女神なんてお断りですっ。

紫南

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2016. 9. 28

**********

レイナルートは、小さく身を震わせた。断罪の女神は、王家にとっては脅威の対象だ。言い伝えられ方に問題があるのかもしれないが、サティアは王家を破滅させた存在。それを心しろと王子として言い聞かされてきたのだろう。

そんな裏事情を、エルヴァストから聞いた時、ティアは呆れてものが言えなくなった。

「怖い?」
「え?」

そう尋ねたのは、ティアとしても予想外だった。思わず口をついて出ていたのだ。

「それは、女神サティアをという事だろうか……」
「うん……」

確かにティアは王家を滅ぼす事になった。そこに事情があったとはいえ、その事実は変えられない真実だ。

「幼い頃は、怖いと思う事もあった。だが、間違いを正し、民を救った方だ。間違いを正す為に、あえて辛い選択をされた……そんな方を怖いなどと言うのは失礼だろう」

レイナルートはきっと、これまでに何度も考えたのだろう。断罪の女神と呼ばれる神に真っ直ぐに向き合えるようにするにはどうすれば良いのか。

この教訓をどう生かすべきなのか。そうして考えた言葉が、今こうして出てきている。

「そっか……」
「っ……」

ティアが浮かべたのは、慈愛に満ちた微笑み。誤解される事なく、正しく考えようと、向き合おうとした王太子が愛しく思えたのだ。

それはまるで、自身の子どもが困難な問題に立ち向かい、正しく答えを見つけた時のような嬉しさだった。

「ふふっ、良かったわね、王太子様。今のはポイント高いわよ?」
「それはどういう……」
「その答え、忘れない方がいいって事よ。今のでサティアを怖いなんて言ったら、ティアだけじゃなく、私も、某エルフのギルドマスターも、現魔族の王も敵に回す事になったでしょうね」
「なっ!?」

とっても危険な問い掛けだったと知り、レイナルートは真っ青になっていた。

「それは私も危ないな。覚えておこう」

そう言って苦笑する王に、サクヤは楽しそうに笑った。

「そうね。私達にとって、サティアは特別なの。だから……今その名を騙ってる奴が許せないわ……」
「っ、先生……」
「あら、ウル。そんな顔しなくてもこんな所で暴れたりしないわ。ねっ、ティア」
「それ、さっきの事責めてる?」
「やぁねぇ、怒っちゃイヤよって事。あんただけじゃないのよ。奴らにイラついてるのは」
「はぁ~い」

重くなった空気が、サクヤのお陰で払拭された。こんな時、本当に気がきく人だ。

「それで、この国のって事は、ラピスタよね。その神具だから確か……ラプーシュの神環ね」
「そうなんだよね。あいつらが多分持ってるっぽくてさ」

本当に嫌になるよと言うティア。そこで、ドーバン侯爵が不意に引っ掛かりを覚え、尋ねてきた。

「先ほど、王に管理出来ているかと尋ねたのはワザとか?」
「お? そうだったのか?」

王も、ティアが既に奴らの手にあると知っていたように聞こえたようだ。

「あはは、ごめんね。王様がどこまで神具について注意してるかとか知りたかったからさ。それに、やっぱり王太子にも伝えてなかったみたいだし」
「それを確認したかったのか?」
「そういう事。あ、でも、この王宮の隅々まで調べたのは本当だよ? 物のついでにね」
「……ついでで調べるものではないかと……」

あっけらかんと言うティアに、侯爵は相変わらず分からないなと肩を落とした。

「その、神具というのは、伝説の神の魔導具の事だろうか……」

王太子は、ティアの言葉の端々から、自分に何か関わりがあるように思えてならなかった。

「そうだよ。ここの王家はラピスタ王国……バトラール王国と友好関係にあった国が元なの。って、そんなのは分かってるかな」
「……いえ……ラピスタという名も初めて聞きました……」
「あらら。エル兄様が知らないのは知ってたけど、王太子も?」

これはどういう事かと王を見れば、こちらも微妙な顔をしていた。それに先に気付いたのはサクヤだったらしい。

「王様も知らなかったみたいねぇ。ティアはどこからその情報を手に入れたの?」
「へ? だって、王様の顔、セリ様と瓜二つなんだもん。血は完全に入ってるし、何よりラプーシュの神環はラピスタの王家のものだったんでしょ? 違うの?」

そこまで言って、そういえば確実な情報として得たものではなかったなと思い直す。

「いいえ、多分あってるのよね? ラプーシュの神環は、失くなるまではちゃんとここの王家で管理してたんでしょ?」

サクヤが王へ確認する。これに、知らなかった情報が一気に入ってきた事で、少々動揺したままの王が頷く。

「あ、あぁ。それは確実だ。受け継ぐべき、正統な血筋であるとの口伝はあった」

口伝では、どこまで信用して良いか分からないが、一応はそういう事らしい。

それを聞いてサクヤは笑みを浮かべ、?茲杖をつきながら王を見つめた。

「へぇ……そっか。こんな顔だったのね。男前じゃない。ホント、結婚しちゃえば良かったのに」
「……そんな簡単に……」
「だって『俺の本当の妻は、お前だけだと思っている』って、めちゃくちゃ愛されてんじゃない。羨ましいっ。あんな変態エルフに捕まるんじゃないわよっ。もっとティアを大切にして、セリさんより強い思いを持ってなきゃ、恨まれるわ」
「う、恨まれるって……そんな人じゃないし……」

セランディーオは、優し過ぎるお人好しな王様だった。それでも王としての力量は充分で、頼れる人だったからこそ、ティアはバトラールの後を頼んだのだ。

「あらん? なによ、未練あるのねっ。あ、そっか、だから王様にこんなにも全面協力してるのね?」
「ちっ、違うって! 彼奴らが目の前をチョロチョロして鬱陶しいから、折角なら国の力も使って完膚なきまでに潰してやろうと思っただけだもんっ」
「またまたぁ。そんな言い訳通らないわよんっ」
「サクヤ姐さんはすぐに色恋沙汰に結びつけるんだからっ」
「その方が楽しいじゃなぁい♪」

そんなティア達の会話に圧倒されていた男達。辛うじて声を出したのは、免疫もあり、ショックの小さいエルヴァストだった。

「ティア……早い所、色々と説明してもらえないか? ついていけなくて……それに、その……師匠は灰になっているんだが……」
「へ? ルクス?」

目を向けた先にでは、ルクスが崩れ落ちていた。

**********

舞台裏のお話。

ゲイル「なんだ?」

ゼノ「どうかしたのか?」

ゲイル「んん? いや、なんか呼ばれてるような……気のせいか」

フラム《キュ~っ、プフゥ~っ》

ゲイル「うおおっ、フラム、炎を吐くなっ」

フラム《キュ、キュ?》

火王  《すまんな。これが気に入ったらしい》

フラム《クプっ》

ゼノ「気に入ったとは、先ほどの炎の柱ですかな?」

火王  《そうだ》

フラム《キュ~ゥ》

ゲイル「なんで嬉しそうなんだよ……危ねぇって」

火王  《心配ない。温度は低めだ》

ゲイル「そういう問題じゃねぇって……」

フラム《キュ? キュキュっ?》

ゲイル「な、なんだ?」

ファル「……避けられるから大丈夫だろうと言っている……」

ゼノ「なるほど」

ゲイル「そうじゃねぇだろ……」

フラム《キュ~》

ファル「……頭のいい子だ……」

火王  《フラムは賢い》

フラム《キュキュキュ~っ》

ゼノ「……褒めて育てるつもりか?」

ゲイル「甘やかしてんじゃねぇよ……」


つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎


パパが二人ですね。


まさかの恋話。
こんなところ、某エルフ様には見せられません。
ルクス君、頑張れっ。


では次回、一日空けて30日です。
よろしくお願いします◎
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