女神なんてお断りですっ。

紫南

文字の大きさ
上 下
238 / 457
連載

379 動揺し過ぎです

しおりを挟む
2016. 3. 31
********************************************

シェリスを見て呆然とするドーバン侯爵に、カルツォーネがため息をつきながら声をかける。

「シェリーが美人で見惚れるのは仕方がないけれど、あまり見ていると目を潰されてしまうよ?」
「あ、これは失礼……え?」

侯爵自身、少々不躾だったと自覚し、慌てて目をそらす。しかし、言われた言葉を反芻してそのまま固まった。

そんな様子に、カルツォーネは笑ってしまう。

「ふっ、すまない。目を潰すなんて事はないよ。ただ、シェリーの機嫌は悪くなるから気を付けておくれ」
「は、はいっ」

シェリスもカルツォーネも、視線を集めてしまう事にはそれ程頓着していないのだが、不躾に過ぎる視線はやはり気分の良いものではないのだ。

「そう固くなる必要はないよ。聞くが、ここへはたまたま立ち寄ったのかい?それとも、お仕事か何かかな?」
「いえ、ある方に頼み事を……」
「成る程……う~ん。もしかして、ある方というのはシェリー……彼の事かい?」
「あ、そのっ、なぜ……」

シェリスが侯爵の事を気にしていたのは最初のうちだけだった。今は少し離れ、冒険者達の様子を見ている。

それを呆れたように見てから、カルツォーネが見透かすような視線を侯爵へ向けて言った予想に、明らかに動揺した答えが返ってきた。

こちらも一旦は目をそらしたようだったのだが、先ほどから侯爵はシェリスにチラチラと落ち着きのない視線を送っていたのだ。カルツォーネに分からないはずがない。

「君は分かりやすいねぇ。まぁいいか。シェリー。君に相談があるそうだ。先にギルドへ戻ってはどうだい?」

そうカルツォーネが言えば、侯爵は縋るような目でシェリスを見た。それがシェリスにはうっとおしかったのだろう。目を細めたシェリスは、そのままそっぽを向いて歩き出す。

「待つ気はありませんので」
「えっ? あっ、お待ちをっ」

侯爵が呼び止めるのも虚しく、シェリスは一切振り返る事なく、一人グリフォンに乗って帰って行ってしまった。

しばらくどうすればよいのかと、シェリスが消えていった街の方を見ていた侯爵。そこに、カルツォーネが苦笑しながら言った。

「すまないねぇ。けど、待たないとは言ったが、聞かないとは言っていないからね」
「どういう意味でしょう?」

カルツォーネに目を向けて、侯爵は弱ったような表情を見せる。

「予定には入れてやらないけど、来たなら仕方がないから聞いてやるって事だよ」
「はぁ……」

シェリスの態度を拒絶されたと取るようでは付き合って行くことは出来ない。だいたい、ティアやカルツォーネ達のような友人達以外とは進んで関わりを持とうとは思わないのだ。

「シェリーに『消えなさい』『死にますか?』と言われなければ、大概大丈夫だよ」
「そう……なのですか?」
「うん。でも、逆に言われたら、潔く引く事を勧めるよ。本気で危ないからね。即時撤退が最善策だ」
「わ、わかりましたっ」

例え笑顔を浮かべていたとしても、この二つの言葉だけはかなり危険なスイッチが入った時にしか口にしないのだ。

そう言われても、まだ不安そうな侯爵に、カルツォーネはアドバイスをする。

「シェリーは元々、神経質な所があるからね。予定を狂わされるのが何よりも嫌なんだ。けど、頭は良いから、狂わされたとしても修正するのは容易い。突撃するくらいが丁度いいんだよ」
「突撃……ですか」

シェリスと付き合っていくのならば、それくらいの気概がなくてはやっていけない。例え、興味のない態度や無関心な様子を感じたとしても、それがシェリスにとっては普通なのだ。傷付いていては何も始まらない。

「それでも不安なら、私が一緒についていてあげようか」
「あっ、で、ですが、ご迷惑ではありませんか……?」

この提案は、侯爵にとって嬉しいものだった。まだ緊張は解けていないが、カルツォーネとならば話も上手くいくように感じたのだ。

ジルバールの名ではなく、シェリーと愛称らしき名で呼んでいることも、余程親しい関係であるとのポイントだと思っていた。

「構わないよ。それに、シェリーのあの態度を見ると、君が来る事を予想してたんじゃないかな?多分、さっき一緒に採ってきた薬草とか、関係があるように思えるしね。気になってたんだ」
「そうですか……確かに、今日お約束はしていませんが、近々訪う事になると伝わっているとの事でしたので……それに、薬草ですか……」

侯爵は、少しだけ希望を持ったようだ。

しかし、カルツォーネは侯爵の言葉に気になるものがあった。

「誰かに伝言でもお願いしていたのかい?」
「いえ、伝言と言いますか……紹介していただいたと言った方が正しいかもしれません」
「紹介?」
「はい。冒険者の……ティアという女……の子です」

微妙な所で区切った侯爵にカルツォーネは首を傾げた。

「おや。ティアにかい?君は……うん。凄い強力なカードを持っているんだね。成る程……どうりで貴族なのに鼻につかないわけだ。ふふっ、ティアにお仕置きされたくちかな?」
「っ……それは……はい……」

侯爵は、自分がなぜこれ程までに初対面の者相手に手の内を見透かされているのかと、内心動揺していた。しかし、見た目に反して、シェリス同様、立場を振りかざすべきではないと、頭では警鐘が響いているのだ。

「そうかい。では、謙虚な心を忘れずに、行こうか」
「え?」

そう言って歩き出すカルツォーネ。そして、黒く美しい侯爵が見たこともない天馬の傍まで行くと、侯爵を手招いた。

混乱中の侯爵は、ゆっくりと引き寄せられるようにカルツォーネへと近付く。

ひらりと天馬に跨ったカルツォーネは、手綱を引いて再び手を差し出した。

「後ろに乗れるかい?」
「は、はい」

とはいえ、天馬などに乗るのは初めての侯爵は、緊張しながらカルツォーネの後ろへ乗る。

「ちゃんと捕まっていてくれよ。あぁ、伯爵。ここは頼むよ」
「はい。あ、カルさん、今日は泊まっていかれますか?」
「そうだねぇ……いや、一度国に戻るよ。仕事の調整をして、また来る。後日、お邪魔するかもしれないな」
「わかりました」
「では、シアンちゃんもまたね」
「はいっ」

フィスタークとシアンに挨拶を済ませると、カルツォーネは飛び立つ。

飛竜にさえ、数えるほどしか乗った事がなかった侯爵は、しばらくその独特の浮遊感に体を強張らせていたが、あっという間にギルドに到着してしまった。

冒険者ギルドの屋上。そこで降り、建物の中に入っていくカルツォーネを追いながら、そういえばとフィスタークとカルツォーネの会話を思い出して侯爵は尋ねた。

「あなたのお国はどちらなのですか?」

国へ帰ると行っていたのだ。少々気になったらしい。

その質問に、カルツォーネはいつも通り正直に答えた。

「ヴェルネウスだよ」

それが魔族の唯一の国の名前だった。

「ヴェっ、ヴェルネウスっ⁉︎ あ、あそこは魔族の……ということは……」
「あぁ、私は魔族だよ。驚いたかい?」
「……はい……」

この数分で動揺し過ぎた為に、それ以上のリアクションが取れない侯爵だった。


************************************************
舞台裏のお話。

ギルド職員A「あ、マスターだ」

ギルド職員B「あれ?カル様がご一緒じゃない……お帰りになってしまったか?」

ギルド職員A「聞いてみよう」

ギルド職員達「「お帰りなさいませ」」

シェリス「後でカルとおまけが来ますから、第一応接室に案内なさい」

ギルド職員達「「はいっ」」

ギルド職員A「よかった。カル様も戻って来られるんだな」

ギルド職員B「あぁ、下にまたご婦人達が集まりだしているから、どうしようかと思ったよ」

ギルド職員A「けど、おまけって?」

ギルド職員B「マスターのあの様子だと、面倒なお客か?」

ギルド職員A「いやいや、マスターにとっては、カルさんとティアお嬢さん以外は、全員面倒な客だろ」

ギルド職員B「確かに。それに、応接室に通すってご指示だし、会われる気が起きるだけ、それ程面倒な相手でもないんだろ」

ギルド職員A「だな。会わない時は本当に門前払いだからな」

ギルド職員B「それでも、見る目は確かだ。困っている人を門前払いされたりはしない」

ギルド職員A「あぁ。最近、つくづく思うよ。ここに来て、マスターの下で働けて幸せだってな」

ギルド職員B「お、そうか。そういえば、マーナさんとかが言ってたな。そう思えるようになったらここでは一人前だって」

ギルド職員A「そうなのか?そうか……よし、頑張ろう!」

ギルド職員B「おう!」


つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎


ギルドマスターとしてのシェリスは、職員達の誇りです。


カル姐さんがいてよかった。
シェリスは人と関わるのが苦手です。
それでも仕事は出来る。
強く頼りになる。
そんなシェリスのダメな所を埋めて、サポートができるのはカル姐さんやティアちゃんですからね。
カル姐さんは、本当に良く出来た人です。
魔族だっていいでしょう。
今の侯爵なら受け入れられます。


では次回、また明日です。
よろしくお願いします◎
しおりを挟む
感想 122

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。