278 / 457
連載
425 それは過去の光景
しおりを挟む
2016. 6. 3
書籍化該当部非公開につきまして、内容が少し飛んでおります。
ディムースの話は書籍版では出ないものです◎
********************************************
その情景を見た時、これは夢だと分かった。
今まで散々見てきた過去の夢は、世界が見せる世界の記憶。だけれど、これは違う。
網膜に焼き付いたその瞬間を、目を閉じれば思い出せてしまうそれを、ティアは無意識のうちにずっと封印してきた。その記憶が今、鮮やかに蘇る。
『サっ……ティア……っ……』
伸ばされたその人の手は届かない。なぜそんな顔をするのかと、問いたいけれど声も出なかった。
もう眠って……。
そう言いたい。そう願う。
『すまないっ……すまなかった……っ……サティアっ……』
それまで一切こちらを見なかったその人が正気に戻っていた。玉座から下りて、傷つき血塗れになった体を引き摺りながら必死に手を伸ばしてくる。
何度も謝ってくるその姿を、薄れていく意識の中で見ていた。
死に瀕したからこそ、正気に戻ったのだろう。これしか方法はなかったのかと、少々悔やまれた。
周りは既に仕掛けた魔術が発動し、火の海だ。逃げる場所はなく、もう数分とせずに城を吹き飛ばす大きな爆発が起こるだろう。それで終わりだ。
この幕引きは少々計算外だったが、計画通りの結末には違いない。だから、満足して逝こうと思った。
『サティア……っ……』
不思議と体が冷えて、炎の熱さを感じない。もう目を開けるのも億劫だ。そうして目を閉じると、必死に呼びかける声が大きくなる。
それがおかしくて、笑みを浮かべた。好きなだけ勝手に呼ぶがいい。最期の時まで聞いているから。
だから呼んで……。
今までそんな風に呼ばれた事はなかった。だから、きっと自分は嬉しいのだ。
声がかすれ、血を吐き出す音が聞こえた。そして、静かに呼吸が止まるのが分かった。
……おやすみ……父様……。
それが最期の記憶。そうして意識を手放したのだ。
◆◆◆◆◆
世界の音が戻ってくる。
「父……さま……」
ゆっくりと覚醒したティアは、ぼんやりと天井を見つめていた。
「ティアっ」
そうして顔を覗かせたのはカランタだった。その姿が、かつての父であるサティルとかぶる。本人なのだから当たり前かもしれないが、それが少し可笑しかった。
そこで、なぜ自分は眠っていたのだろうと思う。
それを問おうと口を開くが、酷く喉が渇き、かすれた息しか出なかった。
「あっ、待ってて」
カランタが慌てて駆けていく。それと入れ違いにやって来たのは、カルツォーネだった。
「ティア! 気づいたんだね。シェリー、シェリーっ」
そうしてまたカルツォーネも、ティアの顔を確認すると駆け出していった。
間をおかず、次に部屋へと駆け込んで来たのはルクスだ。今までに見たこともないほど、必死な顔をしていた。
「ティア⁉︎ 大丈夫か? 痛いところは?」
そこへ戻ってきたカランタが水を差し出そうとして転けていた。
「うわぁっ」
《なにをしているのです。ティア様にかかったらどうするおつもり?》
「うっ……」
《器を貸しなさい。わたくしが出します》
「はい……」
どうやら、水王に怒られているようだ。
とりあえず水が飲みたい。そう思って起き上がろうと腕に力を込める。すると、現れた風王とルクスが両脇から背中を支えて起こしてくれた。
《ご無理をなさいませんように》
「無理はするな」
そう言う二人に、今日は一段と過保護だと苦笑する。
そこへ、シェリスとカルツォーネがやってきた。
「ティアっ……あぁ、水はゆっくり飲んでください」
「一気に飲んではダメだよ」
一体自分をいくつだと思っているのだろう。この二人もかと呆れながら、ゆっくりと喉を潤した。
「……はぁ……ここは……?」
合宿所でもないように思えたティアは、今更ながらにここはどこなのかと不思議に思った。
「ここは、ティア様の作られた町。ディムースの大宿です」
答えたのは、部屋へと入って来たラキアだった。
************************************************
舞台裏のお話。
マティ 《主……大丈夫かな?》
フラム 《キュ……》
火王 《大丈夫だ。ティア様は強い》
妖精王 《そうだぞ。あの子は強い。それに、薬も完璧だからな》
マティ 《うん。マスターの薬なら大丈夫だと思うけど……》
フラム 《キュゥ》
妖精王 《なんでも、過去に同じ事例があったみたいだからな。間違いはないさ》
マティ 《うん……そういえば、王様。こんな所に居ていいの?》
妖精王 《おいおい。俺だってあの子が心配なんだ。目覚めるまではここに居るぞ?》
火王 《仕事場に戻れ》
マティ 《主が起きたら教えるよ? 戻ったら?》
フラム 《キュっ》
妖精王 《いやいや、なんでそんなに追い立てようとしてんだ?》
マティ 《別に。ただ、居ても意味ないなって》
火王 《帰っても構わない》
フラム 《キュキュっ》
妖精王 《ちょっ、酷くねぇっ?》
火王 《普通だ》
マティ 《普通だよ?》
フラム 《キュ》
妖精王 《あ~……分かった。邪魔なんだ?》
マティ 《うん? まぁ、パパとの団らんに交じってくんなって感じ?》
フラム 《キュ!》
妖精王 《……マジの本音……泣くぞ……》
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
王様は、邪魔者だそうです。
少しずつ垣間見える過去。
王を死へと誘い、それでもそこで王を庇い倒れたようです。
この瞬間の前に何があったかは、またの機会に。
目覚めたティアちゃん。
皆が心配していました。
では次回、一日空けて5日です。
よろしくお願いします◎
書籍化該当部非公開につきまして、内容が少し飛んでおります。
ディムースの話は書籍版では出ないものです◎
********************************************
その情景を見た時、これは夢だと分かった。
今まで散々見てきた過去の夢は、世界が見せる世界の記憶。だけれど、これは違う。
網膜に焼き付いたその瞬間を、目を閉じれば思い出せてしまうそれを、ティアは無意識のうちにずっと封印してきた。その記憶が今、鮮やかに蘇る。
『サっ……ティア……っ……』
伸ばされたその人の手は届かない。なぜそんな顔をするのかと、問いたいけれど声も出なかった。
もう眠って……。
そう言いたい。そう願う。
『すまないっ……すまなかった……っ……サティアっ……』
それまで一切こちらを見なかったその人が正気に戻っていた。玉座から下りて、傷つき血塗れになった体を引き摺りながら必死に手を伸ばしてくる。
何度も謝ってくるその姿を、薄れていく意識の中で見ていた。
死に瀕したからこそ、正気に戻ったのだろう。これしか方法はなかったのかと、少々悔やまれた。
周りは既に仕掛けた魔術が発動し、火の海だ。逃げる場所はなく、もう数分とせずに城を吹き飛ばす大きな爆発が起こるだろう。それで終わりだ。
この幕引きは少々計算外だったが、計画通りの結末には違いない。だから、満足して逝こうと思った。
『サティア……っ……』
不思議と体が冷えて、炎の熱さを感じない。もう目を開けるのも億劫だ。そうして目を閉じると、必死に呼びかける声が大きくなる。
それがおかしくて、笑みを浮かべた。好きなだけ勝手に呼ぶがいい。最期の時まで聞いているから。
だから呼んで……。
今までそんな風に呼ばれた事はなかった。だから、きっと自分は嬉しいのだ。
声がかすれ、血を吐き出す音が聞こえた。そして、静かに呼吸が止まるのが分かった。
……おやすみ……父様……。
それが最期の記憶。そうして意識を手放したのだ。
◆◆◆◆◆
世界の音が戻ってくる。
「父……さま……」
ゆっくりと覚醒したティアは、ぼんやりと天井を見つめていた。
「ティアっ」
そうして顔を覗かせたのはカランタだった。その姿が、かつての父であるサティルとかぶる。本人なのだから当たり前かもしれないが、それが少し可笑しかった。
そこで、なぜ自分は眠っていたのだろうと思う。
それを問おうと口を開くが、酷く喉が渇き、かすれた息しか出なかった。
「あっ、待ってて」
カランタが慌てて駆けていく。それと入れ違いにやって来たのは、カルツォーネだった。
「ティア! 気づいたんだね。シェリー、シェリーっ」
そうしてまたカルツォーネも、ティアの顔を確認すると駆け出していった。
間をおかず、次に部屋へと駆け込んで来たのはルクスだ。今までに見たこともないほど、必死な顔をしていた。
「ティア⁉︎ 大丈夫か? 痛いところは?」
そこへ戻ってきたカランタが水を差し出そうとして転けていた。
「うわぁっ」
《なにをしているのです。ティア様にかかったらどうするおつもり?》
「うっ……」
《器を貸しなさい。わたくしが出します》
「はい……」
どうやら、水王に怒られているようだ。
とりあえず水が飲みたい。そう思って起き上がろうと腕に力を込める。すると、現れた風王とルクスが両脇から背中を支えて起こしてくれた。
《ご無理をなさいませんように》
「無理はするな」
そう言う二人に、今日は一段と過保護だと苦笑する。
そこへ、シェリスとカルツォーネがやってきた。
「ティアっ……あぁ、水はゆっくり飲んでください」
「一気に飲んではダメだよ」
一体自分をいくつだと思っているのだろう。この二人もかと呆れながら、ゆっくりと喉を潤した。
「……はぁ……ここは……?」
合宿所でもないように思えたティアは、今更ながらにここはどこなのかと不思議に思った。
「ここは、ティア様の作られた町。ディムースの大宿です」
答えたのは、部屋へと入って来たラキアだった。
************************************************
舞台裏のお話。
マティ 《主……大丈夫かな?》
フラム 《キュ……》
火王 《大丈夫だ。ティア様は強い》
妖精王 《そうだぞ。あの子は強い。それに、薬も完璧だからな》
マティ 《うん。マスターの薬なら大丈夫だと思うけど……》
フラム 《キュゥ》
妖精王 《なんでも、過去に同じ事例があったみたいだからな。間違いはないさ》
マティ 《うん……そういえば、王様。こんな所に居ていいの?》
妖精王 《おいおい。俺だってあの子が心配なんだ。目覚めるまではここに居るぞ?》
火王 《仕事場に戻れ》
マティ 《主が起きたら教えるよ? 戻ったら?》
フラム 《キュっ》
妖精王 《いやいや、なんでそんなに追い立てようとしてんだ?》
マティ 《別に。ただ、居ても意味ないなって》
火王 《帰っても構わない》
フラム 《キュキュっ》
妖精王 《ちょっ、酷くねぇっ?》
火王 《普通だ》
マティ 《普通だよ?》
フラム 《キュ》
妖精王 《あ~……分かった。邪魔なんだ?》
マティ 《うん? まぁ、パパとの団らんに交じってくんなって感じ?》
フラム 《キュ!》
妖精王 《……マジの本音……泣くぞ……》
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
王様は、邪魔者だそうです。
少しずつ垣間見える過去。
王を死へと誘い、それでもそこで王を庇い倒れたようです。
この瞬間の前に何があったかは、またの機会に。
目覚めたティアちゃん。
皆が心配していました。
では次回、一日空けて5日です。
よろしくお願いします◎
10
お気に入りに追加
4,569
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました


【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつまりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。
この度、双子の妹が私になりすまして旦那様と初夜を済ませてしまったので、 私は妹として生きる事になりました
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
*レンタル配信されました。
レンタルだけの番外編ssもあるので、お読み頂けたら嬉しいです。
【伯爵令嬢のアンネリーゼは侯爵令息のオスカーと結婚をした。籍を入れたその夜、初夜を迎える筈だったが急激な睡魔に襲われて意識を手放してしまった。そして、朝目を覚ますと双子の妹であるアンナマリーが自分になり代わり旦那のオスカーと初夜を済ませてしまっていた。しかも両親は「見た目は同じなんだし、済ませてしまったなら仕方ないわ。アンネリーゼ、貴女は今日からアンナマリーとして過ごしなさい」と告げた。
そして妹として過ごす事になったアンネリーゼは妹の代わりに学院に通う事となり……更にそこで最悪な事態に見舞われて……?】

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。