女神なんてお断りですっ。

紫南

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連載

390 危険な可能性

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2016. 4. 15
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妖精王から聞いた国が滅んだというかつての被害の話に、カルツォーネが納得する。

『成る程ね……病だと分かれば、小さな村なんかなら、焼き討ちもあり得るか……』

病なのだとしたら、それ以上の感染を防ぐ為にそんな措置が取られるのも仕方がなかった。

《あぁ。それと……確か毒だと分かってからその毒の調合はエルフにしか出来ないのだと宣って、エルフの国に喧嘩を売った所もあったな》
『そんな事が? まぁ、毒の特徴を聞けば、エルフにしか無理だって思うだろうね。でも、昔なら優秀な薬学師はエルフだけではなかったはずだ』

数百年前ならば、数は少ないがエルフも国外に出ている者がいた。

優秀な薬学師を育て、広く国外に技術を提供していたのだ。

《そうだ。だが、この件が原因でエルフは里に籠るようになったんだ》

国外に出ていたエルフ達は、嫌疑をかけられた事で国に帰り、里の中だけで生きる事を決めたという。

もちろん、これはかなり前の話だ。恐らく、サティアが生きていた時代よりも昔だろう。

『そうか。妙にエルフが疑り深いのはこのせいなのかな。でも、その時の犯人は見つかったのかい?』
《いや。犯人は分からずじまい。エルフが里に籠ってからは、その毒の被害もなくなったようだ》

その後、しばらくして誘想果の存在が確認できなくなったのだ。

ティアは、妖精王の話を聞き長く思案していたのだが、思い立ったように風王を呼んだ。

「風王。頼んでもいい?」
《もちろんですっ。危うく出番を取られる所でした》

風王は、シェリスの様子を伝えようとしていたのだが、カルツォーネが通信してきた事で、それが必要なくなってしまったのだ。

出番を取られたと、一人悔しい思いをしており、何か他に役に立てないものかとティアの様子を伺っていたらしい。

「ありがとう。じゃぁ、この毒の被害に合ってる人が誰か。出来ればリストにしたいけど……」

ティアは、どれだけの被害者がいるのかを確認したかった。これによって、範囲を特定できるだろう。

《問題ありません。リジーに協力してもらいます》

風王がリジーと呼ぶのはリジットの事だ。リジットに協力してもらえれば安心だとティアも頷く。

「あとは、シェリー以外のエルフの人が国外に出てるかどうかも分かればいいんだけど……」

今回の件でシェリスに嫌疑がかかる可能性がある。対策を考える為にも、シェリス以外に、里の外に出た者がいないかを確認したかったのだ。

《はい。過去五百年前までの記録を提示してご覧にいれます》
「え? いや、うん。もちろん、そこまでの記録が分かれば助かるけど……」
《お任せくださいっ。明日の朝までに必ずっ》
「え、ちょっ……っ」
《それでは失礼いたしますっ》
「あ~……よろしく……」

やる気に満ち溢れた風王は、あっという間に姿を消してしまった。

《……サティアは相変わらずファンが多いようだな……》
『はははっ。ティアは愛される子だから』
「え~っと……なんか力み過ぎだったよね?」

出来れば知りたいなというレベルの話だったのだが、かなり前のめりに可能だと言われてしまった事に驚いていた。

『心配いらないよ、ティア。もし、シェリーが危なくなったら、私も黙っていないからね』
《そうだな。こっちでも少し調べてみよう。あの実が今でもあるなら、しっかり管理しないといけない。毒として利用されるが、ちゃんと薬にもなるものだからな》

カルツォーネも妖精王も、この件を放置する事はできないと考えたようだ。

大きな問題となる前に、対策を立てなくてはならないだろう。

「うん。黒幕は予想できるし、なんとかしなくちゃね」

間違いなく黒幕は神の王国と名乗る組織だ。元を絶てば簡単だが、あいにく、未だその組織の本懐に辿り着けていない。

相手は恐らく神具を持っているのだ。むやみに近づくのも危ない。

そこでティアがふと思い出す。

「そうだ……カル姐。神具についての文献があったでしょ? そこに『神器』ってなかった?」
『ん?すまない。よく覚えていないな……』

カルツォーネも記憶しているわけではない。ティア自身、うろ覚えなのだ。しかし、そんな物があったのは覚えていた。

これに反応したのは古くからの知識を持つ妖精王だった。

《それは『シンスィールの神器』か?……なるほどな……あれは一度その神器に満たした事のある液体を、なんでも再現して作り出す事ができる代物だ》
『そんな物がっ?』

これならば、作り手のいなくなった薬でも毒でも、一度その器に満たした事のある物ならば作り出す事が可能になる。

《けど、使い手もそれを知っていなきゃならんはずだが……いや、まてよ……毒や薬なら、その材料となる物を全てその器に入れれば分量とか細かい調整は関係なく出来るとも聞いたな……》
『そんな薬学師泣かせな便利道具が?』

材料さえあれば、薬学師でさえ調合の難しい薬であっても簡単に出来てしまうらしい。

《だが、神具か……そうなると誘想果が手に入れられる可能性もわかるな》
「神具でって事?」

一度考え込んだ様子だった妖精王は、難しい顔で言った。

《あぁ。千年前にも既に行方の分からなかった伝説の神具だ。名前は『イズリスの宝玉』》
『それって……イズールの楽園かい?』
「イズールの楽園……あの?」

それはティアにも聞き覚えがあった。

《そうだ。使い手は、その場の世界の記憶を宝玉を通して見る事が出来る。そして、これの特徴的な能力に、その場にかつてあったという植物を、再生させるというものがあったはずだ》

これにより、この世には既になくなってしまっていた植物達を復活させ、集め、イズールの楽園と呼ばれる世界中から集められた植物達の集う広大な庭が作られたという言い伝えがある。

『その神具があるなら……今回の誘想果が手に入ってもおかしくないね。でも、そうなると、彼らの持つ神具はいくつあるんだろう……』
「……使い手もいるって事になるもんね……」
《危ない組織だな……》

どれほどの力を手にいれているのかと、ティア達は不安を募らせるのだった。

************************************************
舞台裏のお話。

ゲイル「ふっ、今回はこのくらいにしといてやるぜ」

ザラン「……一体誰に言ってんすか……」

ゲイル「そんなもん、ここの管理者に決まってんだろ。だが覚えておけよっ。数日後には必ず戻って来てやる!」

ザラン「元気っすね……」

ゲイル「なにへばってんだよ。情けねぇなぁ」

ザラン「さすがに足がガタガタっすよ。どんだけ走ったか……」

ゲイル「なんだよ。マティとやってる時は、もっと全力だろ」

ザラン「あれは別っすよ!あの迫り来る恐怖……人をおもちゃのように転がすのが分かってるんだっ……逃げなきゃ情けない姿を晒す事になる……その後ティアに指をさされて笑われるんすよっ⁉︎ 限界なんてなくなりますよ!」

ゲイル「……そんないい歳して涙ぐんでんじゃねぇよ……あれ、嫌だったのか?」

ザラン「へ?いや、いや……?嫌じゃないっす……寧ろその後に自分の成長が感じられるっていうか……まだまだ俺も成長するんだと認識できるんですよね……」

ゲイル「いいじゃねぇか。あれだよな、ティア嬢ちゃんは遊びの中に訓練を混ぜ込む天才だよな」

ザラン「それは確かにそうっすね」

ゲイル「ならこれも、ティア嬢ちゃんの提案した遊びだと思ってやろうぜ」

ザラン「そ、そうっすね。ここを教えてくれたのはティアですし」

ゲイル「おうっ、なら、また来ようぜ」

ザラン「はいっ!……あれ?俺も?」

ゲイル「よぉっしっ! じゃぁ、また来んぜ!」

ザラン「俺もっすか?」


つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎


サラちゃんもゲイルパパお二人様、後日ご来場予定、賜わりました。


いよいよ無視できなくなってきたかもしれません。
魔王様に妖精王に精霊王、そしてティアちゃん。
これだけの面子で見つけられない事はないはず。
ただし、向こうの戦力や手の内の全容が見えないのは不安ですね。


では次回、一日空けて17日です。
よろしくお願いします◎
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