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580 テンション上がりました?
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2017. 4. 14
**********
マティアスから受け取ったふた振りの剣とそれを着ける装備品を抱える。ハクラとビスラの二本が、ティアが扱うのに適度な重さを伝えてくる。これが剣に認められる事かと理解した。
《さてと、そろそろ……っ》
マティアスはそう口にしたが、不意に何かに気付き、弾かれたように扉の方へ視線を向ける。その表情は、子どものような笑みを見せていた。
「……母様?」
そんな顔を見た事がなくて、ティアはドキリとした。飾らない純粋な好奇心がそこにあったからだ。そして、扉が開くと、元気な子どもの声が響いた。
《主~っ!》
《キュ~っ》
「え、マティ、フラム……」
一気に部屋の空気が変わる。マティアスに支配されていた静かな空気が、キラキラと光る子どもの元気な空気に変わったのだ。
《マティねっ、マティねっ、お城に入ろうとしてた黒い人達をいっぱい倒したよっ》
《キュッキュッキュ~っ》
「え~っと……エライ、エライ……そっか、もうこんな時間だからかな……」
ティアはハイテンションな子ども達を見て、もしかしてと思い、時間を確認した。
時刻は深夜を間近に控えていたのだ。こんな時間まで起きていられるのは、昼寝をたっぷりした時なのだが、それはしていなかったはず。これはもう、おかしなスイッチが入っている。
マティの後ろについてきたビアンとチェスカも、少し落ち着けと心配そうな顔だ。半分は王のいる部屋だからというのもある。
《あれ? 主が二人いる……?》
《キュ?》
《透けてるから……魔術かなんか? マティもやりたいっ、それって、ブンシ~ィンの術でしょっ。マティ知ってるんだからっ》
「……ブン……分身の事か……いや、ないから」
どうやら、マティにはマティアスがティアの成長した姿に見えているのだろう。確かに、少し演技すれば近い雰囲気も出せるかもしれない。
嬉しくもあり、サティアであった頃よりも今の方が、憧れの母に似ているとなると、少々微妙な気持ちでもあった。
《違うの?》
マティは今、小さな子犬サイズだ。ただし、ディストレアであるという独特の毛色は変えていなかった。
お座りの体勢のまま、小さな頭をコテンと倒すその様は愛らしい。
《っ……良いなっ、激カワだなっ》
「……母様……?」
抱っこしたいと言わんばかりの煌き具合。だが、自分は実体を持たないのだと思って一度落ち込む。それからやはり可愛いと目を輝かせる。
マティアスは先ほどからそれを繰り返していた。
《うむ。まぁ、時効だな。ティア》
「あ、はい……」
マティアスは真面目な顔で真っ直ぐにティアを見つめて、これから重大な事を口にするというように重々しく口をひらいた。
《実は……サティと結婚して唯一失敗したと思った事があるんだ……》
「へっ」
「うん?」
素っ頓狂な声を一つ上げたのは、カランタだ。息を止めてしまったかのように固まっている。彼は未だ座り込んだままだ。
そして、マティアスが言った。
《私は動物が好きだ。だからいつかディストレアかビューリスと一緒に住みたいと思っていたんだが、王宮で魔獣はダメだったからなぁ。うん。だが、あの大きさならいけたな》
ビューリスとは、竜人族の里の近くに棲息する美しい金色の豹だ。勿論、大変危険でSランクに分類される魔獣だ。先ず人と共生は不可能だろう。
だが、それでもマティアスならば手懐けられたかもしれない。そう、だからカランタもティアも衝撃を受けたのは、一緒に住もうと考えていた事ではなく、そんな素振りは見た事がなかったという事だ。
「……マ、マティ……ウソ……そんな事一言もっ……」
《言わなかったなぁ。いやぁ、これだけは心残りだ》
「うっ……い、言ってくれれば、何匹でもっ」
「《バカ言ってんな》」
「っ……」
現実的に無理だろうとマティアスとティアに同時に言われ、カランタは声を詰まらせる。
一緒に住みたかったと言っていても、マティアスはそれが人の国の、ましてや王宮でなど無理だと分かっている。だからただの願望でしかない。
それを叶えようと考えたカランタには呆れてしまう。
「そ、そんな二人で……っ、も、もう一回、お願いします!」
《何をだ?》
「……」
マティアスは意味が分からなかったらしい。一方、ティアはドン引き中だった。シェリスが暴走した時と同じ気配を感じたからだ。反射的に二歩離れた。
「ああっ、ティア、そんな目で見ないでっ、冗談だからっ!」
「……信用できない……」
「ええっ!?」
そんな話をしている間に、また新たに部屋へ入って来た者がいた。
「うおっ、ティアっ……じゃねぇな……なんかキラキラな姉さんがいる……」
ザランとユメル、カヤル。そして、ローズを連行してきたアリシアとベティ。それと遅ればせながら合流したらしいファルが恐る恐る部屋に入ったのだ。
「……マティ……」
《あ、ファルパパっ》
《おう、ファル、久しぶり》
《うん?》
《お、そうか》
マティが不思議そうにその中間で、マティアスとファルを見比べる。その様子がまた可愛らしくて、マティアスは嬉しそうに言った。
《私もマティなんだ。マティアス・ディストレア。どうだ? お揃いだろう?》
《うわぁっ。お揃い、お揃いっ》
《あははっ》
「……母様……落ち着いて……」
子どもの様にはしゃぐマティアスとマティ。大人なんだから、マティアスにはもう少し落ち着いて欲しいと思う。
「へぇ。赤髪の冒険者と同じかぁ。いいな」
ザランはやはりおバカだった。
「サラちゃん……本物だよ。実体じゃないけど、正真正銘の赤髪の冒険者だから」
「……え……ホンモノ……?」
《おう。よろしくな。まぁ、また会えるかは分からんが》
「……スゲェっ!! スゲェっ」
《あっはっはっ、テンション上がるかっ》
「上がる、上がるっ」
「……お~い。母様。そろそろ、帰るつもりだったんじゃないの~」
時間から考えても、じきに攫われたレイナルート達の方に変化があるのではないだろうか。
それを感じて、マティアスも帰ろうとしていたように思ったのだが、マティの登場でうやむやになりかけている。
《んん? そうだった。あ~、あと言いたい事は……うむ。サティ》
「う、うん」
ようやく自分に何かあるのかと、カランタは期待の込もった瞳を向けた。
それを見つめてマティアスは言った。
《ティアに伝言も頼んだがな。待っててやるから、納得するまでティアの傍にいろ。心残りなんて作るなよ?》
「で、でも……そんなに待っては……」
いつまで待ってくれるだろうか。それは不安だ。しかし、マティアスは笑みを浮かべる。
《ハイヒューマン、なめんなよ。神から特別扱いされるからな。待つと言ったら、いつまでも待たせてくれるらしい》
「……うん……」
ちゃんと待っててやるから、もう後悔するなとマティアスは言う。それにカランタは深く頷いた。
《さて、そろそろ本当に時間だ》
「母様っ……」
急速に、マティアスの体が光に溶けていく。もうお別れなのだ。
しかし、一つ言い忘れたとマティアスが再び顔を上げた。
《あ、因みにティア、レナードが落ち込み過ぎてまだ転生出来ずにいるから、落ち着いたらひと言、言いに来い》
「え……はぁっ!?」
なんだ、それは、決して去り際に『言い忘れてた』的な感じに言っていいものではない。
「ちょっ、母様っ、それどういうっ」
《またな》
ティアはマティアスが消え、光の鱗粉が舞う場所をポカンと口を開けたまま見つめるしかなかった。
**********
舞台裏のお話。
ザラン「スゲェよっ。伝説の存在だぜっ」
ラキア「私は、ザランさんがあの方の名前を知っていた事の方が驚きです」
ザラン「ああ、だってゲイルさんに聞いたから」
ゲイル「おう。マスターに聞いて知ってたからな。そういやぁ、教えてたか」
ラキア「それにしても、残念な頭のザランさんが……」
ザラン「なんだとっ、俺はゲイルさんに聞いた事は忘れねぇよっ」
ラキア「……そうなのですか……?」
ゲイル「んん? そうだな。結構、それでマスターから伝言受けたり昔はしてたな」
シェリス「子どもの頃から、おかしな頭でしたね」
ザラン「ちょっ、マスター……」
ゲイル「マスターはさすがだな。よく見てる」
ザラン「そ、そっか……マスター……」
シェリス「二度、三度と説明するのは手間ですから」
ザラン「……」
ゲイル「なるほど」
ラキア「納得です」
ザラン「……」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
心の内は分かりませんけどね。
楽しい母様です。
次回、月曜17日の0時です。
よろしくお願いします◎
**********
マティアスから受け取ったふた振りの剣とそれを着ける装備品を抱える。ハクラとビスラの二本が、ティアが扱うのに適度な重さを伝えてくる。これが剣に認められる事かと理解した。
《さてと、そろそろ……っ》
マティアスはそう口にしたが、不意に何かに気付き、弾かれたように扉の方へ視線を向ける。その表情は、子どものような笑みを見せていた。
「……母様?」
そんな顔を見た事がなくて、ティアはドキリとした。飾らない純粋な好奇心がそこにあったからだ。そして、扉が開くと、元気な子どもの声が響いた。
《主~っ!》
《キュ~っ》
「え、マティ、フラム……」
一気に部屋の空気が変わる。マティアスに支配されていた静かな空気が、キラキラと光る子どもの元気な空気に変わったのだ。
《マティねっ、マティねっ、お城に入ろうとしてた黒い人達をいっぱい倒したよっ》
《キュッキュッキュ~っ》
「え~っと……エライ、エライ……そっか、もうこんな時間だからかな……」
ティアはハイテンションな子ども達を見て、もしかしてと思い、時間を確認した。
時刻は深夜を間近に控えていたのだ。こんな時間まで起きていられるのは、昼寝をたっぷりした時なのだが、それはしていなかったはず。これはもう、おかしなスイッチが入っている。
マティの後ろについてきたビアンとチェスカも、少し落ち着けと心配そうな顔だ。半分は王のいる部屋だからというのもある。
《あれ? 主が二人いる……?》
《キュ?》
《透けてるから……魔術かなんか? マティもやりたいっ、それって、ブンシ~ィンの術でしょっ。マティ知ってるんだからっ》
「……ブン……分身の事か……いや、ないから」
どうやら、マティにはマティアスがティアの成長した姿に見えているのだろう。確かに、少し演技すれば近い雰囲気も出せるかもしれない。
嬉しくもあり、サティアであった頃よりも今の方が、憧れの母に似ているとなると、少々微妙な気持ちでもあった。
《違うの?》
マティは今、小さな子犬サイズだ。ただし、ディストレアであるという独特の毛色は変えていなかった。
お座りの体勢のまま、小さな頭をコテンと倒すその様は愛らしい。
《っ……良いなっ、激カワだなっ》
「……母様……?」
抱っこしたいと言わんばかりの煌き具合。だが、自分は実体を持たないのだと思って一度落ち込む。それからやはり可愛いと目を輝かせる。
マティアスは先ほどからそれを繰り返していた。
《うむ。まぁ、時効だな。ティア》
「あ、はい……」
マティアスは真面目な顔で真っ直ぐにティアを見つめて、これから重大な事を口にするというように重々しく口をひらいた。
《実は……サティと結婚して唯一失敗したと思った事があるんだ……》
「へっ」
「うん?」
素っ頓狂な声を一つ上げたのは、カランタだ。息を止めてしまったかのように固まっている。彼は未だ座り込んだままだ。
そして、マティアスが言った。
《私は動物が好きだ。だからいつかディストレアかビューリスと一緒に住みたいと思っていたんだが、王宮で魔獣はダメだったからなぁ。うん。だが、あの大きさならいけたな》
ビューリスとは、竜人族の里の近くに棲息する美しい金色の豹だ。勿論、大変危険でSランクに分類される魔獣だ。先ず人と共生は不可能だろう。
だが、それでもマティアスならば手懐けられたかもしれない。そう、だからカランタもティアも衝撃を受けたのは、一緒に住もうと考えていた事ではなく、そんな素振りは見た事がなかったという事だ。
「……マ、マティ……ウソ……そんな事一言もっ……」
《言わなかったなぁ。いやぁ、これだけは心残りだ》
「うっ……い、言ってくれれば、何匹でもっ」
「《バカ言ってんな》」
「っ……」
現実的に無理だろうとマティアスとティアに同時に言われ、カランタは声を詰まらせる。
一緒に住みたかったと言っていても、マティアスはそれが人の国の、ましてや王宮でなど無理だと分かっている。だからただの願望でしかない。
それを叶えようと考えたカランタには呆れてしまう。
「そ、そんな二人で……っ、も、もう一回、お願いします!」
《何をだ?》
「……」
マティアスは意味が分からなかったらしい。一方、ティアはドン引き中だった。シェリスが暴走した時と同じ気配を感じたからだ。反射的に二歩離れた。
「ああっ、ティア、そんな目で見ないでっ、冗談だからっ!」
「……信用できない……」
「ええっ!?」
そんな話をしている間に、また新たに部屋へ入って来た者がいた。
「うおっ、ティアっ……じゃねぇな……なんかキラキラな姉さんがいる……」
ザランとユメル、カヤル。そして、ローズを連行してきたアリシアとベティ。それと遅ればせながら合流したらしいファルが恐る恐る部屋に入ったのだ。
「……マティ……」
《あ、ファルパパっ》
《おう、ファル、久しぶり》
《うん?》
《お、そうか》
マティが不思議そうにその中間で、マティアスとファルを見比べる。その様子がまた可愛らしくて、マティアスは嬉しそうに言った。
《私もマティなんだ。マティアス・ディストレア。どうだ? お揃いだろう?》
《うわぁっ。お揃い、お揃いっ》
《あははっ》
「……母様……落ち着いて……」
子どもの様にはしゃぐマティアスとマティ。大人なんだから、マティアスにはもう少し落ち着いて欲しいと思う。
「へぇ。赤髪の冒険者と同じかぁ。いいな」
ザランはやはりおバカだった。
「サラちゃん……本物だよ。実体じゃないけど、正真正銘の赤髪の冒険者だから」
「……え……ホンモノ……?」
《おう。よろしくな。まぁ、また会えるかは分からんが》
「……スゲェっ!! スゲェっ」
《あっはっはっ、テンション上がるかっ》
「上がる、上がるっ」
「……お~い。母様。そろそろ、帰るつもりだったんじゃないの~」
時間から考えても、じきに攫われたレイナルート達の方に変化があるのではないだろうか。
それを感じて、マティアスも帰ろうとしていたように思ったのだが、マティの登場でうやむやになりかけている。
《んん? そうだった。あ~、あと言いたい事は……うむ。サティ》
「う、うん」
ようやく自分に何かあるのかと、カランタは期待の込もった瞳を向けた。
それを見つめてマティアスは言った。
《ティアに伝言も頼んだがな。待っててやるから、納得するまでティアの傍にいろ。心残りなんて作るなよ?》
「で、でも……そんなに待っては……」
いつまで待ってくれるだろうか。それは不安だ。しかし、マティアスは笑みを浮かべる。
《ハイヒューマン、なめんなよ。神から特別扱いされるからな。待つと言ったら、いつまでも待たせてくれるらしい》
「……うん……」
ちゃんと待っててやるから、もう後悔するなとマティアスは言う。それにカランタは深く頷いた。
《さて、そろそろ本当に時間だ》
「母様っ……」
急速に、マティアスの体が光に溶けていく。もうお別れなのだ。
しかし、一つ言い忘れたとマティアスが再び顔を上げた。
《あ、因みにティア、レナードが落ち込み過ぎてまだ転生出来ずにいるから、落ち着いたらひと言、言いに来い》
「え……はぁっ!?」
なんだ、それは、決して去り際に『言い忘れてた』的な感じに言っていいものではない。
「ちょっ、母様っ、それどういうっ」
《またな》
ティアはマティアスが消え、光の鱗粉が舞う場所をポカンと口を開けたまま見つめるしかなかった。
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舞台裏のお話。
ザラン「スゲェよっ。伝説の存在だぜっ」
ラキア「私は、ザランさんがあの方の名前を知っていた事の方が驚きです」
ザラン「ああ、だってゲイルさんに聞いたから」
ゲイル「おう。マスターに聞いて知ってたからな。そういやぁ、教えてたか」
ラキア「それにしても、残念な頭のザランさんが……」
ザラン「なんだとっ、俺はゲイルさんに聞いた事は忘れねぇよっ」
ラキア「……そうなのですか……?」
ゲイル「んん? そうだな。結構、それでマスターから伝言受けたり昔はしてたな」
シェリス「子どもの頃から、おかしな頭でしたね」
ザラン「ちょっ、マスター……」
ゲイル「マスターはさすがだな。よく見てる」
ザラン「そ、そっか……マスター……」
シェリス「二度、三度と説明するのは手間ですから」
ザラン「……」
ゲイル「なるほど」
ラキア「納得です」
ザラン「……」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
心の内は分かりませんけどね。
楽しい母様です。
次回、月曜17日の0時です。
よろしくお願いします◎
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