女神なんてお断りですっ。

紫南

文字の大きさ
上 下
356 / 457
連載

506 王宮の秘密

しおりを挟む
2016. 10. 14

**********

それは夕刻頃。カルツォーネを見送った後だった。

部屋には今夜泊まっていくアデルとキルシュ、サクヤが残っていた。

「ティア様。歓談中失礼いたします」
「シル? 何かあった?」

王宮での裏通路整備の進捗状況を確認に行ってもらっていたシルが、突然部屋に現れたのだ。

「何かお宝が出たのかしら?」

サクヤもこの整備の事は知っているので、城ならもしかしてと期待の眼差しを向ける。

「いえ……その、エイミール様がティア様に急ぎ相談したい事があると……」
「へぇ、珍しいね。わかった。マティは……お兄様達の方だったね。フラムも、もうおネムになっちゃうし……」

その時、窓から見える高い木の上から鳴き声が聞こえた。

「あ、ゼブロがいた」
《グルっ》
「ゼブロちゃん、木に登るなんて凄いっ」
「……フットウルフ……じゃないのか?」

マティでも木に登るなんて事はできない。しかし、ゼブロは器用に爪を立て、枝を見極めて飛び上がってきたらしい。

「あれかな……子ども達の木登りをここ何日も見てたから……」

ティアがこのディムースに滞在している間、ゼブロの昼寝場所が、この木の下だった。

その木を、クィーグの子ども達が遊び場にしていたのだ。誰が一番に天辺まで行けるかと競っていた。

「まぁ、普通じゃないのは確かよね」
「うん……」

確かに普通ではない。ゼブロは神使獣。天からやって来た特別な獣だ。

「なら、ゼブロに乗せてもらおうかな」
《グルルル~ゥ》

任せてくれという意思が伝わってきた。

「ティア、ついでにルクス君とビアンちゃんの様子を見てきて」
「そうだね。二人とも胃に穴を開けてそうだから」

先日から王都でベリアローズとエルヴァストがAランク認定試験を受けているのだ。

ルクスは大事な伯爵家の次期当主であるベリアローズが心配で、審査に影響がないくらいの距離を取って、クエストを見守っている。その移動の為にマティが付き添っていた。

同じく甥っ子であるエルヴァストが心配なビアンも、一緒に不安気について行っているのだ。

「ルクスってば、私で過保護力を発揮しなくなったと思ったら、お兄様になんて……過労で早く老けそう」
「過保護力ってなんだよ……というか、それ、ルクスさんに言うなよ? 特に最後のやつ」

キルシュが眉根をキツく寄せて忠告した。

「キルシュ君、そこは大丈夫よぉ。だってティアは年上好きだもの」
「へぇ、やっぱりそうなんだぁ。ティアって年上キラーだもんね」
「ちょっとサクヤ姐さん。変な事言わないで。それとアデル。やっぱりってなによ……」

サクヤにからかわれるのは珍しくないのであまり気にしないが、アデルは素直に信じるので、その純粋さが刺さる時がある。

「あの……ティア様……」
「そうだった。じゃぁ、行ってくるから」
「「「行ってらっしゃい」」」

シルに促され、出発したティアは、真夜中に王宮へと辿り着いた。

「こちらです」

王宮の裏通路を使ってシルに案内されるまま進み、とある隠し部屋でエイミールと出会った。

「遅くなってごめんなさい」
「いいえ。このような時間にお呼びして申し訳ございません」

深々と頭を下げたエイミールは、メイド服を着ていた。

「その服は一体?」

普段はシンプルなワンピースを着ているのだが、昔メイドであったというだけあり、とても着慣れているようだ。

「これから会っていただく方々には、いつもこの姿で会っていますので」
「これから会う?」

どうやら、エイミールは会ってほしい相手がいるらしい。こんな夜更けに一体誰に会えというのか。

「こちらです」

一先ず、エイミールについて狭い通路を進む。ここも裏通路だが、脱出用の用途ではないのだろう。明かりも灯り、他のティアの知る通路よりも綺麗で、使い慣らされているのが分かる。

「この先に、一部の者しか知らない特別な部屋があるのです」
「そんな所が?」

ティアも散々探検したのだが、この通路は知らなかった。城のどの位置なのかが、何となく分かる程度だ。

そうして歩いていると、傾斜になっているのを感じた。どうやら、緩やかに地下へ入っているようだ。

「この辺り……離宮?」

離宮の下に繋がっているのではないかと見当を付ける。そこでふと、いつの間にか高くなった天井に違和感を覚えた。

灯りが届かないその天井に、模様が見えたのだ。

「あの天井の模様……災厄除けの……っ、まさか」

ティアは、その天井の模様とこんな地下の空間を知っている。

それは、かつて多くの王宮にあった隔離部屋の入り口の印。

「あれでお気付きになられるとは……ここは、王宮に生まれた双子を禍とならぬように封じる為の離宮です」
「双子がいるのっ?」

目の前に迫った扉は、冷たい印象のある黒く大きな扉だ。それに手をかけ、エイミールは苦し気に顔を歪めて言った。

「はい……表向きには、病弱故に顔を出す事はないとされ、双子ではなく、一年違いで生まれた王子と公表しております」

ゆっくりと押し開かれたその扉の中。地下とは思えないほど明るい部屋がある。

「こちらが、第三王子のイルーシュ様と第四王子のカイラント様です」

二人の幼い王子が身を寄せ合い、ソファーに埋もれながらこちらを不安げに見ていたのだった。

**********

舞台裏のお話。

ベル「エル。なんだか、今日のクエスト中、視線を感じなかったか?」

エル「ベルも感じたのか?」

ベル「あぁ、ティアだろうか……」

エル「いや、ティアがそこまでするとは思えんな」

ベル「となると……でも、マティはいそうだ」

エル「それは私も思った。あとは……ビアンか」

ベル「ならば、ルクスかな」

エ・ベ「「過保護だからな……」」


つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎


過保護だからです。


秘密の部屋は子ども部屋?
明るく居心地は良さそうです。


では次回、一日空けて16日です。
よろしくお願いします◎
しおりを挟む
感想 122

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

この度、双子の妹が私になりすまして旦那様と初夜を済ませてしまったので、 私は妹として生きる事になりました

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
*レンタル配信されました。 レンタルだけの番外編ssもあるので、お読み頂けたら嬉しいです。 【伯爵令嬢のアンネリーゼは侯爵令息のオスカーと結婚をした。籍を入れたその夜、初夜を迎える筈だったが急激な睡魔に襲われて意識を手放してしまった。そして、朝目を覚ますと双子の妹であるアンナマリーが自分になり代わり旦那のオスカーと初夜を済ませてしまっていた。しかも両親は「見た目は同じなんだし、済ませてしまったなら仕方ないわ。アンネリーゼ、貴女は今日からアンナマリーとして過ごしなさい」と告げた。 そして妹として過ごす事になったアンネリーゼは妹の代わりに学院に通う事となり……更にそこで最悪な事態に見舞われて……?】

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。