女神なんてお断りですっ。

紫南

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467 進入者? 侵略者?

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2016. 8. 1
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マティと火王、そして、回復してマティの背で眠っているフラムを一応の見張りとして外に置いておく事にした。

ティアはルクスとシルとカランタを連れ、盗賊達のリーダーの男と、後からマティ達が連れて来た集団のリーダーだという男を家へ招く。

「そこに座って」

固い表情で警戒しながら、目だけを動かす二人の男達。その向かいにティアは座り、ティアの後ろに少々離れてルクス達が控える。

「それで、なぜこの国へ来たの? それも、国境の門を姿をくらまして通過するなんて。普通じゃないよね?」
「……」

気まずげに目で合図を送るようにそれぞれに一度視線を向け、下を向く。これに、ティアがイラつくのは、ある意味当然だった。

「問答無用で縛り上げられたいの? それとも、魔獣の多い森の中にでも顔だけ出して埋めようか。口を開けたくなるくらい充分な恐怖を味わわせてあげるよ」
「「っ⁉︎……」」

殺気を滲み出させながら、不敵な笑みを見せるティアに、男達は悲鳴を上げそうになっていた。

そんな様子を見ていたルクス達が、そんな彼らに助け舟を出す。

「君達。悪い事は言わないよ? 早く、正直に彼女の質問に答えるんだ。一生忘れられない恐怖なんて、知らない方が良い」

カランタは、涙ながらに必死で訴えた。

「ティア様は死を望まれません。ですので、耳がなくなる程度の覚悟をなさったら良いかと」

なぜかシルは真面目に、埋められる心構えを告げた。

「有言実行な上に、即実行するから、判断は急いだ方がいい。こいつは拷問、尋問も遊びに数えるきらいがあるからな」

そんな事を平然と言うのはルクスだ。どの意見も間違ってはいない。そう、何よりティアは待てない子だった。

「このまま沈黙を続けるなら、容赦しないけど」

目がマジだ。先ほどまで辛うじて見えていた笑みは完全に消えてしまっている。これに危機を感じた男達は、ゴクリと唾を飲み込むと、震える息を吐き出して言った。

「お、俺達は、逃げて来たんだっ」
「何から?」

ようやく口を開いた盗賊のリーダーである男の言葉の意味を、すかさず問いかける。

「国からだよ……」

答えたのは後から来た侵入者の方だ。彼をよく見れば、かなり憔悴しているように感じられた。

そして、二人は同じものをテーブルに置く。

「それが魔導具ね」

見た目は片腕分の籠手だ。それに多くの小さな魔石がついている。

「へぇ……もう使えなくなってるけど、魔石の力を繋げて魔法陣と同じ役割を……」

ティアは驚き、感心していた。普通、魔石は一つの魔導具に三つほどが限度だ。それぞれ違う力を付与させる為、力が反発しあい、求める力が発動しない場合がある。

それなのに、これはその常識を覆してしまっていた。

「さすがと言った所かな……それで? これをどうやって手に入れたの?」

魔導具は術者の細かい属性と力の調整が必要だ。これにはかなりの魔力も必要になる。

それを、一度しか使用できない物だとしても、この場に二つ。少なくとも今までも同じように侵入してきていたとして、四つだ。この世界で、ティアが知る限りこんな芸当を可能にするのはジェルバしか思い当たらなかった。

「貰った」
「誰に?」

拾ったり、ましてや買える代物でもないだろう。誰にというところが重要だ。

「……神官様に……」
「神官? 神教会の?」
「そうだ。大神官様に、長年仕えていらっしゃる方で……フリーデルの町を一つ手に入れるなら、ウィストから出る事を許してくれると言われたんだ」

彼らは盗賊のような姿をしているが、どうやら町へ攻め入って、その町を乗っ取るつもりだったらしい。

「侵入者どころか侵略者か。神官がなにしてるんだ……」

ティアは、顔を顰める。この先にあるメリスラング男爵領の首領地は小さい。町の広さに対して、住んでいる人々の数も少なかった。

国境近くにあるという事もあり、有事の際には素早く避難が出来る人数しか住んでいないのだ。

多くは隣国と取引きをする荷運び業者の関係か、国外から国境を越えてきた旅人や冒険者達の為の宿屋。そして、国境を守る兵達とその家族だ。

「神官様を悪く言うな。決めたのは俺達だ。それに、誰かがやるべき事だった。家族や子ども達を守る為に」

二人の目には、強い決意が見えた。

「だからって、あそこの町の人達を追い出して良いとか。不法進入して良いとか言えないよね?」
「っ、お、俺達だって生きて行く為の場所が必要だ」
「他国で言う事? それもその場所を奪う気満々で。良いんだよ? 私は。あんた達を捕まえて依頼人の領主に引き渡せばお終いだ。領主様はお優しいから、数日後にはそのまま国へ戻してくれる。あんた達が逃げ出して来た国にね」
「なっ⁉︎」
「まさか、今までも……」

足を組み、テーブルについた左腕に頭を乗せ、窓のあるメリスラング男爵領の町の方角を見つめるティア。

慌てる男達や外にいる者達の事など関係ないと、その態度は示していた。

「待ってくれ! 俺達はもう、あの国に帰る訳にはいかないんだ!」

立ち上がりテーブルを叩く男へ、目を向けたティアは、面白くなさそうに風王の調べで知り得た事実を明かす。

「そうだね。今までに戻った人達は、投獄されたか殺されてるみたい。残念だよ……ちゃんと事情を話してくれていたら助けてやれたかもしれないのに」
「っ、殺された……」
「そんな……」

さすがに動揺を隠せなかったらしい。男達は揃って、顔を青ざめさせた。

「それだけのリスクがあるって理解した上での行動だったんじゃないの? ウィストも接してる隣のサガンなんて、町や村を襲った盗賊は皆殺しにされるんだ。それよりか良いと思わない?」
「そんなバカな!」
「なら、サガンへ行った奴らは……」
「あっちに行った人もいるんだ? 上手く逃げれていれば良いけどね」

国によって、犯罪者への制裁は様々だ。フリーデルでは、いきなり処刑などという事にはならないが、多くの場合、長い投獄や強制労働が待っている。

「それよりも、先ずは自分達の事を心配しなよ。幸い、あなた達がしたのは今のところ不法進入だけ。この国の人を傷付けたわけじゃない。なら、話し合いが出来る。ちゃんと事情を話しなさい」

ここで重要なのは、町を襲う前であったという事だ。国境の通過も、無理に押し通り、兵に被害が出たわけでもない。

「……聞いて、どうにかできるっていうのか?」
「そうだ。お前のような子どもに、何が出来る!」
「もっともな意見だねぇ」

この先どうなるのかという不安が、男達を苛立たせる。それで当たられても困るというものだ。

「喚き散らす奴は嫌いだな」

ティアとしては、そろそろ面倒臭くなってきていたのだった。

************************************************
舞台裏のお話。

マティ  《フラム、寝てる? もうちょっと日陰に行った方が良いかな》

火王  《あぁ。マティは優しいな》

マティ  《えへへ。褒められた~》

風王  《この状況で寝るとは、意外ですね》

火王  《ここに敵となれる者はいないからだろう》

水王  《幼くともドラゴンですわね。確かに、ここにいるのは大した者達ではありませんもの》

風王  《一般人ではなさそうですけれどね》

火王  《剣を振るう手をしていた》

水王  《ならば、問答無用で縛り上げて尋問してしまえばよろしいのに》

風王  《ただの盗賊なら、このようにティア様のお手を煩わせる事もなかったのですが》

火王  《事情がありそうだ》

風王  《だからといって、ティア様もお優しい……》

水王  《無礼な者達ですわ……これだから男はっ。ティア様が話せと仰っておられるのに》

風王  《ここの者達を人質にして口を割らせましょうか》

水王  《無用ですわ。さっさと縛り上げて、私達で情報を集めましょう》

火王  《……それではティア様の行動が無駄になるだろう。やるならば、あれらを中へ入れる前に提案すべきだった》

風王  《っ、そ、そうですわね……ティア様が今、我慢強く待っていらっしゃるのですもの……》

水王  《抜かりましたわ……》

風王  《ここは、もう少し待ちましょう》

水王  《ですわね。ティア様が飽きられたら、提案いたしましょう》

火王  《……保つだろうか……》

マティ  《ふわぁぁ……主は飽きっぽいから、そんなに待たせないよ……》

フラム  《クキュ~ゥ……》


つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎


カウントダウン開始です……。


お説教が必要でしょうか。
逃げて来た国とはどんな国なのか。
彼らが町を欲しがる理由とは。


では次回、また明日です。
よろしくお願いします◎
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