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368 過去編 18 舞踏会での出会い
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2016. 3. 15
********************************************
煌びやかな夜の舞踏会。
友好国の大使達が定期的に集まって開かれるものだ。
今回の会場となったのはバトラール王国。しかし、開催国となったこの国の王は、初めのうちだけ顔を出し、奥宮へと引っ込んでしまった。
体調が悪いらしいと広まっているが、そこは他国に付け入られないように、次期王と期待される第一王子のレナードが上手くこの場をまとめていた。
「サティア様……裏方ではなく、表に出てください」
「アリアこそ、騎士らしく兄様達の所に控えてなくて良いの?」
サティアはこの時十三歳。マティアス譲りの真っ赤な長い髪は艶やかで、奔放な性格を映したような黒を宿す赤い瞳は、その色に反して誰の目も惹きつけてしまう。
舞踏会に出れば引く手数多。そのダンスの腕も確かで、本来ならば敵になり得る他の令嬢達にさえ憧れを抱かせるものだった。
この場に集った他国の重鎮や騎士達は、サティアをバトラールで最強の盾であり、戦士だと認識し、恐れている。
そんな相手の心情を理解するようになったサティアは、なるべくならば表に出ない方が良いのではと考えていたのだ。
「私はサティア様の護衛なのですが……」
「……それは失礼」
バトラールの者の誰もが、サティアの価値を知っている。この国になくてはならない王女。そして、何よりも大切に思っていた。
サティアが例え、護衛が必要のない実力を持っていようと、護衛を付けるのは国の決定事項となっている。
「王女としての自覚をしてください」
「あ~、はいはい。あ、あっちの料理が減ってるから、それは向こうね」
「はい。サティア様っ」
裏方でメイド達に指示を出すサティア。声をかけられたメイド達は、誰もが頬を染め、とびきりの笑顔で会場へと出て行く。
そのような様子をサティアの傍で見ていたアリアは、苛立っていた。アリアや国の者達は、自分達の自慢の王女を他国に知らしめたい。
多くの者の目を惹きつけるサティアの後ろで付き従うのは、騎士としてとても誇らしいのだ。
舞踏会に出れば、サティアが歩く為の道が自然とでき、まるで絶対の女王を崇めるかのように他国は戦う意思をなくす。
ただし、本人に自覚がないのが問題だとバトラールの国の者達は考えていた。
今回の舞踏会で、そんなサティアの姿を皆に見せる事は、国の安泰を図る事に繋がると考える重鎮達。その指示を受け、いつも舞踏会では裏方へといつの間にか回ってしまうサティアを引っ張り出そうと、アリアは奮闘しているのだ。
「ですから、サティア様っ。そろそろ会場に出てくださいっ。ほら、先ほどからレナード様がこちらを気にしておられますっ」
「分かってるって。でもね~、ここからの方が、観察しやすいんだもの」
「観察ですか?」
「うん。レナード兄様の敵になるかどうかってのをね。それに、さっきから気になる動きが……」
「サティア様?」
サティアは先ほどから一人の男に注目していた。
多くの大使達と会話をする人物。さり気なく目標と決めた人物へと歩み寄り、いつの間にかその人物と話を進める。
巧みな話術。そして、裏のない笑顔。大使達の多くが最初は警戒していても、最後には笑って握手を交わす。
曲者揃いの今回の舞踏会で、レナードに次いで、多くの成果を出しているようだ。
「ねぇ、アリア。あの人どこの国の人か分かる?」
「どちらの方です?」
サティアは政には口を出さないが、周辺諸国の大使やその関係者の顔と名前くらいは頭に入っている。
しかし、今観察している人物に見覚えがなかったのだ。
「私も存じ上げません……」
「う~ん……ラピスタの大使が気にしてる所を見ると、あの国の人?」
よくよく彼の周りを観察してみれば、落ち着かない様子でその彼を離れた所から見つめている隣国のラピスタ王国の大使の姿があった。
その時、背後に知った気配が近付いてくるのに気付いた。
「あれはラピスタ王だ」
「王? 王様自ら来ちゃったの?」
「そうだな。あそこは、まだ王子も幼い。使節に出す歳でもないし、何より、あの王はとても奔放な方で、戦場にも自ら立たれると聞く」
「へぇ……って、ファンネス兄様。こんな所に来てていいの?」
解説をしてくれたのは、第二王子の兄、ファンネスだった。
「それはこちらの台詞だが?」
「……姉様達も今回は全員出てるし、私はよくない?」
「それを決めるのは兄上と大臣達だ。そして、今回は存分にサティアを他国に自慢すると決定した」
「何の自慢っ?」
そんな決定が成されているなど、知らないサティアだ。
「勿論、私達の美人で強い妹の自慢だ。どこの国にもやらないがな。結婚はまだ早い」
「なぜに結婚の話……むしろ、姉様達の結婚を早く考えようよ……」
「姉上達が大人しく嫁ぐわけがないだろう。いき遅れようが、私は構わない」
「兄様……」
最近、特にファンネスは冷めていると思うサティアだ。しかし、サティアへ向ける言葉や態度は昔から変わらないので、それほど気にしてはいなかった。
「そんな事より、サティア。兄上が呼んでいる。行くぞ」
「うっ……は~い……」
サティアはファンネスに連れられ、レナードの所へと向かった。その時、レナードはサティアが先ほどから気にしていた彼と接触した所だった。
「兄上。サティアを連れて参りました」
「ありがとう、ファンネス。セリ。これが妹のサティアだ」
「あぁ、はじめまして。サティア姫。セランディーオ・ラピスタという。会えてとても嬉しいよ」
そう言って、本当に嬉しそうに笑みを向けるセランディーオ。
サティアはその裏表のない笑顔に、どこか懐かしさを覚えた。
「はじめまして。サティア・ミュア・バトラールと申します。お会いできて光栄です」
「レナード。サティア姫をダンスに誘っても?」
「仕方がないな。たとえ友人であろうと、私の妹の手を取るのは許せないのだけれどね。君の頼みだ。ここは目を瞑ろう」
「本当にシスコンだな……まぁいい。お許しが出た。踊っていただけますかな」
「ふふっ、はい」
これが、サティアとセランディーオの最初の出会いだった。
************************************************
舞台裏のお話。
マリナ「サティアのやつ、また裏に引っ込んでるのか?」
ターナ「あの子は目立つもの。居ずらいのも分からないでもないのですけれど」
マリナ「まぁな。そういえば、戦場で目立つのは構わないが、舞踏会は嫌だと言っていたな」
ターナ「あの子らしいですわね」
ミスティ「お姉様達、サティアを見ていませんか?」
マリナ「裏だろ? どうかしたのか?」
ミスティ「だって姉様。あのドレスを着たサティアを、ここの会場にいる者達に見せつけたいではありませんか」
ターナ「ふふっ、確かにそうね。今回のドレスも、とても素敵だったわ」
ミスティ「そうですっ。不用意に近寄る男性などいません。夜の女王をイメージした一品です」
マリナ「よ、夜の女王……なんだそれは……」
ミスティ「サティアが毎回、あまりにもドレスを作るのを嫌がるものですから、舞踏会が嫌なのかと。それならば、男性どころか女性さえも簡単に寄り付かないようにと考えたのです」
ターナ「そ、そう……確かに、今日のサティアちゃんは、近寄りがたい美しさだったわね……」
ミスティ「そうでしょう。男性が寄ってこないようにするなど、私には考えられないのですけれど、こればかりは仕方がありません。サティアの為ですから」
マリナ「それであぁなったと……」
ミスティ「素敵でしたでしょう? あれを自慢せずにどうしますっ」
マリナ「それは確かにそうなんだが……」
ターナ「目立つわね……」
マリナ「あぁ……自覚もあまりないだろうが……目立つだろうな……」
ミスティ「寄り付かないけれど、その目は惹きつける……良い仕事だったわ」
マリナ「満足そうで何よりだ……」
ターナ「あなたも王女なのだけれど……お針子としての腕が上がりすぎね……」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
姉達も自慢したいようです。
兄達のシスコンは健在。
そして、国でもサティアは重要なようです。
赤い髪は目立つ上に、マティアス母さん譲りの美しさもあって、舞踏会では大変だったでしょう。
自慢したくなるのも仕方がありません。
セリ様とレナード兄さんは友人のようです。
ただ、年齢は少し離れています。
それでも友人となる。
よほど通じる何かがあったのかもしれません。
この続きはまた後日。
では次回、一日空けて17日です。
よろしくお願いします◎
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煌びやかな夜の舞踏会。
友好国の大使達が定期的に集まって開かれるものだ。
今回の会場となったのはバトラール王国。しかし、開催国となったこの国の王は、初めのうちだけ顔を出し、奥宮へと引っ込んでしまった。
体調が悪いらしいと広まっているが、そこは他国に付け入られないように、次期王と期待される第一王子のレナードが上手くこの場をまとめていた。
「サティア様……裏方ではなく、表に出てください」
「アリアこそ、騎士らしく兄様達の所に控えてなくて良いの?」
サティアはこの時十三歳。マティアス譲りの真っ赤な長い髪は艶やかで、奔放な性格を映したような黒を宿す赤い瞳は、その色に反して誰の目も惹きつけてしまう。
舞踏会に出れば引く手数多。そのダンスの腕も確かで、本来ならば敵になり得る他の令嬢達にさえ憧れを抱かせるものだった。
この場に集った他国の重鎮や騎士達は、サティアをバトラールで最強の盾であり、戦士だと認識し、恐れている。
そんな相手の心情を理解するようになったサティアは、なるべくならば表に出ない方が良いのではと考えていたのだ。
「私はサティア様の護衛なのですが……」
「……それは失礼」
バトラールの者の誰もが、サティアの価値を知っている。この国になくてはならない王女。そして、何よりも大切に思っていた。
サティアが例え、護衛が必要のない実力を持っていようと、護衛を付けるのは国の決定事項となっている。
「王女としての自覚をしてください」
「あ~、はいはい。あ、あっちの料理が減ってるから、それは向こうね」
「はい。サティア様っ」
裏方でメイド達に指示を出すサティア。声をかけられたメイド達は、誰もが頬を染め、とびきりの笑顔で会場へと出て行く。
そのような様子をサティアの傍で見ていたアリアは、苛立っていた。アリアや国の者達は、自分達の自慢の王女を他国に知らしめたい。
多くの者の目を惹きつけるサティアの後ろで付き従うのは、騎士としてとても誇らしいのだ。
舞踏会に出れば、サティアが歩く為の道が自然とでき、まるで絶対の女王を崇めるかのように他国は戦う意思をなくす。
ただし、本人に自覚がないのが問題だとバトラールの国の者達は考えていた。
今回の舞踏会で、そんなサティアの姿を皆に見せる事は、国の安泰を図る事に繋がると考える重鎮達。その指示を受け、いつも舞踏会では裏方へといつの間にか回ってしまうサティアを引っ張り出そうと、アリアは奮闘しているのだ。
「ですから、サティア様っ。そろそろ会場に出てくださいっ。ほら、先ほどからレナード様がこちらを気にしておられますっ」
「分かってるって。でもね~、ここからの方が、観察しやすいんだもの」
「観察ですか?」
「うん。レナード兄様の敵になるかどうかってのをね。それに、さっきから気になる動きが……」
「サティア様?」
サティアは先ほどから一人の男に注目していた。
多くの大使達と会話をする人物。さり気なく目標と決めた人物へと歩み寄り、いつの間にかその人物と話を進める。
巧みな話術。そして、裏のない笑顔。大使達の多くが最初は警戒していても、最後には笑って握手を交わす。
曲者揃いの今回の舞踏会で、レナードに次いで、多くの成果を出しているようだ。
「ねぇ、アリア。あの人どこの国の人か分かる?」
「どちらの方です?」
サティアは政には口を出さないが、周辺諸国の大使やその関係者の顔と名前くらいは頭に入っている。
しかし、今観察している人物に見覚えがなかったのだ。
「私も存じ上げません……」
「う~ん……ラピスタの大使が気にしてる所を見ると、あの国の人?」
よくよく彼の周りを観察してみれば、落ち着かない様子でその彼を離れた所から見つめている隣国のラピスタ王国の大使の姿があった。
その時、背後に知った気配が近付いてくるのに気付いた。
「あれはラピスタ王だ」
「王? 王様自ら来ちゃったの?」
「そうだな。あそこは、まだ王子も幼い。使節に出す歳でもないし、何より、あの王はとても奔放な方で、戦場にも自ら立たれると聞く」
「へぇ……って、ファンネス兄様。こんな所に来てていいの?」
解説をしてくれたのは、第二王子の兄、ファンネスだった。
「それはこちらの台詞だが?」
「……姉様達も今回は全員出てるし、私はよくない?」
「それを決めるのは兄上と大臣達だ。そして、今回は存分にサティアを他国に自慢すると決定した」
「何の自慢っ?」
そんな決定が成されているなど、知らないサティアだ。
「勿論、私達の美人で強い妹の自慢だ。どこの国にもやらないがな。結婚はまだ早い」
「なぜに結婚の話……むしろ、姉様達の結婚を早く考えようよ……」
「姉上達が大人しく嫁ぐわけがないだろう。いき遅れようが、私は構わない」
「兄様……」
最近、特にファンネスは冷めていると思うサティアだ。しかし、サティアへ向ける言葉や態度は昔から変わらないので、それほど気にしてはいなかった。
「そんな事より、サティア。兄上が呼んでいる。行くぞ」
「うっ……は~い……」
サティアはファンネスに連れられ、レナードの所へと向かった。その時、レナードはサティアが先ほどから気にしていた彼と接触した所だった。
「兄上。サティアを連れて参りました」
「ありがとう、ファンネス。セリ。これが妹のサティアだ」
「あぁ、はじめまして。サティア姫。セランディーオ・ラピスタという。会えてとても嬉しいよ」
そう言って、本当に嬉しそうに笑みを向けるセランディーオ。
サティアはその裏表のない笑顔に、どこか懐かしさを覚えた。
「はじめまして。サティア・ミュア・バトラールと申します。お会いできて光栄です」
「レナード。サティア姫をダンスに誘っても?」
「仕方がないな。たとえ友人であろうと、私の妹の手を取るのは許せないのだけれどね。君の頼みだ。ここは目を瞑ろう」
「本当にシスコンだな……まぁいい。お許しが出た。踊っていただけますかな」
「ふふっ、はい」
これが、サティアとセランディーオの最初の出会いだった。
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舞台裏のお話。
マリナ「サティアのやつ、また裏に引っ込んでるのか?」
ターナ「あの子は目立つもの。居ずらいのも分からないでもないのですけれど」
マリナ「まぁな。そういえば、戦場で目立つのは構わないが、舞踏会は嫌だと言っていたな」
ターナ「あの子らしいですわね」
ミスティ「お姉様達、サティアを見ていませんか?」
マリナ「裏だろ? どうかしたのか?」
ミスティ「だって姉様。あのドレスを着たサティアを、ここの会場にいる者達に見せつけたいではありませんか」
ターナ「ふふっ、確かにそうね。今回のドレスも、とても素敵だったわ」
ミスティ「そうですっ。不用意に近寄る男性などいません。夜の女王をイメージした一品です」
マリナ「よ、夜の女王……なんだそれは……」
ミスティ「サティアが毎回、あまりにもドレスを作るのを嫌がるものですから、舞踏会が嫌なのかと。それならば、男性どころか女性さえも簡単に寄り付かないようにと考えたのです」
ターナ「そ、そう……確かに、今日のサティアちゃんは、近寄りがたい美しさだったわね……」
ミスティ「そうでしょう。男性が寄ってこないようにするなど、私には考えられないのですけれど、こればかりは仕方がありません。サティアの為ですから」
マリナ「それであぁなったと……」
ミスティ「素敵でしたでしょう? あれを自慢せずにどうしますっ」
マリナ「それは確かにそうなんだが……」
ターナ「目立つわね……」
マリナ「あぁ……自覚もあまりないだろうが……目立つだろうな……」
ミスティ「寄り付かないけれど、その目は惹きつける……良い仕事だったわ」
マリナ「満足そうで何よりだ……」
ターナ「あなたも王女なのだけれど……お針子としての腕が上がりすぎね……」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
姉達も自慢したいようです。
兄達のシスコンは健在。
そして、国でもサティアは重要なようです。
赤い髪は目立つ上に、マティアス母さん譲りの美しさもあって、舞踏会では大変だったでしょう。
自慢したくなるのも仕方がありません。
セリ様とレナード兄さんは友人のようです。
ただ、年齢は少し離れています。
それでも友人となる。
よほど通じる何かがあったのかもしれません。
この続きはまた後日。
では次回、一日空けて17日です。
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