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451 期待の騎士達
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2016. 7. 10
********************************************
卒業式から一週間と数日が過ぎたその日。
ティアは珍しく昼間にバトラールの姿で王都ではなく学園街を歩いていた。
夜には礼儀知らずな騎士達を店から追い出す日々。勿論、昼間も何度か王都のギルドでクエストを受けたり、ディムースやサルバを行き来したりと、何かと忙しく過ごしていた。
そんな中、紅翼の騎士が本拠地を置く学園街でバトラールの姿というのは、珍しい事だ。
紅翼の騎士達がその姿を見れば、必ず寄ってくる。それを見越して、わざと声がかけ辛い距離で視認させ、街を練り歩いていた。
お陰で、目的とする騎士達の寄宿舎に着くまでに、ほぼ全員の紅翼の騎士達を後ろに引き連れる事になった。
そこに、本部に詰めていた隊長が気付いて駆けてくる。
「バトラール様っ、わざわざこのような場所へおいでにならずとも、ご用がありましたら、一つ魔術を打ち上げてくだされば、そこに馳せ参じましたものを」
これは冗談で言っているわけではなく、本気だから困る。
「いや、さすがにそんな物騒な呼び方は有事の時にしか使わないさ。話があってな。邪魔をするぞ」
「はっ」
そうしてティアが向かったのは、全員が軽く収容できる訓練施設だ。
きれいに並んだ彼らの前に立つと、ティアは隊長に確認する。
「王からひと月後の対抗戦の話は来ているか?」
「はっ、通達も済んでおります」
「そう、なら話は早い」
ティアは改めて全員に目を向けると、口を開いた。
「知っての通り、ひと月後、冒険者と騎士での対抗戦が行われる。まぁ、結果は明らかだ。腑抜けた騎士達は多くの民の前で吊るし上げられる事になる。国の威信など地に落ちるだろう」
騎士達は恥をかくだけ。騎士の地位など、空前の灯火だ。
「発言、よろしいでしょうか」
そう言って手を挙げたのは、キルシュの兄、ドーバン侯爵家の次男、ケイギルだった。
「いいぞ」
ケイギルは、バトラールの正体であるティアを知っている。先ごろ、彼は所属していた白月騎士団から、念願叶ってこの紅翼騎士団に移籍してきたのである。
「王はなぜ、民達の信用を失くす危険があるこのような事をお考えになったのでしょうか」
「お前も気付いていたのではないか?王都の騎士達へ民が向ける思いは、尊敬や畏敬ではなく、蔑みや失望だと」
「っ、それは……」
ケイギルだけでなく、同じように王都の騎士団から移ってきた数人の騎士達が下を向いた。
「既に手遅れなんだよ。民達はもう騎士に期待などしていない。偉そうに歩いているだけの、無能な貴族と大差ない。だが、本来国を守るべき騎士がそれでは困る。そこで、王は決断したのさ」
冒険者と騎士との実力差を、王自身知りたいというのもあったようだ。そして、恥を知らぬ騎士達に、民の前で大恥を晒す事で自己を見つめ直させる。
しかし、当然そう上手くいくとは思ってはいない。
「ですが、それでは多くの者が潰れます」
ケイギルは分かっていた。現在の騎士の大半は実力もない、親の七光り。豆粒ほどの精神力しか持ってはいないだろうと。
「それも計算の内だ。そこは既に選別が始まっている。補充の用意もするつもりだ」
「補充?」
そこでティアはニヤリと笑った。
「今年卒業する騎士学校の生徒。それをこのひと月で鍛え直すのさ」
「えっ」
毎年、騎士学校の卒業生は約五十名。その内の七割は貴族の子息だ。しかし、彼らに期待はしない。あくまで狙いは残り三割の本気で騎士に憧れて腕を磨こうと入学した子ども達だ。
「まぁ、この話は今はいい。私がここに来たのは、お前達の役割について伝えるためだ」
役割と聞いて、騎士達は目を輝かせ、姿勢を正す。
彼らはいつでも、ティアの期待に応えようと必死なのだ。
予想通りの反応にクスリと笑うと、ティアは彼らに命じた。
「お前達には、この国の騎士の威信を守ってもらいたい。お前達が最後の砦だ。本当の騎士の姿を民に見せてやれ。ともすれば、国が瓦解してもおかしくはない状況だ。それがお前達にかかっている。期待しているぞ」
「「「はっ、お任せくださいっ!」」」
冒険者と互角にやり合える実力があるのは彼らだけ。ティアも、彼らがいなければ、こんな事は王に提案しなかった。
本当の騎士の姿を彼らの中に見たからこそ、この荒療治が可能だと踏んだのだ。
「あぁ、それと言い忘れたが、今回のこの対抗戦が終わったら、恐らく騎士団の移動があるだろう。王都を手薄にするわけにはいかないからな」
これには隊長が反応する。
「それは……我々が王都勤務になる可能性があるということでしょうか」
「そうだ。まぁ、間違いないだろう。ただ、全員となると、バランスが悪い。小隊に分けて王都と学園街を担当してもらうことになる。編成を考えておいてくれ」
「承知いたしました」
「以上だ。持ち場に戻ってくれ」
そうして素早く再び街へ散っていく騎士達を見送りながら、ティアは隊長を手招いた。
駆け寄ってきた隊長に小声で、とある指示を出す。
「そこの小部屋を借りるぞ」
「はっ、ではすぐに」
ティアがここへ来た目的は、彼らを鼓舞するだけではなかったのだ。
************************************************
舞台裏のお話。
トーイ「終わった……これで任務完了だな」
チーク「完璧過ぎるくらいだよ」
ツバン「ちょっと拍子抜けするほどアッサリ終わったみたいに感じるけどね」
トーイ「それでも、ティア様のご期待に沿えたというのが、もう満足だ」
チーク「確かに。それが一番大きいかも」
ツバン「言われた時はちょい達成できるか不安だったもんね」
ト・チ「「ティア様の判断力は確かだけどな」」
ツバン「うん。寧ろ、僕らの実力じゃなくて、ティア様の見立ての方を信じたよね」
トーイ「あぁ。ティア様が間違えるはずがないからな」
チーク「そうだ。ティア様はいつでも正しい」
ツバン「そうだねっ」
チーク「それで、ティア様は終わったら学園街に居るだろうから、来いって仰ったよな?」
トーイ「そのはずだ……うん。学園街にいらっしゃる。ただ、お屋敷ではないな」
ツバン「これって、騎士の寄宿舎じゃない?」
チーク「っ、本当だっ。そんな、まさかっ」
トーイ「僕らが出遅れたのかっ? 急ぐぞっ。奴らに仕事を持って行かれる」
ツバン「僕らのティア様なのにっ」
チーク「そうだっ。ティア様の命令を、奴らに取られては困る」
トーイ「急ぐぞっ!」
チ・ツ「「おうっ!!」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
同族嫌悪?
ダメダメな所ばかり見せてはいけません。
最低でも騎士の必要性は示さなくては。
前より落ち着きも出てきたように見えますし、ただの変態集団ではなくて良かった。
さて、まだ用事はあります。
では次回、また明日です。
よろしくお願いします◎
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卒業式から一週間と数日が過ぎたその日。
ティアは珍しく昼間にバトラールの姿で王都ではなく学園街を歩いていた。
夜には礼儀知らずな騎士達を店から追い出す日々。勿論、昼間も何度か王都のギルドでクエストを受けたり、ディムースやサルバを行き来したりと、何かと忙しく過ごしていた。
そんな中、紅翼の騎士が本拠地を置く学園街でバトラールの姿というのは、珍しい事だ。
紅翼の騎士達がその姿を見れば、必ず寄ってくる。それを見越して、わざと声がかけ辛い距離で視認させ、街を練り歩いていた。
お陰で、目的とする騎士達の寄宿舎に着くまでに、ほぼ全員の紅翼の騎士達を後ろに引き連れる事になった。
そこに、本部に詰めていた隊長が気付いて駆けてくる。
「バトラール様っ、わざわざこのような場所へおいでにならずとも、ご用がありましたら、一つ魔術を打ち上げてくだされば、そこに馳せ参じましたものを」
これは冗談で言っているわけではなく、本気だから困る。
「いや、さすがにそんな物騒な呼び方は有事の時にしか使わないさ。話があってな。邪魔をするぞ」
「はっ」
そうしてティアが向かったのは、全員が軽く収容できる訓練施設だ。
きれいに並んだ彼らの前に立つと、ティアは隊長に確認する。
「王からひと月後の対抗戦の話は来ているか?」
「はっ、通達も済んでおります」
「そう、なら話は早い」
ティアは改めて全員に目を向けると、口を開いた。
「知っての通り、ひと月後、冒険者と騎士での対抗戦が行われる。まぁ、結果は明らかだ。腑抜けた騎士達は多くの民の前で吊るし上げられる事になる。国の威信など地に落ちるだろう」
騎士達は恥をかくだけ。騎士の地位など、空前の灯火だ。
「発言、よろしいでしょうか」
そう言って手を挙げたのは、キルシュの兄、ドーバン侯爵家の次男、ケイギルだった。
「いいぞ」
ケイギルは、バトラールの正体であるティアを知っている。先ごろ、彼は所属していた白月騎士団から、念願叶ってこの紅翼騎士団に移籍してきたのである。
「王はなぜ、民達の信用を失くす危険があるこのような事をお考えになったのでしょうか」
「お前も気付いていたのではないか?王都の騎士達へ民が向ける思いは、尊敬や畏敬ではなく、蔑みや失望だと」
「っ、それは……」
ケイギルだけでなく、同じように王都の騎士団から移ってきた数人の騎士達が下を向いた。
「既に手遅れなんだよ。民達はもう騎士に期待などしていない。偉そうに歩いているだけの、無能な貴族と大差ない。だが、本来国を守るべき騎士がそれでは困る。そこで、王は決断したのさ」
冒険者と騎士との実力差を、王自身知りたいというのもあったようだ。そして、恥を知らぬ騎士達に、民の前で大恥を晒す事で自己を見つめ直させる。
しかし、当然そう上手くいくとは思ってはいない。
「ですが、それでは多くの者が潰れます」
ケイギルは分かっていた。現在の騎士の大半は実力もない、親の七光り。豆粒ほどの精神力しか持ってはいないだろうと。
「それも計算の内だ。そこは既に選別が始まっている。補充の用意もするつもりだ」
「補充?」
そこでティアはニヤリと笑った。
「今年卒業する騎士学校の生徒。それをこのひと月で鍛え直すのさ」
「えっ」
毎年、騎士学校の卒業生は約五十名。その内の七割は貴族の子息だ。しかし、彼らに期待はしない。あくまで狙いは残り三割の本気で騎士に憧れて腕を磨こうと入学した子ども達だ。
「まぁ、この話は今はいい。私がここに来たのは、お前達の役割について伝えるためだ」
役割と聞いて、騎士達は目を輝かせ、姿勢を正す。
彼らはいつでも、ティアの期待に応えようと必死なのだ。
予想通りの反応にクスリと笑うと、ティアは彼らに命じた。
「お前達には、この国の騎士の威信を守ってもらいたい。お前達が最後の砦だ。本当の騎士の姿を民に見せてやれ。ともすれば、国が瓦解してもおかしくはない状況だ。それがお前達にかかっている。期待しているぞ」
「「「はっ、お任せくださいっ!」」」
冒険者と互角にやり合える実力があるのは彼らだけ。ティアも、彼らがいなければ、こんな事は王に提案しなかった。
本当の騎士の姿を彼らの中に見たからこそ、この荒療治が可能だと踏んだのだ。
「あぁ、それと言い忘れたが、今回のこの対抗戦が終わったら、恐らく騎士団の移動があるだろう。王都を手薄にするわけにはいかないからな」
これには隊長が反応する。
「それは……我々が王都勤務になる可能性があるということでしょうか」
「そうだ。まぁ、間違いないだろう。ただ、全員となると、バランスが悪い。小隊に分けて王都と学園街を担当してもらうことになる。編成を考えておいてくれ」
「承知いたしました」
「以上だ。持ち場に戻ってくれ」
そうして素早く再び街へ散っていく騎士達を見送りながら、ティアは隊長を手招いた。
駆け寄ってきた隊長に小声で、とある指示を出す。
「そこの小部屋を借りるぞ」
「はっ、ではすぐに」
ティアがここへ来た目的は、彼らを鼓舞するだけではなかったのだ。
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舞台裏のお話。
トーイ「終わった……これで任務完了だな」
チーク「完璧過ぎるくらいだよ」
ツバン「ちょっと拍子抜けするほどアッサリ終わったみたいに感じるけどね」
トーイ「それでも、ティア様のご期待に沿えたというのが、もう満足だ」
チーク「確かに。それが一番大きいかも」
ツバン「言われた時はちょい達成できるか不安だったもんね」
ト・チ「「ティア様の判断力は確かだけどな」」
ツバン「うん。寧ろ、僕らの実力じゃなくて、ティア様の見立ての方を信じたよね」
トーイ「あぁ。ティア様が間違えるはずがないからな」
チーク「そうだ。ティア様はいつでも正しい」
ツバン「そうだねっ」
チーク「それで、ティア様は終わったら学園街に居るだろうから、来いって仰ったよな?」
トーイ「そのはずだ……うん。学園街にいらっしゃる。ただ、お屋敷ではないな」
ツバン「これって、騎士の寄宿舎じゃない?」
チーク「っ、本当だっ。そんな、まさかっ」
トーイ「僕らが出遅れたのかっ? 急ぐぞっ。奴らに仕事を持って行かれる」
ツバン「僕らのティア様なのにっ」
チーク「そうだっ。ティア様の命令を、奴らに取られては困る」
トーイ「急ぐぞっ!」
チ・ツ「「おうっ!!」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
同族嫌悪?
ダメダメな所ばかり見せてはいけません。
最低でも騎士の必要性は示さなくては。
前より落ち着きも出てきたように見えますし、ただの変態集団ではなくて良かった。
さて、まだ用事はあります。
では次回、また明日です。
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