女神なんてお断りですっ。

紫南

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307 情けないでしょ?

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2015. 12. 21
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サクヤは、ティアがかつての契約者であったバトラール王家のサティアだと知られているのではないかと少々不安に思ったのだが、結局、ティアとクィーグの関係が遊び相手だった事で、知らず強張っていた肩の力を抜く。

忠誠心の強いクィーグだ。ティアが『断罪の女神』であるサティア・ミュア・バトラールの生まれ変わりだと認識されれば、何かにつけて力になると暗躍しだすに違いない。

それが杞憂に終わったとサクヤが安心した所で、ティアが本題に入った。

「それじゃ、フィズさん。赤白の宮殿についての状況報告をサク姐にしてもらえる?」
「はい」

あえてサクヤへ報告しろとティアが言ったのは、クィーグ一族の理念を慮った為だ。

当然だが、クィーグは忠誠を誓う相手の情報を他人に明かしたりはしない。本来、影に控える存在なのだ。その姿を契約者以外に見せる事も稀だった。

今回は、サクヤがティアを信頼出来る相手としている事と、クィーグ達もティアを自分達や契約者の秘密を無闇に明かしたりはしない者だと信頼しているからこそ、あえて姿を現し、話をしている。いわば、クィーグにとっては例外なのだ。

フィズは、このティアの心遣いに感謝しながら、どこまで自分達の事を理解しているのだろうと疑問を抱く。しかし、今はその話をする時ではないと判断し、口にしたのは指示された情報の方だった。

「ここ数百年。赤白の宮殿に挑む者は減り、第三階層より下の階層は、管理者を含め、現在休眠状態にあります」
「休眠ですって?」

サクヤにもこれは予想していなかったようだ。

「やっぱし、弱くなってるんだよね……」

ドワーフの店が上がってくるわけだ。いくら人付き合いが苦手なドワーフでも、武器の注文も販売も出来なければ意味がない。数少ない出張店なのだ。辿り着ける者がいないなんて事になってもらっては困る。

「弱くたって良いじゃない。争いがない証拠でしょ?」

サクヤには、それ程強さの必要性を感じられなかった。平和な証拠ではないかと言うのだ。

「サク姐……力を磨く事の目的が、戦いってわけじゃないでしょ?平和だから鍛えなくていいって事にはならないよ」

実際、魔獣達が弱くなってる訳でもなく、被害も少ないわけでもない。寧ろ、魔獣達から受ける被害は、増えていると言えた。

当然だ。防衛する者達が弱くなっているのだ。対応できていないのでは、守る事もできない。

「なんて言ったら良いんだろうなぁ……愛国心って言ったら大袈裟だけど、昔の騎士達って、鬱陶しいくらい熱かったじゃない?」
「そうねぇ……頼もしい男が多かったわね」

『俺が護ってやる』と言って、本当にそれを可能にする程、自身の力を磨く事を飽きずにやっていた騎士は多かった。

国を愛し、一生を国の為だけに捧げた者も多い。だが、今はどうだろう。

「冒険者とも対等な関係だったし、力も拮抗してた。それなのに、今なんて、ちょっと剣が振れる一般人レベルだよ?貴族出のお坊ちゃんばっかりで、それでも体力はあるから、逃げ足だけは速い腰抜け。魔獣が来ても、真っ先に逃げ出す奴は多いだろうね」
「そ、そんな事はいくらなんでも……」

サクヤが同意を求める為にフィズとシルに向けた視線は、受け止められる事はなかった。

「あ、あれ?ちょっと、本当にそんな?」

目をそらされてしまったサクヤの問い掛けに、シルが気まずげにそのまま答えた。

「……正しい現状かと……」
「よく分析されておいでです」

フィズもティアの話を肯定する。

「……それって、騎士なの……?」

サクヤは、長く人の国からは離れて暮らしていた。学園に雇われたのは数年前。人の国へとやって来てすぐの事だった為、今までそんな状況を知る由もなかった。

「関わりとかもなかったものね……はっ、ま、まさか、学園に今回来た騎士って、それなりの地位の人だったり……」

このサクヤの問い掛けに、フィズが冷静に情報を伝えた。

白月しらつきの部隊長と、副隊長達だったはずです」
「……な、なんかの間違いじゃない?新人さんだったとか……」

さすがのサクヤも、現状のレベルの低さに気付いたようだ。

「いえ。入団して五年以上の方達です。もっと詳細な情報をお求めですか?」
「う、ううんっ。いらないわっ。こ、怖くて聞きたくない……」

情けなさすぎるではないかと、サクヤは頭を抱えて机に突っ伏した。

「あんたが怒るわけよね……」
「でしょ?レベル低すぎ。それで『騎士だ。敬え』って歩かれたら、ど突きたくなるでしょ?うっかり、城を落としちゃいそうでしょ?」
「ウン……マティならやってる……」

これはないわと、サクヤも納得したらしい。

「騎士。鍛えなきゃダメでしょ?」
「はい……それでもしかして、あそこを使うの?」

顔を上げたサクヤは、ティアがクィーグを呼んでまでやろうとしている事にようやく思い至った。

「それなんだよね……あそこはそのままのレベルを維持して欲しいんだ。私も遊べるしね。だから……どっか良いダンジョン知らない?」
「え?」
「はい?」

ニコニコと笑いながら、ティアはこんな無茶な提案をクィーグへとするのだった。


************************************************
舞台裏のお話。

ビアン「まったくあの子は……」

ケイギル「あ、先輩。どうかしましたか?」

ビアン「ん?ケイギルか。いや、少し警備の見直しをするべきかとな……」

ケイギル「気になる所が?」

ビアン「あぁ……全部な……」

ケイギル「え?」

ビアン「いや、気にするな。少し気になるだけだ。それより、今日は出張だっただろう?疲れたんじゃないか?」

ケイギル「……」

ビアン「どうした?」

ケイギル「いえ……その。今、少しお時間ありますか?」

ビアン「あぁ」

ケイギル「実は……今日、フェルマー学園に特別講師として呼ばれたのです……」

ビアン「ほぉ。どんな講義をしたんだ?」

ケイギル「剣術の模擬戦を見せ、生徒達に剣術への興味と、戦いとはどんなものかという理解を持たせる為のものだったのですが……」

ビアン「あそこは貴族の子息が多いからな。身を守る術がある事を見せるのは良いことだ」

ケイギル「はい……騎士と冒険者の存在を見てもらい、将来、助けとなる者がいるのだと教えるのですが……」

ビアン「お、冒険者もいたのか。さすがは、フェルマー学園。教育方針が違うな」

ケイギル「あ、はい。共に行った副隊長達は、冒険者も呼んでいる事に少し苛立っていましたが、私は、国や民を冒険者と共に護っていると思っていますので、学園の方針は良いことだと思いました」

ビアン「……ケイギル……変わったな」

ケイギル「っ、そ、そうでしょうか……私は、何も見えていなかったのだとつい最近、気付かされました……」

ビアン「そうか……」

ケイギル「それで、ですね。今日だけでなく、その気付かされた時から少し思っていたのです……私達、騎士は……冒険者の方に劣っていると……」

ビアン「……お前……」

ケイギル「認めたくはありませんでした。ですが、最近思うのです……本当に民達を守れる力を、自分達は持っていないのではないかと……」

ビアン「……」

ケイギル「先輩。今度の休み、少し付き合ってもらえませんか?」

ビアン「ん?いいが……」

ケイギル「白月の者達は、認めていないので、一緒になんて言えなくて……」

ビアン「ギルドにでも行くのか?」

ケイギル「いえ。まずは、紅翼を見てみようかと」

ビアン「っ……あ、あいつらを……」

ケイギル「はいっ。同じ騎士ですし、冒険者を見るよりも、見習える所があると思うのです」

ビアン「……そ、そうだな……」

ケイギル「では、よろしくお願いしますっ」

ビアン「お、おぉ…………あいつらかぁ……」


つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎


少し不安なビアンさん。
ケイギル君は染まりつつあります。


騎士であるからには、それなりの力を発揮してもらわなくては困ります。
国を、民を守るのが仕事の筈ですからね。
今のままでは、大事が起きた時、真っ先に逃げ出す者もいるようです。
貴族の坊ちゃん達ですからね。
仕方ないのかもしれません。
叩き上げは……きっと、騎士になれないのでしょうしね……。
三バカがそうでしたから。
これは、もしかしたら、国の方にもメスを入れるかもしれません。
さて、思いついた秘策。
クィーグの方に迷惑を掛けなければよいのですが……。


では次回、また明日です。
よろしくお願いします◎
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