女神なんてお断りですっ。

紫南

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360 覚えてませんでした

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2016. 3. 4
********************************************

ティアが目を向けた先には、目を見開いたまま身を震わせる三人がいた。

その三人の前で並び、暴言を吐いていた男達は、この様子に気付いていないようだ。

ティアは顔色が明らかに悪く、青から土気色に変化していく三人の男達の表情を不思議に思って首を傾げた。

それは、思わず気遣ってしまう程だ。

「大丈夫?気分が悪いなら、この奥の休憩室を使ったら?」
「「「ひっ!!」」」

ヒクリと息を呑む三人。それで前にいた男達も気付いたようだ。

「お、おい。どうしたよ」
「なんだ?悪いもんでも食べたか?」
「何かあったのか?」

仲間達の異変に、それまで苛立ちをあらわにしていた男達も慌てる。

だが、どうしたのかと問われた三人は、言葉を発する事さえもできずにティアを未だ見つめていた。

まるで、目をそらしたら終わるとでもいうように、固まっていたのだ。

ここで口を開いたのはアデルだった。

「大丈夫だよ、おじさん達。ティアは覚えてないみたいだから。それに、ティアに喧嘩を売らなきゃ問題ないよ」
「「「あ……」」」

その言葉を聞いて、揃って詰まっていた息を吐き出す様子に、ティアを知らない男達は何のことだと顔を顰めた。

あまりにも酷い顔色だった事でショック死してしまわないかと不安になっていたアデルは、三人を何とか安心させてあげようと、更に言葉を重ねる。

「ティアは買い専門なの。だから、おじさん達が売らなければ心配ないよ?」
「そ、そうか……」
「そうなのか……」
「助かった……」

どうやら、三人はティアが無条件で喧嘩を吹っかけてくると思っていたらしい。

「何の事?アデル、知り合いなの?」
「う~ん……知ってる人ではあるから……うん。知り合い」
「そっか。変な人に着いて行っちゃダメだよ?」
「大丈夫だよ」

本当にティアは思い出せないのだ。ティアの中では、やった事も言われた事も大した事ではなかった為だ。

そこで、事態の収集を感じたのか、ダスバが奥から戻ってきた。

「待たせた。これだ」
「うん。アデル、シルさん。着けてみてくれる?」

ティアは、男達の存在を無視して近くに来ていたアデルの手を引いた。

布に包まれてカウンターに置かれた二つの小さな物。その包みをダスバが解く。

「うわぁ……なにこれ」
「これはっ……⁉︎」

アデルには初めて見る物。だが、シルには慣れ親しんだ物だった。

「これは拳鍔けんつばっていう武器。ほら、アデル。手を出して」
「う、うん……」

ティアに言われ、アデルは恐る恐る右手を差し出した。

当然だが、アデル専用に作られた拳鍔は、空けられた穴の大きさが五本の指にピッタリはまる。

「バッチリだね。どう?ダスバさん」
「良さそうだ。相性も良い」
「だってさ。一応、両手ともあるけど、使う時に応じて片手だけでも良いし、このチェーンを腰に着けて……こうやって普段はここにかけておいて。使う時は指にはめてそのまま引っ張れば外れるから」

付属として作ってもらった特製のホックのついたチェーンをアデルの両腰のベルトに引っ掛ける。

左手用のをそのホックに引っ掛け、アデルに着けて引き抜くように言うと、スムーズに着脱が可能だと証明できた。

「指輪……じゃないよな?」

それまで後ろで見ていたキルシュが不思議そうに尋ねた。

「うん。グッと握って、抉るように直接攻撃ね」
「え~っと、ここだね。この出っ張りでって事だね。スゴイ。マティちゃんみたいにいけるんだねっ」
「そうそう。魔力の伝達もしやすいから、破壊力もかなり出るよ」
「一発で砕けるって事だねっ。早く実践したいっ」

そんな無邪気とも言える子ども達が会話する様子を、男達は呆然と見ていた。

しかし、やはりというか、案の定、ティアを知らない男達は、不満な声を上げた。

「おいっ、テメェ、俺らが先だっつってんだろ!」
「ふざけんなよっ。苦労して来た客だぜっ?無視してんじゃねぇよっ」
「ガキの使いなんて後回しに決まってんだろっ!」

そんな言葉を聞いて、ティアは男達に向き直る。

だがここで、勇敢にも後ろにいた三人がその前へと進み出た。

「なんだよ。どうしたんだ?」
「お前らも言ってやれよ」
「そうだぜ?やっとたどり着いた俺らには武器を売らねぇとか言いやがったってぇのによ」

男達の言葉に、ダスバが表情を出さずに返す。

「売らないとは言っていない」

どうやら、それぞれの男達が選んだ武器が彼らに合わないものだったようだ。

ドワーフは、使い手に相応しい武器を提供する。それがドワーフの矜恃だ。これは相手が王であっても曲げたりはしない。

刃を突きつけられ、脅されたとしても渡したりしないのだ。

ティアの目の前に並んだ三人は、真っ直ぐにティアを見つめていた。

その瞳には、隠しきれない動揺と怯えが見てとれる。

そして、その三人は唐突に座り込んだ。次の瞬間、彼らは揃って土下座していた。

「「「すんませんっ」」」
「うん?」

この対応には、さすがのティアも戸惑った。

ティアの三倍程の大きさの屈強な体をした大人の男達が、体を縮こまらせて、額を床に擦り付けているのだ。

続いて男達は言った。

「仲間が失礼な事を言いましたっ」
「揉め事を起こしたのは俺らです。ご迷惑をおかけしましたっ」
「すぐに出て行きますので、ご容赦くださいっ」
「「「……」」」

体を折りすぎて声が非常に苦しそうだ。

そして、彼らはそのままの姿勢のまま、ティアの許しを待っていた。

「……ねぇ、アデル。私、この人達に何かした?」
「うん。だからね、あたしとキルシュがカード作る時だよ。順番待ちしてた時に後ろにいたおじさん達。ティアが扇で……こう、このおじさんの腕を砕いたでしょ?」
「う~ん……あぁ、あの時のっ。ごめん。顔とか見てなかったわ。忘れててごめんね」
「「「いいえっ、滅相もないっ」」」

寧ろ男達にしてみれば、思い出さないでもらいたかったのだろう。ビクビクと身を震わせて未だに頭を上げようとしなかった。

この事態に、ついていけないのは、文句を言っていた男達だ。

「なにしてんだよっ」
「そんな子どもにどうしたんだっ」
「その子どもは何者だよっ」

彼らは少女二人を前に土下座する三人の仲間達へと、貶したような目を向けていた。

そんな彼らを、ティアはゆっくりと静かに見つめたのだった。


************************************************
舞台裏のお話。

ザラン「ゲイルさん、店に入んないんすか?」

ゲイル「ちょい待て。乱闘にでもなったら店がダメになるだろ」

ザラン「いや、なに期待してんすかっ」

サクヤ「あなたもよく我慢してるわね」

ルクス「……店の人はティアの知り合いなのですから、そうそう暴れたりしないかと」

サクヤ「へぇ……よく分かってるのね。確かに、ティアは縁のある人の店や家で暴れたりしないわ。やるとしたら、外へ出してからね」

ゲイル「そうなのか?ちぇっ」

ルクス「親父……」

ザラン「けど、このまま放っといていいのか?土下座してんぞ?」

ルクス「あの真ん中の男が、いつだったかティアに腕を砕かれた冒険者です。喧嘩を売るなんてことできないでしょう」

ゲイル「何したんだっ?」

ルクス「……何でそんなに嬉しそうに……経緯は知らないが、順番待ちがどうとか言っていたな。それでティアへ掴みかかろうと……」

ザラン「ティアは見た目、ただの子どもだしな。順番を変われとか言ったんか?」

ルクス「でしょうね。譲れとか言われたんだと思います。きっと無視したんでしょう」

サクヤ「あの子ならやるわね。順番は順番だとか言って……」

ゲイル「嬢ちゃんの見た目に騙されるとは、大した事ねぇな」

ザラン「ゲイルさん……ティアの異常さを見た目で見抜ける奴は、本当に限られるっすよ……」

ゲイル「そうか?」

ルクス「そうだろう……」

サクヤ「そうね……」


つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎


ゲイルパパはティアちゃん寄りです。


お話は続きそうです。
確かに、事情を知らなければ、子ども相手に何してんだと思っても仕方ありません。
ダスバも様子を見るつもりでしょうか。
保護者達の対応も気になりますね。
平和的解決もまだあり得ます。


では次回、一日空けて6日です。
よろしくお願いします◎
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