女神なんてお断りですっ。

紫南

文字の大きさ
上 下
247 / 457
連載

388 特殊なのしか知りません

しおりを挟む
2016. 4. 12
********************************************

軽く実力を見せてくれと言って始まった妖精王とルクスの手合わせは、思いのほか激しいものとなった。

結果、ルクスが完全にスタミナ不足で倒れるまで続けられたのだ。

《すまん、すまん。つい調子に乗り過ぎた》
「い……いえ……っ」

息も絶え絶えに、床に膝をつくルクス。そして、そのまま気絶するように崩折れて眠ってしまった。

《ははっ、限界だったか》

ティアは玉座に座って二人の手合わせを見ていたのだが、ルクスが床に膝をついた所で階段を駆け下りて来ていた。

「ルクス……子どもみたい」

ルクスが完全に眠ってしまうと、ティアはそのやり切ったという満足そうな寝顔を覗き込み、微笑んだ。

《サティア。それ、起きた時に言ってやるなよ?》
「ふふっ、さすがにそれは分かってるよ」
《おっ? 気付いてたのか?》

妖精王は、ルクスのティアへ対する想いを理解していた。ほんの少し接しただけだが、ティアへと向ける視線の意味や態度に気付いていたのだ。

それを、ティアは理解していないと思っていた。

「もうずっと前に、ちょっと言われたからね。私もまだ子どもだし、あえて保留状態にしてるんだ」
《ほぉ……まぁ、悪くない判断だ》

その想いに気付いているのだ。真剣に向けられるそれを、ティアは切って捨てたりはしない。

ただし、ティアは恋愛には疎い。更に、保留にしているのだと言った時のティアの微妙な表情が気になり、妖精王が尋ねる。

《サティア……まさか、自分より良い相手が見つかったらそのまま身を引こうと考えていないか?》
「っ……ダメなの……?」
《……サティア……それは保留とは言えない。恋愛に関しては、それが一番考えてはいけない事だ》
「そうなの……?」

ティア自身、シェリスにもだが、ルクスに対しても自分の気持ちに向き合おうとしていない。

思いを受け止める事は出来ても、返す事ができないのだ。

ティアが王女として生きていた為でもある。姉達のように恋に恋する性格でもなければ、無理に結婚を勧められたりもしない。

あるとしても、兄が決めた相手と結婚するのかなと思っていたぐらいだ。

サクヤや姉達から恋の話を聞かされてはいたから、知識としては持っていても、結局は他人事でしかなかった。

いざ自分の身に降りかかってくると、その知識が生かせない。他人事だから考えられただけで、自身が経験するなど想定していなかったのだ。

《サティア。君は魅力的な女の子だ。これからだって、君に想いを寄せる者が何人も現れるだろう。けれど、まったく気がないなら、今からでもきっぱりと断るんだ。それでも想いを寄せてくる者は放っておいても構わない。それはそいつの自由な意思だ。けど、いつまでも思わせ振りな態度で接するのは良くない。君達はただでさえ、命の時間が短いからな》

エルフや魔族など、長い時を百年単位で生きる者達相手ならば、人族であるティアが命尽きるまで答えを保留にしたからといってたいした損ではない。

だが、人は違う。たった数年でもかけがえのない無駄にできない時間だ。

「時間……そっか……私がその人のあるはずだった次のチャンスを潰しちゃう事になるもんね……」

きっぱりとふる事で、次の出会いに繋げてやらなくてはならない。

希望のない時間を無為に過ごさせるのは不誠実に過ぎるだろう。何より、相手の出会いの可能性を潰す事になってしまう。

《まぁ、エルフでも魔族でも人族でも、早く返事をしてやるのは良いことだ。不誠実な態度はやめなさい。相手に甘えてはいけない》
「うん……」

そうは言うが、妖精王は分かっていた。ティアが未だに恋愛に関して鈍くなってしまった大きな理由が一つあるのだと言う事を。

《あ、森の長は別だぞ? あれは特殊だからな。いつまででも待たせてやればいい。我慢が出来なくなったら、あっちから強引に来るだろう》
「それ、あんまり良くないんだけど……シェリーの場合は言っても無駄か……」

そう、シェリスはティアの返事如何など関係ないのだ。その為、ティアは相手の気持ちに答えるのではなく、いかに上手く受け流すかに特化してしまったのだ。

《そうだな。良く分かってるじゃないか。あぁゆう輩は、いくらでも焦らせて便利に使え。それで多少満足する》
「それは得意。っていうか、それしかできないのかも……」
《……難しいな……》
「うん……シェリーみたいな人ばっかりじゃ困るけど、シェリーみたいな人の対応策しか浮かばないんだよね……」

特殊な対応しかできないティアだ。お陰で答えを先延ばしにする癖がついてしまっている。

《はぁ……こればっかりは確実なマニュアルがあるわけじゃないからな。だが、彼に関してはまんざらでもないんだろう? 》
「そう……かも」

ルクスに目を向け、ティアは小さく呟いた。それに今はそれで充分だなと妖精王は結論を出す。

《ならまぁ、楽しめ。勿論、相手の事をしっかりと常に考えるように》
「はぁ~い」

結局確実なアドバイスにならなかったが、妖精王は確かに今、ルクスを救っていたのだ。

「あれ? そういえば、シェリーからの通信……朝もなかった……昼も過ぎてる……」
《どうした?》

見る間に青くなっていくティアに、妖精王が心配する。

「うん……帰るの怖いな……」
《ん?》

お約束の一日三回の通信がシェリスからない事に、何かあったのではとシェリスの身を案じるのではなく、嵐の前の静けさを感じてしまうティアだった。

************************************************
舞台裏のお話。

クロノス「カル様。先ほどは、どなたかと話していらしたようですが……」

カル「うん?あぁ、これで、ティアと通信できるんだ。シェリーが久し振りに本気の仕事モードだからね。心配してるんじゃないかと思って」

クロノス「ティア様とっ……」

アリシア「ティア様は、今のこの状況をご存知なのですか?」

ベティ「察していらっしゃる?」

カル「いや。シェリーに聞いたけど、予定だと明日以降、ここに来ることになる筈だったらしくてね。今のこの状況は知らないよ」

アリシア「では、確かに心配なさっておいででしょうね」

ベティ「マスターは人付き合いがあまり得意ではないとティア様もおっしゃっていましたもの」

カル「あぁ、いや、その心配じゃなくて、シェリーから通信がない事にだよ」

アリ・ベ「「へ?」」

クロノス「マスターの事ですから、毎日欠かさなかったのでしょう」

カル「うん。それも、一日三回必ずだったから」

アリシア「さ、三回……ですか?」

ベティ「きっちり?」

カル「そう。それも朝、昼、晩とね。それなのに、今日は朝もなくて、もうすぐ日暮れる」

クロノス「それは心配されますね……」

カル「うん。いつ通信が来るかって気にしていたみたいだ」

アリシア「それは……生存確認……」

ベティ「うん。その感覚だよね」

クロノス「マスターが倒れられたのではないかと心配なさった事でしょう」

カル「いや……うん……禁断症状が出そうで、帰るのが嫌だと言っていたよ……」

アリ・ベ「「あ~……」」

クロノス「では、症状が進行する前にマスターに通信をお願いしましょう」

カル「……それがよさそうだ。夜になる前にね」



つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎


異常事態ですから。


珍しくティアちゃんに恋の指導です。
ルクスの想いに気付いてからどれだけ時間が経ったのでしょう……。
ティアちゃんのSっ気も、シェリスのせいなのではないかと思えます。
ある意味、良い仕事してます。


では次回、一日空けて14日です。
よろしくお願いします◎
しおりを挟む
感想 122

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

異世界なんて救ってやらねぇ

千三屋きつね
ファンタジー
勇者として招喚されたおっさんが、折角強くなれたんだから思うまま自由に生きる第二の人生譚(第一部) 想定とは違う形だが、野望を実現しつつある元勇者イタミ・ヒデオ。 結構強くなったし、油断したつもりも無いのだが、ある日……。 色んな意味で変わって行く、元おっさんの異世界人生(第二部) 期せずして、世界を救った元勇者イタミ・ヒデオ。 平和な生活に戻ったものの、魔導士としての知的好奇心に終わりは無く、新たなる未踏の世界、高圧の海の底へと潜る事に。 果たして、そこには意外な存在が待ち受けていて……。 その後、運命の刻を迎えて本当に変わってしまう元おっさんの、ついに終わる異世界人生(第三部) 【小説家になろうへ投稿したものを、アルファポリスとカクヨムに転載。】 【第五巻第三章より、アルファポリスに投稿したものを、小説家になろうとカクヨムに転載。】

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

私のお父様とパパ様

ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。 婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。 大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。 ※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。 追記(2021/10/7) お茶会の後を追加します。 更に追記(2022/3/9) 連載として再開します。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。