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545 危険な女です
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2016. 12. 21
**********
風王が騎士達を牽制し、ティアが魔術師長を見つめる。しばらくこの状況が続いた。
そうして、睨み合っている所にドーバン侯爵とビアンが駆け付けたのだ。それに気付いたのはティアだった。
「あっ、やっほ~。ねぇ、こいつら頼んでいい? 約束の時間に遅れちゃうんだ」
そう言ってビアンと侯爵に手を振った。すると、侯爵が表情を固くさせながら、誰にともなく尋ねる。
「ど、どういう状況なのです……?」
まるで一触即発。下手に入る事も許されない様子に見えたらしい。
しかし、ティアとしては気楽な現場だ。少々話が通じなくて困っているぐらい。
「あの子らが城を襲撃しようとしてたから捕まえてやったのに、こいつら、私が犯人だって言うんだよ。この場合って、こいつら全員ノしても良いって事かな」
その言葉で、ドーバンは愕然として立ち尽くす。よりにもよって、ティアを犯人扱いするなど、自殺行為だ。
一方、ビアンはティアと風王を慌てて宥めにかかった。
「落ち着いてっ。ちゃんと言ってきかせるからっ。風の王も、ここからは私が責任持って、彼女を守りますのでっ」
ビアンは、お帰りくださいと地面に座り込み、額を打ち付けんばかりに頭を下げる。
これを見て、風王は仕方がないと釘を刺しながらも引く事にしたようだ。
《守るなどとおこがましい……ですが、お怒りもないようですからね。いいですか。例え城の中であろうと、この方に無礼を働くようなら、全てを吹き飛ばし、塵と変えてみせましてよ。肝に銘じなさい》
そう言って、風王は風となってどこかへと行ってしまった。
「よ、よかった……」
安堵するビアンに、ティアは苦笑する。
「大丈夫だって。いきなり全員倒したりしないし」
「……本当に……?」
風王なら、問答無用でティアに失礼な態度を取ったものを吹き飛ばした事もあるのではないかと思ったのだろう。全く信用してもらえなかった。
ドーバン侯爵も、風王の行いを知っている。そんな風王が消えた事で、ほっとしていた。
「それで……彼らは一体……」
ティアが犯人だと言った地面に無様に転がる者達に目を向ける。
「多分、騎士学校の卒業生だよ。それも、貴族出の奴らだね。今回の選考は、実力重視になったから、いつもなら選ばれる奴らがダメだったんだ。僻みからの行動じゃない?」
思い通りにならない事が、今までなかった貴族の子息達。決められた道を、ただなんとなく歩いて来た者達は、今回初めて壁に突き当たった。
自分の努力が足りなかったと思う事はない。全ては他人の判断。納得できないと恨むのだ。そこからきた、今回の行動だろう。
「……彼らが目を覚ましたら事情を聞きます……運んでくれ」
ビアンがそう言ったのだが、なぜか騎士達は動かない。ビアンのティアへ対する態度が信じられないようだ。
しかし、そこでそれまで動けずにいた魔術師長が口を開いた。
「ビアン殿の言葉が聞こえなかったのか」
指示通りに動けと迫力のある眼力で伝える。すると、騎士達は転がっている青年達を抱えて城の方へと向かって行った。
残されたのはティア、ビアン、侯爵と魔術師長。そして、素知らぬ振りをするマティだった。
ティアは改めて現魔術師長である男を見つめる。
「ふぅ~ん……魔術師長っていうより、隊長さんとかの方が似合いそうだね」
「っ……」
観察するティアに、魔術師長は口を固く閉ざして身を少しだけ後ろへ引っ張る。
「あぁ、ごめんね。私はバトラール・フィスマ。あなたが私の知る魔術師長って役職の人とイメージが大分違ったものだから」
目の前の彼は、さぞ若い頃は武勇を立てただろうと思えるような体付きをしているのだ。それは魔術師には中々ないものだった。
そして、珍しそうに眺めるティアに少々引いていた彼は、バトラールの名を聞いて目を見開いたのだった。
**********
舞台裏のお話。
エル「さっきのはなんだ?」
王「ん? エル。こんな時間にどうした。眠れないのか? 一緒に寝るか?」
エル「……冗談はよしてください……先ほど、外に異変を感じたのですが」
王「よく気付いたな。結界に何か当たったようだ」
エル「当たった……魔術しかないでしょう……一体誰が……」
王「ビアンとコリアートが慌てて出て行ったわ。そろそろあの子が来る頃だからなぁ」
エル「あの子……まさかっ」
王「はっはっはっ。そのまさかだ。お前は大人しく寝ておれ」
エル「……また何を企んで……」
王「心配するな。対抗戦の最終確認だ」
エル「それも企みには変わりないと思うのですが……」
王「お前は心配性だなぁ」
エル「そうでしょうか……心配というより、除け者にされているのが嫌なのです」
王「おぉっ、なるほどな。そう言っておこう。今回の所は大人しく部屋に戻れ」
エル「……わかりました……」
王「誰に似たんだか」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
間違いなく王様似です。
何事も無くてよかった。
ウルさんの後は、強そうな人です。
では次回、一日空けて23日です。
よろしくお願いします◎
**********
風王が騎士達を牽制し、ティアが魔術師長を見つめる。しばらくこの状況が続いた。
そうして、睨み合っている所にドーバン侯爵とビアンが駆け付けたのだ。それに気付いたのはティアだった。
「あっ、やっほ~。ねぇ、こいつら頼んでいい? 約束の時間に遅れちゃうんだ」
そう言ってビアンと侯爵に手を振った。すると、侯爵が表情を固くさせながら、誰にともなく尋ねる。
「ど、どういう状況なのです……?」
まるで一触即発。下手に入る事も許されない様子に見えたらしい。
しかし、ティアとしては気楽な現場だ。少々話が通じなくて困っているぐらい。
「あの子らが城を襲撃しようとしてたから捕まえてやったのに、こいつら、私が犯人だって言うんだよ。この場合って、こいつら全員ノしても良いって事かな」
その言葉で、ドーバンは愕然として立ち尽くす。よりにもよって、ティアを犯人扱いするなど、自殺行為だ。
一方、ビアンはティアと風王を慌てて宥めにかかった。
「落ち着いてっ。ちゃんと言ってきかせるからっ。風の王も、ここからは私が責任持って、彼女を守りますのでっ」
ビアンは、お帰りくださいと地面に座り込み、額を打ち付けんばかりに頭を下げる。
これを見て、風王は仕方がないと釘を刺しながらも引く事にしたようだ。
《守るなどとおこがましい……ですが、お怒りもないようですからね。いいですか。例え城の中であろうと、この方に無礼を働くようなら、全てを吹き飛ばし、塵と変えてみせましてよ。肝に銘じなさい》
そう言って、風王は風となってどこかへと行ってしまった。
「よ、よかった……」
安堵するビアンに、ティアは苦笑する。
「大丈夫だって。いきなり全員倒したりしないし」
「……本当に……?」
風王なら、問答無用でティアに失礼な態度を取ったものを吹き飛ばした事もあるのではないかと思ったのだろう。全く信用してもらえなかった。
ドーバン侯爵も、風王の行いを知っている。そんな風王が消えた事で、ほっとしていた。
「それで……彼らは一体……」
ティアが犯人だと言った地面に無様に転がる者達に目を向ける。
「多分、騎士学校の卒業生だよ。それも、貴族出の奴らだね。今回の選考は、実力重視になったから、いつもなら選ばれる奴らがダメだったんだ。僻みからの行動じゃない?」
思い通りにならない事が、今までなかった貴族の子息達。決められた道を、ただなんとなく歩いて来た者達は、今回初めて壁に突き当たった。
自分の努力が足りなかったと思う事はない。全ては他人の判断。納得できないと恨むのだ。そこからきた、今回の行動だろう。
「……彼らが目を覚ましたら事情を聞きます……運んでくれ」
ビアンがそう言ったのだが、なぜか騎士達は動かない。ビアンのティアへ対する態度が信じられないようだ。
しかし、そこでそれまで動けずにいた魔術師長が口を開いた。
「ビアン殿の言葉が聞こえなかったのか」
指示通りに動けと迫力のある眼力で伝える。すると、騎士達は転がっている青年達を抱えて城の方へと向かって行った。
残されたのはティア、ビアン、侯爵と魔術師長。そして、素知らぬ振りをするマティだった。
ティアは改めて現魔術師長である男を見つめる。
「ふぅ~ん……魔術師長っていうより、隊長さんとかの方が似合いそうだね」
「っ……」
観察するティアに、魔術師長は口を固く閉ざして身を少しだけ後ろへ引っ張る。
「あぁ、ごめんね。私はバトラール・フィスマ。あなたが私の知る魔術師長って役職の人とイメージが大分違ったものだから」
目の前の彼は、さぞ若い頃は武勇を立てただろうと思えるような体付きをしているのだ。それは魔術師には中々ないものだった。
そして、珍しそうに眺めるティアに少々引いていた彼は、バトラールの名を聞いて目を見開いたのだった。
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舞台裏のお話。
エル「さっきのはなんだ?」
王「ん? エル。こんな時間にどうした。眠れないのか? 一緒に寝るか?」
エル「……冗談はよしてください……先ほど、外に異変を感じたのですが」
王「よく気付いたな。結界に何か当たったようだ」
エル「当たった……魔術しかないでしょう……一体誰が……」
王「ビアンとコリアートが慌てて出て行ったわ。そろそろあの子が来る頃だからなぁ」
エル「あの子……まさかっ」
王「はっはっはっ。そのまさかだ。お前は大人しく寝ておれ」
エル「……また何を企んで……」
王「心配するな。対抗戦の最終確認だ」
エル「それも企みには変わりないと思うのですが……」
王「お前は心配性だなぁ」
エル「そうでしょうか……心配というより、除け者にされているのが嫌なのです」
王「おぉっ、なるほどな。そう言っておこう。今回の所は大人しく部屋に戻れ」
エル「……わかりました……」
王「誰に似たんだか」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
間違いなく王様似です。
何事も無くてよかった。
ウルさんの後は、強そうな人です。
では次回、一日空けて23日です。
よろしくお願いします◎
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