女神なんてお断りですっ。

紫南

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509 有能なパパです

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2016. 10. 19

**********

王都の外でゲルヴァローズの欠片を発動させ、夜を明かしたティアと双子の王子達。

ここの所、便利に使い過ぎたシルも無理矢理休ませた。

この家は、主人であるティアが許可した者しか入る事は出来ないので、外敵からの護りも万全だ。更に、王都を出てすぐに合流したゼブロも家の外で番犬よろしく待機しているので近付く者もいない。

朝日が窓に射し込む頃。目を覚ましたティアとシルは談話室兼ダイニングで顔を合わせた。

「おはようございます」
「おはよう。ちゃんと休んだね」
「はいっ。サルバまででもすぐに走れます」
「いや、うん……元気みたいで良かった……」

最近、シルのやる気が空回る寸前だ。何があったのかは知らないが、有能なのでそのままにしている。紅翼の奴らに近い匂いを感じるのは気のせいだと思いたい。

「なら、食事を……」
「ディムースへ行かれるのですよね。これから先に行って部屋を整えて参ります」
「でも食事を摂ってから……」
「ベッドなども他のクィーグの者達が昨夜の内に運んでいるはずですので、その確認もして参ります」

何だかやる気に満ちている。仕方ないので任せてみる事にした。

「う、うん……あの子達が起きたら向かうから、サクヤ姐さんやアデル達にも事情を説明しておいてくれる?」
「承知いたしましたっ。ではっ」

そのまま飛び出していったシルを見送り、ティアは子ども達の食事を用意し始めた。

王子達が起きた気配を感じたのは、ちょうど食事の用意が出来た頃だ。

「起きた? イル君、カイ君」
((んんっ~……))

二人の寝ぼけた顔を見て、そういえば、あまり子どもの世話はした事がないなと思い至る。一人ならまだしも、二人だ。これは手に余るぞと覚悟した時だった。

《キュゥ~》
「フラム? 何でここに……火王? それに、地王じぃも?」

窓から入ってきたフラムに驚いていれば、部屋に突然火王と地王が現れたのだ。

《お困りかと》
《リジーが気にしとりましたのでなぁ》
「リジットが?」
《ええ。育てた娘が一人で抱え込んでいた問題という事もあるのですよ》
「エイミールさんが心配だったんだ」

エイミールは、家の事情で王宮に上がれるメイドになるようにと幼い頃、ヒュースリー伯爵家に預けられた。

そこでリジットの元、メイドとしての技術を身につけ、どこに出しても恥ずかしくない優秀なメイドとして王宮に上がったのだ。

そうして王妃の影武者になり、王に見初められ、側妃となった今でも、リジットにとっては可愛い教え子であり、娘のような存在なのだ。

そしてそれは、エイミールも同じ思いだった。

《ひと月に二度、リジーに手紙が届きますからなぁ》
「そっか。リジットなら、文面が何でも、悩んでるかとか察しそうだもんね」

そうしてリジットが気にしていると気付くのが地王達だ。王宮にも調べに行ったのだろう。王宮では精霊達は思うように近付けない。地王自ら出向いていたのではないかと思った。こうして駆け付けた所を見ると、あながち外れてはいないだろう。

《おや、話過ぎましたかな。火のはさすがじゃのぉ》
「ん? あ……ありがとう……パパ……」
《よく噛んでからだ》
((もぐもぐ?))
《いい子だな》
((んっ))
「……もう、手際がプロ級……」
《ほっほっほっ》

顔を洗わせ、身なりも整えさせるのも忘れず食事をさせはじめる火王に、脱帽するしかない。

《キュ~っ》
《フラムのはこれだ》
「……子ども三人でも余裕とか……いつの間にそんな高等テクを……」
《子ども達は火のに任せて、姫も食事をしてはどうですかな?》
「そうする……」

ティア達が食事をする間、地王は嬉しそうに子ども達を観察し、満足気に帰っていった。リジットに報告するのだろう。

「火王。ついてきてくれる?」
《そのつもりです》
「助かる……」

未だかつて、これほどティアが誰かを頼りにした事はないかもしれないと思った。

食事が終わり、しばらくしてから、ティア達は移動を開始した。

王子達を抱え、火王がゼブロに乗って移動し、ティアはフラムに乗っていく。火王が来なかったら、大変な思いをしていたなと、考えが甘かった事を反省しながら、昼頃にはディムースに着いていた。

大宿に向かえば、サクヤがティア達を待っていたようだ。

「あ、来た来た。へぇ、その子達が」
「うん。サクヤ姐さん。事情はもう聞いてるんだよね」
「ええ。部屋もティアの部屋の隣に用意させたわ。いつまで預かるの?」

少し疲れたらしい二人を火王が担ぎ、大宿の中へ入っていく。

「ちゃんと声で話が出来るようになるまでかな。すぐだと思うんだけど、まず、キルシュとアデルに慣れさせて、それからここの子ども達とも遊べるようになれば、ちょっとは安心できるかも」
「細いものね。体力もつけさせなきゃ」
「うん。それと、まともに日の光とかも浴びてなかったから。体の調子もちゃんと見ておかないといけないと思うんだよね」

双子がいた部屋には、天井に小さな窓があった。そこから朝方と夕方、日が横から射し込むと特殊な反射板によって下に光が集まる仕組みが施されていたのだ。

しかし、今のように日中の光はまともに浴びた事がない。お陰で、体温調節が既におかしいようだ。

「やっぱり熱がある。移動したってのもあるけど、日光浴は危ないかな」

顔が赤かった。それでも外に出た事と、ゼブロに乗った事など、初めての経験に興奮してもいるのだろう。嬉しそうな笑みを浮かべて火王に抱き付いている。

ここまでフラムで影を作って移動してきたのだが、それでも充分ではなかったようだ。

「サクヤ姐さん。悪いけど、この子達に数日ついててくれる?」
「構わないわ。新学期が始まるまで、もうやる事なくなっちゃったもの。ここで休養するつもりだったし」
「ごめん。ならお願い。私は、とりあえず夕刻頃に王様達にこの子達の事について話してくるから」
「わかったわ。火王も手伝ってくれそうだし、心配しないで」
「うん。もう数日すれば、エル兄様とも会わせてあげられるしね」

何はともあれ、王子達はこうしてディムースで保護されることになったのだった。

**********

舞台裏のお話。

リジット「おや、お帰りなさいませ」

地王 《見てきたぞ》

リジット「お嬢様ですか?」

地王 《地下にいた子ども達だ》

リジット「……エイミーの……そうですか。それで、病気などしていませんでしたか?」

地王 《ほっほっ、姫様が連れ出されたよ》

リジット「お嬢様が?」

地王 《愚かな人の慣習であったのだな。指摘されるようだ》

リジット「……」

地王 《どうした?》

リジット「いえ、私は人ではありませんから、無意識の内に、そのような慣習の間違いも指摘するのを避けていたようです……」

地王 《無理もなかろう。それに、立ち向かうには力がいる。体力や熱意なんかがな。だが、お前ももう若くない》

リジット「……そうですね」

地王 《姫様にお任せすればよかろう。あの方は、間違っている事にはっきりと立ち向かわれる。我らもおるでの》

リジット「はい」



つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎


若い者に託せばいいんです。


パパがいれば無敵ですね、
ここで過ごせば、王子達はきっと立派になれるでしょう。
おかしな技術とかうっかり習得してしまいそうです。


では次回、一日空けて21日です。
よろしくお願いします◎
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