女神なんてお断りですっ。

紫南

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連載

527 騎士に憧れて

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2016. 11. 20

**********

ウィストでは二年に一度、騎士になる為の試験がある。

試験判定の内、基準の半分は実力、残りの半分は人間性と血筋だ。リールは、どれも中途半端。実力が優れているわけでもなく、血筋も良いとは言えず、人間性については、常に自信が持てないのが悪いのか特に点数が低かったらしい。

当然ながら結果は騎士に相応しくないというものだった。

リールとロイズの両親は、早くに亡くなっている。かつては子爵位を持っていた家柄だったが、二代も前に没落していた。

その為、領地もなく、貴族とは名ばかりの家でしかなかった。両親が亡くなってからは頼れる親族もいなかった事で、教会に引き取られ、育てられた。

そんな生い立ちであっても、第一王女であるヒュリアの傍にいるのは、妹のロイズの力が大きい。

ロイズは十歳になる頃、教会に通っていた当時十二歳だったヒュリアと知り合い、そのままリールが知らないうちにヒュリア付きのメイドになっていた。

幼い時分から、教会にただ世話になる事に何かを感じていたロイズは、八歳の時には行儀見習いとして教会のあった領地を治めていた伯爵の家へメイド見習いとして通っていたのだ。

ロイズのお陰で、リールも夢であった騎士になろうと、剣を教わる場所も紹介してもらえた。

素質がどうこうではなく、はじめて自分から打ち込んだ事だった。しかし、今回、騎士の試験に落ちた事で、少々いつもよりも卑屈になっていた。

このまま死んでもいいとさえ思っていたのだ。

夢が断たれたと絶望するリールに手を差し伸べたのは、王都の教会にいる司教だった。

『あなたが今回受からなかったのは、本当の主人となる方がこの国にいないからです。あなたは騎士になるべくして生まれたお人だ。私には分かります。きっと名のある騎士の生まれ変わりなのでしょうね』

自分の存在を認めてもらえる事がこれ程嬉しい事だとは思っていなかった。

それはとても気持ち良くて、重くなっていた心が一気に軽くなる。認められなかった事など、あっさり忘れられそうになった。

そして、ヒュリアがフリーデルへ留学する為、一度王宮に戻ってきた時だった。毎回、他国へ出掛ける時は、荷物の整理をし、王宮のヒュリアの部屋へ次に必要ではない物を馬車から運び込むのがリールの仕事だった。

その日もロイズに指示され、荷物をヘトヘトになりながら王宮へ運び入れていた。体力にも自信がないリールだ。何回か部屋と外を往復すると、ロイズにばれないように廊下で一休みしていた。そこに少女がやって来たのだ。

『あなたもフリーデルへ行かれるのですか?』

突然話しかけられて驚いた。その人は、何度か王宮で見ていた第二王女だったのだ。しかし、第二王女は亡くなっている。そう思い出し、混乱していると彼女は優しく微笑み、言った。

『あなたは導かれているのですね。間違いありません。私には分かります。あなたは……最強の女騎士、アリア・マクレートの生まれ変わりなのですね……』

最初、さすがのリールも何を言われたのか理解出来なかった。だが、少女は尚も話し続ける。

『女神サティア様の生まれ変わりの方が今、フリーデルに居られます。きっと、魂が惹かれあっているのです。あの方の唯一の騎士でなくてはならないのですから』

それを聞いた時、鼓動が熱く、激しく脈打つのを感じていた。

ずっと思っていたのだ。自分は何がなんでも騎士にならなくてはならないのだと。そう焦るような思いを自分の中に感じていたのだ。

『あなたにこれを……きっと役に立つはずです。これは特別な魔導具です。使うべき時も分かるはず……あと、こちらのブローチは私からヒュリア様へ。私からだと聞くと怒るかもしれませんから、荷物へ紛れ込ませてください』

渡されたのは、腰に着けられるように布に入った数本のナイフ。それと、小さな箱に入った美しいブローチだ。

そうして、最後に少女はこう言ったのだ。

『どうかサティア様の為、お力をお貸しください。あの方にも分かります。お会いしたなら、こう言うのです『あなたの騎士である為に生まれたのだ』と』

リールはローズ・リザラントに出会った時、それを実行した。

そう言えば、ローズは言ったのだ。

『私は、あなたを傍に置く方が許せません……あなたは私の騎士……お願い、アリア。私だけの唯一の騎士に……』

自分を傍に置くのは正式に騎士として許されてはいないが、ヒュリアだけだ。

直接、自分の騎士になってくれと聞いてはいないが、きっとヒュリアは自分の騎士だと思っている。そう常々感じていたのだ。

だから思った。

自分の騎士だと思っているヒュリアを消せば、ローズだけの唯一の騎士になる事ができる。

これはアリア・マクレートの生まれ変わりとしての義務だ。それを遂行する為ならば、ヒュリアなど必要ない。

それがリールの考えだったのだ。

◆◆◆◆◆

ティアはここ最近、髪を弄るのが癖になっていた。三バカ達に会い、激励した後、ヒュースリーの学園街の屋敷に帰ろうとした時も、なんとなく触ってチラチラとその色を確認していた。

「髪が気になるのか?」

ルクスは、癖のある髪をストレートにしようと試みているように見えたらしい。

「え? あぁ…どうしても色を確認しちゃうんだよね~。自分で変えてるのにさ」
「色を変えてる?」

ルクスは驚きだと目を見開く。これに、バトラールの姿のまま隣を歩くティアが答える。

「そういえば言ってないか……言おうか迷ってたんだよね……」

そうして、珍しくティアは言葉を濁し、ルクスから気まずげに視線を外すのだった。

**********

舞台裏のお話。

トーイ「ティア様がわざわざ来てくださるなんて……」

チーク「頑張らないとな」

ツバン「ほら、ケイギルも気合いを入れないと」

ケイギル「そうだな。生徒達もかなり絞れてきているし」

トーイ「……ケイギルも最近、ティア様を怖がらないな」

ケイギル「え? あ、いや、怖くは……ないな」

チーク「好きなのか?」

ケイギル「……何をいってる?」

ツバン「だめだよ、ケイギル。ティア様はマスターとルクスさんのだからね」

ケイギル「え~っと……二人?」

トーイ「そうだ。気をつけろよ。参戦するなら激戦になる」

ケイギル「……参戦……しないからな?」

チーク「そうか。よかった。早くに友人を亡くしたくはないからな」

ツバン「絶対に死期が早まるもんね」

ケイギル「……ないから」


つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎


あり得ないですよね。


『分かってますよ』は、弱っている人への魔法の言葉です。
付け込むには良い時ですね。
そして、つけ込まれたリール君。
やっぱり面倒なやつです。


では次回、また明日です。
よろしくお願いします◎
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