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2016. 9. 30
**********
ルクスは、ティアに結婚を考えられるような人物がいた事を知り、未だかつてない脅威と衝撃を受けていた。
他の男達は、今までの話から、重要な情報がティアやサクヤの口から出てくるのではと考え、いつになく真剣にティアの話を理解しようとしていたのだが、そのせいで、大混乱を起こしていた。
今この中でまともに思考できていたのは、ティアが女神サティアの生まれ変わりなのだという事情も知っており、ティアを、妹のように思っているエルヴァストだけだったのだ。
ただ、打ち明けられた時も深く考えず、話された真実をそうなのかと受け止めていたエルヴァストにとって、今が実感を得る時だった。
それはティアなら何でもありだと思い、話半分で聞いていたウルスヴァンとビアンもそうだ。それでも、エルヴァストが最も落ち着いているようだった。
ルクスが完全に立ち直るまで、自分がなんとか確かな情報をティアとサクヤから引き出さねばと思ったのだろう。
弟子としての使命感がエルヴァストの口と頭を動かしていた。
「その……セリ様というのが、この国の本当の建国の祖だと?」
エルヴァストはその名を一度ティアの口から聞いた事がある。その正体を知りたいとも思っていた。
「う~ん。どうなんだろう。でも、史実には残ってないみたいなんだよね~。サクヤ姐さんは知らない?」
「分からないわねぇ。私もこの国に戻って来たのは意外と最近だし。歴史とか気にしなかったもの。カルはどうなの?」
「聞いた事ない。そっか、確かに、カル姐の所の諜報部なら情報……あ、でもやっぱ、近場の国ぐらいしか三百年以上前のは難しいって言ってたかも」
それが確かなのかどうかが分からないと首を捻るティア。しかし、そこで不意に壁に向けて声を掛けた。
「そうだっ。クィーグなら、この国の歴史をあの頃から見てない?」
他国であり、魔族であるカルツォーネの所よりも、クィーグならばもしかしたらと思ったのだ。これにサクヤも賛同する。
「そうよ。確か、あなた達はバトラールの王家とマティについていたのよね?」
ティアが目を向けるのと同じ方向へとサクヤも問いかける。そこは壁なのだが、不意にスッと縦線が入り、内側へ向けて小さな戸が開いたのだ。
「なっ!?」
「えっ!?」
「……その扉は私も知らないのだが……」
レイナルートとエルヴァストは驚愕の声を上げ、王が呆然と呟く。
他の者は開いた口が塞がらないといった状況だった。
出てきたのは現クィーグ部隊の頭領であるフィズだ。女性と分かった事で、皆が更に驚いていた。
フィズは、皆に顔を向ける事なく、すぐにその場に跪く。
「失礼いたしました。フィズと申します」
そうはっきりとした声で言えば、王が落ち着いた様子で尋ねた。
「フィズというのが名か。君はどうやってここに? 王である私も知らぬ通路があるようだが、何者だ?」
怒っているのではない。少々、動揺しているようだ。この問いかけを受け、フィズは少しだけ顔を上げると、ティアへ許可を取るべく視線を向ける。
これに頷くと、再び顔を伏せて口を開いた。
「我らはかつて、バトラール王家と赤髪のディストレアと呼ばれたマティアス・ディストレア様と誓約を交わしたクィーグの一族の末裔です」
「赤髪の……」
思わぬ人物の名を告げられ、王は混乱する。信用してもいいのかとティアへ顔を向けた。
「大丈夫。嘘じゃないよ。クィーグの一族は、五百年以上前からこの地で生きてる」
「……続けてくれ」
そこに偽りはない。だから、心配する事はないと頷くと、王はぎこちなく頷き返し、再びフィズを見て先を促した。
フィズは顔を伏せていても、声のトーンや王の気配から判断し、慎重に言葉を選んでいく。
「我らは、マティアス様と、ご息女であられたサティア様の命を受けております。その時より五百数十年。セランディーオ様を助け、セランディーオ様に繋がる現フリーデル王家と、国を支える者達が育つ学び舎であるフェルマー学園の守護を密かに続けていた次第です」
クィーグが誓約を交わしたのは、あくまでもマティアスとバトラール王家だ。だからこそ、あえて現王達と接触はしてこなかった。
ただし、フェルマー学園では、誓約ではなく警護の契約をしている。これは表立って動ける場所と立場を得る為だった。
表の活動拠点をフェルマー学園にする事で、王都への移動も無理なくでき、外敵を発見しやすい距離を保っていたのだ。
「ずっと守っていたと?」
「はい。ですので、ティア様のご質問にも答えられるかと」
「そうそう。セリ様が私との約束を守ってくれたなら、繋がってるんじゃないかと思ったの。それにこの国の名前……フリーデルってのがね……まさかとは思うけど……」
気まずげに目をそらすティア。そこでサクヤがティアの言わんとする事に思い当たったのだろう。手を叩き、納得だと大きく頷いて言った。
「そうよっ。フリーデルっ。語源はフリュー……いいえ、フリシィールとデランドじゃないかしらっ。それならっ……ふふふっ、この国の名前そのものがメッセージなんて、本当にやるわね」
「うっ……ちょ、ちょっと真っ直ぐすぎるっていうか……恥ずかし過ぎるっ……」
サクヤが嬉しそうに突くと、ティアは真っ赤になって顔を覆う。
珍しいティアの反応に、皆の視線が集中する。その中で、この答えがずっと気になっていたエルヴァストが堪らず身を乗り出してサクヤへ尋ねた。
「どういう意味なんですか?」
「ん? ふふふっ」
「ちょっ、サクヤ姐さんっ」
言わないで欲しいとティアは慌てるが、ここまで出てしまっては後には引けない。
サクヤは楽しそうに種明かしをした。
「古代語でフリシィールは『愛する人』、『想い人』、『恋人』って意味。フリューってのが『愛』って意味を持つの。それとデランドは『約束の地』とか『誓約の場所』とも訳せるわね。だから、フリーデルで『あなたに愛を誓う場所』って事になるんじゃないかしらん?」
「なるほど。そうなると……え?」
エルヴァストは納得だと頷いた後、それが指す意味を思ってティアを見る。
「だから、ストレート過ぎるって言ったじゃん……っ」
「そういう事か……愛されてたんだな」
「っ……言わないで……」
真っ赤になって頭を抱えたのは、単に恥ずかしかったからだけではなく、想われていた事を実感した為に他ならなかった。
**********
舞台裏のお話。
ラキア「やはり、直接見なくては難しいですね……」
子どもA「なに見てるの? あ、お城の見取り図だねっ」
ラキア「おや。さすがはクィーグの血をひくだけのことはありますね。」
子どもB「分かるよ。だって、僕らも作り方知ってるもん」
ラキア「もう知っているのですか? 実践はしましたか?」
子どもA「うん。ドーバン侯爵のお屋敷の見取り図を作ったよ」
子どもB「試験だったもんな」
ラキア「そうでしたか。それにしてもドーバンとは……それは今回だけなのでしょうか……」
子どもB「ううん。最終試験だから、毎回だって言ってた」
子どもA「あそこのお屋敷が、一番隠し部屋が多いんだって。本当は、ヒュースリー伯爵領の端っこの辺にあるお屋敷が昔は最終試験場だったみたいだけどね」
ラキア「それは……ウチなのでは……」
子どもA「どうかした?」
ラキア「いいえ……今は侯爵のお屋敷に変わってしまったんですね」
子どもB「うん。でもね。エリート部隊に入る試験は、その昔の最終試験場でやるんだって。すっごい難しいっておじちゃん達が言ってた」
子どもA「でも、なんか最近改装したから、もっと難しいんだって。いつか行ってみたいなぁ」
ラキア「そうですね。いつか挑戦してみてください」
子ども達「「うんっ」」
ラキア「……ティア様の設計が入ってますから、本当に難しいでしょうけど……」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
ラキアちゃんの実家で、今はティアちゃんプロデュースのヒュースリー家の別荘だったりします。
セリ様……やる奴です。
変態エルフ様や、奥手な保護者様にはない要素を持っていました。
本当に、ティアちゃんは惜しい相手を逃していたのかもしれません。
では次回、一日空けて2日です。
よろしくお願いします◎
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ルクスは、ティアに結婚を考えられるような人物がいた事を知り、未だかつてない脅威と衝撃を受けていた。
他の男達は、今までの話から、重要な情報がティアやサクヤの口から出てくるのではと考え、いつになく真剣にティアの話を理解しようとしていたのだが、そのせいで、大混乱を起こしていた。
今この中でまともに思考できていたのは、ティアが女神サティアの生まれ変わりなのだという事情も知っており、ティアを、妹のように思っているエルヴァストだけだったのだ。
ただ、打ち明けられた時も深く考えず、話された真実をそうなのかと受け止めていたエルヴァストにとって、今が実感を得る時だった。
それはティアなら何でもありだと思い、話半分で聞いていたウルスヴァンとビアンもそうだ。それでも、エルヴァストが最も落ち着いているようだった。
ルクスが完全に立ち直るまで、自分がなんとか確かな情報をティアとサクヤから引き出さねばと思ったのだろう。
弟子としての使命感がエルヴァストの口と頭を動かしていた。
「その……セリ様というのが、この国の本当の建国の祖だと?」
エルヴァストはその名を一度ティアの口から聞いた事がある。その正体を知りたいとも思っていた。
「う~ん。どうなんだろう。でも、史実には残ってないみたいなんだよね~。サクヤ姐さんは知らない?」
「分からないわねぇ。私もこの国に戻って来たのは意外と最近だし。歴史とか気にしなかったもの。カルはどうなの?」
「聞いた事ない。そっか、確かに、カル姐の所の諜報部なら情報……あ、でもやっぱ、近場の国ぐらいしか三百年以上前のは難しいって言ってたかも」
それが確かなのかどうかが分からないと首を捻るティア。しかし、そこで不意に壁に向けて声を掛けた。
「そうだっ。クィーグなら、この国の歴史をあの頃から見てない?」
他国であり、魔族であるカルツォーネの所よりも、クィーグならばもしかしたらと思ったのだ。これにサクヤも賛同する。
「そうよ。確か、あなた達はバトラールの王家とマティについていたのよね?」
ティアが目を向けるのと同じ方向へとサクヤも問いかける。そこは壁なのだが、不意にスッと縦線が入り、内側へ向けて小さな戸が開いたのだ。
「なっ!?」
「えっ!?」
「……その扉は私も知らないのだが……」
レイナルートとエルヴァストは驚愕の声を上げ、王が呆然と呟く。
他の者は開いた口が塞がらないといった状況だった。
出てきたのは現クィーグ部隊の頭領であるフィズだ。女性と分かった事で、皆が更に驚いていた。
フィズは、皆に顔を向ける事なく、すぐにその場に跪く。
「失礼いたしました。フィズと申します」
そうはっきりとした声で言えば、王が落ち着いた様子で尋ねた。
「フィズというのが名か。君はどうやってここに? 王である私も知らぬ通路があるようだが、何者だ?」
怒っているのではない。少々、動揺しているようだ。この問いかけを受け、フィズは少しだけ顔を上げると、ティアへ許可を取るべく視線を向ける。
これに頷くと、再び顔を伏せて口を開いた。
「我らはかつて、バトラール王家と赤髪のディストレアと呼ばれたマティアス・ディストレア様と誓約を交わしたクィーグの一族の末裔です」
「赤髪の……」
思わぬ人物の名を告げられ、王は混乱する。信用してもいいのかとティアへ顔を向けた。
「大丈夫。嘘じゃないよ。クィーグの一族は、五百年以上前からこの地で生きてる」
「……続けてくれ」
そこに偽りはない。だから、心配する事はないと頷くと、王はぎこちなく頷き返し、再びフィズを見て先を促した。
フィズは顔を伏せていても、声のトーンや王の気配から判断し、慎重に言葉を選んでいく。
「我らは、マティアス様と、ご息女であられたサティア様の命を受けております。その時より五百数十年。セランディーオ様を助け、セランディーオ様に繋がる現フリーデル王家と、国を支える者達が育つ学び舎であるフェルマー学園の守護を密かに続けていた次第です」
クィーグが誓約を交わしたのは、あくまでもマティアスとバトラール王家だ。だからこそ、あえて現王達と接触はしてこなかった。
ただし、フェルマー学園では、誓約ではなく警護の契約をしている。これは表立って動ける場所と立場を得る為だった。
表の活動拠点をフェルマー学園にする事で、王都への移動も無理なくでき、外敵を発見しやすい距離を保っていたのだ。
「ずっと守っていたと?」
「はい。ですので、ティア様のご質問にも答えられるかと」
「そうそう。セリ様が私との約束を守ってくれたなら、繋がってるんじゃないかと思ったの。それにこの国の名前……フリーデルってのがね……まさかとは思うけど……」
気まずげに目をそらすティア。そこでサクヤがティアの言わんとする事に思い当たったのだろう。手を叩き、納得だと大きく頷いて言った。
「そうよっ。フリーデルっ。語源はフリュー……いいえ、フリシィールとデランドじゃないかしらっ。それならっ……ふふふっ、この国の名前そのものがメッセージなんて、本当にやるわね」
「うっ……ちょ、ちょっと真っ直ぐすぎるっていうか……恥ずかし過ぎるっ……」
サクヤが嬉しそうに突くと、ティアは真っ赤になって顔を覆う。
珍しいティアの反応に、皆の視線が集中する。その中で、この答えがずっと気になっていたエルヴァストが堪らず身を乗り出してサクヤへ尋ねた。
「どういう意味なんですか?」
「ん? ふふふっ」
「ちょっ、サクヤ姐さんっ」
言わないで欲しいとティアは慌てるが、ここまで出てしまっては後には引けない。
サクヤは楽しそうに種明かしをした。
「古代語でフリシィールは『愛する人』、『想い人』、『恋人』って意味。フリューってのが『愛』って意味を持つの。それとデランドは『約束の地』とか『誓約の場所』とも訳せるわね。だから、フリーデルで『あなたに愛を誓う場所』って事になるんじゃないかしらん?」
「なるほど。そうなると……え?」
エルヴァストは納得だと頷いた後、それが指す意味を思ってティアを見る。
「だから、ストレート過ぎるって言ったじゃん……っ」
「そういう事か……愛されてたんだな」
「っ……言わないで……」
真っ赤になって頭を抱えたのは、単に恥ずかしかったからだけではなく、想われていた事を実感した為に他ならなかった。
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舞台裏のお話。
ラキア「やはり、直接見なくては難しいですね……」
子どもA「なに見てるの? あ、お城の見取り図だねっ」
ラキア「おや。さすがはクィーグの血をひくだけのことはありますね。」
子どもB「分かるよ。だって、僕らも作り方知ってるもん」
ラキア「もう知っているのですか? 実践はしましたか?」
子どもA「うん。ドーバン侯爵のお屋敷の見取り図を作ったよ」
子どもB「試験だったもんな」
ラキア「そうでしたか。それにしてもドーバンとは……それは今回だけなのでしょうか……」
子どもB「ううん。最終試験だから、毎回だって言ってた」
子どもA「あそこのお屋敷が、一番隠し部屋が多いんだって。本当は、ヒュースリー伯爵領の端っこの辺にあるお屋敷が昔は最終試験場だったみたいだけどね」
ラキア「それは……ウチなのでは……」
子どもA「どうかした?」
ラキア「いいえ……今は侯爵のお屋敷に変わってしまったんですね」
子どもB「うん。でもね。エリート部隊に入る試験は、その昔の最終試験場でやるんだって。すっごい難しいっておじちゃん達が言ってた」
子どもA「でも、なんか最近改装したから、もっと難しいんだって。いつか行ってみたいなぁ」
ラキア「そうですね。いつか挑戦してみてください」
子ども達「「うんっ」」
ラキア「……ティア様の設計が入ってますから、本当に難しいでしょうけど……」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
ラキアちゃんの実家で、今はティアちゃんプロデュースのヒュースリー家の別荘だったりします。
セリ様……やる奴です。
変態エルフ様や、奥手な保護者様にはない要素を持っていました。
本当に、ティアちゃんは惜しい相手を逃していたのかもしれません。
では次回、一日空けて2日です。
よろしくお願いします◎
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