381 / 457
連載
543 おバカさん?
しおりを挟む
2016. 12. 18
**********
深夜に近くなる頃。ティアは王宮へ向かっていた。
今日はのんびりと約束の時間に到着するように調整しながら、夜の町を歩いている。
さすがに、十二歳になったとはいえ、一人で夜の町を冷やかしながら進むのは目立つ。そこで、バトラールの姿になっていた。
髪色と瞳は目立たないように濃い茶色に変えている。それでもすれ違った何人かは振り返る。
しかし、ティアはそれらを全く気にしていなかった。
あと二週間を切った冒険者と騎士で行う対抗戦。ティアは、そこで冒険者側に誰を出場させるかを考えていたのだ。
Aランクの冒険者のみを出場させる事になる為、メンバーは限られてはいる。しかし、考えているメンバーは、ゲイルをはじめ、ヒュースリー伯爵家の者だ。
「地王に家の警護を任せたとして、フルで……八人……十人かな……あれ?」
そこで気付いた。当たり前のように数に入れていたクロノスが、まだAランクになっていない。
「しまった……クロちゃんの事、忘れてた……う~ん……まだ一週間はあるか」
対抗戦までには、二週間はないとはいえ、一週間もあれば、認定試験を受けられる。
「寧ろ、クロちゃんには必須だもんね」
理由はカルツォーネだ。どうもクロノスに想いを寄せているらしいという事で、友人としても、主人としても是非オススメしたい縁だった。
その為には、せめてクロノスにAランクになってもらわなくてはならない。いつかは必ずと考えていたのだが、今がその時のようだ。
「明日にでも呼び寄せないと……精霊ちゃん。リジットに伝言お願い」
そうどこにともなく声をかけると、小さな精霊がやってくる。
《まかせて~》
《すぐにね~》
《おじかんのしていはできません》
精霊達に明日、クロノスを寄越して欲しいと伝言を頼んだ。
そうして、しばらくすると、城壁が見えてきた。
「さてと。どっから入ろうかな」
一番最初に見えてきた城の門を見て呟く。すると、足下にいたマティが顔を上げて主張する。
《フラムがいないから、空からは無理だね。マティなら飛び越えられるよ?》
フラムは今夜、屋敷に置いてきた。まだまだ子ども。夜は寝かせてやりたい。
一方、マティは昼間にお昼寝が多い為、夜の方が元気だ。最近は『ディストレアって夜行性だったっけ?』と思うほどだった。
城壁の周りをゆっくりと歩きながら、高い塀を見上げる。警備はティアがテコ入れしているので、ほとんど隙はなくなっていた。
「良い配置だね……」
こんな事なら、穴を空けておけば良かったなとチラリと思ってしまったティアだ。
《あれ?》
「……あらら……」
警備に感心しながら歩いていると、前方に城壁を睨み付けている何者かを見つけた。それも複数、十人には満たないが、こんな場所と時間にいるなど、不審だといっているようなもの。更には全員、黒いフード付きの外套を着ている。
不穏な気配を感じながらも、ティアは何をするのかと離れて様子を見る事にした。
《何するんだろうね》
「うん……」
すると、その中の一人が、両手をやや上、城壁の上へと手を挙げるのがみえた。
「あいつ、まさかっ」
その直後、魔法陣が展開される。
「バカかっ」
いくつもの小さな火の球が城壁の上へと放たれる。しかし、当然だが城の周囲には特殊な魔術を遮る結界が張られている。
小さな火の球は、結界に当たるとポスポスと情けない音を立て、消えていった。だが、感知されないわけではない。
失敗したと分かると、フードを被った数人は、慌てるような素ぶりを見せる。
「……結界の事も知らないバカだったとは……」
《呆れちゃうね》
そう言ってから、ティアは逃げようとする者達の前に立ちはだかった。
「お前ら、何が目的だ?」
「っ、だ、誰だ、貴様っ」
「どけ!」
その声から、若い男だと分かる。彼らは無謀にも腰に履いていた剣を抜いた。先ほど、魔術を放った者も分からなくなる。
「なるほど。魔術士じゃないんだ? 全員同じ剣……そういう事か」
「何を言っているっ。かかってこい!」
「はいはい」
そうして、ティアは一気に彼らとの距離を詰めると、手刀で全員を沈めたのだった。
**********
舞台裏のお話。
ラキア「ルクスさん。着いていかれなくて良かったのですか?」
ルクス「……過保護にし過ぎるのもと……」
ラキア「今更ですね」
ルクス「うっ……」
ラキア「前から忠告していますが、いつまでも保護者面をしていると、恋愛対象に見られませんよ」
ルクス「なっ!」
ラキア「ルクスさんはどうしたいのです? ずっと保護者でいる気はないのでしょう?」
ルクス「……あぁ……」
ラキア「そんな事では、マスターにティア様を攫われてしまいますよ」
ルクス「あっ、あいつにはっ」
ラキア「マスターが本気になったら敵いませんからね。今のうちです」
ルクス「え? あれで本気じゃない……?」
ラキア「当たり前でしょう。マスターが本気でしたら、とっくにティア様はここにはいらっしゃいません」
ルクス「……確かに……」
ラキア「しっかりなさいませ」
ルクス「……はい……」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
ラキアちゃんに説教されるヘタレなルクス君です。
ティアちゃんは着々と準備中。
どうも、おバカさん達が、おバカな行動に出たようです。
では次回、また明日です。
よろしくお願いします◎
**********
深夜に近くなる頃。ティアは王宮へ向かっていた。
今日はのんびりと約束の時間に到着するように調整しながら、夜の町を歩いている。
さすがに、十二歳になったとはいえ、一人で夜の町を冷やかしながら進むのは目立つ。そこで、バトラールの姿になっていた。
髪色と瞳は目立たないように濃い茶色に変えている。それでもすれ違った何人かは振り返る。
しかし、ティアはそれらを全く気にしていなかった。
あと二週間を切った冒険者と騎士で行う対抗戦。ティアは、そこで冒険者側に誰を出場させるかを考えていたのだ。
Aランクの冒険者のみを出場させる事になる為、メンバーは限られてはいる。しかし、考えているメンバーは、ゲイルをはじめ、ヒュースリー伯爵家の者だ。
「地王に家の警護を任せたとして、フルで……八人……十人かな……あれ?」
そこで気付いた。当たり前のように数に入れていたクロノスが、まだAランクになっていない。
「しまった……クロちゃんの事、忘れてた……う~ん……まだ一週間はあるか」
対抗戦までには、二週間はないとはいえ、一週間もあれば、認定試験を受けられる。
「寧ろ、クロちゃんには必須だもんね」
理由はカルツォーネだ。どうもクロノスに想いを寄せているらしいという事で、友人としても、主人としても是非オススメしたい縁だった。
その為には、せめてクロノスにAランクになってもらわなくてはならない。いつかは必ずと考えていたのだが、今がその時のようだ。
「明日にでも呼び寄せないと……精霊ちゃん。リジットに伝言お願い」
そうどこにともなく声をかけると、小さな精霊がやってくる。
《まかせて~》
《すぐにね~》
《おじかんのしていはできません》
精霊達に明日、クロノスを寄越して欲しいと伝言を頼んだ。
そうして、しばらくすると、城壁が見えてきた。
「さてと。どっから入ろうかな」
一番最初に見えてきた城の門を見て呟く。すると、足下にいたマティが顔を上げて主張する。
《フラムがいないから、空からは無理だね。マティなら飛び越えられるよ?》
フラムは今夜、屋敷に置いてきた。まだまだ子ども。夜は寝かせてやりたい。
一方、マティは昼間にお昼寝が多い為、夜の方が元気だ。最近は『ディストレアって夜行性だったっけ?』と思うほどだった。
城壁の周りをゆっくりと歩きながら、高い塀を見上げる。警備はティアがテコ入れしているので、ほとんど隙はなくなっていた。
「良い配置だね……」
こんな事なら、穴を空けておけば良かったなとチラリと思ってしまったティアだ。
《あれ?》
「……あらら……」
警備に感心しながら歩いていると、前方に城壁を睨み付けている何者かを見つけた。それも複数、十人には満たないが、こんな場所と時間にいるなど、不審だといっているようなもの。更には全員、黒いフード付きの外套を着ている。
不穏な気配を感じながらも、ティアは何をするのかと離れて様子を見る事にした。
《何するんだろうね》
「うん……」
すると、その中の一人が、両手をやや上、城壁の上へと手を挙げるのがみえた。
「あいつ、まさかっ」
その直後、魔法陣が展開される。
「バカかっ」
いくつもの小さな火の球が城壁の上へと放たれる。しかし、当然だが城の周囲には特殊な魔術を遮る結界が張られている。
小さな火の球は、結界に当たるとポスポスと情けない音を立て、消えていった。だが、感知されないわけではない。
失敗したと分かると、フードを被った数人は、慌てるような素ぶりを見せる。
「……結界の事も知らないバカだったとは……」
《呆れちゃうね》
そう言ってから、ティアは逃げようとする者達の前に立ちはだかった。
「お前ら、何が目的だ?」
「っ、だ、誰だ、貴様っ」
「どけ!」
その声から、若い男だと分かる。彼らは無謀にも腰に履いていた剣を抜いた。先ほど、魔術を放った者も分からなくなる。
「なるほど。魔術士じゃないんだ? 全員同じ剣……そういう事か」
「何を言っているっ。かかってこい!」
「はいはい」
そうして、ティアは一気に彼らとの距離を詰めると、手刀で全員を沈めたのだった。
**********
舞台裏のお話。
ラキア「ルクスさん。着いていかれなくて良かったのですか?」
ルクス「……過保護にし過ぎるのもと……」
ラキア「今更ですね」
ルクス「うっ……」
ラキア「前から忠告していますが、いつまでも保護者面をしていると、恋愛対象に見られませんよ」
ルクス「なっ!」
ラキア「ルクスさんはどうしたいのです? ずっと保護者でいる気はないのでしょう?」
ルクス「……あぁ……」
ラキア「そんな事では、マスターにティア様を攫われてしまいますよ」
ルクス「あっ、あいつにはっ」
ラキア「マスターが本気になったら敵いませんからね。今のうちです」
ルクス「え? あれで本気じゃない……?」
ラキア「当たり前でしょう。マスターが本気でしたら、とっくにティア様はここにはいらっしゃいません」
ルクス「……確かに……」
ラキア「しっかりなさいませ」
ルクス「……はい……」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
ラキアちゃんに説教されるヘタレなルクス君です。
ティアちゃんは着々と準備中。
どうも、おバカさん達が、おバカな行動に出たようです。
では次回、また明日です。
よろしくお願いします◎
10
お気に入りに追加
4,564
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【短編】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ、赤ちゃんが生まれる。
誕生を祝いに、領地から父の辺境伯が訪ねてくるのを心待ちにしているアリシア。
でも、夫と赤髪メイドのメリッサが口づけを交わしているのを見てしまう。
「なぜ、メリッサもお腹に赤ちゃんがいるの!?」
アリシアは夫の愛を疑う。
小説家になろう様にも投稿しています。
私に姉など居ませんが?
山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」
「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」
「ありがとう」
私は婚約者スティーブと結婚破棄した。
書類にサインをし、慰謝料も請求した。
「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。