女神なんてお断りですっ。

紫南

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380 侯爵家の秘密

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2016. 4. 1
********************************************

「お帰りなさいませ、カル様。そちらのお客様とご一緒に、第一応接室へお通しするようにと申し付けられております」
「そうか。ありがとう」

そんなギルドの職員達とカルツォーネの会話は、頼りにしていたカルツォーネに魔族だと打ち明けられ、動揺していた為、侯爵には聞こえていなかった。

「良かったねぇ」
「え?」

無意識のうちにカルツォーネについてギルドの建物の中に入った侯爵。そこでカルツォーネが振り向いて言った。

「ちゃんと話を聞く気みたいだ。突撃する必要がなくなって、少し残念ではあるけれどね」
「はい?」

事情が飲み込めない侯爵に、案内の為に先頭に立っていた職員が声をかけた。

「お客様は、マスターと会われるのは初めてなのですか?」
「あ、あぁ……」
「気難しい方ですが、助けを求めてやってきた方を無下にしたりはなさいません。今回も、お帰りになってすぐに応接室にと指示なさいました」

嬉しそうに話す職員の様子に、侯爵はこの職員がギルドマスターであるシェリスを信頼し、尊敬している事がわかる。

侯爵は改めてここで、種族の壁など些細なものなのだという事を理解したのだ。

「こちらでお待ちください」
「分かった」
「ありがとうございます」

侯爵は、案内してもらった職員へ礼を言い、カルツォーネについて部屋に入った。

職員は、ドアを閉める前に、再びカルツォーネへと声をかける。

「カル様は、お話が終わりましたらいつものご挨拶をお願いいたします。ただいま、集合率が六十パーセントとなっておりますので」
「おや。今日は見つからないと思っていたのだけれどねぇ」
「はい。わたくし共も、どこで気付くのか未だ掴めておらず……よろしくお願いいたします」

そう言って、ギルド職員は頭を下げた後、ドアを閉めて去って行った。

カルツォーネはソファーに腰掛けると、部屋に入った所で立ち尽くしていた侯爵を手招く。

「そう心配しなくてもいいよ。それと、もう少し緊張を解いておかないと保たないよ。それとも、私が魔族だと聞いて怖くなったかい?」
「そ、そんなことはっ」

変わらず魅力的な笑みを浮かべながらそう言うカルツォーネに、侯爵は慌てる。

「構わないよ。今の時代では、仕方のない事さ。人の寿命は短い。君達は昔の……種族など関係なく、暮らしていた頃を知らないからね。戸惑うのは当たり前だよ」

人族や、比較的寿命の短いドワーフ以外の種族は、かつての姿を知っている者が多い。

何百年と昔の、まだ種族にそれほど垣根のなかった時代を知っているのだ。

しかし、人族は違う。既に何世代も、異種族に出会う事なく人生を終えている。人族だけの世界しか知らない者しか存在しないのだ。

カルツォーネは立ち上がり、窓際に立つと、外を眺めて言った。

「この街は少々変わっていてね。シェリーがいることもあるんだけど、歴代の伯爵が、異種族へ対しての偏見を持っていないんだ。同じこの世界に生きる者と認識しているんだろうね」

伯爵がそんな人だから、この街の人達も気にしたりはしない。シェリスがいたとしても、何事もなく回っているのだ。そういうものだと受け入れてしまっている。

「ちなみに、私が魔族である事も、この街の人達は知っているんだ。まぁ、シェリーと友人だから、普通の人ではないと思っていたんだろうけど、あっさり受け入れてくれたよ」

カルツォーネは、この街では、外へ出る時以外、本来の髪の色を見せている。その色は、黒に紫が入っている独特の色だ。光が当たれば、鮮やかな紫の色が際立って見える。

紫は、魔族の国の中でも特別な色で、王家に連なる者にしか出ない。その為、国以外の場所では、カルツォーネは今まで本来の色を見せたりはしなかったのだ。それだけこの街の人々に心を許しているといえた。

一時はサクヤと行動を共にしていた事で、姉妹を装って茶色にしていたのだが、最近はもっぱら外出時には昔と同様、黒にしている。

人族の中にも黒い髪の者はいるので、不審に思われる事はない。今もその黒い色に変えていた。

その時、ドアがノックされ、シェリスが入ってきた。

「早かったねぇ、シェリー」

そう、カルツォーネが声をかければ、少々顔を顰めた。

「急ぎの仕事は終わっていましたから。あなたはそちらに、話があるのでしょう」
「あ、し、失礼いたします」

勧められ、刺激すまいと、侯爵は慌ててシェリスの向かいの椅子に腰掛けた。そして、斜め向かいにカルツォーネが座る。

「カル……なぜあなたまで……」
「うん?彼が心細そうだからね。私の事はあまり気にせず、始めておくれ」
「……はぁ……どうぞ。こちらへ来られた事情をお話ください。来訪の予定は明日以降のはずでしたが、急いで来られたわけもあるでしょう」
「っ、はいっ。ティアさんにご紹介いただき、妻の事でご相談に上がりましたっ。その……昨日の朝、状態が急変しまして……」

侯爵は、自身の中の情報を整理しながらシェリスへと話だした。

「妻が倒れたのは二年も前の事です。お恥ずかしながら、倒れた妻の事を、周りに知られまいと、この事を隠してまいりました。おかしな病であったなら、王の傍にいることは叶わなくなります。立場もある身、隔離して様子を見るしかなかったのです……」

見た目にも変化が現れた。しかし、それ以外の問題といえば、言動がおかしいくらい。恐ろしい幻覚を見て暴れる時はあるが、命に危機的なものはなかった。

この事を外部に漏らさず、なんとか快方に向かってくれればと願って今日までやってきたのだ。

「息子が、これが毒によるものではないかと連絡をよこしたのです。その症状も、確かに酷似しておりました。ですが、その肝心の解毒薬は、調合があまりにも高度で、薬学師にも作れないと言うのです。手を尽くせぬまま、先日、ついに錯乱した妻は、自殺を図りました……」

何かに酷く怯えて暴れた夫人は、取り押さえようとした護衛の剣を抜き、自身の胸に突き立てたという。

「幸い、傷はそれほど深くなく、なんとか命は助かりました。今は眠らせていますが、これ以降、何もないとは言い切れないでしょう……どうか、助けていただきたい」

そう言って、侯爵は深くシェリスに頭を下げたのだった。
************************************************
舞台裏のお話。

ボラン「ここだな?」

盗賊A「はい……」

ボラン「ふむ……お前達は、他の土地から来たのか?」

盗賊B「ええ……王都の近くから移動して来たんで……」

冒険者A「行きますぜ、ボランさん」

ボラン「あぁ」

冒険者A「よっしゃ、行くぜぇ!」

冒険者達「「「おうっ!!」」」

ボラン「ここへは、王都の方から全員で来たのか?」

盗賊C「そうです……あっちで、なんか狩りがあったようで……場所を移す事になって、それで、この辺には同業の奴らがいねぇって事でここに」

冒険者B「ボランさん。どうも昔、ここいらにいた盗賊の根城だったみてぇです」

ボラン「やはりそうか……お前ら、なんでこの辺りに盗賊がいないと思う」

盗賊達「「「へ?」」」

ボラン「このヒュースリー伯爵領では、ある方に狩り尽くされてしまったんだ」

盗賊達「「「っ⁉︎」」」

冒険者C「気の毒になぁ。まぁ、王都の方に残ってたとしても、すぐにこうなる運命だったんだろうけどな」

盗賊A「それは……どういう……」

ボラン「盗賊狩りをするのに、楽しみを見出した子が今、王都の方にいるからだ」

冒険者C「ティアは、伯爵の所のお嬢様の護衛でついて行ってんだもんなぁ。お嬢様は学園に行ってるんだろうけど、ティアはなぁ……暇してんだろうな……」

冒険者B「そうなると、やっぱ、そうゆう遊びに走るよな……」

ボラン「彼の魔工師殿と合流される可能性もある。マスターのご友人だからな。まぁ、あの方やティア嬢にやられるよりもマシな結果の筈だ。大人しく捕まるんだな」

盗賊達「「「……はい……」」」


つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎


どのみち捕まってました。


もうかなり前にキルシュ君が必死で調べていたものです。
前の侯爵ならば、これをひた隠しにしていたのも頷けます。
他に相談するなど、考えもしなかったのでしょう。
ティアちゃんの影響が良い方へ向かった結果です。


では次回、一日空けて3日です。
よろしくお願いします◎
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