女神なんてお断りですっ。

紫南

文字の大きさ
上 下
288 / 457
連載

435 決意表明みたいなものです

しおりを挟む
2016. 6. 17
********************************************

舞台から下りたティアは、待ち構えていたカルツォーネに抱きつかれていた。

「ティアっ、素晴らしかったよ!」

ティアとしては、ほとんどヤケクソ気味だった為、全くどこにここまで感銘を受けてくれたのかが、はっきりいって分からなかった。

カルツォーネはティアの肩を掴んだまま体を離すと、優しい笑みを浮かべて続けた。

「それに、ちゃんと君は考えてくれていたんだね」

そう言ったカルツォーネの後ろに、サクヤとシェリス、そして、駆け付けたファルが並んでいた。一様に慈愛に満ちた笑みを浮かべている。

それを見てティアは思わず苦笑した。

「だって、次は許してくれなさそうなんだもの。何より、自分に言い聞かせたかったんだ」

過去を後悔する事など、自分には許されないと思ってきた。進んだ道が誤りであったと認める事は、あの時死んでいった者達に失礼だと思ったのだ。

「今でも、過去の事はあれ以外の方法なんてなかったと思うし、間違いじゃなかったと言える。けど……間違いじゃなくても、正しい事でもなかったって思うから……」

満点の正解なんて、この世界にはないだろう。何を正解にするのかなんて事は、人の考えが様々にあるように、数多く存在するのだ。

「だから、せめて今度は沢山の選択肢を用意して、みんなで考えたいんだ。その中で相応しい答えが見つけられるようにしたい。私がやれる事は全部やって、焦って一人で答えを出さなきゃならない状況を作らないようにしたいなって」

追い詰められる前に、今度は逃げずに手を尽くそう。そう思うから。

「みんなも隠し事しないでね」

お互い抱え込まないで関わっていこう。共に生きる覚悟もある。

今の世界が許さなくても、この関係を絶つ気はない。

ティアはカルツォーネ達と再会してからそれぞれに誓った。いつでも困った事があれば駆け付けるからという彼らに、次は必ず告げるからと。

そうは言っても、彼らには今の立場もある。何より、世界の状況が共にあるには難しくなっていた。

だから、心のどこかで建前でしかなくなってしまうだろうと思っていたのだ。しかし、今回の騒動でティアはようやく自覚した。

この友人達は、本気でなにがあっても、ティアの為に今度は駆け付けるつもりなのだと。

その本気の思いと覚悟を実感したティアは、それならば自分もちゃんとこれに向き合わなくてはならないと思った。そうして考えた答えがこれだったのだ。

カルツォーネがもう一度ティアを抱き締めて離す。

「そう。私達は仲間で、友人で、家族なんだ。いつだって力になるよ。君が望めば国だって世界だって変えてやるからね」

ティアを真っ直ぐに見つめウィンクするカルツォーネ。

「ティアの為なら、国を滅ぼす事も厭いませんよ?」

シェリスは穏やかな笑みを浮かべながら物騒な事を宣言する。

「あんたは相変わらずよね。そんなんじゃ、ティアが悪者になっちゃうじゃない。分かってないわね。私なら国を乗っ取って、ティアを王にするわ」

サクヤはシェリスを横目で睨んで言った。

「……それも……良くない……国は明け渡させる……」

ファルも静かに決意を込める。

「いや……なんでみんなして国規模の話を……ううん。もういいや」

今何を言っても無駄だろう。この姿のせいで、女王になったティアしか見えていないようなのだ。

盛り上がる友人達をよそに、ティアが舞台を下りた事で正気に戻った人々の賑やかな声に耳を澄ませた。

思い思いに散って行き、これから楽しい食事が始まる。

少し離れた場所に固まっているベリアローズやアデル達に目を向けると、ティアと話したそうにしながらも、食事を始めた人々の方を羨ましげに見ているのが分かった。

そこへ、マティが通りすがりにティアへと伝える。

《主はまだ用があるんでしょ? アデル達は連れて行くよ。フラムも連れてご飯食べてくる》
「ふふっ、よろしく。後で行くから。それと、あっちの端で隠れてるサラちゃんも回収しといて」
《サラちゃんってば、主が心配で来たなら、ちゃんと顔を見せればいいのに。世話が焼けるなぁ》

そう言ってマティがアデル達の下へ走って行った。合流すると二三言葉を伝えて、皆を連れて離れていく。

アデル達は一度ティアの方へと目を向けるが、ティアが頷くのを見て、そのまま食事へと繰り出していった。

ラキアもマティと同様に何かを察したらしく、所在無げにティアを見つめていたルクスやクロノス、ビアン、ウルスヴァン、ユメルとカヤルも連れて行ったようだ。

残ったのはカルツォーネ達だ。しかし、それも妖精王が声をかける。

《ティアはいつもの格好に着替えたいんだろ? 待ってるのもいるみたいだし、俺らは先に行ってるからな。早く来ないとなくなるとだけ言っておこう》
「着替えるなら手伝って……もらうといいわ」

サクヤが手伝うと言おうとして変えたのは、そこでティアが気にしている気配を感じたからだ。

カルツォーネもシェリスもファルも気付いたようだ。

「早く来てくださいね」
「君の好きなものを取り置いておくよ」
「……待っている……」

そんな彼らに頷いて、ティアは大宿へ向かう。その時見上げた最上階の一室。そこに白い羽が見えた。

「すぐに戻るから」

そう振り向いて友人達に告げると、部屋へと向かったのだった。



************************************************
舞台裏のお話。

ビアン「なんだか本当に王を振り切ってよかったなと思ったんだが……」

ラキア「間違いなく今ここにお見えでしたら、大層、居心地の悪い思いをしたでしょうね」

ビアン「いや……うん」

ウル「恨み言の一つや二つなどと言っていられなかったでしょう……」

ラキア「マスター達の様子ですと、今後、王への評価は厳しくなりますね。少しでもティア様の邪魔になると判断されれば、退位に追い込みかねません」

ビアン「っ、そこまで⁉︎」

ウル「……もう諦めてティアさんに国を渡しましょうか」

ビアン「師長殿っ!!」

ウル「あぁ、もう師長ではありませんが、王を説得しましょう。心配ありません。まだ影響力は持っておりますからね」

ビアン「そんな遠い所を見ないでっ! まだ大丈夫ですからっ。早まらないでくださいよっ!!」

ラキア「いつでも協力いたします」

ウル「ラキアさんが味方でしたら心強いですね」

ビアン「何かを悟ったような穏やかな笑みをっ⁉︎ ルクスっ、助けてくれ!」

ルクス「……諦めたら楽になる」

クロノス「ティア様にお任せいただければ、問題はなにもなくなりますよ」

ユメル「ビアンさん。残念だけど……」

カヤル「希望は別の所に見つけるべきだよ」

ビアン「味方がいないっ⁉︎」




つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎


ティアちゃん支持派ですから。


カル姐さん達との絆を確かめました。
彼らは今度はティアに暗躍させる気はないのかもしれません。
何かあれば、表に立って変えてしまえという事でしょう。
国王には厳しい状況ですね。
さて、カランタ君とあの人は?


では次回、一日空けて19日です。
よろしくお願いします◎
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃

紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。 【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。

婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。

待鳥園子
恋愛
婚約者が病弱な妹を見掛けて一目惚れし、私と婚約者を交換できないかと両親に聞いたらしい。 妹は清楚で可愛くて、しかも性格も良くて素直で可愛い。私が男でも、私よりもあの子が良いと、きっと思ってしまうはず。 ……これは、二人は悪くない。仕方ないこと。 けど、二人の邪魔者になるくらいなら、私が家出します! 自覚のない純粋培養貴族令嬢が腹黒策士な護衛騎士に囚われて何があっても抜け出せないほどに溺愛される話。

私が妊娠している時に浮気ですって!? 旦那様ご覚悟宜しいですか?

ラキレスト
恋愛
 わたくしはシャーロット・サンチェス。ベネット王国の公爵令嬢で次期女公爵でございます。  旦那様とはお互いの祖父の口約束から始まり現実となった婚約で結婚致しました。結婚生活も順調に進んでわたくしは子宝にも恵まれ旦那様との子を身籠りました。  しかし、わたくしの出産が間近となった時それは起こりました……。  突然公爵邸にやってきた男爵令嬢によって告げられた事。 「私のお腹の中にはスティーブ様との子が居るんですぅ! だからスティーブ様と別れてここから出て行ってください!」  へえぇ〜、旦那様? わたくしが妊娠している時に浮気ですか? それならご覚悟は宜しいでしょうか? ※本編は完結済みです。

ここは私の邸です。そろそろ出て行ってくれます?

藍川みいな
恋愛
「マリッサ、すまないが婚約は破棄させてもらう。俺は、運命の人を見つけたんだ!」 9年間婚約していた、デリオル様に婚約を破棄されました。運命の人とは、私の義妹のロクサーヌのようです。 そもそもデリオル様に好意を持っていないので、婚約破棄はかまいませんが、あなたには莫大な慰謝料を請求させていただきますし、借金の全額返済もしていただきます。それに、あなたが選んだロクサーヌは、令嬢ではありません。 幼い頃に両親を亡くした私は、8歳で侯爵になった。この国では、爵位を継いだ者には18歳まで後見人が必要で、ロクサーヌの父で私の叔父ドナルドが後見人として侯爵代理になった。 叔父は私を冷遇し、自分が侯爵のように振る舞って来ましたが、もうすぐ私は18歳。全てを返していただきます! 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。