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374 教えは守ります
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2016. 3. 24
********************************************
盗賊達の数は約五十。護衛達が健闘してはいたが、馬車を守るのに精一杯で、成果は上がっていなかった。
そこに辿り着いたシアンは、左腕に仕込んでいたティア特製の扇を取り出し、その護衛達と盗賊達の間に滑り込んだ。
「な、なんだっ?」
「誰だっ?」
盗賊達も護衛達も、突然現れた貴婦人に驚いて動きを止める。
それを好機と見たわけではないが、一瞬、静まり返ったこの場で、シアンが指示を出した。
「馬車を離してちょうだい。この場に留まるのは良くないわ」
「へ? あっ、急げっ」
真っ先に正気付いたのは、護衛達のまとめ役らしき貫禄のある男だった。その声で、馬車がシアンの通って来た道を縫うように抜け、走り出した。
「これで良いわ。護衛の方々は、いざという時、ちゃんと避けてくださいませね」
「はい?」
シアンは、一気に魔力を解き放つと左足を前に出し、扇の先を盗賊達に向ける。そして、踏み込む力で手前の盗賊の一人の肩口へ突きを繰り出した。
「ぐぉっ……!」
強烈な突きは、その肩の骨を砕く。しかし、威力はそれだけではなく、その男共々、後ろにいた十人弱の盗賊達をまとめて吹き飛ばしたのだ。
何が起こったのかと目を見開いていた残された盗賊達と護衛の者達は、信じられないものを見るように、遥か先、五十メール程の距離で転がる盗賊達を見つめていた。
「あら、一気に減ったわねぇ?後四回くらいで終わってしまうかしら?」
天然なシアンの言葉は、真実であったとしても、挑発されたと取れるものだ。
「このヤローっ!!」
「野郎? 私の事なのかしら?」
とこまでも状況を理解しないシアン。冷静なのか強気なのか分からないと、護衛達は顔を顰めていた。
その時、クロノスが横合いから盗賊達を切り裂いた。
「がっ……⁉︎」
「あら、クロちゃん。私だけでも大丈夫よ?」
シアンはいつも通りだ。しかし、クロノスには分かっていた。自覚していないだけで、シアンは魔力をかなり消費しているのだ。
「奥様……頼みますからそこで大人しくしていてください。私が後でティア様に叱られます」
「まぁっ、叱られてしまうの? それは大変ねぇ? 分かったわ……ここにいるわね」
「あ、はい……そこで構いません……」
これ以上魔力を使わないならば良いかとクロノスはそれ以上の説得を諦めた。
そんな会話の最中でも、クロノスは冷静に盗賊達の様子を伺っていた。このまま引くならばいいと考えていたのだ。
しかし、そこは残念ながら察しが悪かったようだ。
「くっ、このっ!このままただで済むと思うなよっ!!」
「あぁ……仕方ありませんね。まぁ、ティア様ならば全滅させる方を選ばれます……あ、お尋ねしますが、ここにいらっしゃるメンバーで全員ですか?」
「はぁっ⁉︎ 何言ってやがるっ!はんっ。まだまだアジトには仲間がいるからなぁ。おいっ、呼んでこいっ」
盗賊達は、とても素直なようだ。クロノスは知りたかった情報を手に入れ、思案するように顎に手を当てた。
「まだいるのですね? 」
そう確認するように言うクロノスの瞳には怪しい光が灯っていた。
「それならば、全滅させるのは得策ではありませんか。潰すならば根こそぎにというのがティア様の教えです」
珍しくクロノスが笑みを浮かべていた。そして、あっという間だった。瞬きにも満たない一瞬、クロノスの周りに光が舞ったかと思うと、次の瞬間には盗賊達が力なく地に伏していたのだ。
だが、三人だけ残っていた。
なにが起こったのかと呆然と立ち尽くすその三人に、クロノスは歩み寄る。
「お前達にはアジトへ案内してもらう。いいな?」
言葉を忘れてしまったかのようにコクコクと首を振り、怯えながらクロノスを見た三人の残された盗賊達。
それに満足気に頷くと、そこにクレアがやってきた。その後ろには、盗賊役として待機していたらしい冒険者達の姿がある。
「クロノス……あんた、容赦ないねぇ」
「そうですか?」
呆れられるような事はやっていないぞとクロノスは顔を顰めた。
クレアは、次にシアンへ近寄る。
「シアン。あんたって子は、何をしてるのか分かっているのかい!」
「何と言われても……助けに来ましたわ」
「だから、あんたが出ていって良いものじゃないだろうっ、あぁっ、全く、フィスタークはまだかいっ」
そう苛立つクレア。しかしその時、思わぬ人達が現れた。
「なんだか楽しそうだねぇ」
「一体何事です……」
「「「ま、マスターっ⁉︎」」」
冒険者達の驚きの声が上がった。
そこに現れたのは、カルツォーネとシェリスだったのだ。
************************************************
舞台裏のお話。
ユメル「奥様……あんなに速いの?」
カヤル「兄さんが追いつけないなんて……」
ユメル「あ、旦那様が馬車の方に切り替えた」
カヤル「判断が早いよね。さすがは旦那様」
ユメル「兄さんが行ったから大丈夫だと判断されたんだね。それにしても、あの紋章って……」
カヤル「侯爵家のだよね? 来訪の連絡あったっけ?」
ユメル「確か、リジットさんの話だと明日じゃなかったかな?」
カヤル「急いで来たとか?」
ユメル「それで襲われるなんて運がないよね」
カヤル「確かに。あ、クレアさん……盗賊?あれ?なんか見たことあるんだけど」
ユメル「本当だ。冒険者だよ。あの頭領みたいなのって、ボランさんじゃない?」
カヤル「うん。間違いないよ。あ、合流したね」
ユメル「う~ん。僕らはどうしよっか」
カヤル「やっぱ、ここは孤立無援の旦那様の方じゃない?」
ユメル「だね。あ、あれっ、カヤルっ、上っ」
カヤル「わぁっ、マスターとカル姐様だっ」
ユメル「うん。やっぱり、旦那様の方にしよう」
カヤル「だね~。ちょい落ち着いてから合流しよっか」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
双子の危機察知能力はピカイチですから。
まさかのシアンママんによる盗賊退治が始まるところでした。
加減のわからないシアンママんは、味方さえ巻き込む可能性があります。
貴婦人なので、フジコちゃんスタイルではなく、武器を腕に隠し持っていました。
そして、思わぬ所で出会ってしまったカル姐さんとシェリス。
呆れてますよね。
では次回、また明日です。
よろしくお願いします◎
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盗賊達の数は約五十。護衛達が健闘してはいたが、馬車を守るのに精一杯で、成果は上がっていなかった。
そこに辿り着いたシアンは、左腕に仕込んでいたティア特製の扇を取り出し、その護衛達と盗賊達の間に滑り込んだ。
「な、なんだっ?」
「誰だっ?」
盗賊達も護衛達も、突然現れた貴婦人に驚いて動きを止める。
それを好機と見たわけではないが、一瞬、静まり返ったこの場で、シアンが指示を出した。
「馬車を離してちょうだい。この場に留まるのは良くないわ」
「へ? あっ、急げっ」
真っ先に正気付いたのは、護衛達のまとめ役らしき貫禄のある男だった。その声で、馬車がシアンの通って来た道を縫うように抜け、走り出した。
「これで良いわ。護衛の方々は、いざという時、ちゃんと避けてくださいませね」
「はい?」
シアンは、一気に魔力を解き放つと左足を前に出し、扇の先を盗賊達に向ける。そして、踏み込む力で手前の盗賊の一人の肩口へ突きを繰り出した。
「ぐぉっ……!」
強烈な突きは、その肩の骨を砕く。しかし、威力はそれだけではなく、その男共々、後ろにいた十人弱の盗賊達をまとめて吹き飛ばしたのだ。
何が起こったのかと目を見開いていた残された盗賊達と護衛の者達は、信じられないものを見るように、遥か先、五十メール程の距離で転がる盗賊達を見つめていた。
「あら、一気に減ったわねぇ?後四回くらいで終わってしまうかしら?」
天然なシアンの言葉は、真実であったとしても、挑発されたと取れるものだ。
「このヤローっ!!」
「野郎? 私の事なのかしら?」
とこまでも状況を理解しないシアン。冷静なのか強気なのか分からないと、護衛達は顔を顰めていた。
その時、クロノスが横合いから盗賊達を切り裂いた。
「がっ……⁉︎」
「あら、クロちゃん。私だけでも大丈夫よ?」
シアンはいつも通りだ。しかし、クロノスには分かっていた。自覚していないだけで、シアンは魔力をかなり消費しているのだ。
「奥様……頼みますからそこで大人しくしていてください。私が後でティア様に叱られます」
「まぁっ、叱られてしまうの? それは大変ねぇ? 分かったわ……ここにいるわね」
「あ、はい……そこで構いません……」
これ以上魔力を使わないならば良いかとクロノスはそれ以上の説得を諦めた。
そんな会話の最中でも、クロノスは冷静に盗賊達の様子を伺っていた。このまま引くならばいいと考えていたのだ。
しかし、そこは残念ながら察しが悪かったようだ。
「くっ、このっ!このままただで済むと思うなよっ!!」
「あぁ……仕方ありませんね。まぁ、ティア様ならば全滅させる方を選ばれます……あ、お尋ねしますが、ここにいらっしゃるメンバーで全員ですか?」
「はぁっ⁉︎ 何言ってやがるっ!はんっ。まだまだアジトには仲間がいるからなぁ。おいっ、呼んでこいっ」
盗賊達は、とても素直なようだ。クロノスは知りたかった情報を手に入れ、思案するように顎に手を当てた。
「まだいるのですね? 」
そう確認するように言うクロノスの瞳には怪しい光が灯っていた。
「それならば、全滅させるのは得策ではありませんか。潰すならば根こそぎにというのがティア様の教えです」
珍しくクロノスが笑みを浮かべていた。そして、あっという間だった。瞬きにも満たない一瞬、クロノスの周りに光が舞ったかと思うと、次の瞬間には盗賊達が力なく地に伏していたのだ。
だが、三人だけ残っていた。
なにが起こったのかと呆然と立ち尽くすその三人に、クロノスは歩み寄る。
「お前達にはアジトへ案内してもらう。いいな?」
言葉を忘れてしまったかのようにコクコクと首を振り、怯えながらクロノスを見た三人の残された盗賊達。
それに満足気に頷くと、そこにクレアがやってきた。その後ろには、盗賊役として待機していたらしい冒険者達の姿がある。
「クロノス……あんた、容赦ないねぇ」
「そうですか?」
呆れられるような事はやっていないぞとクロノスは顔を顰めた。
クレアは、次にシアンへ近寄る。
「シアン。あんたって子は、何をしてるのか分かっているのかい!」
「何と言われても……助けに来ましたわ」
「だから、あんたが出ていって良いものじゃないだろうっ、あぁっ、全く、フィスタークはまだかいっ」
そう苛立つクレア。しかしその時、思わぬ人達が現れた。
「なんだか楽しそうだねぇ」
「一体何事です……」
「「「ま、マスターっ⁉︎」」」
冒険者達の驚きの声が上がった。
そこに現れたのは、カルツォーネとシェリスだったのだ。
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ユメル「奥様……あんなに速いの?」
カヤル「兄さんが追いつけないなんて……」
ユメル「あ、旦那様が馬車の方に切り替えた」
カヤル「判断が早いよね。さすがは旦那様」
ユメル「兄さんが行ったから大丈夫だと判断されたんだね。それにしても、あの紋章って……」
カヤル「侯爵家のだよね? 来訪の連絡あったっけ?」
ユメル「確か、リジットさんの話だと明日じゃなかったかな?」
カヤル「急いで来たとか?」
ユメル「それで襲われるなんて運がないよね」
カヤル「確かに。あ、クレアさん……盗賊?あれ?なんか見たことあるんだけど」
ユメル「本当だ。冒険者だよ。あの頭領みたいなのって、ボランさんじゃない?」
カヤル「うん。間違いないよ。あ、合流したね」
ユメル「う~ん。僕らはどうしよっか」
カヤル「やっぱ、ここは孤立無援の旦那様の方じゃない?」
ユメル「だね。あ、あれっ、カヤルっ、上っ」
カヤル「わぁっ、マスターとカル姐様だっ」
ユメル「うん。やっぱり、旦那様の方にしよう」
カヤル「だね~。ちょい落ち着いてから合流しよっか」
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なんて事が起こってましたとさ☆
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双子の危機察知能力はピカイチですから。
まさかのシアンママんによる盗賊退治が始まるところでした。
加減のわからないシアンママんは、味方さえ巻き込む可能性があります。
貴婦人なので、フジコちゃんスタイルではなく、武器を腕に隠し持っていました。
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では次回、また明日です。
よろしくお願いします◎
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