女神なんてお断りですっ。

紫南

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連載

438 考えなくてはならないこと

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2016. 6. 21
********************************************

スィールは圧倒されていた。

目の前にいるのは、輝くような女王だ。思い出すのは、初めて彼女に出会った時。

辛くも逃れた魔獣の背の上で、ジェルバが呟いたのだ。

『あれは王気だな。あんなものを纏う者がまだいたとは』

それを聞いた時、彼女を前にした湧き起こる恐怖心は、畏怖の心だったのだと理解した。

それから、ふとした瞬間に思い起こされる。強い視線と、自分はスィールではないのだと否定された嫌悪感。思い出したくないと思うのと同時に、考えなくてはと何かが訴えた。

だが、変わらず組織の為に、聖女の為に笛で魔獣を操る毎日。自分は一体、何者なのか。それをよく考えるようになっていた。

そんな時、女神サティアの生まれ変わりだという少女と面会が叶った。

知らず、涙が溢れたのだ。それは説明できない感情だった。焦燥感と安心感。両極の感情が渦巻いた。

そして思ったのだ。

彼女がサティアだ。サティアでなくてはならないと……。

しかし、今、目の前にいるその人を見ると、全てが揺らぐような感覚があった。

「どうした? 私は気が長い方ではないんだがな」
「っ……」

頭が痛い。何かを思い出しそうで、思い出したくない。

そこに天使が再び駆け寄ってくる気配を感じた。

「ちょっと待ってあげて。多分、何かの術の影響だと思うんだ。それがもうすぐ完全に途切れる」
「ジェルバの術か? あいつなら、精神に干渉する術も研究していそうだ」
「多分そうだと思う。何より、無理にあの神具の使い手にされてたんだ。おかしくなって当然だよ」

そんな声が壁一枚隔てたところで聞こえているようだ。

「仕方ないか。まぁ、やつらもあれだけ痛手を負ったんだ。すぐには動くまい……そいつ。壊すなよ」
「怖いこと言わないでよ。ちゃんと分かってる。それに僕は天使だよ?何とかしてみせるよ」
「はいはい。一応期待しておこう」

そう言って、彼女は部屋を出て行った。

ベッドに引き上げられ、寝かされると、すぐに眠気が襲ってきた。

「今は眠っていいよ。きっと、それが君には必要なんだ。君自身を知るために」
「僕自身を……」

ゆっくりと落ちていく感覚。眠っていいのだと、力を抜いた。

◆◆◆◆◆

ティアは、スィールの部屋を出ると、自室となっている場所へ向かった。

その途中、ティアの隣に風王が顕現する。

《あの青年。知らぬやもしれません》
「アジトの場所を?」
《はい》

どういうことかとティアは風王へ視線を向ける。

《ティア様の問い掛けに、答えないのではなく、答えられないようでした》
「それは、本当に知らないと?」

風王と水王があの場に来たのは、ティアの問い掛けによってスィールの中に浮かぶ情報を読み取る為だったようだ。

神具の気配が分からず、そのアジトを見つけ出す事が出来ない事は、風王達にとってかなりのストレスだったようで、なんとしてでもティアの役に立つべく、情報を得ようとしていたらしい。

《感じられたイメージが定まりませんでした。入り口が幾つもあるように、特定されたビジョンがなかったのです》
「そんな事が?」
《はい。少なくともこの国に、奴らのアジトがないのは調査済みです》

風王達は、近付けない場所がないかを徹底的に調べて回っているようなのだ。それこそ、このフリーデル王国の隅々まで調べ尽くしていた。

「そうなると……やっぱり隣か……あの神笛の力で、移動手段としては問題なかった……。そうだ。神笛で操られていた魔獣がどうなったか分かる?」
《はい。それならば、力から解放され自我を取り戻したようです》

ジェルバが操っていたのはワイバーンだった。連れてきたはずの魔獣ではなかった事で、もしやと思ってはいたのだ。

「本来の神笛の力を引き出せていれば分からなかったけど、あの人では不十分だったんだろうね。それなら移動手段は絶てた。奴らもしばらくは思うように動けなくなる。その間に対策を考えよう」
《あの青年はいかがなさいますか?》

あの組織にとって、神笛が壊された以上、彼の存在価値はなくなったはずだ。

「過去を調べられる? 可能な限りでいい」
《承知しました。すぐに》

どうしてスィールと名乗っているのか。それを知りたいと思った。しかし、当面の危機は去ったと見ていいだろう。

風王が姿を消したのを確認し、ティアは部屋へと入る。服を脱ぎ、術を解いて本来の姿に戻ると、ホッと息をついた。

「疲れた……」

ベッドに一度大の字に転がる。コロコロと気持ちの良い弾力を楽しんで起き上がる。そして、いつもの慣れ親しんだ冒険者の服を手に取った。

素早く身なりを整え、髪を結い直すと部屋を飛び出す。

「ご飯~んっ」

気楽に、飾らないいつもの自分に戻る。そこで思ったのは、サティアであった時、まだ自分は自由だったのだという事。

「王とか王子とか大変だったんだな……」

兄や姉達の王子、王女としての姿を思い出し、苦笑する。肩の力を抜く事が出来ない日々を送っていたのだと知った。

「私……甘えてたのかな」

充分、自分勝手に生きていたのではないかと少々反省する。

「これから……かな」

そうして、少しだけ覚悟を決めて、外へと飛び出したのだった。


************************************************
舞台裏のお話。

火王  《よく噛んで食べるんだ》

子どもA  「はぁ~い」

子どもB  「これタネある?」

火王  《あぁ。取ってやる。あと、それはもう少し小さくしてからだ》

子どもC  「こっちも?」

火王  《それもだ。ゆっくりな》

子どもC  「うん」

フラム  《キュッ》

子どもC  「あっ、フラムちゃん。それどっから持って来たの? 美味しそう」

フラム  《キュ……キュッ》

火王  《半分やると言っている》

子どもC  「本当? やったぁ!」

火王  《待っていろ》

マティ  《見て見て! こんなに持って来た!》

子どもA  「マティちゃん、そのカゴスゴイね」

マティ  《ラキアがくれた》

子どもB  「ラキア姉ちゃん、さすが!」

火王  《マティ。野菜も食べるんだ》

マティ  《えぇ~っ》

子どもB  「お野菜とお肉はバランス良くってラキア姉ちゃん言ってたよ」

マティ  《うぅ~……分かった》

火王  《えらいな》

マティ  《えへへ》

子どもA  「あっ、ズルい! 僕も撫でてっ」

子どもB  「僕も~」

フラム  《キュ~》

火王  《順番だ》

子ども達  「「「はぁ~い」」」

ラキア「なんだか安心しますね」

エル「良いのか……アレで……」




つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎


良いんです。


彼の事情も知らなくてはならないかもしれません。
今後の動きも読んで、対策を考えなくてはいけませんね。
風王達は完全にティアちゃんの為ならを実践中です。
それではようやくご飯♪


では次回、一日空けて23日です。
よろしくお願いします◎
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