女神なんてお断りですっ。

紫南

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連載

355 願望ですよね

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2016. 2. 26

本日、第2巻発売となります。
いつも読んでくださる皆様に一番の感謝を◎
********************************************

人々がティアとルクスを遠巻きに見て道を開けていく。大変歩きやすいが、視線が痛かった。

その視線の先には、平然といつもよりも長い足で歩くティア。間違いなく誰もが美女だと言うであろう姿だ。

年齢はルクスと同じくらい。背の高さも、ブーツの底上げ効果で額一つ分下といったくらいの近さだった。

腰には剣ではなく、一般的な長剣の半分くらいの長さの棒らしきものが提げられている。

そうしてティアをさり気なく観察していたルクスだが、ここでようやくその前を歩く大型の赤茶色の毛色をした犬に意識が向いた。

その正体はマティで間違いないだろう。

人々は、ざわめく声に振り返り、先頭を歩くその犬に一瞬驚く。そして、次にティアを見てさっと数歩後退さる。

こうして自然に、混み合う大通りに道が出来ていくのだ。

「わふっ」
「ん?ルクス。だんだん遅れてる。みんなもう待ってるんだから、早く行くよ」
「あ、あぁ……」

そう言って、ティアは少し困ったような顔をして長く滑らかな手を差し出した。

未だに少々見惚れていたルクスは、無意識にその手を取る。

くいっと引っ張られ、隣に並ぶと、ティアは不意に笑った。

「なんか、いつもと逆じゃない?」
「そ、そうかっ?あ、そ、そうだな」

楽しそうに、無邪気に笑うその笑顔は、本来の姿の時の笑みと同じだ。それを見て、心臓がひっくり返るのではないかと思う程大きく、鼓動が響いた。

そんな動揺をルクスは必死で隠す。

「ゲイルさんとサラちゃんも待ってるんだ。あまり待たせるのは良くないよ」
「親父も?どこかに行くのか?」
「うん。昨日はちゃんと眠れたんでしょ?」
「あぁ……まぁな」

昨日の夕刻前、全ての試験を終えた。流石に気を張り続けていたのだろう。それから軽く夕食を済ませ、今日の昼過ぎまでぐっすりと熟睡していたのだ。

どのみち、結果発表の時間は決まっていたし、それまでやきもきしながら待つことにならなくて良かったと思っている。

だが、少々気を抜き過ぎた感はあった。どうやらそれをティアに見抜かれてしまったらしい。

「体力、気力も充分みたいで良かったよ。今日へばってるようだったら、明日になる所だった」
「どういう意味だ?」

迎えに来るのがという意味だろうか。それとも、会うのがという意味だろうかとルクスは首を捻った。

この反応を見て、ティアは今更ながらに気付いたらしい。

「あれ、言ってなかったっけ?」
「だから、何がだ?」

そうこう話している間に、外門へとやってきていた。

門番がティアに見惚れるのを不快に思いながら通過する。

「行ってもらうって言ってたでしょ?Aランクになるのがその条件だって」
「ん?そういえば……」

なんの為にAランクになれと言われたのだったか思い出す。

「ダンジョンに挑戦する為……だったか?」
「そう。あ、マティ。この辺で良さそうだよ」
《りょうか~い》

街道から外れ、人々の視線が全く感じられなくなった木々に覆われた場所。そこでマティが本来の大きさになる。

ティアとルクスはマティに乗り、一路、仲間達が待つ草原へと向かう。

マティの背に乗り、前に乗るティアへとルクスはここで疑問に思っていた事を尋ねた。

「そういえば、なんでその姿で迎えに来たんだ?」

目立つだろうにどうしたのだと気になっていたのだ。

「なに言ってんの?ルクスがこの姿の私と歩きたいって言ったんでしょ?」
「え?」

そんな事を言った覚えはない。そう言おうとした所で、精霊達が楽しそうに現れた。

《『舞踏会の時のティアが綺麗だった』》
《『あの姿のティアをもう一度見たい』》
《『街を一緒に歩いてみたい』》
「なっ⁉︎」

いつもの三人の精霊達が、一人一人ルクスの目の前にやってきて告げた。その言葉に一気に顔が熱くなる。

後ろでルクスが盛大に動揺しているなどとは知らないティアは、前を向いたまま追い打ちをかける。

「Aランクになったお祝いっていうか、サプライズをって思ったんだよ。そうしたら、精霊ちゃん達がこう言ってたって言うからさ」
「っ~……!」

今になって、自分があの瞬間にふと精霊達に尋ねられて思い描いた光景が蘇る。

それは数年前の舞踏会。

初めてティアが魔術で成長した姿を見せたあの時だ。

仮面をつけ、艶やかなドレス姿のティア。あの時は非常事態が起こっていた為に、じっくりと見る事ができなかった。

だから、もう一度その姿を見られたらと密かに思っていたのだ。そして、できれば平和な時に一緒に街を歩けたらと。

「さすがにドレス姿は無理でしょ?まぁ、せめてあの時と同じ色の服でと思ってね。カル姐を参考にしてるんだ。カッコイイ系っていうの?気に入った?」
「あぁ……っあ、いや……えっと……」

確かにカッコイイ。そして、美人だ。街を歩いてきた時も、隣を歩くのがどこか誇らしかった。

しかし、それを素直に言える程、ルクスはこの状況に慣れていない。

「なによ。はっきりしないなぁ」
「や、し、仕方ないだろ」

なんだか緊張するのだ。いつものように子ども扱いをして自分の思いを誤魔化す事ができないのが大きい。

《マティは、今の主も好き。みんなにも自慢したい》
「うん?そうだねぇ……よし、このままみんなの反応も見ようっ。この大きさの方が動きやすいし、今回はこれでダンジョンへ行こっかな」
「えっ」

そんな事をしたらどうなるのだろう。きっと皆も混乱するのではないか。

だが、そんな事を言える余裕はルクスにはなかった。

「ルクスにも、今の姿も好きだって言わせてやる」
「な、なに言ってっ……」
「うん。慣れてね」
「……努力する……」

振り向いて微笑まれてしまった事で、ルクスは本心を誤魔化せなくなった。

それは『この姿のティアと過ごしてみたい』という願望だった。


************************************************
舞台裏のお話。

サクヤ「それじゃぁ、ウル。寮をお願いね」

ウル「はい。お任せください」

サクヤ「裏番もいるし、問題はないと思うわ。遅くまで起きてる必要もないからね」

ウル「いえ、留守をお預かりするのですから、しっかりとやらせていただきます」

サクヤ「ダメよ。無理しちゃ」

ウル「わかっています。先生こそ、気を付けてくださいね」

サクヤ「ええ。こっちも、よっぽど大丈夫だと思うわ」

ウル「そうですか?ティアさんが張り切ってそうですよ?」

サクヤ「そうねぇ……まぁ、しっかりとストッパー役になるわ」

ウル「ティアさんばかりを気にして怪我などしないでくださいね」

サクヤ「……気を付けるわ……そうよね……まったく、危ないのはダンジョンっていう場所なのに、ティアの行動が何よりも危険な気がするんだもの……心配し過ぎかしら……」

ウル「いえ、心構えはしておいて損はありませんから」

サクヤ「そうよねっ。頑張るわ」

ウル「はい。では、行ってらっしゃいませ」

サクヤ「ええ。行ってきます」


つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎


ダンジョンよりも理解できないティアちゃんの行動が問題みたいです。


ティアちゃんは悪女です。
分かっててやってますね。
動揺するルクスが可愛らしいです。
これぞ、惚れた弱みですね。
さて、この姿を見た皆の反応はどうなるのか。


では次回、一日空けて28日です。
よろしくお願いします◎
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