女神なんてお断りですっ。

紫南

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481 忘れてはいませんよ

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2016. 9. 1

*****


「ここで名を呼ばれるとはね……」

知人でもない者から、サティアの名を呼ばれるのは久し振りだ。妙な気分だった。緩んだ表情を引き締めて頭を切り替える。

神殿を出たティアは、素早く建物の陰に入り、本来の姿に戻る。同時にマティも名残惜しげに普段の子犬の姿へ変化した。

《どうしたの? 主》
「嫌な予感がするんだ。ルクス達と合流するよ」

フルバは魔導具を試作品だと言った。それが妙に引っかかり、ティアの中で警鐘を鳴らす。

《は~い。ん? あぁっ!》
「なに? どうし……っ」

マティは唐突に尻尾が千切れそうになるほど振った。何をそんなに興奮しているんだとその視線を追うと、そこには大きな黒い影。その正体に気付き、名前を思い出そうとした所で、マティが我慢出来ずに駆け寄って行った。

《トカゲ!》
《グルルっ⁉》
「えっ、ディスっ……って事は……」
「あ~……ミックだっけ。おっ久~」
「こ、こんばんは」

そのにいたのは、ワイバーンを連れた獣騎師。昔、サルバの武闘大会で相手をしたミックだった。

《こんな所でどうしたの?》

周りに人が居ない事と、久し振りに会ったという事で、マティのテンションは上がっているようで、普通に問い掛けていた。

《グルル……グル……》
《それって、この辺に住んでたの?》
《グゥゥゥ》
《全部?》
《グルル》

何やら会話が進んでいるようだが、全く分からない。仕方なく、人は人同士で聞いてみることにする。

「拠点はランドロール男爵領じゃなかった?」
「え、なんで知って?」
「あぁ、だって、ランドロール男爵領は山間の町で、西側の山はワイバーンの生息地じゃない? あれからワイバーンの討伐クエストが一気に減ったって、噂になってたんだ」

ミックはワイバーンを連れている。その事で、悪さをするワイバーンを上手く牽制し、共生できるように中立役をかって出ていたのだ。

お陰で、ワイバーンによる被害はこの数年、ランドロール男爵領で出ていなかった。

「あはは……お見通しなんだ……」
「なんでそんな顔すんの? 王都でも評判良いよ? 国内のワイバーンの生息地を回ってもらいたいって王都のギルドマスターがこぼしてた」
「え……そ、そんな。大した事してないのに……」

ティアには隠し事は出来ないと落ち込んでいたミックだが、王都のギルドマスターの覚えも良いと聞いて顔を赤くした。

「大した事だよ。私じゃぁ、言う事聞かせるのに半分ぐらい殺しちゃうもん」
「っ、そ、そうか……」

過激な事を笑って言うティアに、ミックは今度は顔を青ざめさせる。だが、ティアはそれを気にする事なく話を進めた。

「それで? ウィストで何をしてるの? クエスト?」

ティアがこれまで、話に聞くところによれば、ミックは武闘大会後、ランドロール男爵領から出ていなかった。守護神よろしく相棒のワイバーンと暮らしていたのだ。

クエストも領内のものに絞っていたのではないかと思う。

それが、正反対の位置にある国境を越え、このウィストへやってきた。何か事情があるはずだ。

「あ~、その……」

ミックは最初、言い辛そうに口ごもっていた。しかし、ティアに見つめられて、一度ゴクリと唾を呑むと、ゆっくりと話し始めた。

「この国の東に、ワイバーンのいる山があるんだが、バンがそこの奴らが助けを求めてるって言うんだ。それで、確認しに来たんだよ」
「バン?」
「あぁ、こいつの名前だよ」
《グルルル》

そう言って、相棒のワイバーンを指差す。

「へぇ、っていうか、言う事分かるんだ。さすがは獣騎士だね。それで、その助けってのは確認できたの?」

相棒の魔獣と意思の疎通が出来るのは、高い能力を持った獣騎士だけだ。ミックは、間違いなく有能な獣騎士だった。

「君に言われると……あ、ええっと、確認してきた帰りなんだ。その……もういなかったんだよ……」
「いないって、ワイバーンが?」
「ああ、でも、バンは自分がおかしくなった時と同じだって言うんだ」
「同じ……なら、やっぱり……」

ティアは、バンと名をもらったワイバーンが、どこに居たかを思い出す。その山で何があったかも。

「やっぱりって?」

その事をミックは知らない。彼は、山で起きた事態によって傷付いたバンと出会い、契約をした。

本来、ワイバーンと契約をするなど、長く獣騎士としての才能を磨いた者でも難しい。弱って死にかけていたバンと契約出来たのはミックにとっても、バンにとっても幸運だった。

獣騎士の契約が、乱れてズタズタになっていたバンの魔力循環経路を整えてくれたのだ。これによって、バンは死を免れた。

その原因を作ったのが、恐らくジェルバの魔導具だ。

「ねぇ、この後どうするの?」
「それで悩んでるんだ。どこかに移動したならそこへ行きたいんだけど、バンも声が聞こえなくなったらしい。どこに行けばいいのか……」
《グルル……》

肩を落とすミックとバン。だが、ティアはそれらしい情報を持っていた。

「なら、一緒に来てくれる? とりあえず疲れてるみたいだし、今日は休んで。明日の朝、こっちで分かってる情報を整理して出掛けよう」
「いいのか? 君には関係ないんじゃ……」
「関係あるんだよ。その事も話すから、マティ。ルクスが取ってる宿へ案内してやって」
《うん。でも主は……あ~、了解》

ティアがここに残る意味を察したのだろう。マティは素直にミックとバンを連れて大通りへと向かっていった。

「一人になるのは感心しないな」
「大丈夫だって分かってるでしょ? 久し振り、カル姐」
「あぁ、少し背が伸びたね」

建物の陰から姿を現したのは、カルツォーネだった。


**********

舞台裏の裏?のお話。

ティア「本当に引っ越しできたよ……」

間に合って良かったです~。

ティア「あ、でも荷物だけだけね。お父様達がまだか」

そうですね。
のんびりゆっくり来てくださいと言ってあります。

ティア「そっか。そんじゃぁ、部屋の確認しとこ~」

そうしてください。
忘れ物がないかチェックしますので。

ティア「はいよ」

マティ《ねぇ、ブタカンさん。フラムはまだ? 新しい広場で遊ぼうと思ったんだけど》

そうですねぇ。
もう少しかかると思います。
パパさんがついているので、迷ったりはしませんよ。

マティ《ならいいや。待ってる》

はい。遊んで待っててください。
……あれ?

ティア「どうかした?」

あ、はい……そういえば、カランタ君に引っ越しの事伝えたかな……と……。

ティア「へ?」

い、いや、なんだかバタついていたので……あれぇ?

ティア「……ま、まぁ、探せるでしょ」

で、ですよね!


つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎


こちらでの初投稿でした。


再登場があるとは思いませんでした。
彼にもちょっと協力してもらいましょう。
色々と状況も整理しなくては。


では次回、また明日です。
その後、投稿日を変更いたします。
【月・水・金・日】の深夜0時とさせていただきますので
よろしくお願いします◎
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