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565 異変
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2017. 2. 20
**********
ティアには、微かな魔力の流れが分かる。恐らく、それは王宮内に危険がないかを見ていた魔術師長も感じたはずだ。
「何かあったか?」
レイナルートもこうして尋ねてきたなと、ティアは思わずクスリと笑う。しかし、すぐに笑みを消して感じたものを言葉にする。
「この会場の近くで、誰かが伝魔石を使っているみたいです」
「ほお。彼女か」
「でしょうね。王太子を会場から出さないようにお願いします。まだ侵入者の気配はありませんが……」
ティアは、かつてエルヴァストとベリアローズが拐われた時の状況を思い出していた。
「あちらには手練れがおります。ウチの者が遅れを取る事はないとは思いますが、隙は見せるべきではありません。今回は、彼らの頭の位置は把握できていますから、居場所を特定するのに泳がせる必要はありませんし」
組織の頭である神子と呼ばれる女性は、ウィストの王宮にいるはずだ。
彼女の動きは、現地に派遣しているクィーグの者が把握している。ただし、近くにいるはずのジェルバの姿を確認できていないのは問題だ。
ティアが知っているライダロフも確認されている。だから余計にジェルバの居場所が気になってはいた。
「分かった。そろそろ戻るか。レイも戻ってくるだろう」
「はい」
レイナルートが王とティアを気にしているのは分かっていた。きっと、王と戻れば、レイナルートとヒュリアも戻ってくるだろう。
その予想は正しく、王の手を取って歩き出すと、レイナルートもヒュリアの手を取って着いてきているようだった。
王妃の待つ場所まであと少しという所で、突然ティアはうなじにチリチリとした何かを感じた。
「何か感じるのか?」
王が振り返り、鋭い視線をティアへ向ける。固い表情になっていたのだろう。そのティアの表情を見て、ただ事ではないと思ったはずだ。
ティアは王の問いかけに答える事なく、先ずは安全を確認しなくてはとレイナルートとヒュリアの姿を見てから会場をゆっくりと見渡した。
すると、エルヴァストとラキア、そして、ユフィアの手を引いているベリアローズと目が合った。どうやら、ユフィア以外の者達は何かを感じているようだ。
「侵入者か?」
王がティアの耳に囁くように尋ねる。それに小さく首を横に振って否定する。
そして、小さな声で答えた。
「誰かじゃない。多分、何かが発動してる」
「魔力か? 精霊王でもなければ無理のはずだが?」
王はこの場所の安全性を知っている。王は自分でそれを確認してもいたのだ。だから、ティアが精霊王の力を使う所を見て驚いた。
ティアもこの場所の厄介さは知っている。神属性の体を成長させる魔術も、いつもよりも消費が多い。それが分かっていたから、髪と瞳の色を変えている魔術は神属性を使わなかった。
ティア程の力があれば、神属性以外の魔術もこの場で使える。抵抗されているような窮屈な違和感はあるが、神属性の魔術よりも消費は格段に少なく済むのだ。
しかし、今回はそれが裏目に出てしまった。会場のすぐ外で発動していた術は、この場にある全ての魔術を打ち消す物だったのだ。
結果、会場の周りや城に張り巡らされていた魔術避けの結界が消えてしまった。
「嘘……」
ティアもこんな力は知らない。一時的ではあるが、近くにいたはずの風王と火王が会場の外に吹き飛ばされるのが見えた。
「キャっ」
「うわっ」
会場の所々で悲鳴や驚きの声が上がる理由は、腕輪や首飾りに仕掛けてあった護身用の魔導具が弾け飛んだからだ。
作れる者は現在、魔族しかいないという事もあり、それはとても高価な物だ。大抵がそれぞれの一族に伝わる物。たった一度だが、魔術や物理攻撃を弾く事ができる。
そんな物が弾け飛んだのだ。身の危険は嫌でも分かる。
混乱の中、戻って来ていたヒュリアとレイナルートが、ぞわぞわとする嫌な予感に身を小さく震わせながら、ティアの頭を見て目を見開いた。
「そ、その髪はっ……」
「髪の色がっ」
「え?」
一気に視線が集まってくるのが分かった。そして、目の端に横髪が一房映る。その色は鮮やかな赤だ。
「しまった……っ」
神属性の術は解けなかったが、髪と瞳の色を変えていた術は解けてしまったようなのだ。
すると、囁きが聞こえてくる。
「赤髪の冒険者だ……」
「あの伝説の……」
「あんな赤……見た事ない」
魔術や、染料で染めたとしてもこれ程見事な赤は出せない。それを知っている貴族達は、本物の赤い髪だと分かったのだ。
「瞳も赤くない?」
「本当だ……初めて見た……」
赤い髪と濃紺のドレス。それはそれぞれの色が映えて見える。本来あり得ない髪色なのだ。とても新鮮に映ったのだろう。ほぉっと感嘆のため息が聞こえる。
だが、新たな異変はすぐに起こったのだ。
**********
舞台裏のお話。
ユフィア「ベル様。私達はどうします? ラキアさん達と合流しますか?」
ベル「そうだな。それに……ティアのあの髪……」
ユフィア「とっても綺麗ですわっ。赤髪の冒険者のお話、大好きですものっ。ティアさんにぴったり」
ベル「ユフィ。一応、バトラールと呼ぶようにな」
ユフィア「そうでしたわっ。あら?」
ベル「どうした?」
ユフィア「皆さんの付けていた護身用の飾りは壊れましたのに、私やベル様の物は平気ですわね」
ベル「あ、あぁ。これは、カル姐さんとティアの共同合作だ。その辺の物とは違う」
ユフィア「そうなのですかっ? 凄いわ」
ベル「だ、だが、ユフィは何があっても私が守るからなっ……」
ユフィア「はい。ベル様」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
こんな時でもラブラブです。
ちょっと緊迫感ありです。
では次回、金曜24日の0時です。
25日に新作を二話ほど上げたいと思っています。
お暇な時に覗いてみていただければと思っております。
よろしくお願いします◎
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ティアには、微かな魔力の流れが分かる。恐らく、それは王宮内に危険がないかを見ていた魔術師長も感じたはずだ。
「何かあったか?」
レイナルートもこうして尋ねてきたなと、ティアは思わずクスリと笑う。しかし、すぐに笑みを消して感じたものを言葉にする。
「この会場の近くで、誰かが伝魔石を使っているみたいです」
「ほお。彼女か」
「でしょうね。王太子を会場から出さないようにお願いします。まだ侵入者の気配はありませんが……」
ティアは、かつてエルヴァストとベリアローズが拐われた時の状況を思い出していた。
「あちらには手練れがおります。ウチの者が遅れを取る事はないとは思いますが、隙は見せるべきではありません。今回は、彼らの頭の位置は把握できていますから、居場所を特定するのに泳がせる必要はありませんし」
組織の頭である神子と呼ばれる女性は、ウィストの王宮にいるはずだ。
彼女の動きは、現地に派遣しているクィーグの者が把握している。ただし、近くにいるはずのジェルバの姿を確認できていないのは問題だ。
ティアが知っているライダロフも確認されている。だから余計にジェルバの居場所が気になってはいた。
「分かった。そろそろ戻るか。レイも戻ってくるだろう」
「はい」
レイナルートが王とティアを気にしているのは分かっていた。きっと、王と戻れば、レイナルートとヒュリアも戻ってくるだろう。
その予想は正しく、王の手を取って歩き出すと、レイナルートもヒュリアの手を取って着いてきているようだった。
王妃の待つ場所まであと少しという所で、突然ティアはうなじにチリチリとした何かを感じた。
「何か感じるのか?」
王が振り返り、鋭い視線をティアへ向ける。固い表情になっていたのだろう。そのティアの表情を見て、ただ事ではないと思ったはずだ。
ティアは王の問いかけに答える事なく、先ずは安全を確認しなくてはとレイナルートとヒュリアの姿を見てから会場をゆっくりと見渡した。
すると、エルヴァストとラキア、そして、ユフィアの手を引いているベリアローズと目が合った。どうやら、ユフィア以外の者達は何かを感じているようだ。
「侵入者か?」
王がティアの耳に囁くように尋ねる。それに小さく首を横に振って否定する。
そして、小さな声で答えた。
「誰かじゃない。多分、何かが発動してる」
「魔力か? 精霊王でもなければ無理のはずだが?」
王はこの場所の安全性を知っている。王は自分でそれを確認してもいたのだ。だから、ティアが精霊王の力を使う所を見て驚いた。
ティアもこの場所の厄介さは知っている。神属性の体を成長させる魔術も、いつもよりも消費が多い。それが分かっていたから、髪と瞳の色を変えている魔術は神属性を使わなかった。
ティア程の力があれば、神属性以外の魔術もこの場で使える。抵抗されているような窮屈な違和感はあるが、神属性の魔術よりも消費は格段に少なく済むのだ。
しかし、今回はそれが裏目に出てしまった。会場のすぐ外で発動していた術は、この場にある全ての魔術を打ち消す物だったのだ。
結果、会場の周りや城に張り巡らされていた魔術避けの結界が消えてしまった。
「嘘……」
ティアもこんな力は知らない。一時的ではあるが、近くにいたはずの風王と火王が会場の外に吹き飛ばされるのが見えた。
「キャっ」
「うわっ」
会場の所々で悲鳴や驚きの声が上がる理由は、腕輪や首飾りに仕掛けてあった護身用の魔導具が弾け飛んだからだ。
作れる者は現在、魔族しかいないという事もあり、それはとても高価な物だ。大抵がそれぞれの一族に伝わる物。たった一度だが、魔術や物理攻撃を弾く事ができる。
そんな物が弾け飛んだのだ。身の危険は嫌でも分かる。
混乱の中、戻って来ていたヒュリアとレイナルートが、ぞわぞわとする嫌な予感に身を小さく震わせながら、ティアの頭を見て目を見開いた。
「そ、その髪はっ……」
「髪の色がっ」
「え?」
一気に視線が集まってくるのが分かった。そして、目の端に横髪が一房映る。その色は鮮やかな赤だ。
「しまった……っ」
神属性の術は解けなかったが、髪と瞳の色を変えていた術は解けてしまったようなのだ。
すると、囁きが聞こえてくる。
「赤髪の冒険者だ……」
「あの伝説の……」
「あんな赤……見た事ない」
魔術や、染料で染めたとしてもこれ程見事な赤は出せない。それを知っている貴族達は、本物の赤い髪だと分かったのだ。
「瞳も赤くない?」
「本当だ……初めて見た……」
赤い髪と濃紺のドレス。それはそれぞれの色が映えて見える。本来あり得ない髪色なのだ。とても新鮮に映ったのだろう。ほぉっと感嘆のため息が聞こえる。
だが、新たな異変はすぐに起こったのだ。
**********
舞台裏のお話。
ユフィア「ベル様。私達はどうします? ラキアさん達と合流しますか?」
ベル「そうだな。それに……ティアのあの髪……」
ユフィア「とっても綺麗ですわっ。赤髪の冒険者のお話、大好きですものっ。ティアさんにぴったり」
ベル「ユフィ。一応、バトラールと呼ぶようにな」
ユフィア「そうでしたわっ。あら?」
ベル「どうした?」
ユフィア「皆さんの付けていた護身用の飾りは壊れましたのに、私やベル様の物は平気ですわね」
ベル「あ、あぁ。これは、カル姐さんとティアの共同合作だ。その辺の物とは違う」
ユフィア「そうなのですかっ? 凄いわ」
ベル「だ、だが、ユフィは何があっても私が守るからなっ……」
ユフィア「はい。ベル様」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
こんな時でもラブラブです。
ちょっと緊迫感ありです。
では次回、金曜24日の0時です。
25日に新作を二話ほど上げたいと思っています。
お暇な時に覗いてみていただければと思っております。
よろしくお願いします◎
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