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492 その道のりは険しく?
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2016. 9. 19
**********
次の日。
一緒に来た冒険者達とゆっくり帰ると言うザランとは別れたティア達は、捕らえた男達を運びながら、王都へ向かっていた。
運ぶといっても、これがかなり悩んだ。氷漬けにして運ぶやり方が、ティアの護送方法の一つにあるのだが、王都までの道は地形に問題があった。
ただ平原を行けばいいのならば荷車をマティに引かせれば早い。しかし、小さいが山や丘、森もある。これらを避ける事はできなかった。
だからといって、ワイバーンを使う事も出来ない。ミックとバンは操られていたワイバーン達を引き連れ、新しい巣を探しに行ってもらっていたのだ。
これにカランタも同行してもらっていた。ワイバーンが群れで動くのを、見られないようにする為だ。
よって、空を吊るして飛ぶなんて事も選択肢には入らない。そんな訳でどうしたかといえば、荷車の滑車が無理ならば地面を滑らせてしまえと考えたのだ。
「氷って護送の為のものみたいだね」
「絶対に違うからな……」
男達を、村で捨てられていた壊れて滑車を無くした荷台に括り付け、地面に着く底に、雪山で使うソリを似せて緩やかな半円を描くように作った木の板を取り付けた。
重くなるが、転倒防止になるだろう。それを引くのはマティだ。重量に問題はない。
ティアとルクスがゼブロに乗り、男達を引くマティにはシルが乗った。
シルは男爵の所で説得役に回っていたのだが、予想したよりも素直に、侵入者達が自分達の置かれた状況に納得した為、ティア達が男爵領を出発してから一時間としないうちにティア達と合流すべく走ってきたらしい。
シル達クィーグの身体能力は冒険者の比ではない。馬を乗り潰し、最後には自身の足で走って夜明けまでに合流を果たしていた。王都にいたとはいえ、クィーグ達は国内外を広く調査、把握しており、裏道や獣道を駆使してきたようだ。
クィーグの三のナンバーを持つシルだ。パッとしない見た目や性格のせいで忘れがちだが、かなりの能力と実力を持っている。
そしてシルも合流し、出発したティア達。ゼブロが先頭を走り、ティアが道を凍らせていく。
縦に並んで走っていたのだが、途中でゼブロが道を凍らせる役をかって出た。
王都まであと半分という所で今、ゼブロが走った跡が氷の絨毯となってマティの道を作っていた。お陰でティアはコースを指示するだけで良かった。
「マティは楽しそうだね」
「……シルが大変そうだが?」
「あ~……シルって気弱そうな顔してるけど、かなり根性あるよね」
「話をそらすな。まったく、マティ! 後で好きなだけ滑ってもいいから、ちゃんと走れ!」
《ほんと? 了解!》
マティは氷の絨毯を飛び跳ねてはその力で滑り、また飛び跳ねてと、半ば遊びながら進んでいた。
乗っているシルも大変だが、その後ろに引かれている荷台に括られた男達はそろそろ命が危ないかもしれない。
「マティのやつ、犯人達が死んだらどうするんだ」
「自傷行為は止めてるけど、事故は防げないもんね」
「それがわかってるなら、ちゃんと注意しろよ……」
「うん。忘れてた」
「お前なぁ……」
ルクスには分かった。忘れてたいたのは、注意する事ではなく、男達を運んでいる事だ。
「だって、今まで道を選ぶので必死だったんだもん。いくらマティでも、後ろを気にしながら走るのって大変なんだよ? 木をなぎ倒して走らせるわけにもいかないし、下手なコースを取ると、魔獣達を刺激しちゃうし」
村を出た辺りからここまでの間には、森が多く、その間に小さな村や町が点在している。
気配を消していたとしても、マティや、ゼブロが通る事で、その森に棲む魔獣達を刺激し、万が一にも村や町の方へ逃げるなんて事があってはならない。
先の範囲にいる魔獣達の気配を探り、最も影響がない道を選ぶ。それは、ティアの神経をすり減らしていった。
そんなティアの様子に気付いたゼブロが、代わりに氷の道を作るようになり、ようやく余裕が戻ってきたのだ。
「王都まであと少しっ。ん?」
「どうした?」
ティアはふと感じた気配に、思わず顔を上げた。
「あっ」
「ん?」
釣られてルクスも上を見上げると、それを認識するよりも前にマティが叫んだ。
《マスターだっ!》
「シェリー?」
「……」
そこには、グリフォンに乗ったシェリスがいたのだ。
**********
舞台裏のお話。
トーイ「まだ足りないな……」
ケイギル「そうだな。こんなに体力がないとは……」
トーイ「でも、僕達もそうだったかもしれないって最近反省する」
ケイギル「あぁ……もったいなかったな……」
チーク「学生時代に気付きたかった」
ツバン「でもあの時は真剣にやってるつもりだったよね」
トーイ「空回っていたのかもな。何より、ほどんど何も考えていなかった。もちろん、あの時は考えていたつもりだったんだが……」
ケイギル「今思い出すと、大した問題でもないのに、生きる事に絶望するほどの悩みだと思っていたりもしたな……」
チーク「それは確かに僕にも身に覚えがある。親に失望されるのが怖くて、いっそ死んだ方がましだとも思ったな」
トーイ「僕もだ。大した事じゃないのにな。なんでそんな事で失望するんだか。親の方がおかしいって今は思うよ」
ケイギル「ははっ、誰も同じか。確かに、必死にやってそれでも失望されるのはおかしい。そんな事も分からない……それが子どもだったって事なんだろうな」
ト・チ・ツ「「「大人になったんだな……」」」
ケイギル「しみじみ言うなよ……言われるぞ」
トーイ「はっ、ティア様に言われる!」
チーク「言われるなっ、絶対!」
ツバン「うん。言われちゃうよ。それも冷めた目で!」
ト・チ・ツ「「「ジジくさって!!」」」
ケイギル「……なんで嬉しそうなんだ……」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
大人になったなって思う瞬間なんでしょうか。
護送も楽しく。
遊び心は忘れずに。
そして現れるお久しぶりなマスター様です。
では次回、一日空けて21日です。
よろしくお願いします◎
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次の日。
一緒に来た冒険者達とゆっくり帰ると言うザランとは別れたティア達は、捕らえた男達を運びながら、王都へ向かっていた。
運ぶといっても、これがかなり悩んだ。氷漬けにして運ぶやり方が、ティアの護送方法の一つにあるのだが、王都までの道は地形に問題があった。
ただ平原を行けばいいのならば荷車をマティに引かせれば早い。しかし、小さいが山や丘、森もある。これらを避ける事はできなかった。
だからといって、ワイバーンを使う事も出来ない。ミックとバンは操られていたワイバーン達を引き連れ、新しい巣を探しに行ってもらっていたのだ。
これにカランタも同行してもらっていた。ワイバーンが群れで動くのを、見られないようにする為だ。
よって、空を吊るして飛ぶなんて事も選択肢には入らない。そんな訳でどうしたかといえば、荷車の滑車が無理ならば地面を滑らせてしまえと考えたのだ。
「氷って護送の為のものみたいだね」
「絶対に違うからな……」
男達を、村で捨てられていた壊れて滑車を無くした荷台に括り付け、地面に着く底に、雪山で使うソリを似せて緩やかな半円を描くように作った木の板を取り付けた。
重くなるが、転倒防止になるだろう。それを引くのはマティだ。重量に問題はない。
ティアとルクスがゼブロに乗り、男達を引くマティにはシルが乗った。
シルは男爵の所で説得役に回っていたのだが、予想したよりも素直に、侵入者達が自分達の置かれた状況に納得した為、ティア達が男爵領を出発してから一時間としないうちにティア達と合流すべく走ってきたらしい。
シル達クィーグの身体能力は冒険者の比ではない。馬を乗り潰し、最後には自身の足で走って夜明けまでに合流を果たしていた。王都にいたとはいえ、クィーグ達は国内外を広く調査、把握しており、裏道や獣道を駆使してきたようだ。
クィーグの三のナンバーを持つシルだ。パッとしない見た目や性格のせいで忘れがちだが、かなりの能力と実力を持っている。
そしてシルも合流し、出発したティア達。ゼブロが先頭を走り、ティアが道を凍らせていく。
縦に並んで走っていたのだが、途中でゼブロが道を凍らせる役をかって出た。
王都まであと半分という所で今、ゼブロが走った跡が氷の絨毯となってマティの道を作っていた。お陰でティアはコースを指示するだけで良かった。
「マティは楽しそうだね」
「……シルが大変そうだが?」
「あ~……シルって気弱そうな顔してるけど、かなり根性あるよね」
「話をそらすな。まったく、マティ! 後で好きなだけ滑ってもいいから、ちゃんと走れ!」
《ほんと? 了解!》
マティは氷の絨毯を飛び跳ねてはその力で滑り、また飛び跳ねてと、半ば遊びながら進んでいた。
乗っているシルも大変だが、その後ろに引かれている荷台に括られた男達はそろそろ命が危ないかもしれない。
「マティのやつ、犯人達が死んだらどうするんだ」
「自傷行為は止めてるけど、事故は防げないもんね」
「それがわかってるなら、ちゃんと注意しろよ……」
「うん。忘れてた」
「お前なぁ……」
ルクスには分かった。忘れてたいたのは、注意する事ではなく、男達を運んでいる事だ。
「だって、今まで道を選ぶので必死だったんだもん。いくらマティでも、後ろを気にしながら走るのって大変なんだよ? 木をなぎ倒して走らせるわけにもいかないし、下手なコースを取ると、魔獣達を刺激しちゃうし」
村を出た辺りからここまでの間には、森が多く、その間に小さな村や町が点在している。
気配を消していたとしても、マティや、ゼブロが通る事で、その森に棲む魔獣達を刺激し、万が一にも村や町の方へ逃げるなんて事があってはならない。
先の範囲にいる魔獣達の気配を探り、最も影響がない道を選ぶ。それは、ティアの神経をすり減らしていった。
そんなティアの様子に気付いたゼブロが、代わりに氷の道を作るようになり、ようやく余裕が戻ってきたのだ。
「王都まであと少しっ。ん?」
「どうした?」
ティアはふと感じた気配に、思わず顔を上げた。
「あっ」
「ん?」
釣られてルクスも上を見上げると、それを認識するよりも前にマティが叫んだ。
《マスターだっ!》
「シェリー?」
「……」
そこには、グリフォンに乗ったシェリスがいたのだ。
**********
舞台裏のお話。
トーイ「まだ足りないな……」
ケイギル「そうだな。こんなに体力がないとは……」
トーイ「でも、僕達もそうだったかもしれないって最近反省する」
ケイギル「あぁ……もったいなかったな……」
チーク「学生時代に気付きたかった」
ツバン「でもあの時は真剣にやってるつもりだったよね」
トーイ「空回っていたのかもな。何より、ほどんど何も考えていなかった。もちろん、あの時は考えていたつもりだったんだが……」
ケイギル「今思い出すと、大した問題でもないのに、生きる事に絶望するほどの悩みだと思っていたりもしたな……」
チーク「それは確かに僕にも身に覚えがある。親に失望されるのが怖くて、いっそ死んだ方がましだとも思ったな」
トーイ「僕もだ。大した事じゃないのにな。なんでそんな事で失望するんだか。親の方がおかしいって今は思うよ」
ケイギル「ははっ、誰も同じか。確かに、必死にやってそれでも失望されるのはおかしい。そんな事も分からない……それが子どもだったって事なんだろうな」
ト・チ・ツ「「「大人になったんだな……」」」
ケイギル「しみじみ言うなよ……言われるぞ」
トーイ「はっ、ティア様に言われる!」
チーク「言われるなっ、絶対!」
ツバン「うん。言われちゃうよ。それも冷めた目で!」
ト・チ・ツ「「「ジジくさって!!」」」
ケイギル「……なんで嬉しそうなんだ……」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
大人になったなって思う瞬間なんでしょうか。
護送も楽しく。
遊び心は忘れずに。
そして現れるお久しぶりなマスター様です。
では次回、一日空けて21日です。
よろしくお願いします◎
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