女神なんてお断りですっ。

紫南

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503 呪いでしょうか

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2016. 10. 9

**********

カランタは、ティアを抱き抱え、シェリスから勢い良く距離を取る。

「ティアに結婚はまだ早いよっ。父親である僕を倒してからっ……じゃなかった……とにかくっ、ティアとの結婚はまだダメだよっ!」

倒してからなんて言ったら、倒されてしまうに決まっていると思い、言い直したらしい。

ビシッと決めた後に、ビクビクと震えるのは少々みっともないと思うのだが、あえて口には出さなかった。それよりも、今このタイミングで現れた事に驚いたのだ。

「……とぅさま……」
「っ!? ティ、ティア……っ今っ、今なんてっ……っ」
「え? あ……えっと……」

思わず呟いた言葉にティア自身、動揺して目を逸らした。対して、カランタは感動に打ち震えているらしい。

「父様って……父様っ……もう一回お願いしますっ!」
「やだ」
「ガーン!」
「あっ」

ここでティアは自分の失敗に気付く。せっかく助けに来てくれたカランタを、自らノックアウトしてしまったのだ。

「おや。お義父様は隅に行ってしまいましたね。では、式の打ち合わせをしましょう」
「ちょっ、ちょい待って。カランタ~っ。と、父様~っ」
「うぅっ……どうせっ……どうせ僕は頼りなくて……父としての威厳も何も……その上……」
「お~い……」

呼び戻せない。部屋の隅に影を落とし、小さく丸まった背中にある翼は、どこかくすんだような、そんな色と力ないものに見えた。

「もういいですか? そうですっ、ドレスを見せましょうっ」

そう言って、シェリスは大きなクローゼットらしきものの方へと歩いていく。

「え? クローゼットなんて、この部屋にあったっけ?」

生活感など皆無の執務室だ。そんなもの目にも入らなかった。しかし、認識した今となっては、かなり存在感がある。大きいが、部屋の雰囲気を壊さない、とても上品な仕上がりだ。

「あなたも懇意にしているナルカ・バルクに作ってもらいました」
「へ、へぇ……さすがだね……」

他人との付き合いなどその辺の雑草よりも価値がないと思っているシェリスが、必要な物とはいえ、個人的に頼むなど、珍しい事もあるものだと感心する。

ギルドの他の職員達とも良い関係を築けているようだし、昔よりも人付き合いをするようになったものだと思うと、嬉しく感じる。

しかし、そんな微笑ましい気持ちは、そのクローゼットを開け放った瞬間、綺麗に凍り付いた。

「さぁ、見てくださいっ」
「……」

そこには光を纏うほど輝く白いウェディングドレスがあった。

そして、その隣には抜かりなくシェリスが着るであろう真っ白なタキシードも置かれている。

「どうですか? 着たくなりませんか?」
「へっ、え、えっと……それ、どうしたの……?」

声が変に裏返ってしまうのは仕方がない。喉は先ほどから水分が若干飛んでしまっている。意識が飛びそうになっているのも、気のせいではないかもしれない。

「獣人族の国に、この手の匠がいるのです。常に百年先まで予約が埋まっているのですが、昔のとある縁がありまして、特別に前倒ししていただいたのです。着る者を更に輝かせ、三日三晩心から幸せを感じられるというオプション付きですよ」
「……呪い……?」

その時、ティアの頭の中には、曰くあるピンク色のドレスが浮かんでいた。

間違いなくあの呪いのドレスを作った所と出どころは同じだろう。とんでもない代物だ。

「あ、着てみますか? 着たくなりましたよね?」
「い、いやぁ~……もったいないかな……」

マズイ。これを着たら、確実に速攻で結婚式を挙げる羽目になる。そうなるような術が掛かっていそうなのだ。ここは何が何でも回避しなくてはならない。

「いいんですよ? 試着も大切ですからね」
「……ですかね~……」

後がない。そう冷や冷やとしていたその時だった。

「だから、あんたは変態だってぇのよっ」

そう言って扉を勢い良く蹴破り、部屋へ飛び込んできたのはサクヤだった。

「え!? サクヤ姐さんっ? なんでここにっ、どうやってっ?」

王宮で別れたはずのサクヤが、なぜここにいるのか。どうやって来たのかと驚く。

そして、更にその後ろから黒い影が現れる。

「ははっ、来てみて正解だったね」
「カル姐っ!?」

続いてゆったりとした足取りで部屋に入って来たのは、カルツォーネだった。

「本当よ。イヤな予感がしたのよね。ちょっとカランタ君! 父親面したいならもっとしゃんとなさいっ。あの変態から娘を守らなくてどうするのよ!」
「ふぇっ? さ、サクヤさん?」

サクヤの呼び掛けに、カランタが暗い顔を上げた。

「なんです? ゾロゾロと。ここは遊びに来て良い場所ではないのですが」

扉を蹴破る行為は、ティア達の常識では友人を遊びに誘う時と同じだ。

「遊びに来たわけがないでしょ。変態からティアを守る為に来たのよ! まったく、姉さんったら、こんな奴の依頼を受けるなんて!」

そう腕を組み、美しくも妖しいウェディングドレスを見ながらため息をつくサクヤ。

「相変わらず良い腕だね。お姉さんお得意のおかしな魔術が付与されなければ問題ないんだけど。飾っておくには良いかな」
「本当よ! 着たものの心を変えるなんてっ……悪趣味にも程があるわ……」

どうやら、獣人族の国にいる人気の匠というのは、サクヤの姉らしい。そして、やはりシェリスが所有している心を乙女に変えるピンクのドレスは、その人の作品で間違いなさそうだ。

「良いお姉さんなんだけどねぇ。あれだろう? 君が変な目で見られないようにって、男の人が着ると心を乙女に変えるドレスを作ってプレゼントしてくれたんだよね。あれ、今はシェリーが持ってるんだっけ?」

まさしくティアが思い付いたドレスの話だ。

「そのはずよ? その甲斐もなく、まったく乙女心を理解できてないみたいだけど?」
「私のティアの心を、乙女心という不確かなもので一括りにはされたくありませんね。八割方、幻想で出来ているというのが、マティとも話した見解です。たった二割しか本心を感じられないより、私はこうして向き合って知っていく方を選びますよ」

シェリスはティアだけを見つめて微笑む。その間に、サクヤは抜かりなく滑り込んだ。

「女の子は夢を持って、見て成長していくのよ。所詮、人の心を理解できない変態にはほんの小指の先ほども解明出来っこないわ」

相変わらず、会えば口喧嘩という関係だ。いっそ清々しい。

「ドレスも、あんたが着れば良いんじゃない? きっと幸せを噛み締められるでしょう」
「ひがみですか? これだからフラフラと直ぐに気を変える尻軽なキツネは困ります」
「なんですってぇっ!」

これもある意味、仲がいいと言えるのかもしれない。

「ほらほら二人とも。ティアが虚ろな目をしているよ? 一度落ち着いて。それから、ここへ来たのは君の暴走を止める為だけじゃないからね」
「ふんっ、分かっていますよ。現状の確認でしょう」
「そういうことだよ。さぁ、ティアも座ろうか」
「カル姐っ……」

なんて心強いのだろう。カルツォーネは本当に頼りになると、ティアは涙を滲ませ、惚れ直したのだった。

**********

舞台裏のお話。

マティ《すごいね、ゼブロ。すっごく早かったよ》

ゼブロ《グルル》

マティ《うん。当然だよ。マティより速いやつなんていないもん》

ゼブロ《グルっ、グルル》

マティ《じゃぁ、いつか追いかけっこができるねっ》

ゼブロ《グルル~》

マティ《主が言ってたよショウジンあるのみって》

ゼブロ《グルルル~ゥ》

マティ《その意気だねっ》

冒険者A「何話してんだろうな……」

冒険者B「友情だな」

冒険者C「良い話だっ」

冒険者A「いや、何言ってんか分かんねぇだろ……」


つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎


弱いんです。


扱いには慣れているのでしょうか。
カル姐さんは、とっても頼りになります。
話題変更成功でしょうか。


では次回、また明日です。
よろしくお願いします◎
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