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連載
303 マティのおつかい
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2015. 12. 15
********************************************
突然のサクヤの登場のお陰で、思考が正常に戻ったティアは、忘れていたクレアの存在を思い出した。そこで、とりあえずクレアをヒュースリー伯爵領へ送らねばと、王都の外門を出た。
「それじゃぁ、マティ。よろしくね。分かってると思うけど……」
《まかせてっ。サルバまでオンミツ行動だよねっ》
「そうそうっ。そんで、ちゃんとお母様達に挨拶もして、それから、クロちゃんに一週間よろしくって伝えて」
《は~ぁい》
外門から充分に離れ、街道からも見えないように気を遣ったその場所で、マティは本来の大きさへと変化する。その後、ティア直伝の色変化の魔術で真っ黒な毛並みに変化させていた。
「……はじめてのおつかい的なものに感じるのは私だけかしら……」
「あっはっは。なら私は、口を出さず見守る役かねぇ」
ティアとマティのやり取りを見て、サクヤとクレアが微妙な表情を浮かべた。
《どう?きれいにちゃんと全部黒い?成功っ?》
マティはくるりとその場で回り、全ての毛並みが黒く変わっているかを確認してくれと尻尾を振った。
「うんうんっ……はっ、足が……」
全てきれいに艶のある黒い毛並みになったと見上げて納得していたティアだったが、ふとマティの足へと目がいった。
《足?……おぉっ。マティっ、靴履いてるっ!》
「本当だっ!そう考えたらナイスだわ」
《だよねっ、だよねっ》
「「ぷふっ……」」
マティの四つの足全てが、白い靴を履いているように一部分だけが、普段の真っ白い毛並みになっていたのだ。失敗ではなく、おしゃれだとしたマティとティアに、大人二人は思わず吹き出してしまった。
《サラちゃんにも見せたいなっ》
「あ~……残念。今こっちに来てるもん……」
《ガーン……行く気なくなった……》
一気にモチベーションが下がったらしい。その場で伏せをし、尻尾も元気なく垂らしてしまった。
「いやいや。行こうねっ。頑張ろうねっ。ほらっ、リジットが見たらきっとステキだって褒めてくれるって。お母様なんて自分もって言うかもよっ?」
《う~ん……リジット褒めてくれる?》
「うんうんっ」
《あっ、マスターにも見せてみようかな》
「うっ……うんっ、み、見せてみたらいいかも……」
シェリスにマティが期待するようなコメントはもらえない気がするのだが、はじめてのおつかいに必要なのは先ずこの場から出発する事だ。
引きつる頬を無理やり治しながら、笑顔でやる気を引き出させるティアだ。
《わかった。じゃぁ、行ってくる。クレアママ行くよ》
「おや。決心できたかい?偉いねぇ。なら、よろしく頼むよ」
《うんっ。任せて。どんな敵に出会ってもマティが守ってみせるからねっ》
「頼もしいねぇ」
クレアも、このやる気を削いではいけないと察したらしい。お陰で、少々行き過ぎなくらいやる気が出てしまったが良しとしよう。
《じゃぁ、行って来ますっ》
「気を付けてね。クレアママもお願いします。一週間後、迎えに行くから」
「あぁ、シアンちゃんの事は任せな」
そう言って、マティとクレアはものすごい速さでこの場から離れていった。
「あれが本物のディストレア……何か、やっぱりすごいのね……」
「まだ子どもだけどね」
「それは……うん。マティアスっていうより、今のあんたの方が近い感じするもんね」
「それ、どうゆう意味だろう」
「……」
ティアから不穏な空気を感じたサクヤは、気まずげに目をそらし、口を閉じた。
仕方がないので、ティアも今回はこれ以上追及するのをやめ、一つ気になっていた事を口にした。
「そういえば、なんで来たの?」
「なんでって……」
今更聞くかというサクヤの非難の目をものともせず、ティアは不思議そうにサクヤを見つめた。
「だって、まだ授業やってたでしょ?」
「それをあんたが言うか……まったく、この不良娘がっ」
そう言ってサクヤは、ペチンとティアの額をはたく。これは教育的指導だ。
「たたっ、別に迷惑掛けてないじゃん」
「掛けてんのよっ。あんたがあのナヨ騎士に腹を立てて、城を落としに行ったんじゃないかって、ウルが倒れちゃったじゃないっ」
「ありゃ。ウルさんってば、良い勘してるよね」
「否定しなさいよっ!」
それも悪くないかなと思ってたんだよねと呟くティアに、サクヤは頭を抱えた。
「ウルに負担掛けないようにっ」
「は~ぁい。けど、城には行ったんだよ?いつでも落とせそうなごく甘な警備レベルにびっくりしたんだから」
「確認しないのっ!」
ウルスヴァンには絶対に言えないと、サクヤはそれを取り扱い注意の情報として心に留め置く事にした。
「だって、この国の騎士があんまりにも弱過ぎ、頼りなさ過ぎ、雑魚過ぎなんだもん。それを確認する為にも、中枢を見ておく必要があったの。それでなんだけど……サク姐って、良い人連れて来てくれたよね」
「へ?」
ニヤリと何やら企みを開始する時の表情を見せたティア。その視線の先には、気配を極力抑え、静かに木陰に佇む黒装束の男がいたのだった。
************************************************
舞台裏のお話。
シェリス「……」
マーナ「マスター?どうされましたか?何かご用が……」
シェリス「……」
冒険者A「あ、マスター。また受け付けしてくださるんですか?」
シェリス「……依頼を……」
マーナ「はい?」
シェリス「暗殺依頼でも出しましょうか……」
冒険者達「「「「っ⁉︎」」」」
マーナ「っ……」
シェリス「やはりさっさと消しておくべきです……」
冒険者A「ヤベぇぞっ……本気の殺気だ……」
冒険者B「あれだよな……ターゲットは絶対にルクスだ……」
冒険者C「俺らじゃ止めらんねぇよっ……ゲイルさんに連絡をっ」
冒険者D「ダメだっ。ゲイルさんは今、何かのクエストで出てるっ」
冒険者達「「「「どうすんだよっ」」」」
マーナ「ティアちゃんに嫌われますよ……」
シェリス「っ……!」
冒険者達「「「「殺気が……消えた……?」」」」
シェリス「……仕方ありません。今回は見逃します……面倒なのも近付いて来てますし」
マーナ「面倒?」
シェリス「マーナ。マティ用の大きいサイズの水桶を用意しておきなさい。それと……これでローセの茶葉を買ってくるように」
マーナ「え?ローセって……あんな独特なお茶……マティちゃんが来るなら……ティアちゃん用ですか?」
シェリス「違います。来るのはクレアです。後2時間くらいのものでしょう」
マーナ「く、クレアさんっ⁉︎」
冒険者A「クレア姐さんっ?マジで?お、親父に報告してくるっ」
冒険者B「俺もお袋にっ」
冒険者C「俺も行ってくるっ」
冒険者D「おっちゃんに知らせねぇとっ」
マーナ「ど、どうしましょうっ。お、お茶っ。す、すぐに行って来ます。ここ頼むわねっ」
ギルド職員A「はいっ」
ギルド職員B「厨房にも知らせねぇとな」
ギルド職員C「後2時間でこの辺のは終わらせるぞ」
ギルド職員達「「「おぉっ!」」」
シェリス「ふん……」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
お局様のご帰還です。
歓迎の準備をしましょう。
はじめてのおつかいとは、見ていて微笑ましいものです。
ですが、それを始める時の送り出すお母様達は大変ですね。
外に出てしまえば、子どもとは意外と何でもやれてしまうのですが、やる気を引き出すのは難しいです。
洗脳に近いと思うのは気のせいでしょうか。
ティアちゃんは得意ですけどね。
さて、いよいよ本題。
男の正体はいかに。
では次回、一日空けて17日です。
よろしくお願いします◎
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突然のサクヤの登場のお陰で、思考が正常に戻ったティアは、忘れていたクレアの存在を思い出した。そこで、とりあえずクレアをヒュースリー伯爵領へ送らねばと、王都の外門を出た。
「それじゃぁ、マティ。よろしくね。分かってると思うけど……」
《まかせてっ。サルバまでオンミツ行動だよねっ》
「そうそうっ。そんで、ちゃんとお母様達に挨拶もして、それから、クロちゃんに一週間よろしくって伝えて」
《は~ぁい》
外門から充分に離れ、街道からも見えないように気を遣ったその場所で、マティは本来の大きさへと変化する。その後、ティア直伝の色変化の魔術で真っ黒な毛並みに変化させていた。
「……はじめてのおつかい的なものに感じるのは私だけかしら……」
「あっはっは。なら私は、口を出さず見守る役かねぇ」
ティアとマティのやり取りを見て、サクヤとクレアが微妙な表情を浮かべた。
《どう?きれいにちゃんと全部黒い?成功っ?》
マティはくるりとその場で回り、全ての毛並みが黒く変わっているかを確認してくれと尻尾を振った。
「うんうんっ……はっ、足が……」
全てきれいに艶のある黒い毛並みになったと見上げて納得していたティアだったが、ふとマティの足へと目がいった。
《足?……おぉっ。マティっ、靴履いてるっ!》
「本当だっ!そう考えたらナイスだわ」
《だよねっ、だよねっ》
「「ぷふっ……」」
マティの四つの足全てが、白い靴を履いているように一部分だけが、普段の真っ白い毛並みになっていたのだ。失敗ではなく、おしゃれだとしたマティとティアに、大人二人は思わず吹き出してしまった。
《サラちゃんにも見せたいなっ》
「あ~……残念。今こっちに来てるもん……」
《ガーン……行く気なくなった……》
一気にモチベーションが下がったらしい。その場で伏せをし、尻尾も元気なく垂らしてしまった。
「いやいや。行こうねっ。頑張ろうねっ。ほらっ、リジットが見たらきっとステキだって褒めてくれるって。お母様なんて自分もって言うかもよっ?」
《う~ん……リジット褒めてくれる?》
「うんうんっ」
《あっ、マスターにも見せてみようかな》
「うっ……うんっ、み、見せてみたらいいかも……」
シェリスにマティが期待するようなコメントはもらえない気がするのだが、はじめてのおつかいに必要なのは先ずこの場から出発する事だ。
引きつる頬を無理やり治しながら、笑顔でやる気を引き出させるティアだ。
《わかった。じゃぁ、行ってくる。クレアママ行くよ》
「おや。決心できたかい?偉いねぇ。なら、よろしく頼むよ」
《うんっ。任せて。どんな敵に出会ってもマティが守ってみせるからねっ》
「頼もしいねぇ」
クレアも、このやる気を削いではいけないと察したらしい。お陰で、少々行き過ぎなくらいやる気が出てしまったが良しとしよう。
《じゃぁ、行って来ますっ》
「気を付けてね。クレアママもお願いします。一週間後、迎えに行くから」
「あぁ、シアンちゃんの事は任せな」
そう言って、マティとクレアはものすごい速さでこの場から離れていった。
「あれが本物のディストレア……何か、やっぱりすごいのね……」
「まだ子どもだけどね」
「それは……うん。マティアスっていうより、今のあんたの方が近い感じするもんね」
「それ、どうゆう意味だろう」
「……」
ティアから不穏な空気を感じたサクヤは、気まずげに目をそらし、口を閉じた。
仕方がないので、ティアも今回はこれ以上追及するのをやめ、一つ気になっていた事を口にした。
「そういえば、なんで来たの?」
「なんでって……」
今更聞くかというサクヤの非難の目をものともせず、ティアは不思議そうにサクヤを見つめた。
「だって、まだ授業やってたでしょ?」
「それをあんたが言うか……まったく、この不良娘がっ」
そう言ってサクヤは、ペチンとティアの額をはたく。これは教育的指導だ。
「たたっ、別に迷惑掛けてないじゃん」
「掛けてんのよっ。あんたがあのナヨ騎士に腹を立てて、城を落としに行ったんじゃないかって、ウルが倒れちゃったじゃないっ」
「ありゃ。ウルさんってば、良い勘してるよね」
「否定しなさいよっ!」
それも悪くないかなと思ってたんだよねと呟くティアに、サクヤは頭を抱えた。
「ウルに負担掛けないようにっ」
「は~ぁい。けど、城には行ったんだよ?いつでも落とせそうなごく甘な警備レベルにびっくりしたんだから」
「確認しないのっ!」
ウルスヴァンには絶対に言えないと、サクヤはそれを取り扱い注意の情報として心に留め置く事にした。
「だって、この国の騎士があんまりにも弱過ぎ、頼りなさ過ぎ、雑魚過ぎなんだもん。それを確認する為にも、中枢を見ておく必要があったの。それでなんだけど……サク姐って、良い人連れて来てくれたよね」
「へ?」
ニヤリと何やら企みを開始する時の表情を見せたティア。その視線の先には、気配を極力抑え、静かに木陰に佇む黒装束の男がいたのだった。
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舞台裏のお話。
シェリス「……」
マーナ「マスター?どうされましたか?何かご用が……」
シェリス「……」
冒険者A「あ、マスター。また受け付けしてくださるんですか?」
シェリス「……依頼を……」
マーナ「はい?」
シェリス「暗殺依頼でも出しましょうか……」
冒険者達「「「「っ⁉︎」」」」
マーナ「っ……」
シェリス「やはりさっさと消しておくべきです……」
冒険者A「ヤベぇぞっ……本気の殺気だ……」
冒険者B「あれだよな……ターゲットは絶対にルクスだ……」
冒険者C「俺らじゃ止めらんねぇよっ……ゲイルさんに連絡をっ」
冒険者D「ダメだっ。ゲイルさんは今、何かのクエストで出てるっ」
冒険者達「「「「どうすんだよっ」」」」
マーナ「ティアちゃんに嫌われますよ……」
シェリス「っ……!」
冒険者達「「「「殺気が……消えた……?」」」」
シェリス「……仕方ありません。今回は見逃します……面倒なのも近付いて来てますし」
マーナ「面倒?」
シェリス「マーナ。マティ用の大きいサイズの水桶を用意しておきなさい。それと……これでローセの茶葉を買ってくるように」
マーナ「え?ローセって……あんな独特なお茶……マティちゃんが来るなら……ティアちゃん用ですか?」
シェリス「違います。来るのはクレアです。後2時間くらいのものでしょう」
マーナ「く、クレアさんっ⁉︎」
冒険者A「クレア姐さんっ?マジで?お、親父に報告してくるっ」
冒険者B「俺もお袋にっ」
冒険者C「俺も行ってくるっ」
冒険者D「おっちゃんに知らせねぇとっ」
マーナ「ど、どうしましょうっ。お、お茶っ。す、すぐに行って来ます。ここ頼むわねっ」
ギルド職員A「はいっ」
ギルド職員B「厨房にも知らせねぇとな」
ギルド職員C「後2時間でこの辺のは終わらせるぞ」
ギルド職員達「「「おぉっ!」」」
シェリス「ふん……」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
お局様のご帰還です。
歓迎の準備をしましょう。
はじめてのおつかいとは、見ていて微笑ましいものです。
ですが、それを始める時の送り出すお母様達は大変ですね。
外に出てしまえば、子どもとは意外と何でもやれてしまうのですが、やる気を引き出すのは難しいです。
洗脳に近いと思うのは気のせいでしょうか。
ティアちゃんは得意ですけどね。
さて、いよいよ本題。
男の正体はいかに。
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