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連載
413 影が蠢く森へ
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2016. 5. 17
********************************************
カルツォーネは、いつもの日課であるティアとの夜の通信が繋がらなかったことが不安になり、日が暮れてしばらくして国を飛び出していた。
今日からティアが、学園街と赤白の宮殿がある森の中間辺りにあるらしい合宿所に行く事は聞いていた。
いつもとは違う環境にいるのだから、そのせいで通信が取れないのかもしれない。だが、カルツォーネは何故か胸騒ぎを覚えたのだ。
迷わず森の方へと愛馬である黒い天馬で飛んでいたのだが、赤白の宮殿がある森が見え始めた頃から、おかしな気配を感じるようになった。
「……生き物……ではないな……これは魔力か?」
生物の気配ではない事は確かだ。どちらかといえば、精霊に近い。目に見る事のできない魔力の塊といった感じだった。
「なぜあの森に……」
森の危険度としてはBランク。その先にダンジョンがあるのだから仕方が無い。だが、このような異変が起きる程の危険はないはずなのだ。
いよいよ怪しい森の上空へ差し掛かろうとしたカルツォーネ。そこで、黒い影が目に入った。
「あれはっ……」
魔獣の姿をする不可解な何かでできたもの。それが森から出てカルツォーネが先ほど上空を通り過ぎてきた街を目指すように真っ直ぐに走っていった。
「これではマズイかっ」
間違いなく街を襲うだろう魔獣を放って置けるわけがない。カルツォーネは上空で素早く引き返す。天馬は速い。問題なく先回りする事ができた。
大地に降り立つと、剣を構え、先ずは挨拶と魔力を込めた斬撃を飛ばした。
それに切り裂かれた魔獣は、黒い霧となって霧散する。それはつい先日、国外に散っている諜報部の者達からもたらされた情報と酷似していた。
「なるほど……報告にあったダンジョン内の魔獣のようなものというのはこれか。これならば、ダンジョンから魔獣が溢れてきたと宣えば信じる輩もいるだろうな」
実際、上手く情報規制をかけているが、このフリーデル王国の隣の国では、混乱が起き、ダンジョンを封鎖するという事が国で検討されているという。
カルツォーネは向かってくる魔獣達を切り伏せながら森へと向かっていく。
「元はどこだ?」
それを叩かなければキリがない。
そうして進んでいれば、森から数人の黒ずくめの者達が飛び出してきた。そんな彼らの一人が、カルツォーネへと声を掛ける。
「カル様でいらっしゃいますね。我らはクィーグ一族の者です」
「クィーグ……そうか」
クィーグの事は、ティアに聞いて知っていたカルツォーネだ。ならばと、ここを任せる事にする。
「私はこれの元を探す」
「お願いいたします」
察しが良いようだ。彼らは強い。ティアも認めた実力者達の集団だ。魔獣達は、本物ではないとはいえ、その能力や力は本物と大差ない。だが、それでも問題なく対処できるはずだ。
「シュリ、行くぞっ」
愛馬の名を呼べば、傍らへと駆けてくる。それに飛び乗り、カルツォーネは森の中へと入っていった。
◆◆◆◆◆
ティアはそっとルクスから体を離す。
見つめた先には、驚きに目を見開くルクスの顔があった。
言葉も出ない様子のルクスに苦笑しながら、ティアは数歩後ずさると、手を後ろに組んで目を天へと向けた。
「あの天使に呼び起こされて、またこの世界に生まれ変わったの。シェリーやカル姐、サクヤ姐さん、それとファル兄は、サティアだった時の……知り合い……でね。だから、私の事も良く知ってるの」
友と呼ぶには妙な関係ではある。仲間と呼ぶのも少し違うように思えた。最も相応しい言葉があるとすれば、家族かもしれない。それほど、大切な絆を持った者達だと言えた。
「この屋敷は、キルスロート・セランっていうバトラール王国の魔術師長の屋敷だったんだって」
そう言って、今度は屋敷を振り仰ぐ。
「キルじぃは、王家が持っていた神具をここに封じてたみたい。レナード兄様が処分したはずだったんだけどね……」
憎らしげに顔を顰めたティアを見て、ルクスがようやく口を開いた。
「それは……確認しなかったのか?」
そう尋ねられた時、サクヤの気配を屋敷の入り口に感じた。サクヤにもいずれ話さなければと思っていた。だから、少し声を風に乗せる。
「私はあの頃、城にそんなものがあるなんて知らなかったの。それに、保管されていた場所に立ち入れるのは、王と王太子だけだったから」
当然、サティアにはその部屋へ入る事は許されなかった。何より、そこは玉座の裏にある隠し通路の先にあったのだ。
玉座の傍にも行けなかったサティアには足を踏み入れる事さえできなかった。
「それに、レナード兄様が発動させた魔術は、炎と闇の二つの属性を合わせた、当時でも最強の攻撃魔術だった。それで、部屋ごと安置されていた神具を焼いたはずだったんだ……兄様自身、処分できたと確信してたと思う」
だが、そうではなかったのだ。
「してた……その兄は、その後どうっ……」
ルクスが口を開いた直後。ザワザワと大気が騒ぎ出すような落ち着かない何かを感じた。
反射的に目を向けたのは、赤白の宮殿のある方角だった。
「ティア!」
緊迫した声が聞こえた。それは、屋敷の二階の窓から飛び出したカランタのものだった。
「神具がっ……神鏡が発動しているっ」
「なっ⁉︎」
降り立ったカランタは、震える自身の体を抑えようと必死だった。その瞳には恐怖の色が浮かんでいる。
「ど……どうしようっ……」
そんなカランタへ駆け寄り、ティアは問いかけた。
「あれの能力はなにっ」
ティアには、その神具が発動すればなにが起こるのかがわからなかった。しかし、明らかにカランタは怯えている。
「あっ……あの鏡には、世界の記憶を実体化させる能力があるんだ……」
それは、命なき兵を作り出せるようなものだと言うのだ。
************************************************
舞台裏のお話。
トーイ「あの……」
チーク「え~っと……」
ツバン「……いいの?」
アリシア「どうぞ。遠慮なさらずに」
ベティ「お食事がまだなのでしょう?」
トーイ「そ、そうなのですが……」
チーク「なぜ僕たちを?」
ツバン「……美味しそう……」
トーイ「ツバン、待ってくれ」
チーク「待て。ここは慎重に」
アリシア「あら。私達が信用できないとでも?」
ベティ「伯爵家にここまで染まった私達を信用できないと?」
トーイ「いえっ。ラキアさんの書きつけは本物ですし、疑うなんて」
チーク「そうです。ティア様の信頼も篤いラキアさんですし……」
ツバン「ならいいね」
トーイ「いいか……」
チーク「だな……」
ツバン「よしっ。いっただっきま~ぁっす」
ト・チ「「いただきます」」
アリシア「……食べましたわね……」
ベティ「食べましたね……」
ト・チ・ツ「「「へ?」」」
アリシア「何でもありませんわ。お部屋を用意して参りましょう」
ベティ「泊まっていってよ」
ト・チ・ツ「「「はぁ……」」」
アリシア「明日の予定は決まったわね」
ベティ「うん。とりあえず、庭の片付けだよね」
アリシア「北側の壁もやり直さなくっちゃ」
ベティ「うん。あんなに派手に壊されるなんて計算外だったもんね」
アリシア「少し仕掛けが大きかったのね」
ベティ「侵入者を危うく殺しちゃうところだった……」
アリシア「私達にはまだまだ経験が足りないもの。ラキア様がお留守の間に、色々試さなくっちゃ」
ベティ「加減を覚えないとね……あの三人で……」
アリシア「ふふっ。あの三人なら大丈夫そうだものね」
ベティ「殺しても死ななさそう」
ト・チ・ツ「「「っ……ん?」」」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
そのうち包丁を研ぎだしそうな二人です……。
ゆっくりと話している余裕がなくなりました。
過去の話はまたの機会になりそうです。
カル姐さんが駆け付けてくれたようですし、大丈夫……でしょうか?
神具の力とは?
では次回、一日空けて19日です。
よろしくお願いします◎
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カルツォーネは、いつもの日課であるティアとの夜の通信が繋がらなかったことが不安になり、日が暮れてしばらくして国を飛び出していた。
今日からティアが、学園街と赤白の宮殿がある森の中間辺りにあるらしい合宿所に行く事は聞いていた。
いつもとは違う環境にいるのだから、そのせいで通信が取れないのかもしれない。だが、カルツォーネは何故か胸騒ぎを覚えたのだ。
迷わず森の方へと愛馬である黒い天馬で飛んでいたのだが、赤白の宮殿がある森が見え始めた頃から、おかしな気配を感じるようになった。
「……生き物……ではないな……これは魔力か?」
生物の気配ではない事は確かだ。どちらかといえば、精霊に近い。目に見る事のできない魔力の塊といった感じだった。
「なぜあの森に……」
森の危険度としてはBランク。その先にダンジョンがあるのだから仕方が無い。だが、このような異変が起きる程の危険はないはずなのだ。
いよいよ怪しい森の上空へ差し掛かろうとしたカルツォーネ。そこで、黒い影が目に入った。
「あれはっ……」
魔獣の姿をする不可解な何かでできたもの。それが森から出てカルツォーネが先ほど上空を通り過ぎてきた街を目指すように真っ直ぐに走っていった。
「これではマズイかっ」
間違いなく街を襲うだろう魔獣を放って置けるわけがない。カルツォーネは上空で素早く引き返す。天馬は速い。問題なく先回りする事ができた。
大地に降り立つと、剣を構え、先ずは挨拶と魔力を込めた斬撃を飛ばした。
それに切り裂かれた魔獣は、黒い霧となって霧散する。それはつい先日、国外に散っている諜報部の者達からもたらされた情報と酷似していた。
「なるほど……報告にあったダンジョン内の魔獣のようなものというのはこれか。これならば、ダンジョンから魔獣が溢れてきたと宣えば信じる輩もいるだろうな」
実際、上手く情報規制をかけているが、このフリーデル王国の隣の国では、混乱が起き、ダンジョンを封鎖するという事が国で検討されているという。
カルツォーネは向かってくる魔獣達を切り伏せながら森へと向かっていく。
「元はどこだ?」
それを叩かなければキリがない。
そうして進んでいれば、森から数人の黒ずくめの者達が飛び出してきた。そんな彼らの一人が、カルツォーネへと声を掛ける。
「カル様でいらっしゃいますね。我らはクィーグ一族の者です」
「クィーグ……そうか」
クィーグの事は、ティアに聞いて知っていたカルツォーネだ。ならばと、ここを任せる事にする。
「私はこれの元を探す」
「お願いいたします」
察しが良いようだ。彼らは強い。ティアも認めた実力者達の集団だ。魔獣達は、本物ではないとはいえ、その能力や力は本物と大差ない。だが、それでも問題なく対処できるはずだ。
「シュリ、行くぞっ」
愛馬の名を呼べば、傍らへと駆けてくる。それに飛び乗り、カルツォーネは森の中へと入っていった。
◆◆◆◆◆
ティアはそっとルクスから体を離す。
見つめた先には、驚きに目を見開くルクスの顔があった。
言葉も出ない様子のルクスに苦笑しながら、ティアは数歩後ずさると、手を後ろに組んで目を天へと向けた。
「あの天使に呼び起こされて、またこの世界に生まれ変わったの。シェリーやカル姐、サクヤ姐さん、それとファル兄は、サティアだった時の……知り合い……でね。だから、私の事も良く知ってるの」
友と呼ぶには妙な関係ではある。仲間と呼ぶのも少し違うように思えた。最も相応しい言葉があるとすれば、家族かもしれない。それほど、大切な絆を持った者達だと言えた。
「この屋敷は、キルスロート・セランっていうバトラール王国の魔術師長の屋敷だったんだって」
そう言って、今度は屋敷を振り仰ぐ。
「キルじぃは、王家が持っていた神具をここに封じてたみたい。レナード兄様が処分したはずだったんだけどね……」
憎らしげに顔を顰めたティアを見て、ルクスがようやく口を開いた。
「それは……確認しなかったのか?」
そう尋ねられた時、サクヤの気配を屋敷の入り口に感じた。サクヤにもいずれ話さなければと思っていた。だから、少し声を風に乗せる。
「私はあの頃、城にそんなものがあるなんて知らなかったの。それに、保管されていた場所に立ち入れるのは、王と王太子だけだったから」
当然、サティアにはその部屋へ入る事は許されなかった。何より、そこは玉座の裏にある隠し通路の先にあったのだ。
玉座の傍にも行けなかったサティアには足を踏み入れる事さえできなかった。
「それに、レナード兄様が発動させた魔術は、炎と闇の二つの属性を合わせた、当時でも最強の攻撃魔術だった。それで、部屋ごと安置されていた神具を焼いたはずだったんだ……兄様自身、処分できたと確信してたと思う」
だが、そうではなかったのだ。
「してた……その兄は、その後どうっ……」
ルクスが口を開いた直後。ザワザワと大気が騒ぎ出すような落ち着かない何かを感じた。
反射的に目を向けたのは、赤白の宮殿のある方角だった。
「ティア!」
緊迫した声が聞こえた。それは、屋敷の二階の窓から飛び出したカランタのものだった。
「神具がっ……神鏡が発動しているっ」
「なっ⁉︎」
降り立ったカランタは、震える自身の体を抑えようと必死だった。その瞳には恐怖の色が浮かんでいる。
「ど……どうしようっ……」
そんなカランタへ駆け寄り、ティアは問いかけた。
「あれの能力はなにっ」
ティアには、その神具が発動すればなにが起こるのかがわからなかった。しかし、明らかにカランタは怯えている。
「あっ……あの鏡には、世界の記憶を実体化させる能力があるんだ……」
それは、命なき兵を作り出せるようなものだと言うのだ。
************************************************
舞台裏のお話。
トーイ「あの……」
チーク「え~っと……」
ツバン「……いいの?」
アリシア「どうぞ。遠慮なさらずに」
ベティ「お食事がまだなのでしょう?」
トーイ「そ、そうなのですが……」
チーク「なぜ僕たちを?」
ツバン「……美味しそう……」
トーイ「ツバン、待ってくれ」
チーク「待て。ここは慎重に」
アリシア「あら。私達が信用できないとでも?」
ベティ「伯爵家にここまで染まった私達を信用できないと?」
トーイ「いえっ。ラキアさんの書きつけは本物ですし、疑うなんて」
チーク「そうです。ティア様の信頼も篤いラキアさんですし……」
ツバン「ならいいね」
トーイ「いいか……」
チーク「だな……」
ツバン「よしっ。いっただっきま~ぁっす」
ト・チ「「いただきます」」
アリシア「……食べましたわね……」
ベティ「食べましたね……」
ト・チ・ツ「「「へ?」」」
アリシア「何でもありませんわ。お部屋を用意して参りましょう」
ベティ「泊まっていってよ」
ト・チ・ツ「「「はぁ……」」」
アリシア「明日の予定は決まったわね」
ベティ「うん。とりあえず、庭の片付けだよね」
アリシア「北側の壁もやり直さなくっちゃ」
ベティ「うん。あんなに派手に壊されるなんて計算外だったもんね」
アリシア「少し仕掛けが大きかったのね」
ベティ「侵入者を危うく殺しちゃうところだった……」
アリシア「私達にはまだまだ経験が足りないもの。ラキア様がお留守の間に、色々試さなくっちゃ」
ベティ「加減を覚えないとね……あの三人で……」
アリシア「ふふっ。あの三人なら大丈夫そうだものね」
ベティ「殺しても死ななさそう」
ト・チ・ツ「「「っ……ん?」」」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
そのうち包丁を研ぎだしそうな二人です……。
ゆっくりと話している余裕がなくなりました。
過去の話はまたの機会になりそうです。
カル姐さんが駆け付けてくれたようですし、大丈夫……でしょうか?
神具の力とは?
では次回、一日空けて19日です。
よろしくお願いします◎
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