女神なんてお断りですっ。

紫南

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連載

366 ティアの悩み?

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2016. 3. 13
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十六階層の階段を前に、転送の宝珠へと記録をした一行は、これによって一度地上へ戻ってきた。

初日である今日は、ダンジョンの雰囲気を知る事が重要だったのだ。

だが、そうは言っても、ダンジョン内で眠るなど不安だろう。入り口近くに家を用意し、食事をしながら明日の予定を話すことにする。

「明日は、琥珀の迷宮へ行くんだけど、ここよりは断然レベルが下がるの。試験運用を兼ねてって事だからね。サクヤ姐さんは別として、ゲイルパパとサラちゃんは、ここで今日の続きでも良いよ?」

いくらゲイル達と一緒であっても、十六階層から先は学生組にはキツイだろう。

見直しがされたとはいえ、ティアが先日体験した内容と、ほぼ変わらないのだ。

この先は戦闘能力だけでなく、体力、持久力、判断力なども試される。レベル的には、Aランクであるゲイルにも難しくなるはずだ。

設定は、マティアス達が生きていた頃のレベル。騎士程ではないが、冒険者達の実力も昔よりも大分落ちている現状、いくらゲイルであっても厳しいだろうと予想された。

「嬢ちゃんが良いってんなら、俺はこのまま挑戦してぇな。久し振りに燃えるってやつだぜ。ザランはどうする?」
「勿論、こんな経験初めてなんで、できれば明日も」
「おう。決まりだな。そうとなれば、俺らだけになっから、今日より体力もいるだろ。さっさと寝るぞ」

明日が楽しみだと言って、ゲイルとザランは揃って部屋へ引き上げていった。

二人を見送ると、アデルとキルシュが眠そうな目をしているのに気付いたティアは笑って提案する。

「ふふっ。二人も、もう寝なよ。今日は疲れたでしょ」
「うん……なんか一気に……」
「こんなに眠いと思うのは初めてだ……」

相当気を張っていたのだろう。半日近く歩き続け、戦い続けたのだ。無理もない。

それはエルヴァストとベリアローズも同じようだった。

「私達も疲れたしな。明日に備えて寝るとしよう。ベルも行くぞ」
「あぁ、アデル、大丈夫か?」
「だいじょうぶ……」
「ほら、部屋まで連れていってやるから」
「ん~……ティアは……?」

完全に寝ぼけている様子のアデルは、ベリアローズに支えられて当てがわれた部屋へと向かう。ティアと同じ部屋だという事が頭にあったのだろう。未だサクヤとお茶を飲んでいるティアへ少し振り返って尋ねた。

「もうちょいここにいる。先に寝ててね。お兄様、ベッドに入るまで見ててやって」
「分かった。ティアもあまり夜更かしをするんじゃないぞ」
「は~い」

ベリアローズ達が部屋に入っていくのを見送り、ティアは温かいお茶へ口をつける。

すると、向かいに座っているサクヤが笑っていた。

「なに、サクヤ姐さん」
「ふふっ、その姿でも、ベル君はあなたの保護者役のつもりなんだなぁって思ったら嬉しくって」
「嬉しい?」

おかしな事を言うものだと、ティアは苦笑する。

「ルクス君がいないから、心配なのね。あんたは、誰か傍で見ていないと不安だもの」

肩肘をつき微笑むサクヤ。その瞳の奥にある慈愛に満ちた光を、ティアは感じていた。

「そんなに不安?」

そう言って挑発するようにティアは笑った。

これに、当然でしょうと負けじと笑みを深めるサクヤ。

「何か悩んでても、誤魔化すじゃない。今日みたいに」

そう言われてはっとした。表情に出したつもりはなかったティアだ。

サクヤはその様子を確認して、更に続ける。

「ベル君も何か感じたのかもね。ルクス君も心配してたわよ?」
「ルクスが……あ、そういえば、何か話してたね」

ルクスを裏ルートの入り口へ案内しようとした時に、何かをサクヤへ伝えていたなと思い出した。

これに、サクヤはティアの何かを見抜こうとするような視線を向ける。

「まぁね。フィンの奴に何を言われたの?」
「へ?」

両肘をテーブルに突いて組み、顎を乗せると、さぁ話せというように真っ直ぐに視線を合わせてくる。

ティアは思わず、少し気まずげに目をそらした。

「いや、フィンさんは別に……」

そう言っても、サクヤの視線は外れる事はなかった。

誤魔化しは利かないと知り、ティアはため息をもらす。知らず強張っていた肩の力が抜けると、目をそらしたまま、窓の外を見て口を開いた。

「手紙をね……預かってくれてたの」
「手紙?サティアへの?」
「うん……」

どのみち時効かと、セランディーオとの婚約の事をポツポツと話しだした。

「レナード兄様から結婚しろって言われたんだ。前々からセリ様とは交流があって、悪い人じゃないのは分かってたし、寧ろ結構付き合いやすくて気安い仲になってたから、それほど抵抗なかったんだけど……」

出会ったのは外交のパーティ。最初は、王だなんて思わなかった。

どんな相手とでも楽しそうに会話をし、それでも相手に隙を見せず、言葉巧みに情報を引き出し、自分の情報は明かさない。

ティアはセランディーオのその社交的で、抜け目のない様子を観察し、興味を持った。

「冒険者だった母様のファンだったって事もあって、兄様とも仲が良かったの。ただ、私を国外に嫁がせるって決めたレナード兄様の考えは、ずっと気になってたんだ」
「そういえばあの頃は、王族を国外に嫁がせる事は稀だったものね……もしかして、逃がそうとしてた?」
「みたい。それも折り込み済みで、セリ様もOKしたって」

国が危うい事を、レナードが気付かないはずがない。どうにかしようと動いていたのも知っていた。

「えらく婚約から結婚へ急ぐもんだから、セリ様を問い詰めたの。それでちょっと頭にきて……婚約を白紙にしてもらって、そのまま別れたんだ……」

もしもの為にと、セランディーオに国を頼んだ。だが、その時はまだ、ティアは何の相談もせずに一人で国の問題を抱え込もうとしているレナードを、一発殴って手伝うだけのつもりだったのだ。

セランディーオへの頼み事は、あくまでも保険でしかなかった。

「あんたはまったく……その人も災難ね。王族の結婚とかって、そう簡単に白紙に出来るもんでもないでしょ」
「まぁね。でも、セリ様にはもう側室が三人いたし、子どももいたんだ。ただ、臣下の娘達だったからかな。正妃の席が空いてたの。そこにって事だったみたいなんだけど……」

そう言って、ティアはアイテムボックスから手紙を取り出した。

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舞台裏のお話。

エル「キルシュはもう寝たな」

ベル「あぁ、アデルもだが、一瞬だったな」

エル「無理もない。現地で泊まりがけになるのも初めての経験だろう。それに、今日は結構ハードだったしな」

ベル「確かに。あれは本物ではないと分かっていても、体が反応してしまうから、気が抜けない」

エル「マティとの鬼ごっこにも匹敵する」

ベル「そうかもな。それにしても……マティは退屈そうだったな」

エル「途中で、普段の小さい大きさになっていなかったか?」

ベル「なんでも、大きいと平手打ち一発で倒せてしまうから面白くないらしい」

エル「ははっ、そういえばそうだったな」

ベル「最近のマティは、本当に最強だ」

エル「ティアもな」

ベル「……困ったものだ……」 

エル「その上に、今のあの姿だからなぁ。兄としては複雑だろう」

ベル「アデルが可愛いと思う」

エル「理想の妹だよな」

ベル「分かるかっ。そうなんだ。あんな妹なら大歓っ……」

エル「……それ以上は言わん方がいい……」

ベル「あぁ……」


つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎


ティアちゃんに聞こえたら大惨事になります。


ティアちゃんの婚約には、裏の事情
がありました。
全部込み込みでOKを出したセリ様は、きっと男前の出来る奴でしょう。
シェリスには出来ない話です。
ルクス君は、ティアちゃんの微妙な違和感に気付いていたようです。
そういうさり気ない気遣いはポイント高いですね。
ただ、ティアちゃんにそれがあまり伝わらないのが残念な所。


では次回、また明日です。
よろしくお願いします◎
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