女神なんてお断りですっ。

紫南

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462 風王の調査報告

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2016. 7. 25
********************************************

ティアの前に現れた風王は、難しい顔をしていた。

「何かあった?」

珍しく苛立った様子を、ティアの前で取り繕う事もなく見せる風王。

そして。ティアの問いかけに、固い声で答える。

《彼らは侵入者です》
「侵入者?」

言われた意味がよく分からなかった。

《はい。この国に害意を持って国境を越えた者達です》
「どいういこと?」

害意とは穏やかではない。ティアは風王が侵入者だという者達の気配を慎重に読みながら、理由を尋ねた。

《彼らがあの門を通過する時、姿が消えるのです》
「え……」

更にわけが分からなくなった。

現在、隣国の情勢が怪しくなっているが、門を閉ざしてはいない。門番と兵達が監視し、通過するには少々検査なども行う。そうして入国、出国を許可しているのだ。

確かに誰の目にも映らないのならば、呼び止められる事もなく門を通過する事は可能だろう。

《恐らく、魔導具を使っています。周りの景色に溶け込み、姿を見えなくして、砦の兵達に気付かれぬように通過しているのです》
「それは、幻影師ではないって事?能力ではなく、魔導具? まぁ、いくら姿を消せるっていっても、門を通過する間ずっとって程は無理だったか……でもそんな物が……」

幻影師とは、今では殆ど見られなくなった能力で、光と闇と水の三つの属性を持ち、それらを利用して己の姿を周りの景色に溶け込ませて見えなくする事が出来る。

あくまでその場の景色に溶け込むということで、あまり移動中は役に立たないはずだ。

また、人に幻を見せたり、隠密の技に優れているのだが、この適性を持った者は少ない。

かつて、バトラール王家に仕えていたクィーグ部隊が持っていた能力と技術だ。

しかし、現在はクィーグの者でもほんの数人しか適性がない。技術の継承も難しくなっているのだ。

そんな幻影師の貴重な能力と同じかそれ以上の効果を持った魔導具を、彼らが使ったというのだ。にわかには信じられなかった。

「あれは、その日の気候や時間によっても細かい調整が必要になる術だって聞いた。魔導具だなんて……っ、まさかジェルバが?」

そんなとんでもない魔導具を作れるとすれば、ジェルバしか思い当たらない。魔族の国でも開発不可能と言われた技術なのだから。

《その可能性は充分にあります。彼らはどうも、ティア様の獲物に合流しようとしているようです》
「盗賊達に? ジェルバの手下がどうして……」

盗賊達が何かを持っているのだろうか。それを取り引きするつもりかもしれない。しかし、どうも違うようだ。

《この辺りの精霊達に確認したところ、盗賊達も同じ方法でこの国へ入ってきたようです》
「姿を消して? それって、仲間ってこと? 待って。なら、奴らの目的は?」

風王ならば、もうそこを突き止めているのではないかと期待したのだが、残念ながらそう簡単にはいかなかった。

《申し訳ございません。盗賊の方のアジトには近付けないのです……恐らく、晶腐石のような物があるのだと思うのですが……》

どうやら、風王も調べようとはしていたようだ。ただ、アジトとなっている廃墟らしき場所には、近付けなかったらしい。

もちろん、これは無駄な事ではなかった。

「神具を持っているのではない事は確かなんだね」
《それは、はい。そのせいで近付けないわけではありません。神具の場合は、近付くと意識が遠退く感覚があります。それで気が付くと、精霊界に戻っているのです。ですが、そのような事はありませんでした》
「それ……危ないから、試さないでくれる?」

安心してくれと笑みを浮かべながら報告してくれる風王。しかし、間違いなく、そんな笑って済ませられるような状況ではない。

《ご心配には及びません。晶腐石は、近付くと不快感がありますが、神具はそうではありませんので》
「う、うん……なんだろう。異常過ぎて麻痺してるだけなんじゃないかと思うんだけど……」

不快感を感じる方が安全なように思えた。異常を感じられるという事は、何らかの警告が働いた結果だ。危機は避けられる。しかし、神具の場合は、その警告を感じられない。それは、最も危険な事だ。感知できない危機は避ける事はできない。

「神具には近付かないようにしてね。それで、もしかして、晶腐石とも断定できてないんだ?」

風王は『晶腐石のような物がある』と言ったのだ。晶腐石と断定しなかった。それはなぜなのか。

《はい。晶腐石ならば、臭いでそうと気付きます。ですが、それがありませんでした。それなのに、不快な波動は感じられたのです》

晶腐石とは異なる精霊を寄せ付けない物。そんな物がある予感はしていたが、ティアには思い当たる物がない。

「そう……どのみち、そのアジトはシルに調べてもらうしかないか」

精霊達はその中で無理矢理力を行使できるが、不快に感じる波動のお陰で耳が聞こえなくなる。情報を聞くことは出来ない。

どうあっても、シルに動いてもらうしかないだろう。

「あとはその侵入者の方ね。そっちは、ルクスとマティに任せよう。伝言を頼める?」
《お任せください》

新たな方針を決めて指示を出すと、ティアは早急に周辺調査を終えるべく動き出すのだった。



************************************************
舞台裏のお話。

王「どうした? リューク」

リューク「……どうもこうも……王はご存知だったのですか? エル様の剣の事を」

王「あぁ、剣どころか、魔術の腕もかなりのものだ。お前でも勝てるか怪しいぞ」

リューク「なぜ教えてくださらなかったのですっ? ビアンもビアンですっ。一体、いつから……」

王「はっはっはっ。私もそれは知らんな」

リューク「笑い事ではありませんっ! エル様の訓練を受けた騎士達が、自信を喪失しているのです。これでは仕事になりません」

王「ほぉ。見事にポキポキと折ったか」

リューク「ですからっ、感心するところでもありません!」

王「と言われでもなぁ。どう思う。コリアート」

コリアート「折れてそのままならば、そこまでの者だったということで、選別をしやすいかと」

リューク「侯爵っ!」

王「まぁ、落ち着け。コリアートの言は正しいだろう。だいたい、お前一人でこの国を守るつもりか?」

リューク「そ、それは……有事の際には、冒険者達にも協力を仰げばと……」

コリアート「頼りにしていいものか?」

リューク「っ、侯爵。冒険者を軽んじるのはおやめくださいと……っ」

王「こらこら。そうではない。コリアートも言葉が足りぬのは相変わらずだな」

コリアート「……申し訳ございません……」

王「リューク。コリアートは、冒険者達に頼り切ってはいけないと言っているのだ。いくら国の有事だといえど、冒険者達も民。自分達の生活もあるだろう。強制はできんのだ」

リューク「はい……失礼いたしました」

王「リュークは心配性だな。いずれあの子にも会ってもらえば……」

リューク「はい?」

コリアート「リューク殿。部下が心配ならば、先ずは自身を鍛えられよ。それで問題はない」

リューク「はぁ……」

王「そうだな。それが一番だ。部下達に見せつけると思ってな。頼むぞ」

リューク「はっ……はい……?」

王「リュークは合格だと思うか?」

コリアート「……微妙です……根が真面目だと相性の問題が……」

リューク「なにか?」

王「っ、いやいや、励んでくれ」

リューク「はっ、失礼いたします」

王「……微妙だな……」

コリアート「悪くて紅翼。良くて、うちの次男です……強くはなりますし、廃人になる手前での救済は望めますが……」

王「確かに、壊れたとは聞かんな」

コリアート「はい。それが不思議なところで……」

王「……ま、まぁ、あの子がこちらの味方であるなら問題はない」

コリアート「エル様が国を見限らなければというのが絶対条件です」

王「エルか……騎士達……どんな具合なんだ?」

コリアート「……マズイですね……」

王「……国の危機だな……」



つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎


足下で煙が……。


怪し気な集団。
何を企んでいるのか。
ジェルバと関係がある可能性は大です。
隣国からの侵入者。
隠れて移動しているのですから、間違いなく何かを仕掛けるつもりでしょう。


では次回、また明日です。
よろしくお願いします◎
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