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386 正気に戻せる?
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2016. 4. 10
********************************************
ルクスは地味にショックを受けたらしい。しかし、剣を握るその手は離さなかった。
「ルクス?大丈夫?」
声を掛けても返事をしないルクスに、どうしようかと悩んでいれば、王の間の扉が開き、中から妖精王が出てきた。
《本当に選ばれたのか。ん?剣に意識を持っていかれた……わけじゃなさそうだが、どうなってる?》
「どうも、聖剣だ~ってテンションが上がってた所に、実は魔剣なんだ~って言ったのがマズかったみたい」
夢にまで見た聖剣がここにあるのだと喜んだのも束の間。衝撃の真実を知り、混乱に沈んだようなのだ。
《サティア……純真な少年の夢を壊してはダメだろう》
「ルクスはもう大人だよ?」
《知らないのか?男は少年の心をそっとしまっているものなんだぞ》
「あぁ、アレだね。ガラスのように繊細なやつだねっ。成る程。それを叩き割っちゃったって事か」
《笑い事じゃないぞ?》
そういえばそんな話をサクヤから聞いたことがあったと思い出す。
あの時は叩き壊す事を目指した筈だ。
「そっかそっか。あれと同じかぁ。幻想を叩き壊して、廃人寸前にまで追いやった事があったわ」
《……危険な遊びだな……》
子どもになんて事を教えたんだと呆れる妖精王をよそに、ティアはもう一度ルクスに呼び掛ける。
「ルクス~。戻ってきてよ~ぉ」
《こうなると、少々衝撃を与える必要があるな》
妖精王はルクスに姿を見せるのは初めてだ。そんな自分が現れてもぴくりともしないルクスの顔を覗き込み、解決法を口にする。
「衝撃……了解!」
《ん?》
ティアが妖精王の提案を受けてアイテムボックスから取り出したのは赤い物。
《なんだ?赤いリボ……ん?いやいや、待てっ、待ちなさいっ!それはなんだっ⁉︎》
「何って、鞭だよ?」
ティアが手にしていたのは赤い鞭だった。その音を楽しむように扱く様子を見た妖精王は本気で慌てていた。
《なんでそんな物をっ……サティアっ、ダメだ!やめなさい!》
「任せて。この衝撃力は実証済みだからっ」
《どこで実戦したんだっ⁉︎ 渡しなさいっ》
妖精王はティアを抱き込むようにして、取り上げられまいと腕を上げるティアの手を掴んだ。
「邪魔しないで。これで一発なんだから」
《ダメだっ。似合うのは分かるが、衝撃だけじゃ済まない気がするっ》
「良い音するからっ」
《そういう問題でもないっ》
取り合いを続けていたティアと妖精王。その時、ルクスがティアの声に反応してぼんやりと目を向けた。
「……ティアが王子と……っ」
「うん?」
《お?》
そんな呟きが耳に入ってきたのは、どこか絶望したような響きだったからだ。
ルクスを見れば、なんだか情けない顔をしていた。
「ルクス、どうしたの?」
「こっ……」
「こ?」
言葉を詰まらせるルクスに、ティアは目を瞬かせる。
何度か声を出そうとしていたルクスは、不意に頭を下げる。
「……まさか恋人……いやいやっ……どうゆう関係なんだ……」
「ルクス?」
《ほぉ……》
事情を知らない者が、今のティアと妖精王の状態を見ればいちゃついているように見えただろう。
妖精王はルクスが考えた事が分かったらしい。ニヤリと笑って、ティアをそっと抱き締めた。
「うん?どうかしたの?」
《あぁ。ティア、一緒にお茶でもどうだ?》
「今から?」
《俺とは嫌か?》
「ううん。そんな事ないけど」
「っ……」
至近距離で見つめ会いながらお茶の誘いを受けるティアを見てしまったルクスは、呆然としていた。
《その後、もう一度二人で踊らないか?》
「いいよ?でも、今度はもっとテンポの良いやつね」
《そうだな。楽隊を呼ぼう。ドレスはお揃いの白はどうだ?用意させよう》
「白かぁ。着たことないなぁ……」
《きっと似合う》
「そう?」
ティアが少し、まんざらでもない顔をしたので、ルクスは堪らない。
そして、意を決したのか、ルクスが突然立ち上がり、ティアを妖精王から攫うように引き離した。
「ティアっ」
《おっ》
「へ?ルクス……今、どうやったの?」
ルクス自身、分からないようだが、とても滑らかに、ティアを回転させるようにして妖精王の手から自身の方へ抱き寄せたのだ。
ティアはダンスのステップを踏んだような感覚だった。
「あなたは誰です……」
《ふっ、その子の父親みたいなもんだ》
「ふざけないでいただきたい!」
ルクスは真剣だ。手にしている剣を抜き放たんばかりに威嚇もしている。
それに妖精王はなぜか機嫌を良くしていた。
《いい面構えじゃねぇか。そうじゃなけりゃ、この子はやれんからなぁ》
「……いったい……」
満足気な妖精王。その余裕の表情を見て、最初は強気だったルクスも不安になってきたようだ。
二人はいつまでも見つめ合ったまま動きそうにない。それを見兼ねたティアが、ルクスの腕の中から声を上げる。
「ねぇ、私、いつまでこの状態?」
「え?あっ!」
《ははっ》
ルクスは自身がティアを抱き寄せている事に今更ながらに気付いて、どうすれば良いのかと混乱してしまったようだ。
顔だけでなく、耳まで赤くしながら、目を泳がせていた。
その様子をティアが不思議そうに見上げる。それに更に動揺し、そのままルクスは動かなくなった。
「ルクス~……う~ん……ねぇ、これどうすればいいの?」
《くっ、はははははっ、しばらくそのままでいたらどうだ?》
これだけ動揺していても、剣同様にティアを離さないルクスを見て、妖精王は関心していたのだ。
ティアへの想いもしっかりと察した事で、サービスしておけと妖精王は笑う。
しかし、ティアは甘い雰囲気には無縁だった。その為、口をついて出たのは大変素直な感想だった。
「窮屈……」
それを聞いて妖精王はルクスを憐れに思った。
《……サティア……もう少し男心も分かるようになろうな……》
無駄だと分かっていても言わずにはおれなかった妖精王だ。
「うん?なにそれ……あれ?そういえば、私の鞭……あっ」
妖精王の手に愛用の赤い鞭がある事に気付き、ティアは目を見開いた。
《預かっとくから、もうしばらくそのままな》
「むぅ……」
妖精王はルクスにティアを引き離される時、ティアの手から鞭を取り上げていたのだ。
お陰でルクスは、ティアの鞭の餌食になる事は免れた。
だが、大変喜ばしい状況にも関わらず、混乱して記憶が飛びそうになっている今のルクスには、どのみち何も分からなかっただろう。
************************************************
舞台裏のお話。
カルツォーネ「暇だねぇ」
アリシア「後はマスターに全てお任せするだけですし……」
ベティ「何もやる事がないなんてっ……アリシアっ、私達、とんでもないことを忘れているわっ」
アリシア「はっ! 何てことっ。ベティっ」
カルツォーネ「おや?どうしたんだい?」
アリシア「申し訳ございませんカル様。すぐにお食事の用意をいたしますっ」
カルツォーネ「食事?あぁ、そういえば、食べていなかったねぇ。もう夕食に近い時間だ」
ベティ「はい……大失態ですっ」
カルツォーネ「そうかい?仕方がないよ。君達も今まで魔力の使い過ぎで辛そうだったしね。う~ん。でも確かに少しお腹が空いたね。クロノスもだろう?」
クロノス「そう……ですね。私も失念しておりました」
カルツォーネ「はははっ、うん。シェリーがあんなに真剣になってるのを見るとね。やる事はないけど、気になってしまうから」
クロノス「はい。マスターの一挙手一投足に魅入っておりました」
カルツォーネ「シェリーの患者の状態を見る時の魔力操作は見事だろう?」
クロノス「とても勉強になります。侯爵様など、息を止めて見ておられるご様子」
カルツォーネ「そうかい、そうかい……うん?……それは大丈夫じゃないね?」
クロノス「あ……侯爵様っ、侯爵様っ、お気を確かにっ」
侯爵「はっ……っも、申し訳ない……」
カルツォーネ「ここはシェリーに任せて、少し出ようか」
侯爵「は、はい……」
アリシア「お待たせいたしました」
ベティ「お食事のご用意が整いました」
カルツォーネ「いつの間に……素晴らしい。丁度いいね。では、食事に行こう」
クロノス「はい」
侯爵「はい……」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
休憩も必要です。
見ているのも疲れますからね。
久し振りにルクス君がおいしい状況に!!
近くに邪魔者もいないというのに、惜しいやつです。
妖精王は微笑ましく見守ります。
応援しているんだと思いますが……チャンスを生かせないおバカさんです。
では次回、また明日です。
よろしくお願いします◎
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ルクスは地味にショックを受けたらしい。しかし、剣を握るその手は離さなかった。
「ルクス?大丈夫?」
声を掛けても返事をしないルクスに、どうしようかと悩んでいれば、王の間の扉が開き、中から妖精王が出てきた。
《本当に選ばれたのか。ん?剣に意識を持っていかれた……わけじゃなさそうだが、どうなってる?》
「どうも、聖剣だ~ってテンションが上がってた所に、実は魔剣なんだ~って言ったのがマズかったみたい」
夢にまで見た聖剣がここにあるのだと喜んだのも束の間。衝撃の真実を知り、混乱に沈んだようなのだ。
《サティア……純真な少年の夢を壊してはダメだろう》
「ルクスはもう大人だよ?」
《知らないのか?男は少年の心をそっとしまっているものなんだぞ》
「あぁ、アレだね。ガラスのように繊細なやつだねっ。成る程。それを叩き割っちゃったって事か」
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「ルクス~。戻ってきてよ~ぉ」
《こうなると、少々衝撃を与える必要があるな》
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「衝撃……了解!」
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ティアが妖精王の提案を受けてアイテムボックスから取り出したのは赤い物。
《なんだ?赤いリボ……ん?いやいや、待てっ、待ちなさいっ!それはなんだっ⁉︎》
「何って、鞭だよ?」
ティアが手にしていたのは赤い鞭だった。その音を楽しむように扱く様子を見た妖精王は本気で慌てていた。
《なんでそんな物をっ……サティアっ、ダメだ!やめなさい!》
「任せて。この衝撃力は実証済みだからっ」
《どこで実戦したんだっ⁉︎ 渡しなさいっ》
妖精王はティアを抱き込むようにして、取り上げられまいと腕を上げるティアの手を掴んだ。
「邪魔しないで。これで一発なんだから」
《ダメだっ。似合うのは分かるが、衝撃だけじゃ済まない気がするっ》
「良い音するからっ」
《そういう問題でもないっ》
取り合いを続けていたティアと妖精王。その時、ルクスがティアの声に反応してぼんやりと目を向けた。
「……ティアが王子と……っ」
「うん?」
《お?》
そんな呟きが耳に入ってきたのは、どこか絶望したような響きだったからだ。
ルクスを見れば、なんだか情けない顔をしていた。
「ルクス、どうしたの?」
「こっ……」
「こ?」
言葉を詰まらせるルクスに、ティアは目を瞬かせる。
何度か声を出そうとしていたルクスは、不意に頭を下げる。
「……まさか恋人……いやいやっ……どうゆう関係なんだ……」
「ルクス?」
《ほぉ……》
事情を知らない者が、今のティアと妖精王の状態を見ればいちゃついているように見えただろう。
妖精王はルクスが考えた事が分かったらしい。ニヤリと笑って、ティアをそっと抱き締めた。
「うん?どうかしたの?」
《あぁ。ティア、一緒にお茶でもどうだ?》
「今から?」
《俺とは嫌か?》
「ううん。そんな事ないけど」
「っ……」
至近距離で見つめ会いながらお茶の誘いを受けるティアを見てしまったルクスは、呆然としていた。
《その後、もう一度二人で踊らないか?》
「いいよ?でも、今度はもっとテンポの良いやつね」
《そうだな。楽隊を呼ぼう。ドレスはお揃いの白はどうだ?用意させよう》
「白かぁ。着たことないなぁ……」
《きっと似合う》
「そう?」
ティアが少し、まんざらでもない顔をしたので、ルクスは堪らない。
そして、意を決したのか、ルクスが突然立ち上がり、ティアを妖精王から攫うように引き離した。
「ティアっ」
《おっ》
「へ?ルクス……今、どうやったの?」
ルクス自身、分からないようだが、とても滑らかに、ティアを回転させるようにして妖精王の手から自身の方へ抱き寄せたのだ。
ティアはダンスのステップを踏んだような感覚だった。
「あなたは誰です……」
《ふっ、その子の父親みたいなもんだ》
「ふざけないでいただきたい!」
ルクスは真剣だ。手にしている剣を抜き放たんばかりに威嚇もしている。
それに妖精王はなぜか機嫌を良くしていた。
《いい面構えじゃねぇか。そうじゃなけりゃ、この子はやれんからなぁ》
「……いったい……」
満足気な妖精王。その余裕の表情を見て、最初は強気だったルクスも不安になってきたようだ。
二人はいつまでも見つめ合ったまま動きそうにない。それを見兼ねたティアが、ルクスの腕の中から声を上げる。
「ねぇ、私、いつまでこの状態?」
「え?あっ!」
《ははっ》
ルクスは自身がティアを抱き寄せている事に今更ながらに気付いて、どうすれば良いのかと混乱してしまったようだ。
顔だけでなく、耳まで赤くしながら、目を泳がせていた。
その様子をティアが不思議そうに見上げる。それに更に動揺し、そのままルクスは動かなくなった。
「ルクス~……う~ん……ねぇ、これどうすればいいの?」
《くっ、はははははっ、しばらくそのままでいたらどうだ?》
これだけ動揺していても、剣同様にティアを離さないルクスを見て、妖精王は関心していたのだ。
ティアへの想いもしっかりと察した事で、サービスしておけと妖精王は笑う。
しかし、ティアは甘い雰囲気には無縁だった。その為、口をついて出たのは大変素直な感想だった。
「窮屈……」
それを聞いて妖精王はルクスを憐れに思った。
《……サティア……もう少し男心も分かるようになろうな……》
無駄だと分かっていても言わずにはおれなかった妖精王だ。
「うん?なにそれ……あれ?そういえば、私の鞭……あっ」
妖精王の手に愛用の赤い鞭がある事に気付き、ティアは目を見開いた。
《預かっとくから、もうしばらくそのままな》
「むぅ……」
妖精王はルクスにティアを引き離される時、ティアの手から鞭を取り上げていたのだ。
お陰でルクスは、ティアの鞭の餌食になる事は免れた。
だが、大変喜ばしい状況にも関わらず、混乱して記憶が飛びそうになっている今のルクスには、どのみち何も分からなかっただろう。
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舞台裏のお話。
カルツォーネ「暇だねぇ」
アリシア「後はマスターに全てお任せするだけですし……」
ベティ「何もやる事がないなんてっ……アリシアっ、私達、とんでもないことを忘れているわっ」
アリシア「はっ! 何てことっ。ベティっ」
カルツォーネ「おや?どうしたんだい?」
アリシア「申し訳ございませんカル様。すぐにお食事の用意をいたしますっ」
カルツォーネ「食事?あぁ、そういえば、食べていなかったねぇ。もう夕食に近い時間だ」
ベティ「はい……大失態ですっ」
カルツォーネ「そうかい?仕方がないよ。君達も今まで魔力の使い過ぎで辛そうだったしね。う~ん。でも確かに少しお腹が空いたね。クロノスもだろう?」
クロノス「そう……ですね。私も失念しておりました」
カルツォーネ「はははっ、うん。シェリーがあんなに真剣になってるのを見るとね。やる事はないけど、気になってしまうから」
クロノス「はい。マスターの一挙手一投足に魅入っておりました」
カルツォーネ「シェリーの患者の状態を見る時の魔力操作は見事だろう?」
クロノス「とても勉強になります。侯爵様など、息を止めて見ておられるご様子」
カルツォーネ「そうかい、そうかい……うん?……それは大丈夫じゃないね?」
クロノス「あ……侯爵様っ、侯爵様っ、お気を確かにっ」
侯爵「はっ……っも、申し訳ない……」
カルツォーネ「ここはシェリーに任せて、少し出ようか」
侯爵「は、はい……」
アリシア「お待たせいたしました」
ベティ「お食事のご用意が整いました」
カルツォーネ「いつの間に……素晴らしい。丁度いいね。では、食事に行こう」
クロノス「はい」
侯爵「はい……」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
休憩も必要です。
見ているのも疲れますからね。
久し振りにルクス君がおいしい状況に!!
近くに邪魔者もいないというのに、惜しいやつです。
妖精王は微笑ましく見守ります。
応援しているんだと思いますが……チャンスを生かせないおバカさんです。
では次回、また明日です。
よろしくお願いします◎
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