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561 一人にはしません
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2017. 1. 6
**********
ティアは、ローズの動きに注意していた。だからといって、目を向けているわけではない。
ローズは、ひと際鋭い視線でバトラール姿のティアを見ると、肩をイカらせて会場を出て行った。
王の許可を得て裏で動いているクィーグの者がその後を追った事を感じ取る。
満足気にクスリと笑うティアに、レイナルートが不思議がる。
「何か面白い事でもありましたか?」
「少しね」
「はぁ……」
レイナルートには、ティアの考えがほとんど分からない。それが寂しいと思っているようだが、口にはしなかった。
会場を見回していたティアは、ふと一人の女性に目を止める。
「少し外すわね」
「ええ……」
どこに行くのかと聞きたそうな顔をしていたので、歩き出しながら振り返って教えてやる。
「知り合いがいるのよ。連れて来るから、王様に挨拶させてやって」
「わ、分かりました」
バトラール姿のティアの笑みは、着飾った令嬢達に慣れているレイナルートにとっても眩しく映るらしい。かなり動揺していた。それがまた面白くて、ティアは柔らかい笑みを浮かべながら会場を歩いていく。
そんなティアが進むと、自然に道が出来る。そして、その人の前に労せず辿り着いた。
「失礼、ヒュリア様でいらっしゃいますね」
「え、ええ……あなたは?」
ヒュリアは急に艶やかな女性が目の前に来た事で、驚いた顔をしていた。その目はティアの姿を捉えたまま逸らされる事がない。
「私はバトラール・フィスマです。ティアラールとは友人でして」
「ま、まぁ。あなた、今日の大会にいた……そう、ティアさんのお知り合い……」
ヒュリアも今日行われた騎士と冒険者の対抗戦を観戦していた。ただ、ヒュリアは民達に混ざって観戦していた為、王家との接触はなかった。
しかし、今の着飾った姿と、大会の時の姿では、ティアが同一人物と咄嗟に判断できなかったらしい。それは、周りにいた貴族達も同じで、かなり驚いていた。
ここでは、周りの貴族達が鬱陶しいと思い、人が少ない場所を探し、言う。
「あちらで少しお話しませんか?」
「わたくしと? 分かりました」
何の話があるのかと、ヒュリアは不審に思いながらもティアに導かれて進んでいく。
そして、壁際に落ち着いた。
「お国の事情が、冒険者達には聞こえてきております」
そう切り出すと、ヒュリアが息を呑むのが分かった。
「冒険者には……そうなのね……」
力なくそう言ったヒュリア。ティアはこの頃、ヒュリアの様子が気になっていた。何かを考え込んでいるような、自分を追い詰めているように見えていたのだ。
そんなヒュリアの考えている事が、ティアには分かってしまった。現在のウィストの状況とヒュリアの立場。それらから察せられてしまったのだ。
「お一人で背負えるものではありませんよ」
「っ、なぜ……っ」
なぜ分かったのか。そう言いたいのが分かる。
「国とは何か、ヒュリア様は分かっていらっしゃる。だからこそ、考えておいでなのですね。国の……行く末を」
「……そうです……数年前は、見捨てるなどと言った事もあります。けれど……私は王女です。本当に見捨てられるはずがないと気付きました」
国をどうにかしなくては。そう思ってヒュリアは考えていた。どうすれば、奴らを追い出せるのか。国の中枢に入り込んだ組織。それを追い出さなくては解決しない。王である父の考えを変えられない。
離れているからこそ、国の事を考える時間が出来てしまった。現状を見つめる機会が出来てしまったのだ。
そんなヒュリアと、かつてのティアは似ていた。その時は気付かなかった。夢中だったのだ。それしかないと盲目的にそう思い込んで行動していた。しかし、ヒュリアはそこまでいってはいない。
「民達の事を考えれば、道は一つであるように思えます」
「そうよ。王家が滅びても、民達は残るわ」
「そうです。それでも、まだ方法はあります。一人で考えないで。まだ間に合う。だから……相談しましょう」
「……相談……?」
怖いのは、一人になる事だ。たった一人で突き進んでしまう事だ。それだけはあってはならない。国の為にもならない。
「隣の国の事です。この国も少なからず影響を受ける。だから、相談しましょう。一人でない事を知ってください」
「え、ちょっと、どこへっ」
ティアはヒュリアの手を引っ張り、無理やり王達のいる場所まで連れていくのだった。
**********
舞台裏のお話。
ラキア「ティア様……」
エル「気になるな……」
ラキア「はい。あの方は?」
エル「分からない」
ラキア「仕方ありません。火王様」
エル「えっ?」
火王 《ウィストの王女だ》
ラキア「ありがとうございます」
エル「……声だけ聞こえた……」
ラキア「火王様は気さくな方ですから、色々と教えていただけるのです」
エル「いや、確かにそうだが……よく聞こえたよな。だが、そうか……火王はイルとカイを可愛がっていたな……」
ラキア「これで、ウィストの王女様と分かりました。お名前は……ヒュリア様でしたか。ティア様がマークしておられたご令嬢もいなくなりましたし……戻りましょう。ティア様が動きやすいように」
エル「そうだな」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
ティアちゃんが一番なので。
ヒュリア様が心配なようです。
では次回、金曜10日の0時です。
よろしくお願いします◎
**********
ティアは、ローズの動きに注意していた。だからといって、目を向けているわけではない。
ローズは、ひと際鋭い視線でバトラール姿のティアを見ると、肩をイカらせて会場を出て行った。
王の許可を得て裏で動いているクィーグの者がその後を追った事を感じ取る。
満足気にクスリと笑うティアに、レイナルートが不思議がる。
「何か面白い事でもありましたか?」
「少しね」
「はぁ……」
レイナルートには、ティアの考えがほとんど分からない。それが寂しいと思っているようだが、口にはしなかった。
会場を見回していたティアは、ふと一人の女性に目を止める。
「少し外すわね」
「ええ……」
どこに行くのかと聞きたそうな顔をしていたので、歩き出しながら振り返って教えてやる。
「知り合いがいるのよ。連れて来るから、王様に挨拶させてやって」
「わ、分かりました」
バトラール姿のティアの笑みは、着飾った令嬢達に慣れているレイナルートにとっても眩しく映るらしい。かなり動揺していた。それがまた面白くて、ティアは柔らかい笑みを浮かべながら会場を歩いていく。
そんなティアが進むと、自然に道が出来る。そして、その人の前に労せず辿り着いた。
「失礼、ヒュリア様でいらっしゃいますね」
「え、ええ……あなたは?」
ヒュリアは急に艶やかな女性が目の前に来た事で、驚いた顔をしていた。その目はティアの姿を捉えたまま逸らされる事がない。
「私はバトラール・フィスマです。ティアラールとは友人でして」
「ま、まぁ。あなた、今日の大会にいた……そう、ティアさんのお知り合い……」
ヒュリアも今日行われた騎士と冒険者の対抗戦を観戦していた。ただ、ヒュリアは民達に混ざって観戦していた為、王家との接触はなかった。
しかし、今の着飾った姿と、大会の時の姿では、ティアが同一人物と咄嗟に判断できなかったらしい。それは、周りにいた貴族達も同じで、かなり驚いていた。
ここでは、周りの貴族達が鬱陶しいと思い、人が少ない場所を探し、言う。
「あちらで少しお話しませんか?」
「わたくしと? 分かりました」
何の話があるのかと、ヒュリアは不審に思いながらもティアに導かれて進んでいく。
そして、壁際に落ち着いた。
「お国の事情が、冒険者達には聞こえてきております」
そう切り出すと、ヒュリアが息を呑むのが分かった。
「冒険者には……そうなのね……」
力なくそう言ったヒュリア。ティアはこの頃、ヒュリアの様子が気になっていた。何かを考え込んでいるような、自分を追い詰めているように見えていたのだ。
そんなヒュリアの考えている事が、ティアには分かってしまった。現在のウィストの状況とヒュリアの立場。それらから察せられてしまったのだ。
「お一人で背負えるものではありませんよ」
「っ、なぜ……っ」
なぜ分かったのか。そう言いたいのが分かる。
「国とは何か、ヒュリア様は分かっていらっしゃる。だからこそ、考えておいでなのですね。国の……行く末を」
「……そうです……数年前は、見捨てるなどと言った事もあります。けれど……私は王女です。本当に見捨てられるはずがないと気付きました」
国をどうにかしなくては。そう思ってヒュリアは考えていた。どうすれば、奴らを追い出せるのか。国の中枢に入り込んだ組織。それを追い出さなくては解決しない。王である父の考えを変えられない。
離れているからこそ、国の事を考える時間が出来てしまった。現状を見つめる機会が出来てしまったのだ。
そんなヒュリアと、かつてのティアは似ていた。その時は気付かなかった。夢中だったのだ。それしかないと盲目的にそう思い込んで行動していた。しかし、ヒュリアはそこまでいってはいない。
「民達の事を考えれば、道は一つであるように思えます」
「そうよ。王家が滅びても、民達は残るわ」
「そうです。それでも、まだ方法はあります。一人で考えないで。まだ間に合う。だから……相談しましょう」
「……相談……?」
怖いのは、一人になる事だ。たった一人で突き進んでしまう事だ。それだけはあってはならない。国の為にもならない。
「隣の国の事です。この国も少なからず影響を受ける。だから、相談しましょう。一人でない事を知ってください」
「え、ちょっと、どこへっ」
ティアはヒュリアの手を引っ張り、無理やり王達のいる場所まで連れていくのだった。
**********
舞台裏のお話。
ラキア「ティア様……」
エル「気になるな……」
ラキア「はい。あの方は?」
エル「分からない」
ラキア「仕方ありません。火王様」
エル「えっ?」
火王 《ウィストの王女だ》
ラキア「ありがとうございます」
エル「……声だけ聞こえた……」
ラキア「火王様は気さくな方ですから、色々と教えていただけるのです」
エル「いや、確かにそうだが……よく聞こえたよな。だが、そうか……火王はイルとカイを可愛がっていたな……」
ラキア「これで、ウィストの王女様と分かりました。お名前は……ヒュリア様でしたか。ティア様がマークしておられたご令嬢もいなくなりましたし……戻りましょう。ティア様が動きやすいように」
エル「そうだな」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
ティアちゃんが一番なので。
ヒュリア様が心配なようです。
では次回、金曜10日の0時です。
よろしくお願いします◎
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