女神なんてお断りですっ。

紫南

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470 秘密が多いようです

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2016. 8. 5
********************************************

王の執務室に向かって走るエルヴァスト。しかし、すれ違った騎士達が慌てて追ってきていた。

「殿下っ。そ、それはなんですっ!」
「そのようなものを連れてどこへっ!」
「思いの外目立ったな……」
《キュキュ~ゥ》

どうやら、初めて見るドラゴンに驚いて二度見した後、まさかの事態に気付いて慌てて追ってきているようだ。

《キュッ、キュッ♪》
「なんだ? 楽しいのか?」
《キュ~ゥ》
「そうかそうか。さては、鬼ごっこと勘違いしているな?」

フラムは、走るエルヴァストの肩に止まっていられなかったらしく、隣を滑空している。

ゆらゆらと左右に蛇行しながら飛ぶ様は、追いかけてくる騎士達をおちょくっているかのようだ。

「見事に皆、追ってくるなぁ」
《キュッ》
「どうした? ん? ちょっと待てっ、まさかっ」

エルヴァストがフラムの何かを仕掛けようとする様子に気付いた時には遅かった。

《キュフッ、フッ、フッ》
「こらこらっ」

手を伸ばし、フラムを抱きかかえる。しかし、遅いものは遅い。

「うわぁぁぁっ」
「火をっ、火を消せっ」
「水っ」
「殿下ぁぁぁぁっ」

後ろでは、フラムが吐き出した小さな火の球が命中した騎士達が転がっていた。

「すまんっ。子どものイタズラだ、許せ」
《キュ?》

フラムには、悪い事をした自覚はない。いつもティア達と追いかけっこをしていてやる事なのだ。

腕の中で首を傾げるフラムに、エルヴァストが言って聞かせる。

「あのな。いつもは良いんだ。けど、あいつらは弱くて軟弱だからな。怪我をするだろう。私達と同じだと思ってやってはダメだぞ」
《キュキュ? キュっ》

いまいち理解していないのだろうが、一応は、あいつらにはダメだと伝わったはずだ。

そうして真っ直ぐに王の執務室の前にやって来た。すると、追い付いて来た者があった。

「エルっ」
「あ、兄上?」
「そのドラゴンは……」

駆けてきたのはレイナルートとビアンの父、リュークだった。

レイナルートはフラムの事を問い詰めたいが、どう尋ねたら良いものかと迷っているらしい。

「兄上、申し訳ありません。急いでおりますので……開けてくれ」

そう一言断ってから、扉を守る騎士達へ入室を願い出る。しかし、騎士達もフラムを見て戸惑っているようだ。

「エルヴァスト殿下……それは……」
「脅威となるものを入れるわけには……」

職務に忠実な騎士達だ。これには呆れて溜息が出た。

「ならば、勝手に扉を壊してでも入るぞ?」
「そ、それは困ります!」
「どうかお待ちを!」

フラムは、エルヴァストの言葉で扉を壊してもいいのかと炎を吐く練習らしきものをし始めていた。それを苦笑しながら待てと止め、大声で扉の中へと要件を告げる事にした。

「父上! フラムが手紙を持って参りました! 入室をお許しください!」
「エル⁉︎」

王の執務室への入室許可を取るにしては、礼儀が良くない。レイナルートが驚くが、確実だった。すぐに扉が開いたのだ。

「入れ」
「父上っ」
「「陛下⁉︎」」

扉を開けたのは、王本人だった。

「失礼いたします」

これに動じる事なく、エルヴァストが一歩を踏み出す。しかし、それを慌てて騎士達が止める。

「いけません、陛下。エルヴァスト殿下がお連れになっているのは……」
「小さいとはいえ、ドラゴンをっ……」

これに反論したのは、エルヴァストではなく王だった。

「構わん。なにより……フラム。久しぶりだな」
《キュ~》
「「「なっ……」」」

フラムは王に撫でられご満悦だ。そんな様子を見たレイナルートと扉を守る二人の騎士は驚愕の表情で固まった。

「話を聞こう」
「はい」
《キュキュ~》

そのまま招き入れる王について、エルヴァストとフラムが部屋へと入っていく。そこで、レイナルートが慌てて願い出た。

「父上、私もよろしいでしょうかっ」
「ん? あぁ、もちろんだ。そこで拗ねているリュークもな」
「っ、拗ねてなどおりません!」

そう言いながら、それまで黙ってやり取りを見つめていたリュークもレイナルートに続いて部屋に入った。

どうやらリュークは、色々と明かされていなかった事実を知り、怒っていたようだ。

扉が閉まると、王はエルヴァストから手紙を受け取った。

「ふむ……メリスラング男爵から、国境の門の増強をと請願があったが……よもやこんな事になろうとは……」
「いかがされます、父上」
「そうだな……もう少し正確な情報が欲しい……速い連絡手段があれば良いのだが……」

ティアの寄越した手紙には、国境を密かに越えて来た者達が、国に仇名そうとしている事。そして、ウィストへ直接乗り込んで、これの原因を探ってくるという事が書かれていた。

もちろん、ティアの行動を止める事は出来ない。しかし、現状をもっと詳しく知るべきだとも思う。国として対策を立てるにしても、傍観するにしても現在の正しい情報が欲しい所だ。

そこで、エルヴァストはある物の存在を思い出した。

「そうですね……では、直接アレと話が出来ればよろしいでしょうか」
「ん? それはもちろん、そうできれば有難いな。だが、お前がフラムに乗って連絡役になるとでも言うのか? あの子はウィストに出向くのだ。お前は国から出せんぞ?」

王子であるエルヴァストを、護衛がいたとしても国外の、それも危うい動きのある隣国へ行かせる事など出来ない相談だ。しかし、そんな事をせずとも話をする手段がある。

「いえ。通信が出来ます。この場で直接、言葉を交わす手段があるのです」
「なに?」

これは、王も初耳なようだ。エルヴァストは、この場から最も近いその手段が取れる人物の名を挙げる。

「フェルマー学園の教師のカグヤ先生。あの方が通信具を持っています」
「カグヤ……聞かぬが……」
「そうですか……先生は、ウルの……前魔術師長ウルスヴァンの魔術の師なのですが」

そう聞いて、王は面白そうに表情を緩めた。

「ほぉ。では、今すぐ連れてきてくれるか? そうだな……突然ここへというのも失礼か……ウルと一緒に頼む」
「はいっ。フラム、行くぞ」
《キュ~》

そうして、エルヴァストは久し振りに王宮から飛び出していったのだった。


************************************************
舞台裏のお話。

ビアン「あ~……阿鼻叫喚って感じですか……あ、侯爵」

コリアート「何事だ? これは……敵襲?」

ビアン「いえ。どちらかといえば、お嬢さんの奇襲ですね……」

コリアート「……何があったか説明してくれ……」

ビアン「はい。先ほど、フラムが来まして、エル様が手紙を受け取り、王の執務室へ行かれました」

コリアート「それで……あれか?」

ビアン「……ただいま通行止めです……」

コリアート「即刻復旧させてくれ」

ビアン「承知しました。お前達っ、いつまで呆然としているっ。怪我人はいるのか」

兵士「いえっ、服が若干焦げただけです」

ビアン「だろうな……」

兵士「え?」

ビアン「なんでもない。では、さっさと持ち場に戻れっ」

兵士達「「「はっ!」」」

ビアン「それと、以降、あのドラゴンを見ても追いかけるなっ」

兵士達「「「はい!」」」

コリアート「あいつら、追いかけたのか……」

ビアン「ええ。フラムとマティは追かけるとテンションが上がるんで、逆に危険なんですけどね……」

コリアート「まぁ、そんな事は知らんだろうからな」

ビアン「そうなのですが……本気であの子達が王宮で遊びだしたら、大変な事になりますので……」

コリアート「こちらで注意した方が確実ではあるか」

ビアン「はい……あとはエル様に注意しておきます……」

コリアート「そうしてくれ……」


つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎


飼い主があれなんで……。


エル兄ちゃんは、生き生きとしています。
寝耳に水な状況なのでしょうか。
王太子も驚いています。
フラムは、たくさんの兵達と追いかけっこが出来て楽しそうです。
子どもですからね。


では次回、7日です。
よろしくお願いします◎
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