女神なんてお断りですっ。

紫南

文字の大きさ
上 下
399 / 457
連載

561 一人にはしません

しおりを挟む
2017. 1. 6

**********

ティアは、ローズの動きに注意していた。だからといって、目を向けているわけではない。

ローズは、ひと際鋭い視線でバトラール姿のティアを見ると、肩をイカらせて会場を出て行った。

王の許可を得て裏で動いているクィーグの者がその後を追った事を感じ取る。

満足気にクスリと笑うティアに、レイナルートが不思議がる。

「何か面白い事でもありましたか?」
「少しね」
「はぁ……」

レイナルートには、ティアの考えがほとんど分からない。それが寂しいと思っているようだが、口にはしなかった。

会場を見回していたティアは、ふと一人の女性に目を止める。

「少し外すわね」
「ええ……」

どこに行くのかと聞きたそうな顔をしていたので、歩き出しながら振り返って教えてやる。

「知り合いがいるのよ。連れて来るから、王様に挨拶させてやって」
「わ、分かりました」

バトラール姿のティアの笑みは、着飾った令嬢達に慣れているレイナルートにとっても眩しく映るらしい。かなり動揺していた。それがまた面白くて、ティアは柔らかい笑みを浮かべながら会場を歩いていく。

そんなティアが進むと、自然に道が出来る。そして、その人の前に労せず辿り着いた。

「失礼、ヒュリア様でいらっしゃいますね」
「え、ええ……あなたは?」

ヒュリアは急に艶やかな女性が目の前に来た事で、驚いた顔をしていた。その目はティアの姿を捉えたまま逸らされる事がない。

「私はバトラール・フィスマです。ティアラールとは友人でして」
「ま、まぁ。あなた、今日の大会にいた……そう、ティアさんのお知り合い……」

ヒュリアも今日行われた騎士と冒険者の対抗戦を観戦していた。ただ、ヒュリアは民達に混ざって観戦していた為、王家との接触はなかった。

しかし、今の着飾った姿と、大会の時の姿では、ティアが同一人物と咄嗟に判断できなかったらしい。それは、周りにいた貴族達も同じで、かなり驚いていた。

ここでは、周りの貴族達が鬱陶しいと思い、人が少ない場所を探し、言う。

「あちらで少しお話しませんか?」
「わたくしと? 分かりました」

何の話があるのかと、ヒュリアは不審に思いながらもティアに導かれて進んでいく。

そして、壁際に落ち着いた。

「お国の事情が、冒険者達には聞こえてきております」

そう切り出すと、ヒュリアが息を呑むのが分かった。

「冒険者には……そうなのね……」

力なくそう言ったヒュリア。ティアはこの頃、ヒュリアの様子が気になっていた。何かを考え込んでいるような、自分を追い詰めているように見えていたのだ。

そんなヒュリアの考えている事が、ティアには分かってしまった。現在のウィストの状況とヒュリアの立場。それらから察せられてしまったのだ。

「お一人で背負えるものではありませんよ」
「っ、なぜ……っ」

なぜ分かったのか。そう言いたいのが分かる。

「国とは何か、ヒュリア様は分かっていらっしゃる。だからこそ、考えておいでなのですね。国の……行く末を」
「……そうです……数年前は、見捨てるなどと言った事もあります。けれど……私は王女です。本当に見捨てられるはずがないと気付きました」

国をどうにかしなくては。そう思ってヒュリアは考えていた。どうすれば、奴らを追い出せるのか。国の中枢に入り込んだ組織。それを追い出さなくては解決しない。王である父の考えを変えられない。

離れているからこそ、国の事を考える時間が出来てしまった。現状を見つめる機会が出来てしまったのだ。

そんなヒュリアと、かつてのティアは似ていた。その時は気付かなかった。夢中だったのだ。それしかないと盲目的にそう思い込んで行動していた。しかし、ヒュリアはそこまでいってはいない。

「民達の事を考えれば、道は一つであるように思えます」
「そうよ。王家が滅びても、民達は残るわ」
「そうです。それでも、まだ方法はあります。一人で考えないで。まだ間に合う。だから……相談しましょう」
「……相談……?」

怖いのは、一人になる事だ。たった一人で突き進んでしまう事だ。それだけはあってはならない。国の為にもならない。

「隣の国の事です。この国も少なからず影響を受ける。だから、相談しましょう。一人でない事を知ってください」
「え、ちょっと、どこへっ」

ティアはヒュリアの手を引っ張り、無理やり王達のいる場所まで連れていくのだった。

**********

舞台裏のお話。

ラキア「ティア様……」

エル「気になるな……」

ラキア「はい。あの方は?」

エル「分からない」

ラキア「仕方ありません。火王様」

エル「えっ?」

火王  《ウィストの王女だ》

ラキア「ありがとうございます」

エル「……声だけ聞こえた……」

ラキア「火王様は気さくな方ですから、色々と教えていただけるのです」

エル「いや、確かにそうだが……よく聞こえたよな。だが、そうか……火王はイルとカイを可愛がっていたな……」

ラキア「これで、ウィストの王女様と分かりました。お名前は……ヒュリア様でしたか。ティア様がマークしておられたご令嬢もいなくなりましたし……戻りましょう。ティア様が動きやすいように」

エル「そうだな」


つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎


ティアちゃんが一番なので。


ヒュリア様が心配なようです。


では次回、金曜10日の0時です。
よろしくお願いします◎
しおりを挟む
感想 122

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【7話完結】婚約破棄?妹の方が優秀?あぁそうですか・・・。じゃあ、もう教えなくていいですよね?

西東友一
恋愛
昔、昔。氷河期の頃、人々が魔法を使えた時のお話。魔法教師をしていた私はファンゼル王子と婚約していたのだけれど、妹の方が優秀だからそちらと結婚したいということ。妹もそう思っているみたいだし、もう教えなくてもいいよね? 7話完結のショートストーリー。 1日1話。1週間で完結する予定です。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

復讐はちゃんとしておりますから、安心してお休みください、陛下

七辻ゆゆ
ファンタジー
「フィオネよ、すまな……かった……」 死の床で陛下はわたくしに謝りました。 「陛下、お気が弱くなっておいでなのですね。今更になって、地獄に落とされるのが恐ろしくおなりかしら?」 でも、謝る必要なんてありません。陛下の死をもって復讐は完成するのですから。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。