女神なんてお断りですっ。

紫南

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398 稽古をつけてもらっています

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2016. 4. 26
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ファルは暫く学園長の自宅へ滞在する事になった。身元も学園長が保証した為、怪しいフードを被った包帯男も、街の出入りで止められる事はない。

そして、その間、ティア達の授業が終わると一緒に草原へ行き、稽古をつけてくれていた。

「もう一度お願いします」
「……分かった……」

中でもルクスの熱意は凄まじく、ここ数日で、ティアが驚くほど動きが良くなっている。

「師匠が生き生きと……」
「今まで、ルクスには剣の師がいなかったみたいだからな」

ルクスに剣を教えたのはゲイルだ。だが、ゲイル自身、独自で磨いてきたもので、師匠がいるわけではない。

何より、騎士でもなければ、剣は己で磨き、上達していくものだというのが常識なのだ。

「羨ましそうだね、お兄様達」
「それは、まぁ……」
「あんなのを見れば、誰だって……なぁ」

ティアに顔を覗き込まれては、ベリアローズとエルヴァストも否定できなかった。

「ふふっ、素直でよろしい。あのレベルの指導って、やっぱり竜人族にしか出来ないんだよね~」

長い時間をかけて身につけ、数え切れない程実戦を重ねているからこそ、人に教える事が出来る。相手の動きを見極める力も、戦いの中で閃く戦法も、竜人族には敵わない。

「そういえば、言っていたなぁ。確か『武を極めるには、竜人族の指南が絶対条件』だったか?」

エルヴァストが、数ヶ月前にティアとカルツォーネから聞いた事を思い出して尋ねた。

「そう。どれだけ人族の中で強くたって、同じ人族の中で極める域までは到達できないんだ」
「はぁ……あれを見ればそれも頷ける。何より、ルクスが目に見えて強くなっている気がする」

魔剣本来の力はまだ発揮する事はないが、今までの剣よりもその手に馴染んでいるようだ。

動きも格段に良くなり、スタミナ切れになる事も少なくなった。

「いいなぁ……」

マティと遊んでいたアデルとキルシュが戻ってくる。

アデルはどうやら、ファルに稽古をつけてもらっているルクスが羨ましいようだ。

《マティじゃもの足りない?》

足下に来たマティが、しゅんと耳と尻尾を垂らして言った。

「ううん。マティちゃんとやるのは楽しいよ? ねぇ、キルシュ」
「あぁ……未だにおちょくられている感があるがな……」
《わぁ~。キルシュ、気付いてたの?》

ピンっと今度は嬉しそうに耳と尻尾を立ててキルシュを見上げるマティ。

これにはキルシュが引き攣った表情を浮かべた。

「……本当にティアに似ているよな……」
《お~、マティ褒められたっ》
「……待て。なぜこれで褒めた事に……」

そんな声が聞こえる中、ティアはある気配を感じて結界を解き、空を見上げる。

その先に黒い点が見えた気がした。それが急速に大きくなり、形が明らかになる。

ここまでくると、子ども達も気付いたようだ。

「あれは……カル姐さんじゃないのか?」

エルヴァストが、そう呆然と空を見上げて言う頃には、既にカルツォーネが間近に迫っていた。

相棒の天馬で舞い降りたカルツォーネは、輝く笑顔を振りまく。

「やぁ。元気だったかい?」
「カル姐。何か今日は一段と機嫌が良いね」
「そうかい? まぁ、久し振りに友人と再会できるんだ。嬉しくないわけがないだろう?」
「ふふっ。うん。けど、本人はまだ気付いてないかも」
「う~ん。相変わらずで安心したよ」

ファルとルクスはどうやらお互いしか見えていないようだ。

それだけ、ルクスがファルを集中させる域まで達したという事でもある。

「気配には敏感そうなんだが……?」

ベリアローズが不思議そうに二人を見ていた。

「私に攻撃の意思がないからね。何より、攻撃されたとしても、あそこまで集中していると、ファルなら反射だけで防御と反撃ができるんだ」

警戒すべき気配かどうかを無意識のうちに判断しているのだ。そして、手を出してくれば、例えそれが気配を消していたとしても瞬時に反応し、倒す事ができる。

「ルクスもこの域に入ってきたみたいだね」
「ほぉ。やるじゃないか。いつの間にあんなに強くなったんだい?」
「ファル兄に稽古をつけてもらってからだよ。それに、剣との相性がやっぱり良いみたい」

今も、息がつけない程の速攻が繰り出され、その表情も常とは違った。

「あれは……もしかして、ルヴィかい? へぇ……彼が使い手に選ばれるとはねぇ。分からないものだな」

カルツォーネはルクスが手にする剣を見て嬉しそうに言った。

「すごいでしょ。私の勘は当たるんだからっ」
「勘? まさか、あの裏ルートを勘だけで挑戦させたのかい? 無茶をさせる……」

得意気に胸をそらすティアを見て、カルツォーネは呆れ返っていた。それほど、赤白の宮殿の裏ルートは無茶な設定がされていたのだ。

「無茶って、あれを完璧にくぐり抜けられるって確信はちゃんと持ってから挑戦してもらったよ?」
「そこは当然だろう? だいたい、あれはファルの設定だ。コルヴェールへの特訓を思い出しながら、最終的に彼と同じくらいの実力であると確認する為のものだった筈だ」

いわば、一人の人の人生における実戦経験をたった一日で経験させる、ハード過ぎるメニューが組まれていた。

「そこは、鍛えてたし、最終的にあの魔剣を扱える技術も教えてたもん。まぁ、マッチングするかは、半分賭けだったけどね」
「本当に勘だったんだね……いや、うん。何より、君は厳しいよ。加虐は良くない」

ティアは英雄と呼ばれるような人がどれ程のレベルだったのかと考えた時、参考になったのが、かつて周りにいた騎士達だ。

英雄と呼ばれるのには、そこに偉業があるわけで、決してとてつもなく強かったなんて事はない。

強ければなれるのならば、マティアスは大英雄だろう。

何より、あの裏ルートを挑戦する条件は『Aランクの冒険者相当の力ある者』だった。それを見込んで鍛えた結果、ルクスには今のAランク認定試験など楽勝だった筈だ。

後は、ファルから昔聞いたコルヴェールの人となりなどの情報を合わせ、これなら大丈夫だろうと当たりを付けたのだ。

「でも、英雄なんて呼ばれる人は、たいてい自虐に慣れてるんだって聞いたよ?」
「……誰だろうね……そんな曲解したのは……いや、言わなくていいよ。わかってるからね……」

某、最強の元女冒険者様だろうとは、カルツォーネも察したようだ。娘に何を教えているんだと頭を抱えていた。

「まぁ、結果オーライだよねっ。私、人選を間違えた事ないもんっ」
「……そう……かもね……」

カルツォーネも思う所があったのだろう。かつての記憶をひっくり返しても、確かにサティアの周りの人選に間違いはなかった。それは今も言える。

「君の人徳には負けるよ」
「ふふん」
「……けど、頼らないんだよなぁ……」

上機嫌のティアに、カルツォーネはぽつりと小さく呟き、未だにこちらに気付かない友人へと目を向けるのだった。

************************************************
舞台裏のお話。

フラム《キュゥ……》

火王  《どうした。フラム》

フラム《キュ……キュゥ……》

火王  《……大丈夫だ。忘れてはいない》

フラム《キュッ……》

火王  《……家出はダメだ》

フラム《キュキュゥゥゥ》

火王  《どうしてもと言うのなら……一緒に行こう》

フラム《キュ?》

火王  《あぁ、あちらの森までな》

火の精霊  《いく~》

水の精霊  《あっちにおはな~》

風の精霊  《きょうそうする?》

フラム《キュ~♪》

火王  《みんなで行こう》

精霊達  《

フラム《キュキュ~ゥ》



つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎


パパは、いじける子どもをあやすのも上手いのです。


ルクス君が急成長中。
大進化の予感です。
ファル兄さんは、カル姐さんが会いに来たというのに夢中な様子。
強者だから可能な余裕でもあります。
さて、そろそろティアちゃんの計画を明らかにしていきましょうか。


では次回、一日空けて28日です。
よろしくお願いします◎
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