女神なんてお断りですっ。

紫南

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364 過去からの手紙

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2016. 3. 10
********************************************

フィンが呼んでいると言われたティアは、仲間達に先に進んでいてもらう事にして呼びに来たパールファンムについて神殿のある二十九階層へとやってきた。

「何かあったの?」

フラムやマティも置いてきたので、珍しくティアたった一人だ。

案内してくれたパールファンムも、つい先程トラブルがあったばかりなので、ダスバが心配だと言ってすぐに二階層の店へ戻ってしまった。

お陰で、暗く静かな神殿には今、フィンと二人きりだ。しかし、どうやらそれは正解だったようだ。

「ずっと預かってた物があるの」

そう言ったフィンは、真っ白な封書を差し出してきた。

「手紙? 誰から?」

その封蝋は見たことがあるような気がするが、表書きもなく、誰から宛てられたものなのか分からなかった。

不思議がるティアを見て、フィンは少々何かを思い詰めるような暗い表情で言った。

「それをここに持って来たのは、当時のクィーグ一族だったわ。あなたが死んだ後、しばらくして、私はここに神殿を作った。それを知って、この場にそれを保管して欲しいと言ってきたの」
「……クィーグが?」

クィーグと聞けば、相手はバトラール王国の者かと思った。

しかし、それならばこの封蝋に覚えがないのはおかしい。

「本当は、渡すかどうかすごく悩んだの……」

内容は当然、フィンにも分からない。だが、書いた相手の名はフィンも知っていたのだろう。

これを渡す事で、ティアを追い詰めてしまうのではないかと思い、どうするか決めかねていたと言う。

「じゃぁ、なんで?」

そんな物なら、今でなくてもよかった筈だ。ティアはまた顔を出すと言っておいた。

わざわざ仲間達のもとから離し、こうして呼び出す必要はなかっただろう。

だが、フィンに決意させる何かが、今日仲間達といるティアの中に見えたようだ。

「今のティアちゃんなら、一人じゃないって分かってると思ったの。だから……開けてみなさい」
「うん……」

ティアは、神殿の長椅子に腰掛け、そっとその手紙を開いた。そして、その筆跡を見て目を見開く。

「まさか……セリ様……っ」
「ええ……セランディーオ・ラピスタ。あなたの婚約者だったのよね……」
「……うん……」

それは、シェリスは勿論、カルツォーネやサクヤさえも知らない事実。

婚約が決まったのは、サティアが十四になった年。

その時には既にバトラール王国内は混乱しており、サクヤ達のような人族以外の種族の者達は国を出て久しかった。

何より、この婚約は兄であるレナードが独断で取り付けたものだったらしい。国の了承もなく、ただ、レナードがサティアを沈みゆくバトラール王国から逃がす為に用意した約束だったのだ。

この事実をサティアが知ったのは、それから一年後。国を滅ぼし、死ぬ事になる数日前だった。

当時の記憶が断片的に思い出されていく。

特にセランディーオの姿は、鮮明に思い浮かんだ。何の因果か、数ヶ月前に会ったこの国の王。エルヴァストの父親の顔が、彼と良く似ていたのだ。

最後に会った時。サティアは十五歳。セランディーオは三十歳。年の差は父娘まではいかなくとも随分離れていた。

セランディーオは二十歳で王位に就き、戦乱の絶えない世界を相手に国を導いた。その手腕は見事で、サティアは心から尊敬していた。

そして、その力を頼りにしたのだ。

『反乱は止まらない。バトラール王家はここで終わらせる。だから、民達をお願い』

そう言って国へと戻っていくサティアへ、最初は行くなと留めていたセランディーオだった。しかし、サティアの意志が固いと知ると、任せろと言って快活な笑顔を見せた。それが、セランディーオとの最後の会話だった。

「……ここで読んでいく?」

手紙を握り締め、辛そうに顔を顰めるティアを見て、フィンがそっと尋ねた。

それを受け、ティアは微笑みながら顔を上げ、首を横に振った。

「ううん……後でゆっくり読むよ。ありがとうね、フィンさん」
「いいのよ。その……一人で辛かったら、いつでも言って。私も王も、あなたの為ならどんな事でも力になるわ」
「ふふっ、うん……」

一人で決断してしまう事を、かつてのサティアを知る者達は警戒している。

また手の届かない所に一人で行ってしまうのではないか。その不安が、フィンにもあった。

それを、今のティアは理解している。

「大丈夫。心配しないで。まぁ、ちょっとした恨み言が書かれてるんじゃないかな。実際、全部丸投げしたようなものだったし。あ、お墓の場所とか分かんないかな?一応、謝っておかないとね」
「ティアちゃん……分かったわ。任せて。なるべく早く情報を集めて場所を特定するわね」
「うん。変な事頼んでごめんね」
「バカね。もっとあなたは頼りなさい。一人でなんでもやるんじゃないわよ」
「は~い」

フィンには、無理にティアが明るく振舞っていると見抜かれているだろう。だが、気付かない振りをしてくれていた。

それに感謝しながら、ティアはその手紙を大切にアイテムボックスに収納すると、再び仲間達のもとへと戻ったのだった。


************************************************
舞台裏のお話。

ダスバ「うぅ……」

パール《ティアちゃんが来てくれて助かったわ》

ダスバ「うっうっ……」

パール《シャキッとしなさいっ!》

ダスバ「だ、だってぇぇぇ」

パール《まったく、厳つい感じに見えるようにしてるんだから、もっと自信を持ちなさいって言ってるでしょっ》

ダスバ「ムリっ」

パール《なに言ってんのよ!何の為にここにこんな金棒を置いてると思ってるのっ。せめてこれを見せて凄んでみせなさいよ!》

ダスバ「ムリだよぉぉぉ」

パール《あんたは力はあるでしょうがっ》

ダスバ「だ、だって、僕にはこの金棒……っ持つ資格がないんだもん!」

パール《はぁ?》

ダスバ「この金棒にだって、相応しい使い手がいるはずなんだっ。僕なんかが持っちゃいけない!」

パール《……持つのもダメだと?》

ダスバ「ダメに決まってるよ!この金棒を見てよっ。このトゲトゲとした突起。絶妙な間隔。整然と並ぶんじゃなく、下に行くにしたがって……」

パール《……こういうの、職人魂とか言うのかしら……》


つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎


防犯用であっても、武器は武器なんでしょうね。


セリ様の正体が明らかになりました。
シェリスさえも知らない話です。
知っていたら、きっと大変な事になっていたでしょう。
内緒で話を進めるとは、レナード兄ちゃんはやる奴です。
そして、やっぱりシスコンですね。
受け取った手紙には何が書かれているのか気になります。


では次回、また明日です。
よろしくお願いします◎
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