259 / 457
連載
400 再会を求む
しおりを挟む
2016. 4. 29
400回⁉︎
長々とお付き合いいただき、本当にありがとうございます。
********************************************
フリーデル王国の王宮。
国王の執務室では、王が一人、笑みを浮かべながらその手紙を読んでいた。
「ふっ……エルの言った通り、本当に面白い子だな」
そこに書かれていたのは『近々、王都と学園街にあるスラム街の住人を雇用の為に町の外に移住させる』という事と『スラム街のある場所を綺麗に均すから好きに使ってくれ』という事だった。
「さて、そろそろなのかな?」
いつという期限が書かれていないので、ここ数日、それは今か今かと何度も手紙を読み返して待っているのだ。
そこへ、待ちに待った報告がやってくる。
「失礼いたします」
「おお。ビアン。どうだった」
現れたのはエルヴァストの護衛のビアンだ。本来ならば、第二王子であるエルヴァストにくっ付いているはずのビアンだが、学園にいる間は護衛の必要はない。
ここ数年は遊ばせておくのはもったいないという事で、様々な雑務を押し付けていたのだ。
「はい。綺麗に何も無くなっていました……」
報告するビアンの目が、若干虚ろなのは気付かなかった事にする。
「そうか……」
「ご命令の通り、区画整理を行ったと立て札も立ててまいりました」
混乱がないように、そういう事にしてくれと、これも手紙に書かれていたのだ。
王は、大窓から見える城下の様子を見下ろす。ここからではその一画は見えない。何も変わらない情景に見えた。
「うむ。無くなっていたとは、どのように?」
それが気になった。
「はっ……それが……本当に何もなく……まるで全てが砂となったように、サラサラとした砂が堆積しておりました。恐らく彼女の魔術で全てを砂塵に……いえ、これは私の憶測ですが……」
「それは………くくっ、ウルが辞めるわけだ。はははっ、まったく恐ろしい子だな」
「……はい……」
笑い声を上げてビアンを振り返る王。しかし、当のビアンは少し震えながら目を逸らしていた。
その様子がまたおかしくて、王は笑う。
「いやぁ。あの子がバトラール・フィスマとはな。コリアートも丸くなるし、本当に面白い」
「……はぁ……」
愉快だと笑う王。
コリアート・ラトル・ドーバンの最近の変化には驚かされる。視察から戻る時に窮地を救ってくれた少女。エルと共にいたその子は、騎士達をあっさりとのし、冒険者嫌いで堅物なドーバン侯爵へと喧嘩を売っていた。
その時の光景は、今でも鮮明に王の中にある。それほど、衝撃的な出会いだったのだ。
後にエルヴァストへと手紙を出した王は、少女の正体を知った。
「なぁ、ビアン。あの子をエルの嫁にするのはどうだ?」
「ひっ、や、そ、それはっ……」
おかしな声が返ってきた。
どうやらビアンはあの少女が苦手らしいと王は不思議そうに笑った。
「良い案だと思うのだがなぁ……それとも、レイの相手にするか」
「っ、レイナルート様には、先日、婚約者が正式に決まったばかりですしっ」
慌てるビアンに、王は更に楽しそうに笑う。
「そんなに苦手か? 可愛らしい子だったがなぁ?」
「見た目に騙されてはいけませんっ。もっと心を強く持ってくださいっ」
ビアンは激しく動揺しているらしく、既に何を言っているのか自分でも分からなくなっているようだ。
「敵にだけは回さないでくださいっ。城を……城を消す事だって、あの子なら笑いながら出来るんですっ」
「ははっ、そういえば、バトラールには数年前に襲撃されたのだったなぁ」
恐ろしいと青くなって震えるビアン。怒らせなければ問題はないと分かっているし、エルヴァストを兄と慕っている以上、突然そんな事態を起こすとも考えられない。
しかし、ビアンには不安なものは不安なのだ。時に突拍子のない行動に出ると分かっているからこそ感じる不安。それは、ティアを理解していると言えなくもない。
「彼女にこちらの意見など通じません。どうかそのお考えだけはやめていただきたい。何より、そんな事を考えているとジルバール様の耳に万が一にも入れば……」
「おお、そうであったな。これは失念していた」
バトラール以前に、ジルバールに目をつけられかねない。それだけは国として最も避けなくてはならない事態だった。
「今回の事も、何を考えているのか……な、なんとか探りを入れてみます」
「うむ。出来れば直接会って話してみたいのだが……それもお前に任せよう。下手に動くのは得策ではないだろうからな」
「はっ、お任せくださいっ」
ビアンが部屋を辞すると、王は再び外へと目を向ける。
もう一度会えたらと思った。あの時……初めて出会った時に向けられた痛みを含んだ瞳が忘れられない。
どうしたのかと、抱き締めてやりたいと思った。その時の衝動が今も胸の中に燻っている。寂しそうで、何かに縋ろうとしていた。それでもそれを耐えるように見えた瞳。
もう一度会ったならば、その理由を問いたかった。
「会えぬものかな……」
王としてでなくて良い。一人の人として、友人の父としてでも良い。話をしてみたいと思うのだ。
************************************************
舞台裏のお話。
ウル「……」
サクヤ「どうかしたの?」
ウル「あ、先生。お見送りはよろしかったのですか?」
サクヤ「うん。まぁ、うちらはこんなもんよ」
ウル「そうなのですか?」
サクヤ「心配しなくても、ティアが見送ってるし、ファルには充分でしょう」
ウル「はぁ……」
サクヤ「それで? 何か悩み事?」
ウル「え、ええ……何やらティアさんがおかしな動きをしているようで、ビアンがこんな手紙を……」
サクヤ「ビアンちゃんが?」
ウル「……スラム街を消したそうです……」
サクヤ「へぇ。消したって……あぁ、分解魔術ね。ちゃんと完成させてたとは」
ウル「……」
サクヤ「あら、ウル? ちょっと、ウルっ、しっかり!」
シル「どうかされましたか?」
サクヤ「丁度良いところに。ちょっと部屋に運んでくれる?」
シル「はぁ……持病か何かお持ちなのですか? 先日もこのようになっていたようですが」
サクヤ「あ~……ティア恐怖症よ。ウルは繊細なのよね」
シル「それは……一日でも早い克服をお祈りしております」
サクヤ「うん。そろそろティアが荒療治を始めそうだからね~。その前に克服して欲しいものだわ」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
ウルさん、ピンチ。
王様は会いたがっているみたいです。
再会はいつになることか。
バトラールだと明かしたようです。
エル兄ちゃんなら、ティアちゃんの許可も取ったでしょう。
さて、スラム街の住人はどこに?
では次回、一日空けて1日です。
よろしくお願いします◎
400回⁉︎
長々とお付き合いいただき、本当にありがとうございます。
********************************************
フリーデル王国の王宮。
国王の執務室では、王が一人、笑みを浮かべながらその手紙を読んでいた。
「ふっ……エルの言った通り、本当に面白い子だな」
そこに書かれていたのは『近々、王都と学園街にあるスラム街の住人を雇用の為に町の外に移住させる』という事と『スラム街のある場所を綺麗に均すから好きに使ってくれ』という事だった。
「さて、そろそろなのかな?」
いつという期限が書かれていないので、ここ数日、それは今か今かと何度も手紙を読み返して待っているのだ。
そこへ、待ちに待った報告がやってくる。
「失礼いたします」
「おお。ビアン。どうだった」
現れたのはエルヴァストの護衛のビアンだ。本来ならば、第二王子であるエルヴァストにくっ付いているはずのビアンだが、学園にいる間は護衛の必要はない。
ここ数年は遊ばせておくのはもったいないという事で、様々な雑務を押し付けていたのだ。
「はい。綺麗に何も無くなっていました……」
報告するビアンの目が、若干虚ろなのは気付かなかった事にする。
「そうか……」
「ご命令の通り、区画整理を行ったと立て札も立ててまいりました」
混乱がないように、そういう事にしてくれと、これも手紙に書かれていたのだ。
王は、大窓から見える城下の様子を見下ろす。ここからではその一画は見えない。何も変わらない情景に見えた。
「うむ。無くなっていたとは、どのように?」
それが気になった。
「はっ……それが……本当に何もなく……まるで全てが砂となったように、サラサラとした砂が堆積しておりました。恐らく彼女の魔術で全てを砂塵に……いえ、これは私の憶測ですが……」
「それは………くくっ、ウルが辞めるわけだ。はははっ、まったく恐ろしい子だな」
「……はい……」
笑い声を上げてビアンを振り返る王。しかし、当のビアンは少し震えながら目を逸らしていた。
その様子がまたおかしくて、王は笑う。
「いやぁ。あの子がバトラール・フィスマとはな。コリアートも丸くなるし、本当に面白い」
「……はぁ……」
愉快だと笑う王。
コリアート・ラトル・ドーバンの最近の変化には驚かされる。視察から戻る時に窮地を救ってくれた少女。エルと共にいたその子は、騎士達をあっさりとのし、冒険者嫌いで堅物なドーバン侯爵へと喧嘩を売っていた。
その時の光景は、今でも鮮明に王の中にある。それほど、衝撃的な出会いだったのだ。
後にエルヴァストへと手紙を出した王は、少女の正体を知った。
「なぁ、ビアン。あの子をエルの嫁にするのはどうだ?」
「ひっ、や、そ、それはっ……」
おかしな声が返ってきた。
どうやらビアンはあの少女が苦手らしいと王は不思議そうに笑った。
「良い案だと思うのだがなぁ……それとも、レイの相手にするか」
「っ、レイナルート様には、先日、婚約者が正式に決まったばかりですしっ」
慌てるビアンに、王は更に楽しそうに笑う。
「そんなに苦手か? 可愛らしい子だったがなぁ?」
「見た目に騙されてはいけませんっ。もっと心を強く持ってくださいっ」
ビアンは激しく動揺しているらしく、既に何を言っているのか自分でも分からなくなっているようだ。
「敵にだけは回さないでくださいっ。城を……城を消す事だって、あの子なら笑いながら出来るんですっ」
「ははっ、そういえば、バトラールには数年前に襲撃されたのだったなぁ」
恐ろしいと青くなって震えるビアン。怒らせなければ問題はないと分かっているし、エルヴァストを兄と慕っている以上、突然そんな事態を起こすとも考えられない。
しかし、ビアンには不安なものは不安なのだ。時に突拍子のない行動に出ると分かっているからこそ感じる不安。それは、ティアを理解していると言えなくもない。
「彼女にこちらの意見など通じません。どうかそのお考えだけはやめていただきたい。何より、そんな事を考えているとジルバール様の耳に万が一にも入れば……」
「おお、そうであったな。これは失念していた」
バトラール以前に、ジルバールに目をつけられかねない。それだけは国として最も避けなくてはならない事態だった。
「今回の事も、何を考えているのか……な、なんとか探りを入れてみます」
「うむ。出来れば直接会って話してみたいのだが……それもお前に任せよう。下手に動くのは得策ではないだろうからな」
「はっ、お任せくださいっ」
ビアンが部屋を辞すると、王は再び外へと目を向ける。
もう一度会えたらと思った。あの時……初めて出会った時に向けられた痛みを含んだ瞳が忘れられない。
どうしたのかと、抱き締めてやりたいと思った。その時の衝動が今も胸の中に燻っている。寂しそうで、何かに縋ろうとしていた。それでもそれを耐えるように見えた瞳。
もう一度会ったならば、その理由を問いたかった。
「会えぬものかな……」
王としてでなくて良い。一人の人として、友人の父としてでも良い。話をしてみたいと思うのだ。
************************************************
舞台裏のお話。
ウル「……」
サクヤ「どうかしたの?」
ウル「あ、先生。お見送りはよろしかったのですか?」
サクヤ「うん。まぁ、うちらはこんなもんよ」
ウル「そうなのですか?」
サクヤ「心配しなくても、ティアが見送ってるし、ファルには充分でしょう」
ウル「はぁ……」
サクヤ「それで? 何か悩み事?」
ウル「え、ええ……何やらティアさんがおかしな動きをしているようで、ビアンがこんな手紙を……」
サクヤ「ビアンちゃんが?」
ウル「……スラム街を消したそうです……」
サクヤ「へぇ。消したって……あぁ、分解魔術ね。ちゃんと完成させてたとは」
ウル「……」
サクヤ「あら、ウル? ちょっと、ウルっ、しっかり!」
シル「どうかされましたか?」
サクヤ「丁度良いところに。ちょっと部屋に運んでくれる?」
シル「はぁ……持病か何かお持ちなのですか? 先日もこのようになっていたようですが」
サクヤ「あ~……ティア恐怖症よ。ウルは繊細なのよね」
シル「それは……一日でも早い克服をお祈りしております」
サクヤ「うん。そろそろティアが荒療治を始めそうだからね~。その前に克服して欲しいものだわ」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
ウルさん、ピンチ。
王様は会いたがっているみたいです。
再会はいつになることか。
バトラールだと明かしたようです。
エル兄ちゃんなら、ティアちゃんの許可も取ったでしょう。
さて、スラム街の住人はどこに?
では次回、一日空けて1日です。
よろしくお願いします◎
10
お気に入りに追加
4,564
あなたにおすすめの小説
離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。
しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。
私たち夫婦には娘が1人。
愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。
だけど娘が選んだのは夫の方だった。
失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。
事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。
再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
【完結】「幼馴染が皇子様になって迎えに来てくれた」
まほりろ
恋愛
腹違いの妹を長年に渡りいじめていた罪に問われた私は、第一王子に婚約破棄され、侯爵令嬢の身分を剥奪され、塔の最上階に閉じ込められていた。
私が腹違いの妹のマダリンをいじめたという事実はない。
私が断罪され兵士に取り押さえられたときマダリンは、第一王子のワルデマー殿下に抱きしめられにやにやと笑っていた。
私は妹にはめられたのだ。
牢屋の中で絶望していた私の前に現れたのは、幼い頃私に使えていた執事見習いのレイだった。
「迎えに来ましたよ、メリセントお嬢様」
そう言って、彼はニッコリとほほ笑んだ
※他のサイトにも投稿してます。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?
との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」
結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。
夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、
えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。
どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに?
ーーーーーー
完結、予約投稿済みです。
R15は、今回も念の為
だってお義姉様が
砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。
ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると……
他サイトでも掲載中。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。