用し確認しようとしたのは、いざという時に使える力を把握するため。
年上の大切な友人達に許しを乞うたのは、離れてしまったあの頃の不安を、二度と感じたくないから。
誰がどれだけ女神だと言っても認めたくはない。だって、私はこんなにも無力だったのだから。
◆◆◆◆◆
サティアは城に向かって急いでいた。これから最後の仕上げ。もう半日でそれが開始される。これで兄もようやく動けるだろう。
ここひと月で急遽まとめた反乱軍は、王都の外で、その時を今か今かと待っている。
反乱軍と言っても、戦闘能力が高いわけではない。ただサティアは国民の心を、まとめるための旗印として組織しただけ。
騎士ではいけない。王と共に倒れ、民達の敵とされてしまったとしても、戦いを起こす側に立たせることはできなかった。
民を、国を守る彼らだけれど、その手で王を討たせる事だけはさせてはいけない。騎士は王の剣。民と国を守るものなのだから。
幸い、民達の心は上手くまとまった。反乱軍の者達は気骨ある若い青年達が中心だ。
大人になりきらない青年達は、気持ちさえ一つにできれば、大人達が眉をひそめる事でも前向きに考え、実行しようとする。それが例え、自国の王を討つという事でもだ。
これを利用した自分は、大罪人だと思う。ただし、最初から誰にも王を討たせるつもりはない。
それは騎士であっても、民であっても許してはいけない事だ。国を壊すという事を、たった一人に背負わせる気は毛頭ない。
だからサティアは走っていた。最後の仕上げは、自分がやるべきだ。誰にも話してはいない、その最後は自分がと思った。
サティアは今、姉のミスティが愛用していたメイド服を着ている。その上に黒いローブを羽織り、いつも外に出る時に変えている黒の髪色で城に向かっていた。
髪の色を変える魔術は、はっきり言って、魔術があまり使えないサティアにとってはかなり精神的にも負担のかかる術だ。それでも、特徴的な赤い髪を民達に見せるわけにはいかないと無理をしていた。
もうじきその術も自然に解けてしまうだろう。サティアはそれを感じて、フードを深く被った。術を解くためにも魔力を使うのだ。そんな余力などない。
このメイド服は、ミスティが嫁入り道具と書いて添えた袋の中から出てきた。
エライものを荷物に潜ませてくれたものだと、遠い目をしてしまったのがひと月と少し前。
バトラール王国を出て、セランディーオのいるラピスタの城に着いてからだった。
そして、ラピスタを出る時、これをミスティに突き返してやろうと思ったのだが、反乱軍を作り上げるのにとても役に立つものとなっていた。
城の関係者として、反乱軍に接触する時は、ずっとこれを着ていたのだ。だが、それももう終わり。
「最初は恥ずかしかったけど、慣れって恐ろしい……」
今ではすっかり着慣れたものになっていた。ただ、このままの服装では計画の最終段階に相応しくはない。
サティアは、城に入り込むと、騎士の寄宿舎へ向かった。
そこには、ここひと月、反乱軍の方にも、騎士や兵達の方にも被害が出ないようにと協力を要請した騎士達が集まっていた。
「サティア様っ」
「お待たせ。報告をお願い」
そう言いながら、サティアはその場で躊躇なくメイド服を脱ぎにかかった。部屋の隅には、簡素ながら王女用に作られたドレスが置かれていたのだ。
「サッ、サティア様っ、お、おいっ、後ろを向けっ」
「「「はいっ」」」
慌てて騎士達は着替え始めたサティアから目をそらす。この部屋に詰めているのは十数名の副団長以下の年齢も様々な騎士達だった。
「あ、ゴメン。子どもの頃とは違うんだったね……」
「ご自覚ください……嫁入り前……いえ、人妻となられても、そこは気をつけていただかないと」
「……初めて大人の扱いを受けたかも……」
「それは……申し訳ありませんでした……」
騎士達にとって、サティアは幼い頃から一緒に過ごしてきた子どもだ。サティアにとってはお兄さんであり、父親のようにも思える人達。
そんな思いが、騎士達にもあった。共に汗を流す女騎士達もいるのだ。女性として接するのは失礼な事という暗黙のルールもある。だから、サティアもここではそういう事に頓着しなかった。
しかし、やはりサティアは王女であり、その上、隣国の王に嫁いだ身だ。騎士達の見方も変わる。
「ううん。私が悪かった。もう着替え終わったよ。報告お願い」
そう言えば、騎士達は頬を少々赤らめながらサティアの方を向き、報告が始まる。
「っ、はい。ご指示いただきました場所に魔導具のセット、完了いたしました」「メイド達や、非戦闘員の退避は、間もなく完了との事。ただ……やはり、離宮の方へは近付く事ができませんでした……」
その異常は、サティアがバトラール王国を出た直後からだったと多くの者が言った。
唐突に王妃や王子、王女のいる離宮に結界が張られた。それによって、中にいるはずの王妃達の安否は不明。結界を張ったのはどうやら王妃達のようだ。
異変を知る少し前。離宮にいた全てのメイド達がレナードに言われて出てきたという。それから近付く事ができなくなっていたのだ。
レナードは、万が一の時のために保護という形で閉じこもってもらったのだと説明したらしい。
万が一を起こす可能性があるのは王だ。サティアを強引に嫁がせたのも、マティアスを思い出すきっかけとなり得るサティアを離すため。守るためなのだと言う。
今の王は何をするか分からないのだ。力が強いだけに、正気ではない今の状態は大変危険だった。
しかし、どうしてもサティアにはそれだけの理由だとは思えない。これはもう、直接会ってみなくては分からないだろう。
「そう……いいよ。そっちは予定通り、私が行く。レナード兄様は?」
「……三日前より、お姿を見た者はおりません……魔術師長様がご一緒だと魔術師達は申しておりますが……所在は依然不明です……」
「そう……」
レナードは、執務を放棄してはいないようだが、三日前から姿を消してしまったらしい。それ以前に、離宮に結界が張られてからは、レナードを守るという名目で、魔術師長がレナードの周りに結界を張り、必要以上に臣下の者も近付けなくなっていたという。
キルスロートが引退し、新たな魔術師長が着いてようやく二年。サティアはあまり会う事もなかった。五十代と、魔術師長にしてはまだ若いが、実力や経験、人物的にも申し分ない人だと言われているので、おかしな事にはならないだろう。
国王との意思の疎通は既に不可能。一方、レナードとの連携に問題はないと聞いていた。だから魔術師長の行動は、全てレナードの意思。
こちらとしては、今回の件で直接レナードと話し合えなかった。だから少し焦ったのだ。国に戻って久し振りに城の外の景色を見た。
あの頃と変わってしまった世界が嫌で、無意識に年上の友人達の姿を探してしまう、弱くなった自分を知るのが嫌で、サティアはここ数年、城下の様子を見ることがなかった。それを後悔した。サティアは感じたのだ。事は一刻を争うのだと。
民達の心が完全に離れ、国が自壊するのは目に見えていた。悠長な事をしていれば、他国に攻められる隙ができる。
それだけは何としてでも回避しなくてはならない。セランディーオに支援を頼んではきたが、頼り過ぎている感は否めない。
結婚を蹴っておいて、絆だけ貰おうなどと図々しいにもほどがある。情報によればこの数年、レナードは最低限の国政を保つのに精一杯だった。
ラピスタへ嫁げと言うタイミングも、レナードらしくない。
恐らく、レナードは何か焦っていた。昔から、少し抜けている所はあるが、国の守りを疎かにするような人ではない。
頭の回転が速く、何よりも民の事を大切に思っていた人だから、何か余裕を無くすような事態がレナードの前にあったのだろう。王家の中で、誰よりも強く優しい兄が、民達の不安に気付かないわけがない。
きっと気付いている。レナードは待っていたのだ。不満が高まり、民達が立ち上がるのを。王を退ける覚悟を決める為に。
王家に立ち向かう強さを、民達の中に見出す為に。
この国は、王家だけではなく、民達も力ある国なのだと隣国に知らしめるつもりなのだ。
だから、サティアはそれを民達の側からサポートした。レナードはこれには気付いていないのかもしれないと思った。民達の感じている不安は、予想より遥かに大きい。
それは、豊かで長く安寧が約束されていた国で生きていたからだろう。王家に絶対的な信頼があった。他国から侵略される不安など感じた事がなかった民達。誰かに縋ろうとするしか、その不安の取り除き方を知らない。
バラバラになる。一つになるなどあり得ない状態だったのだ。だからサティアは焦った。初めて怖いと思った。人の心は予想できない。思い通りになんていかない。間違ったものに縋ったなら、きっと王のようになる。
「……色々、ありがとう。みんなも残りの作業を済ませたら脱出を。それとごめんね。あなた達には辛い役割をさせてしまった……」
民達の敵にならなくてはならなかった。彼らが守りたいと思う民達に、敵として憎まれなくてはならなかった。それは、どれほど辛い事だろう。
それを強いた自分は、本当になんて勝手な王女だ。そして、こんな方法しか取れなかった自分は、なんて無力なのだろう。
**********
舞台裏のお話。
キルスロート「……やはり城に行きましょうか……」
弟子A 「え、ダメですよ、先生。町の人達も殺気立っていますし、危ないです」
キルスロート「ですが……サティア様は無理をしていないでしょうか……」
弟子B 「そういえば先生。正式発表がまだらしいのですが、サティア姫が嫁がれたそうですね」
キルスロート「ええっ!?」
弟子A 「うわっ、せ、先生。飛び上がってはお体に負担が……」
キルスロート「そ、そんなっ……ヒメ……姫がと、嫁がれた?」
弟子B 「はい。お隣のラピスタ王に。王都に行くより、ラピスタの方がここからなら近いですね~」
キルスロート「……王に……いえいえ、確か、あの方には既に何人かの妃とお子が……」
弟子B 「そうですね。妃といっても、全員側室だそうで、正妃としてサティア様を望まれたとか。私の友人がラピスタの王宮に仕えていまして、かなり前からラブコールを……先生?」
キルスロート「ひ、姫が嫁がれた……」
弟子A 「せ、先生っ? だ、大丈夫ですかっ?」
キルスロート「……この国は……あちらの国は……大丈夫なのでしょうか……」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
色々、心配な所はありますかね。
もう少し続きます。
次回、月曜24日の0時です。
よろしくお願いします◎
**********
ずっとずっと、転生してから考えないようにしている事があった。
それは傷付いた心を思い出すからだ。戦う力はあっても、自分にはあの時、何の力もなかった。
混迷する世界というものに、人の心というものに、とても無力で無知だった。だから、知らない事が前よりもっと恐ろしくなった。
必要以上に今ある力を利用し確認しようとしたのは、いざという時に使える力を把握するため。
年上の大切な友人達に許しを乞うたのは、離れてしまったあの頃の不安を、二度と感じたくないから。
誰がどれだけ女神だと言っても認めたくはない。だって、私はこんなにも無力だったのだから。
◆◆◆◆◆
サティアは城に向かって急いでいた。これから最後の仕上げ。もう半日でそれが開始される。これで兄もようやく動けるだろう。
ここひと月で急遽まとめた反乱軍は、王都の外で、その時を今か今かと待っている。
反乱軍と言っても、戦闘能力が高いわけではない。ただサティアは国民の心を、まとめるための旗印として組織しただけ。
騎士ではいけない。王と共に倒れ、民達の敵とされてしまったとしても、戦いを起こす側に立たせることはできなかった。
民を、国を守る彼らだけれど、その手で王を討たせる事だけはさせてはいけない。騎士は王の剣。民と国を守るものなのだから。
幸い、民達の心は上手くまとまった。反乱軍の者達は気骨ある若い青年達が中心だ。
大人になりきらない青年達は、気持ちさえ一つにできれば、大人達が眉をひそめる事でも前向きに考え、実行しようとする。それが例え、自国の王を討つという事でもだ。
これを利用した自分は、大罪人だと思う。ただし、最初から誰にも王を討たせるつもりはない。
それは騎士であっても、民であっても許してはいけない事だ。国を壊すという事を、たった一人に背負わせる気は毛頭ない。
だからサティアは走っていた。最後の仕上げは、自分がやるべきだ。誰にも話してはいない、その最後は自分がと思った。
サティアは今、姉のミスティが愛用していたメイド服を着ている。その上に黒いローブを羽織り、いつも外に出る時に変えている黒の髪色で城に向かっていた。
髪の色を変える魔術は、はっきり言って、魔術があまり使えないサティアにとってはかなり精神的にも負担のかかる術だ。それでも、特徴的な赤い髪を民達に見せるわけにはいかないと無理をしていた。
もうじきその術も自然に解けてしまうだろう。サティアはそれを感じて、フードを深く被った。術を解くためにも魔力を使うのだ。そんな余力などない。
このメイド服は、ミスティが嫁入り道具と書いて添えた袋の中から出てきた。
エライものを荷物に潜ませてくれたものだと、遠い目をしてしまったのがひと月と少し前。
バトラール王国を出て、セランディーオのいるラピスタの城に着いてからだった。
そして、ラピスタを出る時、これをミスティに突き返してやろうと思ったのだが、反乱軍を作り上げるのにとても役に立つものとなっていた。
城の関係者として、反乱軍に接触する時は、ずっとこれを着ていたのだ。だが、それももう終わり。
「最初は恥ずかしかったけど、慣れって恐ろしい……」
今ではすっかり着慣れたものになっていた。ただ、このままの服装では計画の最終段階に相応しくはない。
サティアは、城に入り込むと、騎士の寄宿舎へ向かった。
そこには、ここひと月、反乱軍の方にも、騎士や兵達の方にも被害が出ないようにと協力を要請した騎士達が集まっていた。
「サティア様っ」
「お待たせ。報告をお願い」
そう言いながら、サティアはその場で躊躇なくメイド服を脱ぎにかかった。部屋の隅には、簡素ながら王女用に作られたドレスが置かれていたのだ。
「サッ、サティア様っ、お、おいっ、後ろを向けっ」
「「「はいっ」」」
慌てて騎士達は着替え始めたサティアから目をそらす。この部屋に詰めているのは十数名の副団長以下の年齢も様々な騎士達だった。
「あ、ゴメン。子どもの頃とは違うんだったね……」
「ご自覚ください……嫁入り前……いえ、人妻となられても、そこは気をつけていただかないと」
「……初めて大人の扱いを受けたかも……」
「それは……申し訳ありませんでした……」
騎士達にとって、サティアは幼い頃から一緒に過ごしてきた子どもだ。サティアにとってはお兄さんであり、父親のようにも思える人達。
そんな思いが、騎士達にもあった。共に汗を流す女騎士達もいるのだ。女性として接するのは失礼な事という暗黙のルールもある。だから、サティアもここではそういう事に頓着しなかった。
しかし、やはりサティアは王女であり、その上、隣国の王に嫁いだ身だ。騎士達の見方も変わる。
「ううん。私が悪かった。もう着替え終わったよ。報告お願い」
そう言えば、騎士達は頬を少々赤らめながらサティアの方を向き、報告が始まる。
「っ、はい。ご指示いただきました場所に魔導具のセット、完了いたしました」「メイド達や、非戦闘員の退避は、間もなく完了との事。ただ……やはり、離宮の方へは近付く事ができませんでした……」
その異常は、サティアがバトラール王国を出た直後からだったと多くの者が言った。
唐突に王妃や王子、王女のいる離宮に結界が張られた。それによって、中にいるはずの王妃達の安否は不明。結界を張ったのはどうやら王妃達のようだ。
異変を知る少し前。離宮にいた全てのメイド達がレナードに言われて出てきたという。それから近付く事ができなくなっていたのだ。
レナードは、万が一の時のために保護という形で閉じこもってもらったのだと説明したらしい。
万が一を起こす可能性があるのは王だ。サティアを強引に嫁がせたのも、マティアスを思い出すきっかけとなり得るサティアを離すため。守るためなのだと言う。
今の王は何をするか分からないのだ。力が強いだけに、正気ではない今の状態は大変危険だった。
しかし、どうしてもサティアにはそれだけの理由だとは思えない。これはもう、直接会ってみなくては分からないだろう。
「そう……いいよ。そっちは予定通り、私が行く。レナード兄様は?」
「……三日前より、お姿を見た者はおりません……魔術師長様がご一緒だと魔術師達は申しておりますが……所在は依然不明です……」
「そう……」
レナードは、執務を放棄してはいないようだが、三日前から姿を消してしまったらしい。それ以前に、離宮に結界が張られてからは、レナードを守るという名目で、魔術師長がレナードの周りに結界を張り、必要以上に臣下の者も近付けなくなっていたという。
キルスロートが引退し、新たな魔術師長が着いてようやく二年。サティアはあまり会う事もなかった。五十代と、魔術師長にしてはまだ若いが、実力や経験、人物的にも申し分ない人だと言われているので、おかしな事にはならないだろう。
国王との意思の疎通は既に不可能。一方、レナードとの連携に問題はないと聞いていた。だから魔術師長の行動は、全てレナードの意思。
こちらとしては、今回の件で直接レナードと話し合えなかった。だから少し焦ったのだ。国に戻って久し振りに城の外の景色を見た。
あの頃と変わってしまった世界が嫌で、無意識に年上の友人達の姿を探してしまう、弱くなった自分を知るのが嫌で、サティアはここ数年、城下の様子を見ることがなかった。それを後悔した。サティアは感じたのだ。事は一刻を争うのだと。
民達の心が完全に離れ、国が自壊するのは目に見えていた。悠長な事をしていれば、他国に攻められる隙ができる。
それだけは何としてでも回避しなくてはならない。セランディーオに支援を頼んではきたが、頼り過ぎている感は否めない。
結婚を蹴っておいて、絆だけ貰おうなどと図々しいにもほどがある。情報によればこの数年、レナードは最低限の国政を保つのに精一杯だった。
ラピスタへ嫁げと言うタイミングも、レナードらしくない。
恐らく、レナードは何か焦っていた。昔から、少し抜けている所はあるが、国の守りを疎かにするような人ではない。
頭の回転が速く、何よりも民の事を大切に思っていた人だから、何か余裕を無くすような事態がレナードの前にあったのだろう。王家の中で、誰よりも強く優しい兄が、民達の不安に気付かないわけがない。
きっと気付いている。レナードは待っていたのだ。不満が高まり、民達が立ち上がるのを。王を退ける覚悟を決める為に。
王家に立ち向かう強さを、民達の中に見出す為に。
この国は、王家だけではなく、民達も力ある国なのだと隣国に知らしめるつもりなのだ。
だから、サティアはそれを民達の側からサポートした。レナードはこれには気付いていないのかもしれないと思った。民達の感じている不安は、予想より遥かに大きい。
それは、豊かで長く安寧が約束されていた国で生きていたからだろう。王家に絶対的な信頼があった。他国から侵略される不安など感じた事がなかった民達。誰かに縋ろうとするしか、その不安の取り除き方を知らない。
バラバラになる。一つになるなどあり得ない状態だったのだ。だからサティアは焦った。初めて怖いと思った。人の心は予想できない。思い通りになんていかない。間違ったものに縋ったなら、きっと王のようになる。
「……色々、ありがとう。みんなも残りの作業を済ませたら脱出を。それとごめんね。あなた達には辛い役割をさせてしまった……」
民達の敵にならなくてはならなかった。彼らが守りたいと思う民達に、敵として憎まれなくてはならなかった。それは、どれほど辛い事だろう。
それを強いた自分は、本当になんて勝手な王女だ。そして、こんな方法しか取れなかった自分は、なんて無力なのだろう。
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舞台裏のお話。
キルスロート「……やはり城に行きましょうか……」
弟子A 「え、ダメですよ、先生。町の人達も殺気立っていますし、危ないです」
キルスロート「ですが……サティア様は無理をしていないでしょうか……」
弟子B 「そういえば先生。正式発表がまだらしいのですが、サティア姫が嫁がれたそうですね」
キルスロート「ええっ!?」
弟子A 「うわっ、せ、先生。飛び上がってはお体に負担が……」
キルスロート「そ、そんなっ……ヒメ……姫がと、嫁がれた?」
弟子B 「はい。お隣のラピスタ王に。王都に行くより、ラピスタの方がここからなら近いですね~」
キルスロート「……王に……いえいえ、確か、あの方には既に何人かの妃とお子が……」
弟子B 「そうですね。妃といっても、全員側室だそうで、正妃としてサティア様を望まれたとか。私の友人がラピスタの王宮に仕えていまして、かなり前からラブコールを……先生?」
キルスロート「ひ、姫が嫁がれた……」
弟子A 「せ、先生っ? だ、大丈夫ですかっ?」
キルスロート「……この国は……あちらの国は……大丈夫なのでしょうか……」
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