女神なんてお断りですっ。

紫南

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457 未来を見据えて

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2016. 7. 18
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騎士学校の教師ともなれば、プライドが高いのは仕方がない。

かつて、騎士という国を守る仕事をしていた彼らは、現役を退いても国を守っているのだという自負を持って生徒達の教育を行っているのだ。

特に長くこの学校に教師として教壇に立ってきたジュールは、今の現役の騎士達の殆どの師だった。

それは誇りであり、自慢しても良い事だ。ただし、ティアやティアの関係者以外にならという条件がつく。

「っ、そんなばかなっ……!」

たった数分で五人の教師達が不様な姿で転がされていた。

その全てを観覧席で離れて見守っているのは学長とティア。そしてケイギルだ。

「これは、予想の遥か上を行ってくれましたね。本当に強くなっています……」

学長は苦笑を浮かべながらも、教師達を軽くあしらってしまう三バカ達を素直に賞賛した。

「当然ですよ。今の彼らの実力なら、一度に一人でこの学校にいる教師全員を相手に出来ます。Aランクの冒険者とは、それだけの力がある」
「……そういわれれば、そうでしたね。確かAランクは、一人で砦や一軍を相手取れる力量があるのでしたか」

七段階ある国が定める基準を思い出し、学長が言った。

「ええ。ただし、この基準は、時代によって多少、変化します。あくまでも、今の……ここ三百年ほどの基準でしかない」
「と言いますと?」

この世界における全てのランクの基準は、数年ごとに見直しが行われるそうなのだ。

実は基準とされるものは、一般に理解し易い力の指標として公開されている情報でしかない。

その時代によって比較し易い基準を言葉で表されているだけなのだ。

冒険者ギルドはそれとは別に、実力や数値を把握し、人物などを総合的に見てランク付けをする。

「昔は騎士も強かったので、確か……Aランクは騎士の隊長クラスと同等とされていましたよ」
「……逆にいえば、隊長クラスは、一人で砦や一軍を相手取れる力量があったという事ですね……」

冒険者のランク付けの数値などは、冒険者ギルドという組織が設立された当初から変わってはいない。

そのランクとされる能力の数値は、昔から一切変わってはいないという事だ。

「そうなります」
「それを知っていたら、今の現状を嘆きたくもなりますね」

学長は大きく肩を落とした。

現状の騎士達の頼りなさ、情けなさを、理解したのだろう。

騎士側の人がこの現状を知り、理解してくれたというのは、ティアにとっては嬉しい事だ。

だから、思わず誰にも明かさなかったこの計画の本心を口にしていた。

「ええ。なので、何十年かかったとしても、彼ら騎士を本来の実力ある戦士に戻したい。国を……民を守る騎士達は、冒険者と時に力を合わせ、時に冒険者も守るべき民なのだと自分達を奮い立たせながら鍛練をし続けました。そんな時代の良き姿が戻ればと……そう思うのはおかしいですか?」
「っ……」

学長は目を見開き、ティアを見つめている。そして、少々離れた場所で三バカ達の戦い振りを見ながらも、ティアと学長の話に耳を傾けていたケイギルが息をのむ。

二人はそれまで知る由もなかった。ティアがなぜこのような事をしようとしているのか。

ただの酔狂か、またはあまりにも情けない騎士達の有り様を見て、喝を入れる為。そう思っていた。だが、違ったのだ。

ティアは本気で現状を憂い、国の為、騎士の為に事を成そうとしている。

それを知って、二人は目が覚めるようだった。

「っ、ご尽力に感謝を……私も全力で騎士の育成に努めましょう」

そう学長が決意を新たにする。

そして、唐突にケイギルがティアへと歩み寄ると片膝をついた。

「どうした」

ティアが不思議に思いながらそちらへ目を向けると、ケイギルが口を開く。

「微力ながら私もお手伝いさせていただきたい。あなたの思い描く未来の為、私の持つ全てを賭して事に当たるとお約束いたします」

胸に手を当てて告げられたその言葉に偽りはない。それは騎士の誓いだ。そうするのだと教えられなくても、自然にこうして膝をつき、こうべを垂れていた。

ケイギルも自覚がないのだろう。ティアにはその時、確かにかつての騎士達が誓いを口にする時の情景が重なって見えていた。

「いつの間にか随分、騎士らしくなったな……頼むよ」
「はいっ、お任せください!」

この後、ジュールにも圧勝した三バカ達とケイギルは、正式に指導役として認められる。

そして、今年度卒業生達は、騎士学校始まって以来の厳しい訓練を受け、急速に力を付けていく事になるのだ。

************************************************
舞台裏のお話。

ルクス「マティ、そろそろティアを迎えに行くが、どうする?」

マティ《行く! けどその前に……洗って》

ルクス「は?」

ラキア「あぁ、ルクスさん丁度いい所に」

ルクス「な、なんだ?」

ラキア「私はこれらの納品に行ってまいりますので、マティさんを綺麗にしてください」

マティ《洗って~》

ルクス「……インクだらけ……足だけじゃなかったのか?」

マティ《子どものやることだからね》

ルクス「自分で言う事か! 遊んだんだな……」

ラキア「これもご愛嬌です。お願いしますね」

ルクス「……おう……」

マティ《早く早く~。抱っこするともれなく汚れるよ》

ルクス「だよな……」

マティ《赤ちゃんをおくるみでくるむように……って、モガモガっ》

ルクス「この布、以外に大きいな」

マティ《っ、ルクスっ、これじゃ誘拐犯みたいっ》

ルクス「なに? 袋状にして吊ってるだけだぞ」

マティ《ドロボーさんのズタ袋だよ!》

ルクス「なら一緒に洗えばいいんじゃないか?」

マティ《汚ないとかじゃなくて、持ち方の問題!》

ルクス「そういえば、これ、よくラキアが夕食のおかずを持って帰ってくるのに使ってたな」

マティ《……はっ、獲物っ⁉︎》

ルクス「ラキアはアイテムボックスを持ってないからな。捕獲用だったか」

マティ《……》

ルクス「ん?どうした?」

マティ《……お肉の気持ちになってみた……こうやって売られていくんだね……》

ルクス「売ら……あ~……市場でよく見るな」

マティ《……》

ルクス「マティ?」

マティ《うん……ぐすん……早く出して!》

ルクス「泣いてっ……悪かった」

マティ《うっ、うっ……怖いよぉぉ……》

ルクス「悪かったってっ……⁉︎」

火王  《……ルクス……》

ルクス「申し訳ありませんでしたっ!!」


つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎


泣かせてはダメです。


別にいじめたいとか、おもちゃにしたいワケではありません。
ティアちゃんが願うのは、昔のような頼もしい騎士がいる国にする事です。
ちゃんと言葉にしなくては彼らには伝わりませんけどね。


では次回、また明日です。
よろしくお願いします◎
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