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399 変化は小さな事から
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2016. 4. 28
********************************************
ファルとの時間は有意義に過ぎていく。
予想外の再会から数週間が経ち、ゲイルやクロノスまでもがファルに挑むようになっていた。
そんな日々が穏やかに過ぎていたのだが、とうとうファルが里へ帰ると言い出した。
「帰っちゃうの……?」
本気で涙を浮かべ、ファルにそう迫るのはアデルだ。
アデルにとってファルは、父親であり兄のような存在になっていた。
それはファルも同じだ。
元々、家族や仲間を重んじるファルは、アデルを本当の娘のように、妹のようにと可愛がっていた。
「……一度戻るだけだ……里長に報告をしなくてはならない……」
「戻って来る……?」
「……必ず……」
昔ならば、武を極める為に旅に出る者も多かったらしい。しかし、今の世情ではそうもいかない。
竜人族では、自分が火種となる争いはご法度だ。鈍く思われがちだが、彼らは情報に敏感だった。
よって、異種族を否定する今の時代の流れを理解し、無為に争う事がないようにと里に籠ったのだ。
そんな中、ファルの外出は例外だった。『友人の剣を見守る』という理由で許されている。
「ファル兄の足なら、往復するのもそんなに掛からないもんね。遅くてもひと月?」
「……そうなる……」
「「ひと月……」」
ぽつりとアデルが呟くそれと同時に、ルクスまでもが肩を落としながら呟いた。
これに気付いたファルが、ルクスに向けて言った。
「……鍛えておけ……」
真っ直ぐに向けられた厳しい瞳。それを受けて、ルクスが気を引き締める。
「っ、はい!」
ルクスにとってファルは、本当に尊敬出来る師匠になったようだ。
「寄り道しないでね」
「……なるべく早く戻って来る……」
「うん。そうしたら今度はシェリーにも会ってやってね」
「…………分かった……」
なぜか沈黙が長かったが、そこは気付かないふりをしておいたティアだ。
「あっ、そうだ。これ、ラキアちゃんから」
「っ……食料……塩漬け……感謝する……」
「うん。伝えておくね。なんか、ファル兄に教えられてから、作るのにはまってるみたい」
「……塩漬けに良い野菜を土産に持ってくる……」
いつもより若干テンションが上がったようだ。ファルは漬け物が好物らしい。
「楽しみにしてるね。あと……通信もよろしく」
「……分かった……」
ティアが小さな声でファルへ言ったのは、伝話心具での通信の事だ。サクヤ達同様、ファル専用のものを作って渡していた。
これでどこまで通信出来るのかを確かめる為にも、毎日一回は通信してくれと言っておいたのだ。
「……では、行ってくる……」
「行ってらっしゃ~い」
こうして、ファルは一度、竜人族の里へと戻って行ったのだった。
◆◆◆◆◆
その日、学園へとルクスに送り届けられたティアは、窓から再び外へと出た。
一旦寮から出たティアは、学園で最も高い時計台へと駆ける。そして、一気に風の魔術でその屋根まで駆け上がった。
未だ黄昏時。消灯時間までに時間がある事を確認して、飛んでついて来ていたフラムに言った。
「フラム。今日も王都までお願いね」
《キュ!》
頼もしく頷いたフラムに笑みを向けると、ティアは風の魔術で空高く舞い上がる。
そして、そこに大きくなったフラムが攫うようにティアを背に乗せて王都に向かって飛んだ。
あっという間に着いた王都の上空。下りる場所を見定めると、遥か上空にもかかわらず、ティアは躊躇いなくフラムの背から飛び降りた。
「バッチリだね」
《キュゥ》
降り立った場所は、スラム街だった。
「大分人が減ったなぁ」
王都のスラム街は、南寄りの小さな一画。しかし、そこに百人ほどが身を寄せ合っていた。
一時期、殆どの者が拘束されたらしく、他の町よりも縮小化されていたのだ。
残りは何人だろうと気配を探る。そこへ、一人の男がやって来た。
「お嬢ちゃん」
「あ、おじさん……もしかして、その人達が最後?」
「あぁ。ようやく説得ができた」
「凄い! おじさんやるねぇ」
「ははっ、そうか?」
ティアに褒められ、男は照れ臭そうに笑った。
「そんじゃぁ、出発するからよ」
「うん。よろしくね」
ティアに見送られ、残されていた十人にも満たないこのスラム街の住人達が、何十年振りかに外へと出て行く。
ギルドカードがなくても、出て行く事は出来る。大きな荷台に乗り、街を出るのだ。
空になったスラム街をもう一度確認すると、仕上げにかかる。ティアはスラム街を覆うように結界を張った。
そうして、魔力を高める。
「フラム。離れちゃダメだよ」
《キュっ》
肩に乗ったまま、若干身を縮めるフラム。それを確認し、ティアは魔術を発動させた。
「【砂塵帰化】」
スラム街の大きさの魔法陣が浮かび上がる。地面から荒れ果てた建物を抜け、上空へ。
そして、一度光ると、ティアとフラムを残し、全ての建物が砂塵となって消えていた。
「これで王都も完了!」
《キュゥ!》
この日、王都の一画にあった。スラム街が突如として消えた。
数日前に学園街のスラム街も消えたのだが、この不可解な現象に、国が動く事はなかった。
町の人々も、しばらくこれに気付く事はなかったのだ。
************************************************
舞台裏のお話。
カル「君も会いに行かなくて良かったのかい?」
シェリス「どうせ変わっていないでしょう」
カル「いやいや、大人になったって」
シェリス「昔も既に大人だったでしょう」
カル「う~ん……落ち着いた感じかな?」
シェリス「昔から大人し過ぎるくらい落ち着いていたでしょう」
カル「大人の落ち着きだよ」
シェリス「あれ以上、落ち着いていたら、問題です」
カル「あ~、伝わらないかなぁ」
シェリス「充分です。変わっていないということでしょう」
カル「……君って奴は……」
シェリス「それにしても、ティアも面識があったのですね」
カル「え? あ~……だって、ティアの武術の師匠だったんだ。そういえば、君が里へ帰る直前だったね」
シェリス「っ、なんですって……」
カル「やっぱり知らなかったんだねぇ」
シェリス「……気が変わりました。近いうちにファルに会いましょう」
カル「おっ、なら、みんなで……」
シェリス「私がいない間にティアと……っ許せません……」
カル「……そ、そういえば、ファルは近々、里帰りするみたいだし、その後かな……」
シェリス「ほぉ……勝ち逃げするつもりですか……そうですか……」
カル「シェ、シェリー……君も落ち着きをね……」
シェリス「私のどこが落ち着きがないと?」
カル「……うん……」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
既に大人気ないです。
ファル兄さんがここで少し席を外します。
早く戻って来て欲しいです。
ティアちゃんが動き出しました。
一体何をするつもりなのか。
では次回、また明日です。
よろしくお願いします◎
先日、26日に第三巻該当部のダイジェスト化を行いました。
同時に第三回、人物紹介リポートも掲載しております。
よろしければそちらだけでもご覧ください。
紫南
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ファルとの時間は有意義に過ぎていく。
予想外の再会から数週間が経ち、ゲイルやクロノスまでもがファルに挑むようになっていた。
そんな日々が穏やかに過ぎていたのだが、とうとうファルが里へ帰ると言い出した。
「帰っちゃうの……?」
本気で涙を浮かべ、ファルにそう迫るのはアデルだ。
アデルにとってファルは、父親であり兄のような存在になっていた。
それはファルも同じだ。
元々、家族や仲間を重んじるファルは、アデルを本当の娘のように、妹のようにと可愛がっていた。
「……一度戻るだけだ……里長に報告をしなくてはならない……」
「戻って来る……?」
「……必ず……」
昔ならば、武を極める為に旅に出る者も多かったらしい。しかし、今の世情ではそうもいかない。
竜人族では、自分が火種となる争いはご法度だ。鈍く思われがちだが、彼らは情報に敏感だった。
よって、異種族を否定する今の時代の流れを理解し、無為に争う事がないようにと里に籠ったのだ。
そんな中、ファルの外出は例外だった。『友人の剣を見守る』という理由で許されている。
「ファル兄の足なら、往復するのもそんなに掛からないもんね。遅くてもひと月?」
「……そうなる……」
「「ひと月……」」
ぽつりとアデルが呟くそれと同時に、ルクスまでもが肩を落としながら呟いた。
これに気付いたファルが、ルクスに向けて言った。
「……鍛えておけ……」
真っ直ぐに向けられた厳しい瞳。それを受けて、ルクスが気を引き締める。
「っ、はい!」
ルクスにとってファルは、本当に尊敬出来る師匠になったようだ。
「寄り道しないでね」
「……なるべく早く戻って来る……」
「うん。そうしたら今度はシェリーにも会ってやってね」
「…………分かった……」
なぜか沈黙が長かったが、そこは気付かないふりをしておいたティアだ。
「あっ、そうだ。これ、ラキアちゃんから」
「っ……食料……塩漬け……感謝する……」
「うん。伝えておくね。なんか、ファル兄に教えられてから、作るのにはまってるみたい」
「……塩漬けに良い野菜を土産に持ってくる……」
いつもより若干テンションが上がったようだ。ファルは漬け物が好物らしい。
「楽しみにしてるね。あと……通信もよろしく」
「……分かった……」
ティアが小さな声でファルへ言ったのは、伝話心具での通信の事だ。サクヤ達同様、ファル専用のものを作って渡していた。
これでどこまで通信出来るのかを確かめる為にも、毎日一回は通信してくれと言っておいたのだ。
「……では、行ってくる……」
「行ってらっしゃ~い」
こうして、ファルは一度、竜人族の里へと戻って行ったのだった。
◆◆◆◆◆
その日、学園へとルクスに送り届けられたティアは、窓から再び外へと出た。
一旦寮から出たティアは、学園で最も高い時計台へと駆ける。そして、一気に風の魔術でその屋根まで駆け上がった。
未だ黄昏時。消灯時間までに時間がある事を確認して、飛んでついて来ていたフラムに言った。
「フラム。今日も王都までお願いね」
《キュ!》
頼もしく頷いたフラムに笑みを向けると、ティアは風の魔術で空高く舞い上がる。
そして、そこに大きくなったフラムが攫うようにティアを背に乗せて王都に向かって飛んだ。
あっという間に着いた王都の上空。下りる場所を見定めると、遥か上空にもかかわらず、ティアは躊躇いなくフラムの背から飛び降りた。
「バッチリだね」
《キュゥ》
降り立った場所は、スラム街だった。
「大分人が減ったなぁ」
王都のスラム街は、南寄りの小さな一画。しかし、そこに百人ほどが身を寄せ合っていた。
一時期、殆どの者が拘束されたらしく、他の町よりも縮小化されていたのだ。
残りは何人だろうと気配を探る。そこへ、一人の男がやって来た。
「お嬢ちゃん」
「あ、おじさん……もしかして、その人達が最後?」
「あぁ。ようやく説得ができた」
「凄い! おじさんやるねぇ」
「ははっ、そうか?」
ティアに褒められ、男は照れ臭そうに笑った。
「そんじゃぁ、出発するからよ」
「うん。よろしくね」
ティアに見送られ、残されていた十人にも満たないこのスラム街の住人達が、何十年振りかに外へと出て行く。
ギルドカードがなくても、出て行く事は出来る。大きな荷台に乗り、街を出るのだ。
空になったスラム街をもう一度確認すると、仕上げにかかる。ティアはスラム街を覆うように結界を張った。
そうして、魔力を高める。
「フラム。離れちゃダメだよ」
《キュっ》
肩に乗ったまま、若干身を縮めるフラム。それを確認し、ティアは魔術を発動させた。
「【砂塵帰化】」
スラム街の大きさの魔法陣が浮かび上がる。地面から荒れ果てた建物を抜け、上空へ。
そして、一度光ると、ティアとフラムを残し、全ての建物が砂塵となって消えていた。
「これで王都も完了!」
《キュゥ!》
この日、王都の一画にあった。スラム街が突如として消えた。
数日前に学園街のスラム街も消えたのだが、この不可解な現象に、国が動く事はなかった。
町の人々も、しばらくこれに気付く事はなかったのだ。
************************************************
舞台裏のお話。
カル「君も会いに行かなくて良かったのかい?」
シェリス「どうせ変わっていないでしょう」
カル「いやいや、大人になったって」
シェリス「昔も既に大人だったでしょう」
カル「う~ん……落ち着いた感じかな?」
シェリス「昔から大人し過ぎるくらい落ち着いていたでしょう」
カル「大人の落ち着きだよ」
シェリス「あれ以上、落ち着いていたら、問題です」
カル「あ~、伝わらないかなぁ」
シェリス「充分です。変わっていないということでしょう」
カル「……君って奴は……」
シェリス「それにしても、ティアも面識があったのですね」
カル「え? あ~……だって、ティアの武術の師匠だったんだ。そういえば、君が里へ帰る直前だったね」
シェリス「っ、なんですって……」
カル「やっぱり知らなかったんだねぇ」
シェリス「……気が変わりました。近いうちにファルに会いましょう」
カル「おっ、なら、みんなで……」
シェリス「私がいない間にティアと……っ許せません……」
カル「……そ、そういえば、ファルは近々、里帰りするみたいだし、その後かな……」
シェリス「ほぉ……勝ち逃げするつもりですか……そうですか……」
カル「シェ、シェリー……君も落ち着きをね……」
シェリス「私のどこが落ち着きがないと?」
カル「……うん……」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
既に大人気ないです。
ファル兄さんがここで少し席を外します。
早く戻って来て欲しいです。
ティアちゃんが動き出しました。
一体何をするつもりなのか。
では次回、また明日です。
よろしくお願いします◎
先日、26日に第三巻該当部のダイジェスト化を行いました。
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紫南
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