女神なんてお断りですっ。

紫南

文字の大きさ
上 下
339 / 457
連載

486 山越え?

しおりを挟む
2016. 9. 9

**********

少々長い男爵への報告を終えたティアは、シルを男爵の所へ残し、ルクス、カランタ、ミック、ワイバーンのバン、それと神使獣だというゼブロとマティでソクラ伯爵領へ向けて出発した。

ソクラ伯爵領へは、マティとバン、ゼブロに分乗して移動した。

マティとティアだけならばそれほど時間はかからないのだが、今回はそうもいかない。空を行くワイバーンの速度よりもマティは速い。そう考えると、マティの速さは驚異的なものだと再認識できた。

ソクラ伯爵領に入ったのは、昼をかなり過ぎた頃だった。それでも馬ならば数日掛かってしまうのだ。充分過ぎる速さだろう。

「そういえば、男爵には何と言ってきたんだ?」

ルクスが今更ながらに尋ねた。

「ソフバっていう神官の事も説明して、これ以降は心配ないって言っておいた。捕まえた人達を、そのまましばらく拘束してもらわないといけなかったからね」

帰せば殺されてしまうかもしれないのだ。それでは後味が悪い。その為、ソフバの方の事情をわざわざ時間を掛けて説明しておく必要があった。

ティアと向かい合った事で、ソフバとしては計画を諦めざるを得なくなったはずだ。後にカルツォーネも出向いた事もあり、これ以上は強行出来ないと悟っただろう。何より、カルツォーネならば、ソフバに監視をつける。これで動きは封じたも同然だった。

「そっか。良かった。捕まえた人達は留まらせるんだね」

カランタは、ほっとした様子で笑みを浮かべた。捕まえた人々がどうなるのか、気になっていたようだ。

「まぁ、保護みたいなものかな。この後の事が片付いたら、改めて王様に対応してもらうんだけどね。男爵に彼らの説得も頼んだし、あと数日ぐらいは大人しくしてくれるでしょ」
「その為にシルを置いて来たのか」
「そう。偉そうなお貴族様より、ちょい気が弱そうに見えるシルの言葉なら聞きやすいかなと思ってね」

彼らは、中央の貴族達に不信感を持っていたのではないかと思うのだ。それならば、話しやすいのが誰かは決まっている。何より、人は聞こうと思えなければ、どんな話をした所で理解しない。相手が貴族だと認識した時点で暴れられては困るのだ。

「これ以上、あの人達が問題を起こさないようにしないといけないもの。シルにそれとなく監視してもらおうと思って」
「それって、これ以上罪を重ねさせない為とか?」

ミックは国境を越えるまでの道中で、これまでの話を聞いていた。ミックはどうやら、ウィストの者達に同情しているらしい。

今ならば、彼らは国境を密かに越えた密入国者で済む。事情もある事も認められ、保護という名目で滞在する事になるだろう。しかし、ソフバが計画していたような、町を乗っ取ろうとする動きが少しでも見えれば、それは排除しなくてはならない侵入者となるのだ。

そうなれば、少なからず、罰を与えなくてはならなくなる。

「そういう事。他国の人を罰するのは、その人一人の問題じゃなくなるからね」
「なるほど……」

国同士の問題に発展させない為にも、今まで捕らえた者達を密かに解放し、国に帰していたのだ。

保護という名目ならば、難癖もつけ難い。今回はこれで落ち着くまで通す考えだ。

「それで、ワイバーンは本当にこのソクラ伯爵領に来ると?」

ミックは、見失ってしまったワイバーンがこの場所へ来るとティアから聞かされた時、信じられなかった。今もまだ半信半疑だ。確認せずにはいられない。

「うん。ここってね。少しだけ山が低くなるポイントがあるんだよ。上からなら越えやすいんだ」

メリスラング男爵領は唯一、ウィストへ抜けられる国境の門のある領だ。そこから東へ、長い山脈が国境線として横たわっているためだ。

西へ行けば、大国との貿易の要である国境の門を有する領は沢山あり、メリスラング男爵領は、この国の最も東の小さな玄関口だった。

そして、東へ馬車で三日。一つ領を挟んでソクラ伯爵領がある。この領が、フリーデル王国の東の端だ。しかし、国境線は山なので、外への門は存在しなかった。

だが、ほんの少しだけ、ウィストに接する山が低い場所がある。そこを、なんとかワイバーンなら越えられるだろう。

「まるで実体験してきたようなセリフだな?」
「うん。フラムも越えやすいんだよ。東寄りに進むと町もないし、目撃者もなくて済むんだよね~」
「……そ、そうなのか……」

実際、魔族の国へ行く時のルートだったりするのだ。反対にカルツォーネもフリーデルへ来る時に使っていた。

山を越えるのは、気流などの関係で越え難いのだ。それを加味し、越えた後の疲弊も考えると、少々低い位置を飛んだとしても目撃される事が少ないルートが確保できるのが、このソクラ伯爵領なのである。

空から国を通過したり、入国する場合は、その国の国境の町で手続きをすれば良い。騎獣としての登録証と、ギルドの許可証があれば確認するだけの簡単なものだ。

これらは世界共通。手続きを出来る場所は、国境の国であれば問題はない。これも専用の旗が立っているのですぐに分かる。しかし、ミックはバンと出会ってから国を出た事がこれまでなかった。お陰でこのような事は知らなかったらしく、ご丁寧に国境の門を歩いて通ったらしい。

「知っとくと便利だよ? 今度、山越えのコツも教えるね」
「……ありがとう……けど、難しいなら、ここから越えて来たりしないんじゃ……」

山を越えるのが難しいのは、野生のワイバーンでも同じだ。巣山を追われたとしても、無理に山を越えようなどとはしないだろう。

故に、山よりこちら側と向こう側で住み分けが完璧に出来てしまっているのだ。しかし、今回の問題は、ワイバーンの意思ではないかもしれないという事だ。

「越えようと考えてるのは、ワイバーンを操ってる者であって、ワイバーンじゃないからね。ここ、もう少し北に行くと、ワイバーンの巣山があるんだ。だから、はぐれワイバーンが町に向かって来ても、おかしくない土地なんだよね」
「そっか。それなら、まさか他国から侵入してきたなんて考えないよね」

カランタもようやく腑に落ちたと、手を叩いた。

「そう。試験的に飛ばすには良いんだよ。でもまぁ、考えが甘いんだよね。ギルドは優秀だから、国が気付く前に異変には気付く。今回のもそう。もう冒険者を向かわせてるんだよ」
「それ、まさか……」

ルクスは思い当たったようだ。

《臭うよっ! 臭うっ。あっちだねっ》
「え? ちょっと、マティっ、待っ……」
《マティは正義の味方なんだからねっ。待ってろ、トカゲェェェっ》
「……行っちゃったよ……?」
「マティってば……ごめんねゼブロ。乗せてくれる?」
《グルルル》

こうして、ワイバーンの気配を感じ取ったらしいマティを追って、ティア達も駆け出したのだった。

**********

舞台裏のお話。

男爵「すまない。こんな雑用までさせてしまって」

シル「構いません。ティア様には男爵のサポートをと申しつかっておりますので」

男爵「そうか。本当に助かるよ。それで、説得はできそうか?」

シル「はい。兵の方々が、既に色々とお話してくださっていたようで、とても素直に聞いてくださいました」

男爵「兵達が? それは……知らなかった
……」

シル「男爵がいかに素晴らしい剣士でいらっしゃるかと、毎夜熱く語っていらっしゃるようです」

男爵「な、なに?」

シル「部下の方々にこれほど愛される『男爵』というのは珍しいかと。貴族の中で、領兵が喜んで仕えようと思えるお方は少ないですから」

男爵「そうか……なんだか照れるな」

シル「仕事にやる気のある領兵というのも中々おりませんよ」

男爵「そうだろうか? だが、王都の方には素晴らしい騎士団があるのだろう? 確か……紅翼の騎士団っ。評判は、ここまで聞こえてきているよ」

シル「……あの方々は特殊ですので……」

男爵「特殊? まぁ、騎士団がこれ程評判が良いのは初めてだしな。とても特殊な例だ」

シル「いえ……そうなのですが、そうではないんです……っ」

男爵「うむ?」

兵士A「なぁ、ティアさんはどうしたんだ?」

兵士B「くそっ、今回はマティさんと一緒に稽古をつけて貰えると思ったのになぁ」

兵士C「だよなっ。期待してたのにっ」

兵士A「俺らの小さな女王様っ……今度はいつ会えるんだっ?」

兵士B「そうだよっ。いつだっ? 俺、もう女王様なしじゃいられねぇよっ」

兵士C「わかるっ。刺激が欲しいんだよっ。女王様、お戻りをっ!」

兵士B「うぉぉぉっ、我らの女王様ぁぁぁぁ」

シル「……」

男爵「……」

シル「立派にっ……立派に特殊化をっ……」

男爵「っ、これがっ⁉」


つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎


信者は量産できてます。


戻ってきました。
さて、マティが向かった先には?


では次回、一日空けて11日です。
よろしくお願いします◎

しおりを挟む
感想 122

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。