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538 子どもが増えました?
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2016. 12. 9
**********
学園から帰ったティアは、約束通りイルーシュとカイラントをサルバへ連れて来ていた。
「あれはなぁに?」
「ウッドラビットのお肉。ほら、こっちだよ」
手を引っ張り、肉の匂いに誘われて行こうとするイルーシュを引き留める。
その隣では、ルクスがカイラントの手を引いていた。
「たべた~い」
「お菓子なら、屋敷のメイドに頼めばいいから」
ルクスは、甘い匂いに誘われるカイラントを抱き上げ、ティアを気遣う。
「バトラールの方が良いんじゃないか?」
今のティアは十二歳の少女の姿だ。バトラールになって、大きくなった方が、子どもを連れ歩くにはいいのではないかと言う。
「そしたら、完全に親子に見られるね」
「え…… あっ」
ルクスは顔を真っ赤にして動揺する。
ザルバではあまりバトラールの姿になっていないので、かなりの確率でルクスが結婚したと思われるだろう。
この場合、子どもが幾つかなんて関係ない。夫婦として祝福されそうだ。
《そうなったら、マスターに殺されちゃうね》
「……」
マティの言葉に、ルクスは顔色を変える。
《夫婦認定されなくてよかったね》
「……おう……」
《キュっ、キュっ》
シェリスならばそんな噂が一つでも聞こえれば飛んで来るだろうと、マティでさえ分かっていたのだ。
マティの背中に乗っているフラムもうんうんと頷く。
「シェリーの事も確かにあるけど、ここでは、バトラールの姿に、なるべくならないようにしてるんだ」
「なんでだ?」
「だって、あと十年もしたらあれになるでしょ? 知らない人は、さすがにびっくりするじゃん」
「……確かに……」
そんな力が使えるのだということも、あまり見せるべきではないだろう。
「おねぇさまにならないの?」
「きれいなおねぇさまにはならないの?」
イルーシュとカイラントがそう言って首を傾げる。これにティアは笑みを浮かべる。しかし、目は冷たく射抜かれるようだった。
おねぇさまこわい……
「こら。ちゃんと声を出しなさい」
「「ねぇさまこわい~」」
「それは言わなくていいのっ」
すっかり姉弟だ。
ヒュースリーの屋敷に着くと、一番にリジットが出迎えてくれる。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
「リジット、ただいま~。連絡してたイルーシュ君とカイラント君。よろしくね」
「はい。お任せくださいませ。奥様と若奥様がそれはもう、乗り気でして」
そうリジットが言う所に、シアンとユフィアが駆けてきた。
「ティアちゃん、お帰り~っ。その子達が?」
「まぁ、可愛らしいっ」
その勢いに、イルーシュとカイラントは、怯えたようにティアの後ろへくっつく。
「あ~、お母様、お姉様。落ち着いてください」
「ごめんなさい」
「失礼しました。怖かったかしら……」
シアンもユフィアも、怯えさせてしまったと肩を落とす。
ティアは苦笑してから、屈み込み、イルーシュとカイラントより下に目線を持ってくる。両隣にいる二人の体を引き寄せ、シアンとユフィアを紹介する。
「私のお母様とお姉様だよ。これから一緒に居てもらうから、仲良くしてね」
そう言うと、二人とは顔をしっかり上げ、揃って挨拶をする。教育はばっちりだ。
「「おせわになります」」
「えぇ、よろしくね。私の事は……シアンママって呼んでちょうだい」
「では、私は、ユフィ姉様ですね。仲良くしましょう」
「シアンママ?」
「ユフィねぇさま?」
「「っ~カワイイっ」」
シアンとユフィアは、二人の可愛さに悶絶する。
「リジットもお願いね」
「お任せください。お部屋の用意はできております。ベッドだけは、お嬢様のお部屋に入れてありまが……よろしいでしょうか」
「うん。今夜は泊まるし、誰か私のベッドで寝てもらってもいいからね」
ティアの部屋は広い。遊べる部屋を確保する為に、ベッドは別にしたのだろう。一応、安全な場所とはいえ、王子だ。外でずっと遊ばせるわけにはいかない。
屋内でも存分に遊べる子ども部屋を作ったのだ。
二人だけでも眠れるが、たまに一緒に寝てもらうのもいい。
ディムースに居た時も、ティアが泊まる時は、一緒のベッドに招き入れていた。信頼する事も覚えてもらわなくてはならないと思うのだ。
「それじゃぁ、よろしく」
こうして、ヒュースリー伯爵家が、また賑やかになったのだった。
**********
舞台裏のお話。
ダン「ティアさんは大変な運命を背負っておられますね……」
サクヤ「そうね……でも、ティアなら大丈夫だって思っちゃうのよね~。昔もそうだったわ。マティの娘。それだけで、かなり数奇な運命を背負っちゃってたのよね……」
ダン「色々、苦悩もあったでしょう」
サクヤ「えぇ。けど、それでもあの子は、全部一人で頑張るのが普通だと思って生きてたのよ。今もだけど」
ダン「出来てしまうのでしょうね」
サクヤ「そうなのよぉ。全然頼らないんだからっ」
ダン「こちらも覚悟がいりますね」
サクヤ「まったくだわっ」
ダン「それで、今は何を抱えていらっしゃるのです?」
サクヤ「確か、王子様を育ててるって」
ダン「はい?」
サクヤ「イルーシュ君とカイラント君っ、双子ですって~。一度会いたかったわ」
ダン「イルーシュ……祖母の名と同じですね。子育てですか……?」
サクヤ「ねっ、すっごい子になりそうだわ」
ダン「……そうですね……」
ダン……ダンフェール・マランド。
フェルマー学園の学園長。
見た目は五十くらいだが、実際年齢は九十を過ぎた頃。
ファルの血を引く。
ファルの娘、イルーシュ・マランドのひ孫に当たる。
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
不安だそうです。
無邪気な子ども達です。
きっと、シアンママ達に可愛がられるでしょう。
さて、次はシェリスの所?
では次回、一日空けて11日です。
よろしくお願いします◎
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学園から帰ったティアは、約束通りイルーシュとカイラントをサルバへ連れて来ていた。
「あれはなぁに?」
「ウッドラビットのお肉。ほら、こっちだよ」
手を引っ張り、肉の匂いに誘われて行こうとするイルーシュを引き留める。
その隣では、ルクスがカイラントの手を引いていた。
「たべた~い」
「お菓子なら、屋敷のメイドに頼めばいいから」
ルクスは、甘い匂いに誘われるカイラントを抱き上げ、ティアを気遣う。
「バトラールの方が良いんじゃないか?」
今のティアは十二歳の少女の姿だ。バトラールになって、大きくなった方が、子どもを連れ歩くにはいいのではないかと言う。
「そしたら、完全に親子に見られるね」
「え…… あっ」
ルクスは顔を真っ赤にして動揺する。
ザルバではあまりバトラールの姿になっていないので、かなりの確率でルクスが結婚したと思われるだろう。
この場合、子どもが幾つかなんて関係ない。夫婦として祝福されそうだ。
《そうなったら、マスターに殺されちゃうね》
「……」
マティの言葉に、ルクスは顔色を変える。
《夫婦認定されなくてよかったね》
「……おう……」
《キュっ、キュっ》
シェリスならばそんな噂が一つでも聞こえれば飛んで来るだろうと、マティでさえ分かっていたのだ。
マティの背中に乗っているフラムもうんうんと頷く。
「シェリーの事も確かにあるけど、ここでは、バトラールの姿に、なるべくならないようにしてるんだ」
「なんでだ?」
「だって、あと十年もしたらあれになるでしょ? 知らない人は、さすがにびっくりするじゃん」
「……確かに……」
そんな力が使えるのだということも、あまり見せるべきではないだろう。
「おねぇさまにならないの?」
「きれいなおねぇさまにはならないの?」
イルーシュとカイラントがそう言って首を傾げる。これにティアは笑みを浮かべる。しかし、目は冷たく射抜かれるようだった。
おねぇさまこわい……
「こら。ちゃんと声を出しなさい」
「「ねぇさまこわい~」」
「それは言わなくていいのっ」
すっかり姉弟だ。
ヒュースリーの屋敷に着くと、一番にリジットが出迎えてくれる。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
「リジット、ただいま~。連絡してたイルーシュ君とカイラント君。よろしくね」
「はい。お任せくださいませ。奥様と若奥様がそれはもう、乗り気でして」
そうリジットが言う所に、シアンとユフィアが駆けてきた。
「ティアちゃん、お帰り~っ。その子達が?」
「まぁ、可愛らしいっ」
その勢いに、イルーシュとカイラントは、怯えたようにティアの後ろへくっつく。
「あ~、お母様、お姉様。落ち着いてください」
「ごめんなさい」
「失礼しました。怖かったかしら……」
シアンもユフィアも、怯えさせてしまったと肩を落とす。
ティアは苦笑してから、屈み込み、イルーシュとカイラントより下に目線を持ってくる。両隣にいる二人の体を引き寄せ、シアンとユフィアを紹介する。
「私のお母様とお姉様だよ。これから一緒に居てもらうから、仲良くしてね」
そう言うと、二人とは顔をしっかり上げ、揃って挨拶をする。教育はばっちりだ。
「「おせわになります」」
「えぇ、よろしくね。私の事は……シアンママって呼んでちょうだい」
「では、私は、ユフィ姉様ですね。仲良くしましょう」
「シアンママ?」
「ユフィねぇさま?」
「「っ~カワイイっ」」
シアンとユフィアは、二人の可愛さに悶絶する。
「リジットもお願いね」
「お任せください。お部屋の用意はできております。ベッドだけは、お嬢様のお部屋に入れてありまが……よろしいでしょうか」
「うん。今夜は泊まるし、誰か私のベッドで寝てもらってもいいからね」
ティアの部屋は広い。遊べる部屋を確保する為に、ベッドは別にしたのだろう。一応、安全な場所とはいえ、王子だ。外でずっと遊ばせるわけにはいかない。
屋内でも存分に遊べる子ども部屋を作ったのだ。
二人だけでも眠れるが、たまに一緒に寝てもらうのもいい。
ディムースに居た時も、ティアが泊まる時は、一緒のベッドに招き入れていた。信頼する事も覚えてもらわなくてはならないと思うのだ。
「それじゃぁ、よろしく」
こうして、ヒュースリー伯爵家が、また賑やかになったのだった。
**********
舞台裏のお話。
ダン「ティアさんは大変な運命を背負っておられますね……」
サクヤ「そうね……でも、ティアなら大丈夫だって思っちゃうのよね~。昔もそうだったわ。マティの娘。それだけで、かなり数奇な運命を背負っちゃってたのよね……」
ダン「色々、苦悩もあったでしょう」
サクヤ「えぇ。けど、それでもあの子は、全部一人で頑張るのが普通だと思って生きてたのよ。今もだけど」
ダン「出来てしまうのでしょうね」
サクヤ「そうなのよぉ。全然頼らないんだからっ」
ダン「こちらも覚悟がいりますね」
サクヤ「まったくだわっ」
ダン「それで、今は何を抱えていらっしゃるのです?」
サクヤ「確か、王子様を育ててるって」
ダン「はい?」
サクヤ「イルーシュ君とカイラント君っ、双子ですって~。一度会いたかったわ」
ダン「イルーシュ……祖母の名と同じですね。子育てですか……?」
サクヤ「ねっ、すっごい子になりそうだわ」
ダン「……そうですね……」
ダン……ダンフェール・マランド。
フェルマー学園の学園長。
見た目は五十くらいだが、実際年齢は九十を過ぎた頃。
ファルの血を引く。
ファルの娘、イルーシュ・マランドのひ孫に当たる。
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
不安だそうです。
無邪気な子ども達です。
きっと、シアンママ達に可愛がられるでしょう。
さて、次はシェリスの所?
では次回、一日空けて11日です。
よろしくお願いします◎
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