女神なんてお断りですっ。

紫南

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連載

464 彼らの背後には

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2016. 7. 28
********************************************

マティに、近付いて来ているらしい一団の監視を任せ、ルクスは半ば水王に追い立てられるようにして盗賊達が根城としている廃墟へとやってきた。

見張りの者は数人いるのだが、それ程警戒していないのか、上手く中へと滑り込む事ができた。


……隠密行動とか、慣れてないんだけどな……。


ルクスには、こうして何処かに忍び込む経験はない。気配を消し、何とか慎重に進んできたのだが、どうも様子がおかしいように感じている。

「なめられたもんだ」

廃墟となっている屋敷自体は広くはないのだ。それなのに、廊下には誰も出て来ない。部屋の中でただじっとしているようで、動く気配もない。

こうして侵入されたり、ここを強襲されるなんて事をまるで想定していないようだ。


シルはどこだ?


先に侵入しているシルと合流できればと思うのだが、やはり気配が読みにくい。これも精霊達を寄せ付けない特殊な魔導具のせいだ。

慎重に進むルクスが、いいかげん忌々しいと舌打ちした時だった。

「ん?」

ルクスの持つ剣から熱を感じた。


どうしたんだ。ルヴィ……。


英雄コルヴェールの剣。魔剣ルヴィエスタギザント。ルクスは最初こそ魔剣という事で少々腰が引けていたのだが、ファルに稽古を付けてもらい、剣と向き合うようになってから、剣の事をルヴィと呼んで親しんでいた。

その魔剣が、何かに反応を示しているのだ。

これまでも危険な場所や相手が近付くと振動して教えてくれたりと、とても役に立ってくれている。だから今回も、慎重に何を伝えようとしてくれているのかを考えながら進む事にした。

そうしてしばらく進んで気付いた。

「気配が……分かる」

霧が晴れたように、突然周りの気配が読めるようになったのだ。

無意識のうちに剣へと手を伸ばす。すると、それに応えるように一瞬振動を感じた。

「ありがとな」

剣に礼を言い、ルクスは改めてこの場所の気配を探った。

すると、地下があることに気付く。そこに良くない物があるのが分かった。


魔力がおかしな具合に渦巻いている……間違いなさそうだな。


目的とする魔導具はそれだろう。そこに至る場所に、シルの気配もある。ルクスはそこへ合流すべく駆け出したのだった。

◆◆◆◆◆

ティアは、町の周りに異常がない事を確認すると、すぐにルクス達のいる盗賊達のアジトへ向かった。

「ん? フラムが離れた?」

不意に、フラムがシルと離れている事に気付き、不審に思う。

すると、火の精霊が飛んで来て告げる。

《おうがほごした》
「火王が? なにかあった?」

いくら火王がフラムやマティに甘くても、この状況ならば、心配して傍で手を貸す事はあっても、連れて離れる事はおかしい。

それに答えたのは隣を滑空する風王だった。

《恐らく、あの廃墟にあった魔導具の影響で魔力酔いでも起こしたのでしょう。魔素も変質しているようでしたので》
「それって、盗賊達は大丈夫なの?」

フラムは魔力の高いドラゴンだ。魔素に異常があれば、敏感に反応するだろう。しかし、それでも酔うほどとなれば、人にも影響が出てくるのではないかと思ったのだ。

《大丈夫ではないでしょうね。覚えておられますか? 先月の盗賊達の強襲前の動きを》
「う~ん……そういえば、奴らがアジトを出たのは夕日に変わる前だったのに、それから町へ来たのは月が高くなる頃だった……すぐに動けなかったってこと?」
《発動していた魔導具の影響が完全になくなるまで森の中で待機していたのでしょう。息をつく盗賊達の姿を、精霊達が確認しております》
「へぇ……」

リスクの高いそんな魔導具を使ってまで行動する彼ら。だが、もしかすると彼らの意思ではないのかもしれない。

「奴ら、戦闘訓練は受けてたみたいだったけど、違和感があったんだよね~」
《違和感……ですか?》

盗賊達は、戦うことには躊躇なかった。兵達にも向かって行っていたし、戦い慣れていないという事はなかった。

「そう。なんか、なりたて……みたいな?」
《なりたて……?》
「うん。私もあの時は別に気にならなかったんだけど、よくよく思い出してみるとね。盗賊デビューしたぜ~って感じだったなぁって」
《……確かに……》

戦えてはいたが、攻め慣れていないように感じたのだ。戦いを避けて隠密行動や強襲なんて考えがないように思えた。

「それなのに、構成員の年齢がバラバラだったのが気になったんだよね。何より、アジトらしき場所を、もぬけの殻にして、全員で来たってのがね。変だなって」

最初から移動するつもりだったのだろう。だが、盗賊は拠点をそうそう移動しながら活動したりはしない。

奪った物を蓄えた後、もっと利益の望める場所へと移動する事はあっても、まるで完全にその日暮らしをする為だけに襲ってみましたというのは集団として成り立っている以上、おかしい事だ。

「う~ん。もしかすると奴ら……ねぇ、風王。ちょっと調べて来てくれる? 以前に捕まえた奴らの処遇と、分かる限りの彼らの経歴を」

捕まえた後は、依頼人であるメリスラング男爵の方で彼らの処分を任せていた。

犯罪者や盗賊など、処刑だと考えるような人物ではない事は分かっている。あっても強制労働くらいだろう。

《承知いたしました。直ちに》

風王が姿を消すのを見届け、そのままティアは森の中を駆ける。

「面倒な事になって来たかもな~」

木々で今は見えない国境の砦。その向こうに広がる国。その国は古くからの神の信仰が根強く残っている国だと聞く。

「奴らの本拠地とするには良い国だよね……」

その可能性を事実として認識するのも近いかもしれない。そう思うと、ティアの心はザワザワと嫌な予感に揺れるのだった。



************************************************
舞台裏のお話。

トーイ「なんだか、本当に僕らってダメだったんだな……」

チーク「かつての僕らが、たくさんいる……」

ツバン「バカだったなって思うよね」

ケイギル「どうかしたのか?」

トーイ「あ、ケイギル」

チーク「いや、なんだか昔のダメだった自分を見てるみたいで反省してるんだよ」

ケイギル「なるほど。確かに、貴族のボンボンってこういうことかと思い知らされた……」

ツバン「そういえば、ケイギルとは同級のはずなんだよね。あの頃は、貴族組でも、エリート組と分かれてたんだっけ」

ケイギル「そうだな。今の子ども達も、見事に分かれているし……」

トーイ「お互い、認識してなかったよな」

ケイギル「あぁ……周りが殆ど見えてなかった気がする」

チーク「それ、あるね。エリート組って特にグループの中でも、またグループがあっただろう?」

ケイギル「あった。家同士の繋がりとかな……本当、今思うとくだらないよ」

トーイ「ティア様に会えて、僕らは幸運だった」

チーク「そうだな。見えなかったものが見える今の自分が、少し誇らしい」

ツバン「ケイギルはどう?」

ケイギル「私は……そうだな。彼女に会えて、周りが見えるようになった。それはとても嬉しくて誇らしい」

ト・チ・ツ「「「だよな!」」」

ケイギル「あ、あぁ」

トーイ「ほらな。ケイギルもティア様を尊敬してるんだよ」

チーク「そうそう。じゃなきゃ、紅翼ではやっていけないしな」

ツバン「うんうん。ティア様に信頼されて任されたんだもん。当然だよね」

ケイギル「……そうだな……」



つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎


仲間認定しました。


隣の国が関係しているのは確かかもしれません。
ルクスは剣と良い関係を築いていたようです。
魔剣らしからぬ、便利なアイテムかも?
さて合流。
どうなりますか。


では次回、また明日です。
よろしくお願いします◎
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